「資本性借入金」の活用をメーンバンクから提案されました。どのようなものか教えてください。(製造業)

 資本性借入金とは、資本(株式)による資金調達と、負債(借入金)による資金調達の中間に位置する資金調達手法を言います。バランスシート上の分類としては負債でありながら、資本に近い性質を持たせています。

 資金の出し手である金融機関サイドから見た場合、リスクという観点からは、企業の倒産時に株式のように弁済順位が劣後するという性質を持たせる一方で、リターンという観点からは、企業の業績に連動した金利設定をすることが多いことから、企業の業績が好調な際には適用金利が上昇し、アップサイドを期待できるという性質を持っています。低リスク低リターンの融資業務では思うように利ザヤを稼ぐことができず、また銀行法によって銀行が事業会社の株式の5%以上を保有することが制限される中、こうした中リスク中リターン型の資金融資手法に銀行の注目が集まり、近年多くの事例が生まれています。また、資本性借入金は、金融機関のリスク評価上「資本とみなされる」ので、負債水準の大きい企業に対しても柔軟に拠出できることができます。

「5年超の貸出期間」と明示

 昨年11月22日に金融庁から公表された「資本性借入金の積極的活用について」では、企業が金融機関から資本性借入金の調達をより積極的に行えるよう、約定に際して「5年超の貸出期間」「事務コスト相当の金利設定」「既存借入の借換え時には、担保の解除を要さない」といった明確な条件が示されました。こうした条件を明示したことで、金融機関の取り組みが活発化することが想定されます。一方で、金融庁が資本性借入金を促進しようとする背景は、日本の金融マーケットの中で、資本性借入金という中リスク中リターン型の資金調達手法を普及させようということ以上に、東日本大震災によるいわゆる「二重ローン問題」の解決や、急激な円高で資本を毀損している事業者の救済といった視点が大きいと考えられます。また、平成25年3月で最終延長の期限を迎える中小企業金融円滑化法の受け皿といった側面もあるでしょう。

外部アドバイザーの活用も重要

 資本性借入金の今後の具体的な適用に関しては、公的機関(産業復興機構や東日本大震災事業者再生機構)が銀行の保有債権を買い取った後、資本性借入金に転換したうえで、新規融資を呼び込むパターンや、政府系金融機関が率先してリスク性の高い資本性借入金を引き受けるパターン、さらにはメーンバンクが継続支援を前提として既存の貸し付けを資本性借入金に転換したうえで、新規融資を実行するパターンなどが考えられます。中小企業経営者の皆さんは、こうしたパターンに沿って、必要に応じて積極的に資金調達に取り組むとよいでしょう。

 ただし、資本性借入金を利用することで、企業としての資金調達ボリュームが大きくなることに変わりはありません。資金の出し手は、それが株式であれ債権であれ、最終的にリスクに見合ったリターンを要求しますので、調達に際しては、自社が「資本不足に直面していながらも、将来性があり、経営改善の見通しがある」ことをどのように金融機関に伝えるかが必要です。こうした意味でも、外部のアドバイザーなどをうまく活用しながらも、しっかりした経営改善計画を策定・実行していくことが欠かせないと考えます。

掲載:『戦略経営者』2012年5月号