福島県内に4店舗の飲食店を経営しているイーストプロジェクト。オープンしてまだ日は浅いが、コンセプトを明確にした店づくりで着々とファンを増やしている。会社設立1年目に襲われた震災という逆風をはね返し、今年3月期に黒字転換を果たした。東雲公成社長とブレーンといえる株式会社追分の追分拓哉社長に事業戦略とマネジメントの回し方をきいた。

顧客との接点づくりに力を入れ来店をさそう

イーストプロジェクト:東雲社長(左)

イーストプロジェクト:東雲社長(左)

――福島市内で飲食店を経営されているそうですね。

東雲 福島駅近くの中心市街地に3店舗、郊外に1店舗運営しています。おととし会社を設立し、まず郊外の笹谷にイタリアンレストラン「オルティボ クッチーナ」をオープンしました。昨年スペイン料理店「スペインバル カメレオン」と「炭火ビストロ ソラナカ」を、今年の3月には福島市内で初となるワインバー「福島ワイン酒場」を出店したばかりです。

――お店の特徴を教えてください。

東雲 女性をメーンターゲットにした、低価格で本格的な料理やお酒を楽しめる店舗づくりを共通のコンセプトにしています。福島ワイン酒場をのぞく3店舗ではランチ営業もしていて、専用窯で焼き上げた本格ピザやパスタ、パエリアなどを提供しています。常時提供しているグランドメニューのほか、旬の食材を使った季節限定メニューもあります。1店舗目をオープンした当時、地産地消をうりにしたお店を目指していましたが、原発事故の影響により現在は食材として県外産のものを主に使用しています。いずれにしても、お店のコンセプトをしっかり打ち出していくことが重要だと考えています。

――具体的な取り組みは?

東雲 店舗にマッチした雰囲気づくりに力を入れています。店内の装飾や音楽を工夫したり、簡単なイタリア語やスペイン語をメニュー表に取り入れたりしています。ピアノが置いてあるワイン酒場ではジャズライブを開いたこともあります。スペイン料理店では本場のバル(食堂)さながらに、フラメンコのショーやスペイン風ライブも開催しました。
 私自身、長年ホテルに勤務していたことから、お客さまにとって快い接客を従業員にみっちり指導しています。基本的なマナーを身につけた営業職出身のスタッフが多い点は、当社の強みかもしれません。

――集客活動はどのようにされていますか。

東雲 1店舗目をオープンしてまだ2年半ですので、まさに集客が目下の最大のテーマです。
 まず新規のお客さまを呼び込むためにウェブ会員さま向けのメールマガジンで、季節限定メニューや店舗で開催するイベント情報を毎週発信しています。お客さまの出足が鈍いときは、雨の日ならウェルカムドリンクをサービスさせていただいたり、「18時までにご来店のお客さまは10%値引きします」といったタイムサービス情報も随時流しています。
 リピートしていただくための施策も試しているところです。予約を入れていただいた幹事のかたにお礼状とクーポン券をお送りし、簡単なアンケートも同封し感想をおうかがいしています。これから年末に向けて書き入れどきを迎えるので、忘・新年会のプランをご案内したいと思っています。

――なるほど。

東雲 地域の皆さんにワインを気軽に味わっていただくため、ワイン教室も始めました。初心者のかた向けにワインがどのようにして作られるかといったことから、最適な保存方法、ワインのおいしさを引き立たせる食材などについて、全5回のプログラムで開催しています。参加料金はお一人さま2000円です。圧倒的に女性のかたが多いですね。

――ターゲットにされている客層と重なります。

東雲 ええ。多くの方々と接点を増やすことができれば、それだけご来店いただく確率が高まると期待しています。

――最近取り入れた新メニューは?

東雲 ロゼワインをロックで飲むロゼロックですね。フランスではやっている飲み方で、当店なりのアレンジを加えて花びらを浮かべ「ロゼロックフルール」というメニューで販売しはじめました。追分社長のアイデアから生まれた商品です。追分社長は酒類卸の会社や飲食店が入居するビルなどの不動産会社を経営されていて、飲食業界の幅広い情報や集客ノウハウを伝授いただいています。

追分 私が代表を務めている株式会社追分では“飲食店繁盛支援カンパニー”を掲げ、お酒の販売はもちろんのこと立地や品ぞろえまで、繁盛店をつくるべくご支援しています。

戦略経営会議で社員の意欲を高める

――佐藤(重幸税理士)先生と知り合われたいきさつを教えて下さい。

東雲 佐藤先生が株式会社追分の税務顧問をされていて、追分社長から紹介していただきました。追分社長とのお付き合いは、ホテルに勤務していたころからですので、25年ほどになります。会社の方針発表会などに参加させていただき、佐藤先生の指導方法に共感を持ちました。昨年の3月期決算は1000万円ほどの赤字でしたが、おかげさまで今期は黒字化できました。

佐藤重幸税理士 震災直後、10日間休業を余儀なくされ、しばらく売り上げが落ち込んでしまいましたが、それを挽回し1年で黒字に転換されたのは特筆に値します。東雲社長と追分社長のリーダーシップのたまものです。

