豪雪地帯で知られる新潟県十日町市で福祉事業を展開する十日町福祉会。保育園から障害者・高齢者施設まで多種多様な福祉ニーズに対応できる社会福祉法人として地元で確固たる地位を築き上げている。長谷川誠一常務理事(59)と滋野寿男総務課長(48)に『FX4クラウド』(社会福祉法人会計用)を活用した財務戦略などについて聞いた。

合併による規模拡大で多様な福祉ニーズに対応

十日町福祉会:長谷川常務理事(前列右)

十日町福祉会:長谷川常務理事(前列右)

――設立は2010年と比較的最近ですね。

長谷川 はい。しかし当法人は実はそれまでこの地域で20年以上にもわたって福祉事業を営んできた「あかね会」と「十日町寿福祉会」という2つの社会福祉法人が合併して誕生した社会福祉法人です。前身のあかね会は知的障害者福祉事業からスタートしその後高齢者福祉事業にも範囲を拡大した法人で、一方私が所属していた十日町寿福祉会は高齢者福祉事業に特化してその充実を目的に事業展開をしてきた法人でした。2法人ともスタッフが200人前後と比較的規模の大きい組織でしたが、新潟県でこれだけの規模の社会福祉法人が合併したのははじめてだそうです。

――なぜ合併したのでしょう。

長谷川 社会福祉事業を取り巻く環境が厳しさを増すなか、私たちに課せられた使命を確実に果たすためには、ある程度の規模を追求し法人としての体力をつけなければならないと考えました。とりわけ当地域は日本全体の10年先を行くと言われるほど高齢化が著しい地域です。地域住民の多様なニーズに応えながら事業の永続を図るためにも、合併による経営基盤の強化は避けては通れない道でした。
 また職員の資質向上と人材育成を強化するという目的もありました。これからの福祉事業を担っていく若い人材をどう育成するかという点は非常に重要な課題ですが、小規模な組織だと計画的な人材育成がどうしても疎かになってしまう。組織を拡大させるなかで「人づくり」を強化したいというねらいもありました。

――事業拠点は11カ所に及ぶとか。

長谷川 合併前からあった8拠点に加え、合併後に新たに、小規模特養と認知症対応型共同生活介護事業を核とする「複合型介護施設よしだ」(2011年開所)、自立訓練事業と就労継続支援事業を行う「障害福祉サービス事業所ワークセンターかわにし」(2012年開所)の運営を開始しました。さらに今年の4月には認可外保育園「新座保育園」の事業を譲り受け、保育事業に参入しました。

――子どもからお年寄りまで幅広い住民が対象になりますね。

長谷川 そうですね。高齢、障害、保育という福祉の3つの領域すべてで事業展開が可能になったというのが当法人の大きな特徴です。地域住民の方は、生まれてから亡くなるまですべての段階で当法人に関わることができるわけです。やはり一つの領域に縛られるとそれだけリスクも大きい。3本の足でしっかり立つことで強い風にも耐えられるのではないでしょうか。

――高齢者福祉事業の特徴を教えてください。

長谷川 最近はお客さまひとりひとりにあわせた個別ケアを重視する介護スタイルの重要性が増してきていますが、当法人でもハード、ソフト両面にわたり個別ケア(ユニットケア)の推進を図っています。その成果もあってか、2006年に特別養護老人ホーム三好園しんざがユニットリーダー実地研修施設の指定を受けることができました。

――障害福祉サービス事業はいかがでしょう。

長谷川 障害福祉サービス事業所が3カ所あり、利用者は薪づくりやお菓子作りなどの作業に励んでいます。中でも障害福祉サービス事業所「ワークセンターなごみ」でつくったお菓子「おからの焼かりんとう」が厚生労働省主催の「至福のお届け」事業の全国最優秀賞を受賞するという明るい話題もありました。

全事業所の財務状況をリアルタイムに把握

――『FX4クラウド』を導入された経緯は。

滋野寿男総務課長 当法人は障害者の就労支援事業も実施していますが、これまでは高齢者福祉事業と会計ルールが異なっていたため、法人全体の財務状況を把握するのに苦慮していました。そうしたなかで、会計基準の一元化が図られた新しい社会福祉法人会計基準が昨年に制定されましたが、別の会計ルールである保育園事業の運営を開始することが決まっていたこともあり、「旧基準でバラバラの会計ルールを用いるよりは、新基準の統一ルールで会計処理をしよう」ということで適用初年度の2012年度から新会計基準を適用することにしたのです。TKCの会計システムは法人合併以前から『社会福祉法人会計データベース』を使用していましたが、新会計基準への移行に伴い顧問の相田会計事務所に相談したところ、『FX4クラウド』の使用を勧められ、導入に踏み切りました。

――クラウドの安全性の側面は意識しましたか。

滋野 はい。震度7でも安全性が確保できる免震構造を備えているデータセンターでデータが保管できるのは心強いと思います。過去に1カ月分の会計データを消失して大変な思いをしたことがあったのですが、『FX4クラウド』はそのような心配をすることなく安心してシステムを使用できるのが魅力でした。

――使い勝手はいかがでしょう?

