九州の天体マニアから熱烈な支持を得ている「とみた」。同社は時計・眼鏡・天体望遠鏡などを取り扱う小売店だが、社長の冨田宜弘氏(64)も長崎県天文協会副会長を務めるなど、根っからの天文好き。その同社では佐原徹三税理士の指導のもと、『FX2』で部門別業績管理を行っているという。どう使いこなしているのかを冨田社長に聞いた。
昨年福岡に天体望遠鏡の「専門店」をオープン
とみた:冨田社長(右)
――1950年11月に先代が長崎市内に「とみた時計店」を開業したのが始まりと聞いています。
冨田 はい。時計、眼鏡の販売・修理の専門店としてスタートしました。父(故冨田修弘氏)は時計修理の国家資格者(1級技能士)のなかでもずば抜けた存在で、長年、長崎県の公共職業訓練校の講師を務めるなど弟子(時計修理職人)の育成にも熱心な人でした。
しかし、時計は機械式からクオーツに変わり、眼鏡も安売り店が増えるなど、どちらかといえば両方とも斜陽化してきています。そこで他社との差別化をはかるため、時計に関しては原点に返って修理をメーンに行い、眼鏡に関してはフィッティングをウリに展開しています。フィッティングとは、お客さま一人ひとりに最適な形にフレーム調整して提供することですが、これが好評で、口コミで“ファン”が広がってきています。実際、その掛け心地は、眼鏡を掛けているのを忘れるほどで、絶対にずり落ちません。
――主にどんな時計を修理されているのですか。
冨田 腕時計タイプはロレックスやオメガなどの舶来品がメーンで、週に4~5本の修理依頼がきます。修理金額は1個2~3万円で、納期は7~10日。もう一つは古くなった置き時計や掛け時計の修理で、毎週2本ほど請け負っています。
――時計、眼鏡以外に第3の取扱商品として天体望遠鏡の販売もされているそうですね。
冨田 はい。天体望遠鏡の販売は私の趣味で始まったようなもので、その出発点は76年に「冨田天体観測会」を立ち上げ、近隣の子どもたちに天体観測の面白さを教えたことによります。この会をベースに、84年に「ながさき県民の森」中腹に自前の「天文台」(とみた天体観測所)を作り、このときに店の2階(1階時計・眼鏡)で天体望遠鏡の販売も開始しました。
天体望遠鏡の販売ターゲットは、個人と公共施設ですが、どちらも天文台の企画・設計から設置、修理、メンテナンスまで一貫してできることが当社の強みです。実際、これまでに九州地区の十数カ所の公共施設に天体望遠鏡を納めるとともに、メンテナンスも担当させてもらっています。
――昨年4月、その天体部門を福岡県大野城市に移し、「天文ハウスTOMITA」をオープンさせたのはどういう事情からですか。
冨田 福岡県春日市が96年ごろ、キャンプ場の近くに天文台を設置する際、当社が天体望遠鏡を納品させていただいたのがそもそもの始まりです。ところが、10年くらい経って電気系統などが壊れてしまい、やむなく閉鎖となったのですが、そのとき市の要請で望遠鏡のレンズを当社が長崎に持ち帰って保管することになりました。以来、「このまま望遠鏡が使われないのはもったいないですから、街の中に天文台を新設したらどうですか」と何度も申し上げてきたところ、一昨年、市のほうで白水大池公園内に「星の館」を作ることを決め、その運営と維持管理を当社に任せてくれたのです。
そこで、これをきっかけに九州の天文マニアが集まる“拠点”という位置づけで、星の館に近く、交通アクセスもよい大野城市内に「天文ハウスTOMITA」を作ったわけです。ちなみに、どうして街の中に天文台を作ることをすすめたのかといえば、そのほうが利用者にとって便利で来やすいからです。私の知る限り、天文台で成功しているところは、みな街の中にあります。
5部門に分けてタイムリーに業績を把握
――14年前に佐原徹三税理士に顧問を引き受けてもらい『FX2』を導入されたと聞いていますが……。
冨田 以前の税理士さんは積極的に経営助言するようなタイプではなかったので、物足りなさを感じていました。会計事務所というのは、もし関与先に悪い点があれば、それを指摘して「改めなさい」と叱るくらいが望ましい。問題点を改めていくことによって、経営者のマネジメント力も高まります。そんなとき、金融機関から紹介してもらったのが佐原先生でした。とにかく一生懸命で、「『FX2』で自計化しなければ利益率を高めることは難しい」と言われ、導入しました。
――部門別業績管理は行われているのですか。
冨田 はい。(1)時計(2)眼鏡(3)天体(4)天文台(5)貴金属――の5つに分けて行っています。(1)と(2)と(5)は長崎の店舗、(3)は福岡の天文ハウス、(4)は星の館を指しますが、時計に関しては販売と修理に分けて売り上げを管理しており、人員は家内を含めて3名。現在、私は福岡の天文ハウスに常駐しているため、時計修理の一部を先代の弟子に外注しています。眼鏡の人員は3名(家内を含む)で、天体部門の売り上げは天体望遠鏡の販売とメンテナンスに分けており、人員は6名。星の館には2名が張り付き、運営管理しています。
2011年3月期の売上高は約1億2000万円で、そのうち時計部門が約1600万円、眼鏡部門が1900万円、残りが天体部門となっています。天文台部門については、春日市との契約が昨年4月からなので、今期(12年3月期)から売り上げが立ちます。
――貴金属部門というのは。
冨田 ダイヤやピアスなどを取り扱っている部門ですが、90年ごろにバブルが弾けた途端に売り上げが急落しました。ただし、在庫があるので部門としては残していますが、それがなくなれば廃止します。
部門別管理のメリットは、このようにどの部門がもうかっているのかいないのか、どの部門を廃止すべきかなどがわかることです。
メーカーからも一目置かれるメンテナンス技術
――天体部門の売り上げは、望遠鏡の販売とメンテナンスで構成されているとのことですが、粗利益率はメンテナンスのほうが高い?