――『FX2』(戦略財務情報システム)を利用されているそうですね。

東雲 会社設立当初から利用しています。部門別管理機能を使い《部門別利益管理表》で4店舗ごとの業績を把握できるようにしました。勘定科目の中では、原材料費や人件費の動きをとくにチェックしています。さらに売掛金や買掛金、未払費用といった科目には枝番を付けているので、取引先別の残高が一目でわかり助かっています。

渡部慎也監査担当 巡回監査では、材料費(Food)と人件費(Labor)の合計である「FLコスト」が売上高の60%以内に収まっているかを東雲社長によく確認していただいています。

東雲 数字面だけでなく、日本パートナー会計の皆さんにはプライベートでお店をご利用いただくこともあり、サービス内容に関してきめ細かいアドバイスをいただけるのもありがたいですね。

――『継続MAS』システムで経営計画を立てていると聞いています。

東雲 5カ年計画を毎年作成しています。各店長に目標売上高、利益を素案として提出してもらい、前年実績と照らし合わせながら売上高と人件費の見込み額、設備投資計画を月別に展開し原案を作ります。原案をもとに部長、店長と話し合い、具体的な行動計画を盛り込んだ経営計画を立てます。向こう5年間、粗利とキャッシュフローがプラスなら問題ないのですが、そう簡単にはいきません。その打開策をパートナー会計さんに相談しています。
 そして毎月、全社員が参加する戦略経営会議を開き、計画の進捗をチェックしています。最新業績をオープンにするとともに目標との差額をうめるための対策を話し合い、社員一人ひとりの意識を高めています。そして「誰が何をいつまでにすべきか」を決め、実行していくのです。はじめのうちは発表するだけで精一杯だった社員たちも、回数を重ねるごとに店舗の課題点を明確に伝え、他店の状況に対して意見を出せるようになりました。

佐藤 会議には毎回われわれも参加させていただき、頭をフル回転させ目標を達成するための施策を考えています。これまでさまざまな業種の会社の税務顧問をしてきましたが、事業が成功している会社と失敗した会社の違いは歴然としています。それはPDCAサイクルを確立できているか。戦略経営会議は「C(検証)」の場であり、事務所でいま最も力を入れてご支援させていただいているテーマです。現在、事務所の顧問先企業様の黒字割合は75%で、今期は80%達成を目標にしています。

――社員全員参加とはすごい……。

東雲 厳しい時代ですから、全員で知恵を出し合わないと乗り越えていけません。全ての社員が参加することに意味があるのです。今年の4月には経営計画発表会を初めて開催しました。今期の経営方針を私が発表し、すでに部門ごとの目標ができていましたので、いかに達成するか社員一人ひとりに決意表明をしてもらいました。今後も毎年開催していきたいと思っています。

――今後の展開をお聞かせください。

東雲 現在運営している4店舗の事業をしっかり軌道に乗せることが最優先の課題です。ゆくゆくは東京での出店や海外進出もしたいと考えています。また当社にはブライダル業界の出身者が多いので、その経験を生かせるブライダル事業にも関心があります。北海道や青森県で普及しているような、費用を抑えられる会費制の結婚式事業を手がけてみたいです。

(本誌・小林淳一)

会社概要
名称 株式会社イーストプロジェクト
設立 2010年4月
所在地 福島県福島市南沢又字中琵琶渕33
TEL 024-559-4599
売上高 1億1000万円
社員数 27名(パート・アルバイト含む)
URL http://www.east-project.jp/

CONSULTANT´S EYE
戦略経営会議で黒字化を徹底支援
主査 渡部慎也
日本パートナー税理士法人 福島支社
福島県福島市北五老内町7番5号ISM37ビル301号室 TEL:024-503-2088
URL:http://www.kijpa.co.jp/

 イーストプロジェクト様とは法人設立後まもなく関与させていただきましたが、追分社長が経営されている別法人で『FX2』を活用して成果を上げられていたため、イーストプロジェクト様でもご利用いただくことになりました。2年間のうちに4店舗を展開され、今では部門別管理機能により、店舗ごとの売上高や経費、利益額などを細かく把握されています。また取引先別・口座別管理機能で、買掛金や未払費用、預り金、借入金等の内訳を把握できるようになっています。現金勘定についても各店舗のレジ現金、小口現金、本部小口現金等に細分化し、実際の現金残高と差異がないかチェックされています。さらに『継続MASシステム』の短期経営計画メニューで作成した月別の予算と実績を対比し、会社全体の現状分析に役立てています。

 当事務所で現在一番力を入れているのが戦略経営会議の開催です。毎月社員全員に出席していただき、店舗ごとの課題点を審議し、目標を達成するためには「誰が何をいつまでにしなければならないか」を決定し実行しています。経営者および社員がともに数字に強くなることで、全員が経営者意識を持ち、目標達成への意識が高まります。目標意識が高まると業績が上向きます。経営者と社員、ともに成長することが会社を大きくするのです。当事務所では関与先様全社を黒字化し、さらには優良企業にするために支援報酬をいただき、当事者として責任感をもって会議にのぞんでいます。

 毎月おうかがいしている巡回監査では「関与先企業様は自分自身であること」を常に意識し、経営者の身近な相談相手になれるよう心がけています。経営者は会社の業績や問題点を相談できる相手がいない場合が多く、孤独といわれます。そんな経営者の真のパートナーを目指し、今後も研さんをつづけていきたいと考えています。

掲載:『戦略経営者』2012年10月号