建設現場の仕事などに携わる、いわゆる「ガテン」系の職人向けに工具類などを販売しているのが、鹿児島県鹿屋市に本社を置くとみやだ。看板の「MEISTER」の文字が目を引くプロショップには、毎日たくさんの職人さんがやってくる。最近、ネット通販事業にも参入したという髙木博志社長(64)に、黒字経営を続ける極意などを聞いた。

「職人」向けの商品を取りそろえたプロショップ

とみや:髙木社長(中央)

とみや:髙木社長(中央)

――先ほど店内を見せてもらいましたが、ホームセンターをほうふつとさせる店づくりでありながら、置いてある商品はどれも「プロ」の職人を意識したものばかり。そこがユニークですね。

髙木 電動工具、発電機、刃物、建築金物、配管資材、作業服、園芸用品……など、現場作業に必要なさまざまな商品を取りそろえています。当社では店舗での販売のほか、「外商」のかたちで法人向けに販売しており、鹿児島県東部に位置する大隅地域を主な商圏としています。

――髙木社長は、大手メーカーの営業マンから刃物・工具の小売りへの、畑違いの転職でとみやに入社されたとお聞きしました。

髙木 昭和55年のことでした。それまでは九州日立冷機という会社で、冷凍冷蔵ショーケースや冷凍機などのルート営業をしていました。とみやに入社することになったのは、創業者である義父(妻の父)が突然他界したのを受けてのことです。妻は一人娘。いずれは会社を継がなければならなかったため、それならなるべく若いうちにとの判断で鹿屋市にやってきました。

――最初はたいへんだったのでは?

髙木 はじめのうちは経理をしていた伯父に社長を任せ、私は営業に回っていました。そこでの苦労は何をおいても、鹿児島弁がわからなかったことでしたね。お得意先との茶飲み話も理解できないし、最悪なのは注文の品がうまく聞き取れないこと。5回聞き直してやっとわかったということさえありました。それでも、「石の上にも3年」を肝に銘じて、3年間は何も言わずにとにかくやるべきことをやろうとひらきなおり、自らの実績をあげることに努めました。結果、5年も経つころには少しは社内でモノが言える立場になったのですが、それと同時に、旧態依然とした刃物屋のままでいいのだろうかという疑問がしだいに湧き上がってきたのです。

――そこでどんな改善を……。

髙木 たまたま書店で金物屋専門のコンサルタント・丸田達夫氏が書いた本を見つけ、それに刺激を受けて店舗の大幅な改装を考えるようになったんです。そうして生まれたのが、陳列什器を使い、カテゴリー別に商品をわかりやすく並べた、今のような感じの店でした。スーパーやホームセンター、あるいは東急ハンズさんなどを多分に意識した、そのような店づくりをしているところは当時、刃物屋からスタートした同業者にはなかったはずです。この店舗リニューアルは来店客を増やすうえで一定の効果をあげ、その後、平成7年ぐらいまで会社の業績は順調に伸びていきました。私が社長に就任したのは、その間の平成4年でした。

――現在あつかっている商品数を教えてください。

髙木 実際に動いているのは約1万5000アイテムです。建築や土木などに加えて、農畜産や水産の分野までもカバーできるように商品数を増やしてきたのは、第一次産業の比率が高い土地柄を反映してのこと。ちなみに大隅地域は、肉用牛やブロイラーの生産、ウナギの養殖などが盛んで、全国的に知られています。

――最近、ネット通販事業もはじめたそうですね。

髙木 「DOOGLE」(道具る)という名前のオンラインショップを立ち上げました。この新しい試みを始めたのは、将来の経営を担う若い世代ために、このあたりで準備を進めておくべきだと判断したからでした。つまり、息子への事業承継を視野に入れた取り組みです。ネット通販ならば東京や大阪などの大都市圏に住むユーザーに対する販売も可能になります。過疎化や少子化が進む鹿児島県内だけを相手にした商売をしているだけでは、いつかはジリ貧になる可能性もある。それを回避するためにも、今のうちからインターネットを活用していくことが必要と考えました。300社以上の仕入れ先の協力を得ながら、「国内最大級」の品ぞろえを目指しています。

『FX2』でタイムリーに全社業績をつかむ

――ここ数年の業績の推移はいかがですか。

髙木 黒字経営をずっと続けています。市場が縮小していくなかにあっても、商品ラインアップの幅を広げることでお客さまの数を増やしてきたことが奏功したからではないかと思っています。

――平成21年に『FX2』を導入したのは、どんな経緯からだったのでしょうか。

髙木 竹之内先生との出会いがそもそものきっかけでした。商工会議所の事業承継セミナーで講師をしていた竹之内先生を見て、その場で税務顧問をお願いしました。当時は、月次の財務諸表を出せる体制が社内になく、決算を待たなければ正確な数字を知ることができなかった。月次決算や毎月の巡回監査を前提にした財務会計システムである『FX2』を導入すれば、そんな状況を改善できると提案を受け、導入に踏み切りました。

――導入されてどんなメリットがありましたか。

髙木 毎月、月次決算後に財務諸表が出た時点で、監査担当者から業績に関する説明と見解をいただけるのはありがたいですね。タイムリーに会社全体の業績がつかめるようになったおかげで、なにか問題があるとわかった時点ですぐに対策を打てるようになりました。

