中小メーカー受難の時代。奈良県香芝市に本拠を置くコシオカ産業株式会社は、ドラスティックな事業コンセプトの転換とPDCAサイクルの構築で、珍しくも成長路線を驀進中だ。その立役者は2代目の越岡晃司社長(52)。顧問税理士の尾中寿氏をまじえて、中小メーカーが生き残るための“勘どころ”について聞いた。
製造プロセス一元化で中小メーカーをサポート
コシオカ産業:越岡社長(中央)
――2代目である越岡社長が創業事業の金属部品加工業から大胆な転換を実践されたとお聞きしました。
越岡 私は、以前から下請け型の受注生産事業では遅かれ早かれ限界が来ると思っていました。実際、バブル崩壊以降、毎年1割づつ売上が目減りしてましたからね。1990年頃から事業転換の必要性を訴えていましたが、なかなか聞き入れてもらえないなか、2001年に先代が亡くなり、はからずも私が社長職をつとめざるをえなくなった。そこで思い切って経営の舵を切ったのです。コンセプトは“100年、200年と続く企業になる”でした。
――具体的には?
越岡 まず、成長著しかった100円均一市場に完成品を投入しました。ハンガーの取っ手やカーテンリングなど、われわれの培ってきた加工技術で製作した商品を採用いただいたのです。同時期に中国に独資の工場を設立し、金属加工や樹脂成形のコストを抑え、スタートから2年で200アイテムくらいをつくりました。
――とはいえ、100円商品は利益を出すのが大変なのでは?
越岡 数年は苦しみました。当社が在庫を持ち、全国へ配送する仕組みをつくったのですが、その分コストがかさみます。しかし、商品の販売データや販売管理費の推移などを分析していくうちに、効率的な生産・配送の打ち手が見えてくるようになり、結果、経費率が下がってきた。ここ3年くらいでしょうか、ようやく利益をとれるようになったのは。
――今後も、100円均一市場向けをコア事業にされるのでしょうか。
越岡 はい。この事業は現在の当社のコアビジネスであり、今後もしっかりと維持していく方向性を打ち出しています。ただ、会社経営の本質を考えれば、リスク分散の観点から「多角化」が求められてくる。われわれは、現状に甘んじるのではなく、時代のニーズに対応した事業コンセプトを構築・推進することが必要だと考えています。それが2008年に「経営革新計画」の認証を受けた「TMSシステム」というソリューションシステムなのです。
――TMSシステムとは?
越岡 情報収集、企画・デザインから出荷まで、ものづくりのプロセスを一元化したもので、低コストでスピードのある製品製造をお手伝いする仕組みです。この仕組みは、100円均一市場においてもご利用いただけますが、国内における中小メーカーにとっても、有効な手段になるのではないかと考えています。そもそも日本の中小メーカーは技術には自信を持っていますが、情報収集や企画は苦手です。当社のシステムでは、情報収集、企画・デザインまでは無料。ここで契約書をかわし、設計・図面化、試作と進めますが、ここでは中国工場での「切削モデル」はもちろん、いま話題の3Dプリンターによる試作も請け負います。通常、メーカーが一つの製品を上市するには千万単位のお金がかかる。ところがTMSではわずかな初期投資で素早く事業を立ち上げることができます。低コストで試作にまで持って行けるので、プレゼンもしやすくなる。このビジネスは、中小メーカーだけでなく、大手の通販会社などからの評価も高く、スタートしてわずか2年で44社から受注をいただき、全年商の3割超を稼ぎ出しています。
――すごいですね。
越岡 今までもお客さまに喜んでいただける価格、品質、納期、サービスの提供に努めてきましたが、ソリューション事業としての活動が増えるにつれて、よりお客さまとのパートナーシップが強固になってきたと感じています。もちろん、利益率も以前に比べて良くなりました。今後もこの事業を伸ばし、2020年には1000社との取り引き、年商100億円を目指しています。
財務データの見える化で全社のベクトルを統一
――TKCシステムとの出会いについて教えて下さい。
越岡 父が亡くなって、100円均一市場に踏み出したものの利益が上がらず苦しんでいた時代に、「管理会計」の概念が必要だと強く感じていました。ところが当時の顧問税理士の先生は記帳代行のみ。それでも創業以来お世話になってきた先生なので辛抱していたのですが、いよいよ「このままでは会社が立ち行かなくなる」と感じ、面識のあった尾中寿税理士にお願いすることにしました。
尾中 最初お会いした時は、理論的できちっとしている社長なのに、どうして結果が出ていないのか不思議でした。うまくいかない要因の一つがやはり計数管理的な問題だったのだと思います。とにかく、動いても、それを検証する仕組みがなかった。つまり、PDCAならぬPDPD…の繰り返しになっていたのです。
越岡 その通りです。PDCAを回し、月次単位で経営データを検証する仕組みがないと会社は変われないと考えていました。そのため、まず先生に借入金の返済を含めた資金繰りの部分を整理していただき、さらに『FX2』を導入して、月次で、しかも部門別に検証できる体制を整えました。
尾中 考え方は良くても実践できなければ意味がありません。実践するためには有効な武器が要る。私も色々財務システムを見てきましたが、『FX2』は最良の武器だと思っていてまずはそれを導入しようと……。
――部門はどのように分けておられますか。