滋野 本部事務所にいながら、11カ所ある事業所の財務状況がリアルタイムに把握できることが最大の利点だと思います。これまでのシステムでは、それぞれの拠点でまとめられた数値を記録メディアに保存してから本部に集めて合算する必要がありましたからね。
 規模の拡大や新会計基準への移行にともない当法人では本部での集中管理機能を強化していますが、『FX4クラウド』は大変役に立っています。事務員からも「サービス区分間の切り替え作業が不要になり、使いやすくなった」「以前に入力した伝票を見ながら新しい伝票入力ができるので便利」「仕訳帳や総勘定元帳から会計伝票の訂正ができる」「内訳機能で一度に多くの伝票を起票できる」「以前よりスプレッドシートに出力できる機能が増えた」などといった感想が寄せられています。『FX4クラウド』と新会計基準への移行からまだ間もないことから十分に活用できているとはいえませんが、当法人の目指している方向性に一致していると感じています。

稼働率のチェックなど緻密な予実管理を実践

――業績管理の方法は?

長谷川 予算実績の確認画面で全体の実績と事業ごとの実績を確認しています。たとえば短期入所事業やデイサービス事業などの実績では稼働率が最も気になる指標になりますが、これが施設ごとに異なることも多い。「ケアマネージャーの入り込み方が甘いのでは」「対象エリアをもう少し拡大すべき」などと分析しその都度現場に指示を出すようにしています。私どもは公益性の高い社会福祉法人を運営していますが、一般企業と同様の経営努力を怠ってはならないと考えています。

相田哲顧問税理士 長谷川常務理事は民間経営者並みの非常に優れた経営感覚をお持ちであり、法人の経営理念・方針、行動規範の文書にも繰り返し「お客さま」という言葉を使用されています。またスタッフ向けの訓示などでは「法人」と呼ばずに「カイシャ」という単語がよく飛び出すのもとても印象的ですね。民間企業と同じような経営管理の視点が垣間見えます。

――「事業階層機能」はどのように活用されていますか。

滋野 法人→事業区分(社会福祉事業、公益事業など)→拠点区分(施設)→サービス区分(特養、デイサービスなど)というように基本的な階層に分けています。就労関係の事業所では作業種目ごとに売上高や経費を確認するため、サービス区分の階層をさらに細分化しています。

――今後の抱負を聞かせてください。

長谷川 今年で合併して3年が経過しましたが、この7月に本部事務所の移転独立を果たし本部機能を充実・強化する環境が整いました。新たな体制のもとで経営基盤をいっそう強化していき、地域密着型の社会福祉法人としての使命を永続的に果たしていきたいですね。

(本誌・植松啓介)

会社概要
名称 社会福祉法人十日町福祉会
設立 2008年10月
所在地 新潟県十日町市水口沢99番地
TEL 025-761-7340
社員数 510名
URL http://fuku-tokamachi.or.jp/

CONSULTANT´S EYE
民間並みの経営感覚が法人の成長発展を促す
監査担当 井上美智子
税理士相田哲事務所
新潟県燕市分水桜町2丁目1番3号 TEL:0256-98-2301
URL:http://www.tkcnf.com/aidakaikei/

 十日町福祉会さんの既存事業は高齢福祉事業と障害福祉事業でしたが、加えて今年の4月1日から保育事業も開始しました。この「三本柱」が確立したのと、新会計基準の適用初年度、『FX4クラウド』のサービス開始年度がちょうど同時期に重なったのが非常に良いタイミングとなり、2012年度から『FX4クラウド(社会福祉法人会計用)』のシステムを採用していただいております。

 導入にあたっては、1年前からプロジェクトチームを立ち上げ月1回以上の定例会議などで綿密な準備を進められた優秀な本部スタッフの方々の努力を忘れることはできません。はじめてのシステム・会計基準の導入ということでご苦労もあったとは思いますが、各人の真剣な取り組みの結果、スムーズな移行を実現することができました。

 毎月の巡回監査は、月末頃に前月分の監査を行っているのですが、3日間ほどかけてすべての施設を巡回しています。監査当日はサービス区分ごとの仕訳帳と証ひょう書綴りをもとに、勘定科目、消費税の課税区分、取引先名、元帳摘要などを監査し、指導させていただいています。

 十日町福祉会さんは、08年度より課税事業者となっており、11年度は本則課税でした。そのため社会福祉法人用の消費税課税区分基準書を会計担当者に必ず準備していただき、該当するページを確認しながら課税区分の根拠と判断を説明しています。巡回監査の最終日には相田所長が月次監査報告書を作成し、滋野課長に内容をご説明するのが通例になっています。また4半期に1度、経営分析会議を実施していますが、その際の議論でも民間企業と同様の経営感覚をお持ちになっていることに常々感心させられています。

 法人経営の安定と今後の成長発展のため、『FX4クラウド』のMR設計ツール機能などを活用し、法人の理事会などで有用な資料をどのように作成していったらよいか、ということなどを提案していきたいと考えています。

掲載:『戦略経営者』2012年9月号