冨田 そうですね。現在、十数件の公共天文台のメンテナンスを請け負っていますが、施設によって毎年行うところと、2年に1回のところがあります。この部門のメンテナンス要員は私を含めて3名ですが、作業は現地で2~3日かけて行います。従って、メンテナンスに関わる費用(変動費)は出張旅費くらいですから、こちらのほうが天体望遠鏡の販売より粗利益率は全然高い。
――天体望遠鏡のメンテナンスとはどういうものなのですか。
冨田 光学系は基本的に毎回分解してオーバーホールを行い、各駆動部分については注油などを含めシステム全体が正常に動作するよう調整します。その技術力は、大手天体望遠鏡メーカーの高橋製作所さんから全国で初めて「技術認定書」をいただいたほどです。ここが他社と大きく違うところであり、「とみたに任せれば安心」ということで新規の天文台建設の話もくる。つまり、天体望遠鏡を売った後でメンテナンスの仕事をいただき、その高い技術力で新規天文台を受注するというサイクルをぐるぐる回しているわけです。
――星の館にかかる費用というのは担当者2名の人件費くらいですか。
冨田 はい。ここの運営管理費が毎月コンスタントに入ってくることから、福岡に天体部門を移設することにしたわけです。天文ハウスTOMITAの広さは鉄骨2階建てで、80坪、毎月の家賃は数十万円。初期投資額は、建物の改修費と天体望遠鏡の購入費合わせて約2000万円でしたが、全額を金融機関から借り入れ、10年で返済する計画です。
――『継続MAS』を使って経営計画も作成されているとか。
佐原徹三顧問税理士 行っています。具体的には、10カ月目の巡回監査終了後に『継続MAS』を使って決算検討会を開き、“着地予想”を立てるとともに、次期の経営計画策定も行います。その予算データを『FX2』に月別に落とし込んで予実管理していくわけです。
冨田 現在、天体望遠鏡のウェブ販売とメンテナンスを担当しているのが3代目の冨田宜邦常務です。彼が継ぐ気になってくれたのも“小粒ながらキラリと光る技術”を持っていたからだと思います。今後、3代目がその技術をさらに磨いていき、地域経済の発展に貢献してくれることを期待しています。
(本誌・岩崎敏夫)
名称 | 有限会社とみた |
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業種 | 時計・眼鏡・天体望遠鏡の販売 |
代表者 | 冨田宜弘 |
設立 | 1998(平成10)年4月 |
所在地 | 長崎県長崎市浜口町7-10 |
売上高 | 約1億2000万円 |
社員数 | 14名 |
URL | http://www.y-tomita.co.jp/ |
CONSULTANT´S EYE
監査担当者・税理士 佐原徹三
佐原税理士・行政書士事務所
長崎県長崎市万才町1-2 電話095-824-0519
URL:http://www.sahara-plus.info/
有限会社とみたさんと出会って14年目になります。当時は、まだ個人経営でしたが、当事務所が法人の優位性を説明したところ、1998年4月に有限会社となりました。冨田宜弘社長のモットーは、「まずお客さまのお役に立つこと、その後に利益はついてくる」です。この考え方のもと、地域に根ざした商売を続けてこられました。今年で創業62年になりますが、先代が築き上げた確かな技術は、2代目の宜弘社長を経て、今、3代目の冨田宜邦常務に受け継がれています。
長崎市浜口町商店街で、時計・眼鏡・貴金属を中心に発展し、1976年に天体部門が新設されました。時計に関しては舶来の腕時計や掛け時計の修理を行っており、今や「長崎で時計修理といえばとみた」が通り相場になっています。眼鏡については掛けやすく、疲れにくい眼鏡で根強い人気を得ています。
このように同社は複数の部門を持ち、粗利益率もそれぞれ異なるため、『FX2』を導入して部門別業績管理を行うことをすすめました。現在は時計、眼鏡、貴金属、天体、天文台の5部門に分けて行っていますが、各部門に人員がはっきりと分かれているため、配賦に関しては問題ありませんでした。月次巡回監査時には経営状況を冨田社長に説明し、今後の対策について検討します。その際、よく活用している帳表が《全社業績問い合わせ》と《部門別ランク表》です。部門別損益計算書は、金融機関から経営状態を見るのに最適な資料と高い評価をいただいています。
また、10カ月目の監査終了後に『継続MAS』を使って、「決算検討会」を開き、当期決算の着地点と次期の経営計画策定を行っています。福岡に「天文ハウスTOMITA」を出店して1年になりますが、これからが勝負です。当事務所も、財務面からしっかりと支えていきたいと思っています。