越岡 営業・販売担当を4つのセクションに分け、『FX2』の部門別管理機能で、そのセクションの担当する顧客ごとの損益を管理しており、売上高に応じてインセンティブ(賞与加算)を出す仕組みも整えています。お互いの数字が見えるので、各セクションの責任者同士の良い意味での対抗心も芽生えてきていると思います。
また、インセンティブは営業だけではなくて、購買や経理の部門でも実績に応じて用意しています。たとえば、購買部門は、粗利益の目標を達成できたかどうか、経理部門は、予算と実績を日々チェックしながら、私や営業担当に詳細を報告する業務が考課の対象になります。
――つまり、『FX2』からの財務データが、全社ベクトルの統一に役立っているということですね。
越岡 以前の仕組みでは絶対に無理でした。『FX2』によって前年対比や予算対比の数字がリアルタイムで見れるようになったからこそできたことだと思います。
――PDCAの「CA」の部分については、四半期ごとに業績検討会を開いておられるとか。
越岡 はい。3カ月に1度、部課長4名と私、それに尾中先生にもご出席いただいて開催しています。
尾中 当初は毎月行っていたのですが、みなさんだいぶ計数管理のスキルが上がってきたので数年前から四半期ごとの開催にしました。単年度予算と実績の比較グラフ、同業他社との比較の数値など、『継続MAS』のデータをプロジェクターを使って映し出しながらさまざまな角度から話し合います。
越岡 検討会の場で、予算と違う異常値があれば原因を追求してみんなで改善策を模索する、という作業を繰り返していくことで、確実に会社としての効率性が上がってきていると思います。
――ところで、『FX2』の画面(帳表)はどのくらいの頻度で見ておられますか。
越岡 毎月の月次決算時に、監査担当の内山さんにご指導いただいているのと、それから当社の経理担当者とは毎週ミーティングを行っていますので、その際にも、実績の進捗度合いなどをチェックしています。
――もっとも気になる勘定科目は?
越岡 限界利益(粗利益)です。当社では販売管理費の比率を一定にして、常にチェック・修正を施しているので、限界利益が出れば、経常利益まで自動的に分かるようになっています。また、これらの数字はすべてオープンにしているので、社員のモチベーションにも良い影響を与えていると思っています。
――今後の目標は?
越岡 繰り返しになりますが、100年、200年と存続し続けること。それが企業の社会的役割だと考えています。そのために必要なことを熟考し、粛々と実践していく。変化を恐れないことも大切です。従来の事業を続けていては必ず限界が来ます。時代の変化に柔軟に対応しながら、常にベストな道を選択し生き残っていける、そんな会社にしていきたいですね。
(本誌・高根文隆)
名称 | コシオカ産業株式会社 |
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設立 | 1968年5月 |
所在地 | 奈良県香芝市良福寺38-1 |
TEL | 0745-78-8855 |
売上高 | 8億7000万円 |
社員数 | 30名 |
URL | http://www.koshioka.co.jp/ |
CONSULTANT´S EYE
監査担当 内山幸久
尾中税務会計事務所
大阪府東大阪市下小阪2-14-9 TEL:0120-196-276
URL:http://onakakaikei.net/
コシオカ産業株式会社様と当事務所のお付き合いがスタートしたのは約3年前にさかのぼります。先代を亡くされた越岡社長が、ドラスチックな事業転換を手がけられて数年が経過し、一方で利益の創出にやや苦労されている時期でした。関与することが決まり、実際、調べてみると資金繰りの面で大きな問題を抱えておられ、また、PDCAを回してタイムリーに業務を改善していく仕組みも持っておられなかったことから、まずは『FX2』を導入させていただいて、月次決算の体制を整えました。
そもそも、越岡社長は当事務所が関与する以前から管理会計による緻密な経営を所望されていました。また、数字に強く、経営者としてのしっかりとした戦略立案能力もお持ちです。そのため、われわれが、ツールとノウハウを提供しただけで、「水を得た魚」のように財務管理のスキルを向上させていかれました。たとえば、『FX2』に現れる数字をベースにしながら、購買部門でのチェックを自ら行い、限界利益率の大幅な向上を実現したり、営業の作成した見積書をチェックして、ある一定の限界利益率以下の案件ははねつけるなどして、ここ数年、大幅な経常利益率の向上を勝ち取られています。
越岡社長の経営の基礎部分にあるのは柔軟性です。中小メーカーの社長には概して頑固な人が多いようですが、われわれの提案にも真剣に耳を傾け、良いと判断されれば、会社の血肉になるようダイナミックに動かれる越岡社長は、珍しい存在なのかもしれません。しかし、そのような姿勢を堅持されていることこそが、この製造業受難の時代に成長路線を突き進む原動力となっているのではないでしょうか。
ともあれ、顧問先としては、まさに理想的な会社といえます。ご迷惑とは思いつつも、当事務所の若手スタッフを連れて伺い、社員教育の一環とさせていただいているほどです。今後とも100年企業目指すコシオカ産業株式会社様の良いパートナーであり続けたいと思っています。