ものづくりに欠かせない産業機器の卸販売を手がけるカントウツール。従業員持ち株会や報奨金制度といった独自策で社員のモチベーションを高め、関東エリアで確固たる地位を確立している。黒字法人が3割を切る厳しい時代にあって、山岸公太郎社長は「黒字経営が定着しつつあることを実感している」という。
リーマンショックを経て利益を生む体質に
カントウツール:山岸社長(左)
――産業機器の卸売りを手がけられているそうですね。
社長 工作機械や機械工具全般をメーンに扱っています。家庭で使われている工具から大型の工作機械まで、ラインアップは非常に幅広いですね。機械工具は太さや長さ、材質により細かく品番管理しているので、トータルで数万点におよびます。
――取引先は?
社長 ジェットエンジンをつくっている会社から自動車関連などおよそ400社です。とくに業種や規模にかたよりはありません。「工場でモーターが回っていれば、当社のお客さま」といったイメージです。近年の厳しい景気状況もあり、卸売業ならではの難しさも感じているところです。
――具体的には?
社長 営業マンは1人あたり20社ほど取引先を担当するわけですが、1社ごとに商品の規格や支払い条件が異なるため、まずそれらをひと通り頭の中にいれなければなりません。物覚えがよくないと務まらない仕事なんです。営業マンが一人前になるにはだいたい3年ぐらいかかります。
――営業活動はどのようにされていますか。
社長 積極的に新規取引先の開拓もおこなっています。大手企業の場合、工場の入り口に守衛所があることが多く、この関門がなかなか突破できない(笑)。金融機関の担当者などから紹介をもらったり、つてをつくってチャレンジしています。なにしろ現状、商品が間に合っているところを訪問するわけですから、狭き門です。
汎用商品を扱っているので、最後の決め手は人になります。ですから営業マンには顧客を毎日訪問するよう発破をかけています。日本企業の体質として、フェース・ツー・フェースの要素がいまだにつよい。足でかせぐというのが基本です。
――人材が重要であると……。
社長 当社の強みはまじめな社員が多い点でしょうか。さいわい若い社員が加わり、会社全体の平均年齢も下がり活気が生まれました。従業員の定着率は同業他社の平均を上回っていると思います。
当社では社員研修に力を入れており、メーカーが開催する勉強会や阿部会計さん主催のセミナーに従業員を積極的に参加させています。社内の研修だけではどうしても視野がせまくなってしまいます。商品知識だけでなく、商慣習に関わる法律や社会的な常識、マナーなどを身につけてもらっています。
――最近の業績はいかがでしょうか?
社長 リーマンショックから4年たちますが、売上高はそれ以前の水準にまで戻っていないですね。円高や企業の海外移転による空洞化の影響が徐々に出てきています。
2008年の12月までは業績は順調でした。当時ニュースをみて、これは大変なことが起こりそうだと思い、営業所長を集め会議をひらいたんです。営業所ごとに期末までの推測値を算出してもらったところ、案の定見込みは芳しくない。ひと月の売り上げベースで、だいぶ下がっていく予想でした。
そこで諸経費や人件費などの経費を見直し、予想売上高の範囲内に収めるよう計画を立てなおしたんです。営業所別に売上高、経費額を目標値としてセットし、社内のベクトルをあわせました。結果的に翌期も黒字決算を維持できました。
――利益を生む体質になったわけですね。
社長 売り上げ一辺倒ではなく、利益が出ているか毎月気をくばるようにしています。今では役員も「黒字になるのが当たり前」ぐらいの気持ちでいるのではないでしょうか。手前みそになるかもしれませんが、当社には従業員持ち株会制度があり、一貫して配当をつづけています。またひとりも従業員を解雇せずにすみました。
毎月の損益に注目し現場と目標を共有
――ふだん『FX2』を活用されておられるとか。
奥川明・取締役総務部長 税理士法人阿部会計さんとは7年ぐらいのお付き合いになりますが、関与から1年ほどたち、べつの会計ソフトから『FX2』に切り替えました。データコンバートをおこなっていただいたので、スムーズに利用開始することができました。
――『FX2』を使われてどこが変わりましたか。
社長 以前利用していたソフトはいうなれば、伝票を書くという事務作業をただ単にコンピューター化しただけにすぎません。ときには伝票を起こしわすれてしまっていたり、結果の数字に誤差があったり、少々ずさんでした。
会計データを経営に役立てられるようになったのは『FX2』を使いはじめてからです。正確に事務処理をおこなうことで、実績の数字もたしかなものになりました。
――どんな機能を活用して業績管理されていますか。
社長 部門ごとの業績をよくチェックします。5カ所ある営業拠点をそれぞれ部門として設定し、毎月の利益にもっとも注目しています。厳しい経営環境なので、毎月の損益にやはり真っ先に目がいきます。前年比、BAST値、目標額などいろいろな指標と比較して現状を確認しています。また、取引先が膨大な数にのぼるため、買掛金と売掛金は販売管理ソフトで内訳を管理しています。
――経営計画策定の流れを教えてください。
社長 毎年、単年度計画を立てています。毎期、営業所長に売り上げ、粗利計画を立ててもらい、そこから役員が中心となり会社全体の人件費や経費の枠を決めます。念頭に置いているのは、目標値をあまりにも非現実的な金額に設定しないこと。ある程度がんばれば手の届くような数字でないと、社員はやる気を失ってしまいます。
奥川取締役 当社では報奨金制度を取り入れていて、毎月目標を達成した営業所には金一封を支給しています。当初は優秀な業績をおさめた営業マンに報奨金を出していたのですが、個人で突っ走る社員がでてきたため、営業所全体で団結してもらうよう改めたのです。周りの人たちのサポートがあってこそ目標は達成できるものですから。
――進捗のチェック方法は?