竹之内徳嗣税理士 とみやさんでは自社ソフトを用いて、社員一人ひとりの売り上げや粗利益(売上高─売上原価)を把握できる体制を築いていました。しかしそのソフトでは、「販管費」(販売費および一般管理費)までを含めた会社全体の業績までをつかむことはできない。つまり、営業利益(粗利益─販管費)まではわからなかったのです。『FX2』の導入により、はっきりとした損益が常に確認できるようになったと髙木社長は喜ばれています。

――月次巡回監査の際には、どんな話をされていますか。

髙木 《変動損益計算書》を見ながら、売り上げや利益の実績が予算をクリアしているかどうか、あるいは販管費の前年比較の数字を確認しながらその原因について話し合うこともあります。監査担当の上村さんから「経費がこれだけ増えています」と言われたら、すぐに「なんで?」と質問できるのが巡回監査のいいところです。

――部門別管理はいかがでしょう。

髙木 (1)1課(外商)、(2)2課(店舗)、(3)DOOGLE事業部(ネット通販)の3部門に分けて行っています。各部門ごとの目標達成度合いなどを知るうえでも、部門別管理は欠かせないと思っています。

チームワーク重視で利益目標達成をめざす

――黒字経営を続けるために重視していることは何でしょうか。

髙木 予算の管理については基本的に「利益」をベースにしており、各部門、各担当者がその期の予算達成に努めていくことがとにかく大事だと考えています。ただ、優先順位としては、会社全体の予算を達成するのが第一で、つぎに部門の予算の達成、そして個人の数字の達成とくる。要は、個人の数字についてあまり強く言いすぎると、自分のことばかり考えるようになってダメなんですよ。チームワークを大切にしながら、一致団結して会社全体の業績を上げることが何よりも必要なのです。社員にはそのことをきちんと伝えています。

――なるほど。

髙木 ちなみに社員に支給する賞与の総額は、利益に連動させる方法で決めています。たとえば半期の利益が去年の110%だったとしたら、去年の賞与の110%を原資とする。そのうえで、各課、各自の頑張りに報いるかたちで支給額を決めていきます。

――業績検討会は定期的に開催されていますか。

髙木 月に1回の「全体会議」がそれにあたります。社員全員が参加し、各自、各課におけるその月の目標達成度合いを確認したりしています。当社の会議制度としては他にも、経営方針発表大会(年1回)、朝礼(週1回)、部門長ミーティング(月~金)などがあり、それらを通じてみんなの意思統一を図っています。

――今後の抱負をお聞かせください。

髙木 当社の強みには、プロショップとして地域オンリーワンであることや、多岐にわたる商品をきちんと説明できる知識を持った社員がいることなどがあります。それらの強みをいっそう磨くとともに、自分たちの得意分野のなかで次の世代が生き残っていける手立てを考えて実行していきたい。ネット事業の展開も、その一つだと考えています。

(本誌・吉田茂司)

会社概要
名称 株式会社とみや
創業 1957年10月
所在地 鹿児島県鹿屋市札元2-3695-2
TEL 0994-44-1020
社員数 13名
URL http://www.tomiyameister.com/

CONSULTANT´S EYE
「マイスター」の気概あふれるとみやさんをバックアップ!
監査担当者 上村謙一  竹之内徳嗣税理士事務所
鹿児島県鹿屋市札元2-3752-1 TEL:0994-52-0810
http://www.tkkaikei.com/

 所長講演の事業承継セミナーに髙木社長が出席されたのを機に、当事務所の関与が始まりました。髙木社長は、昔の刃物屋さんという家業から、組織づくりを図り企業へと導かれました。今後はさまざまな経営環境・商いの変化に対応し、さらなる優良企業へと成長することを目標に会社経営をされています。

 とみやさんの店舗は、天井の高さが7メートルもあり開放感に満ち、配色はコーポレートカラーのブルーとアイボリーの2色を基調としてさわやかさを演出されています。また、ロゴマークである「MEISTER」を刷り込んだフラッグも装飾として活用されています。社内の雰囲気も明るく活気に満ちた企業で、巡回監査のときには私自身活力をもらっています。

 また、とみやさんでは、店舗販売だけでなくネット販売「DOOGLE」に関しても、プロの要望に応えられるアフターサービスが提供ができる商品を多数取りそろえ、マイスター(MEISTER)のビジネスモデルを崩さずに事業を展開されています。

 翌月巡回監査のときは、『FX2』が適正に処理されているかどうか、証憑書類と突合して精査させていただいています。社長と経理を担当されている奥様(専務)は、勘定科目残高の画面で売上高、売上総利益の前年比較、特に原価率の数値に注意を払われています。経費削減が必要な勘定科目については、巡回監査のときにいっしょに対応策を検討することも行っています。

 とみやさんでは『FX2』導入前も粗利益に関しては予算管理をされていましたが、販管費等を含めた会社全体の経営状況の把握はできていませんでした。『FX2』導入後は、正しい経営状況の把握ができるようになり、喜んでいただいています。

 今後も監査担当者として現状に甘んじることなく、「本気で本当に本物の職業会計人」を目指すためにも、とみやさんの経営を全力で支援していきたいと考えています。

掲載:『戦略経営者』2013年2月号