目標を達成するため、必要不可欠な要素は何より“やる気”。経営者はいかに社員とコミュニケーションをとり、やる気を引き出すべきか。その効果的手法を探った。

 社員のやる気にいかに火をつけるか、頭を悩ます経営者、マネジャー層は多い。厳しい経営環境が続くなか、限られた人員で業務を行い、山積する課題で疲弊している姿も見受けられる。停滞した職場環境を変えるべく、人事、評価制度を一新したり、教育体制を充実させたりさまざまな手を打つものの、社員のやる気を引き出せないばかりか、逆に活力をそぐ結果になってしまったという苦い経験をお持ちの読者もいるだろう。当日本能率協会コンサルティングでは管理者向けに“動機づく職場づくり”をテーマにしたセミナーを定期的に開催しているが、参加者から話をきくと、メンバーのやる気を引き出すうえで抱えている悩みは大きくふたつに分けられることがわかった。

 ひとつは「部下に熱心に働きかけるほど熱意が空回りしている気がする」という“孤軍奮闘型”の悩み。近年は個々が抱える日常業務は属人的な面が多分にあるため、同じ部署のメンバーであっても状況をつかみにくい。そこで部下と積極的に関わりあいを持とうとするのだが、部下も忙しく余裕がないため意図や思いがなかなか伝わらず、徒労感だけが残ってしまう。

 その一方で「人の内面を変えるのは難しいのであえて立ち入らない」という“割り切り型”もいる。最低限の指導は行うものの、干渉しすぎて関係がギクシャクするのを警戒したり、反発を買ってすねられないよう気を配りすぎたりすると“仲良しクラブ”的な職場になる。こうなってしまうと、新たなことに挑戦しようという変革の気概は生まれてこない。程度の差こそあれ、第一線の管理者は同じような悩みを抱えているのではないだろうか。

信頼関係が貢献行動を生む

 職場にやる気をもたらす要素を考えると、ベースとなるのは会社と社員、上司と部下の間の「信頼関係」である。会社が社員を信頼していることを明確に示すことで、社員には組織への貢献意欲が芽生え、自発的に行動しようとする。さらに会社がその行動を応援する。こうした循環によって、信頼関係をより強固にするメカニズムを図表1(『戦略経営者』2012年4月号22頁)に示した。

 社員への働きかけは社内の制度や施策、上位者の言動を通して行われる。社員はこれらを受けて会社や上司の意図するところを理解しようと努め、自分に何が求められているのかを読み解こうとする。したがって貢献意欲を刺激する「信頼メッセージ」を込め、信頼されている実感を社員が得られるようにするのがポイントである。ただ信頼関係は自然に成立するわけではなく、必ず上位者による働きかけ努力があってはじめて形成されるという点は忘れないでほしい。

 そして信頼メッセージを伝える上で大切なのは、社員の心の移り変わりに目を向けることである。ややもすると上位者は業務の進ちょくに目がいってしまいがちだが、報告やチェックばかりを求めていると「言われたことだけをちゃんと仕上げておけばいい」という心理になり、自主的に何かに取り組む意欲を損なうことになる。仕事はやはり生身の人間が行うものであり、進行具合によって心のありようもさまざまに変化していく。目標の達成状況によって一喜一憂し、気持ちは大きく浮き沈みするもの。そんな社員の心のゆれに気を配り、コミュニケーションを図ってほしい。日ごろ取引先と接している営業職などの方なら、顧客の心の動きを読み取るスキルに長けているはずなので、それを社内でも生かさない手はない。目標や課題に取り組むとき、どのような気持ちでのぞむかによって、仕事に向かう気迫や成果が変わってくるからだ。

4つの場アプローチとは

 では信頼メッセージを浸透させ、貢献行動を引き出すために具体的にどのような手を打てばよいのか。活気のある会社に共通する点を探ってみたところ、職場とは異なる“場”を設けていることがわかった。例えば有志による勉強会や、スポーツや趣味のサークル活動なども当てはまる。そんな職場から離れた“異空間”の中身を4つのマトリクスに分け、場を社員に信頼メッセージを伝える媒体ととらえ、社員の意識を高める手法を「4つの場アプローチ」と名付けた(図表2・『戦略経営者』2012年4月号22頁)。

 横軸は訴えかけたい貢献意欲である。社員は自社に対する誇りを高めたい(会社のため)、仕事に関わる仲間との絆を深め、より良い仕事を追求したい(仲間のため)という純粋な意欲を誰しも持っているはずである。それらを刺激しようというものである。縦軸は施策の実践レベルである。「機運づくり」「行動づくり」というのは、組織が信頼をじっくり育む段階にあるのか、背中をもうひと押しすれば貢献行動に結びつけられるところにあるのかという視点で設定した。いずれの場にも施策をいくつか例示したが、どの場から着手すべきかは企業の状況によって異なる。社内の現状を把握するために「4つの場アプローチ簡易診断表」を用いてチェックしてみてほしい(図表3・『戦略経営者』2012年4月号23頁)。

 「仲間レベル」、「会社レベル」それぞれで合計点を計算し、7点以上なら機運づくりが「できている」、6点以下なら「できていない」とみなす。すると仲間レベル、会社レベルで重視すべき場がわかり、取り組むべき施策の方向性が見えてくるので活用してみてほしい。新たな施策を取り入れることによって「どこか社内の様子が変わり始めた」という実感を社員たちに根付かせることがまずは重要であり、気づきと行動をうながす環境設定が場アプローチの本質なのだ。

 最後に、本テーマは経営者・上位者が心底から「社員の活力こそが最も重要な経営資源である」という認識に立てるかどうかが成否の鍵を握る。活力みなぎる職場づくりに向けて本稿で示した視点が参考になれば幸いである。

(インタビュー・構成/本誌・小林淳一)

掲載:『戦略経営者』2012年4月号