社長 毎月、阿部先生と役員をふくめ、半日ぐらいをかけて業績検討をおこなっています。その後社内で幹部会をひらき、1カ月間の実績報告と課題点の洗い出し、それらに対する打ち手を営業所長に発表してもらっています。毎月20日が財務締め日で、翌月8日前後に業績検討会をひらき、幹部会は直後の土曜日にひらくことが多いですね。
『継続MAS』、『FX2』は画面を見てもらうだけではなく、〈部門別損益計算書〉などを印刷し、出席者に配るようにしています。用紙ならその場で必要なことをメモできる。資料はトータルで30ページほどになりますが、業績をイメージしやすいようグラフを多く使用しています。
奥川取締役 TKCシステムから出力される資料のほか、スプレッドシートでオリジナルの営業所別損益計算書を作成しています。『FX2』の帳表だと部門ごとの実績がそれぞれ分かれて出てきてしまうからです。部門ごとの実績をひとめで比較するためには一覧性が必要です。自分で入力すると実感がわくという効果もあります。
阿部大亮・社員税理士 『継続MAS』で立てた目標と会社の業績を毎月検討し、現場にすぐフィードバックできる体制が整っているところがカントウツールさんの優れた点だと感じています。
――巡回監査をふくめると毎月2回会われているわけですね。
高橋英明・監査担当 毎月の巡回監査では日々の経理処理の仕方について説明することが多いのですが、いまでは伝票の訂正はほとんどないですね。当初利用していた仕訳辞書も“卒業”されました。
――従業員持ち株会を導入されているとのことですが、社員への業績の報告はどのようにされていますか。
社長 毎年11月に開催する株主総会に、株主である社員も参加し、その場で業績を報告しています。入社3年目以上の社員に株主になる資格をあたえています。従業員持ち株会は大手企業にならい導入しました。
あわせて株主総会の日には阿部先生や高橋さんが講師となり、財務データの見方などをテーマに勉強会をひらいていただいています。毎年開催する恒例のイベントになりました。商品知識だけでなく、プラスアルファの知識を身につけることが非常に重要だと考えています。
阿部税理士 株主総会で従業員にも業績をオープンにされている点は大きな特徴です。対外的な信用力向上に大いに役立っているのではないでしょうか。
社長 “企業は人なり”ですから、教育研修費は重要な科目ととらえています。阿部先生からも教育費をもっとかけるべきだというご指導をいただいています。
――今後の抱負をお聞かせください。
社長 おかげさまで当社は今年設立20周年の節目をむかえます。取引先さまや従業員、阿部会計さんなどみなさまからのご支援のたまものだと感じています。今後もご期待にこたえるべく、いっそう人材育成に力をそそぎ、成長をつづけていきたいと考えています。
(本誌・小林淳一)
名称 | カントウツール株式会社 |
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創業 | 1994年10月 |
所在地 | 埼玉県所沢市松郷142番地6号 |
TEL | 04-2944-4151 |
売上高 | 14億6000万円 |
社員数 | 34名 |
顧問税理士 | 阿部武志 税理士法人阿部会計 埼玉県所沢市北有楽町11-1 TEL:04-2925-2181 URL:http://www.abekaikei.net/ |