経済環境の厳しいなかで新工場建設に踏み切った会社がある。無電解ニッケルめっき技術を得意とするKSTだ。その際、顧問税理士の宮沢英男氏とともにTKCの『継続MAS』を使って、緻密な「計画」を作成したことで建設資金を調達することができたという。そこで同社の事業戦略などを中澤敏明社長(68)と中澤恵一専務(43)に聞いた。
ニッケルめっき技術で60年の歴史を持つ
KST:中澤社長(右)
――昨年、創業60周年を迎えたのを機に社名を歓鍍金から「KST」に変更するとともに、本社工場も東京都渋谷区から茨城県取手市に完成した「新工場」に全面移管したと聞いています。
中澤敏明社長 はい。当社は1951年4月に先代(中澤末吉)が起こした会社で、創業以来、ニッケルめっきを得意にしています。めっき方法にはいくつかありますが、現在、当社がメーンにしているのは「無電解ニッケルめっき」です。無電解ニッケルめっきとは、めっき液に含まれる還元剤の酸化によって放出される電子により、液に含浸することでワーク(被加工物)にニッケル皮膜を析出させるというものです。簡単にいえば、ニッケルという金属を鉄やステンレス、アルミなどのワークにはり付けるということです。旧工場が手狭となり、老朽化してきたことで、昨年、新工場の建設に踏み切り全面移転しました。ちなみにKSTとは、歓鍍金の「K」、Surface(表面)の「S」、Technologyの「T」の頭文字をとったものです。
中澤恵一専務 お客さまが何社か取手方面にあったことや、下水道やガスなどインフラが整備されていたことも、ここに移転することに決めた理由です。新工場の広さは、鉄骨造り1部2階建てで約1220平方メートル、投資額(建設費+機械設備費)は数億円です。
――電気メッキに比べて無電解ニッケルめっきの長所は何ですか。
中澤専務 どちらも錆びないようにすることが目的ですが、無電解のほうが、ワークがへこんでいる場合とか複雑な形状の場合でも均一に皮膜することができる点が長所です。一般にその工程は、(1)脱脂(2)水洗(3)酸洗(4)水洗(5)無電解ニッケルめっき(6)水洗(7)湯洗などとなっており、この(1)~(7)までの流れが1ラインです。新工場には量産物を専門に行うラインや、3000ミリ角の大型部品(対応重量5トン)をめっき処理するラインなど全部で4つあります。
――主な取引先数は……。
中澤社長 半導体製造装置メーカーなど約40社です。注文をいただいてから納品までのリードタイムは、お客さまによって異なりますが、早い場合はその日の朝、部品(ワーク)を取りに行き、夕方には納品することができます。
中澤専務 そうしたレスポンスのよさに加え、1ミクロン単位で、かつ均一に皮膜できる点も当社の特徴の一つです。その理由の一つは、ニッケルめっき槽に「コントローラー」を設置して成分(濃度)を秒単位で自動管理しているからです。めっき液には、ニッケルのほかに還元剤などを入れているわけですが、めっき処理をすればするほど、その濃度が低くなるため、常に使った分だけのニッケルや還元剤などを補給しなければなりません。そこでコントローラーを導入して、自動的に濃度を分析し補給しているわけです。
得意先・案件別に受注額を予測
――税理士法人Mi's(ミッツ)に税務顧問を引き受けてもらったのはいつごろのことですか。
中澤社長 2004年8月に顧問を引き受けていただきました。それまでの税理士さんが高齢になったことや、自計化してタイムリーに「数字」をつかめるようにしたかったからです。それで、宮沢英男先生が勧めてくれたTKCの『戦略財務情報システム(FX2)』『戦略給与情報システム(PX2)』『戦略販売・購買情報システム(SX2)』を導入して業績管理しています。『SX2』と『FX2』『PX2』が仕訳連動しているため、二度打ちする手間を省くこともできました。
――『継続MAS』で次期の予算を作成し、そのデータを『FX2』に落とし込んでPDCAサイクルを回しているそうですね。
中澤専務 はい。今のような経済状況のもとでは、需要の先読みを行うのは非常に難しいのですが、当社では基本的には「営業商談先行管理表」を作成し、それに基づいて次期の売上高をざっくり出しています。それは、得意先・案件別に受注額を予測するというものです。例えばA得意先であれば来期1年間を見渡して、この部品はこの月にこれくらい、この大型部材はこの月にこれくらいという形で予測するわけです。1社で数十種類のめっきをやらせていただいている場合もあれば、1つの場合もあるし、それも毎月コンスタントに注文が入る場合と、1年に数回の場合などもあります。このように、得意先ごとに受注見込額などを積み上げていき、それを宮沢先生にお話しして『継続MAS』で次期の予算を作成してもらっているわけです。
昔は、1年間ほぼ予定通りに注文がお客さまからきていましたが、今はそうは行かず、修正に追われることもしばしばです。それだけお客さまも、エンドユーザーの動向を読むのが難しくなっているということですが、だからこそ『FX2』でタイムリーに業績管理する必要性があるといえますね。
中澤社長 当社ではこれまでに受注した案件、約2万件を『SX2』にマスター登録しています。例えば、3年前に1度ある部品のめっき処理を受注したときの単価と、今回の受注単価が違っていたらクレームになります。だから『SX2』で商品管理して、検索できるようにしているわけです。単価は、基本的にはめっき処理面積(10×10センチ)で決めていますが、技術的に難しい場合は相談のうえで値決めさせていただいています。
――それにしても経済環境が厳しいなかで、よく新工場の建設に踏み切りましたね。
中澤社長 それも宮沢先生が『継続MAS』を使ってシミュレーションしてくれたからです。でなければ、金融機関も融資に応じてもらえなかったと思います。
中澤専務 宮沢先生には顧問になっていただいた頃から、「ここ(旧工場)では量産物や大型部品が手狭でめっき処理できないため、いつかは新工場を建設したい」とお話ししていました。しかし、新工場の建設となればイニシャルコスト(土地代や機械設備費)が数億円かかると見込まれたため、それだけの資金を金融機関から借りて、果たして返せるのかどうか。そこを見極めるために、宮沢先生にシミュレーションしてもらったわけです。
自社技術を武器に取引先の拡大を狙う
――どうやってシミュレーションしたのですか。
宮沢英男顧問税理士 まず、新工場の建設コストや設備投資額を見積もりました。次に、旧工場ではできなかった量産物や大型部品のめっき処理などを行った場合、材料費や水道光熱費等のコストがどれくらいかかるのかを割り出し、そのうえで借入金の返済額を盛り込むと、毎月どれくらい売り上げなければ、採算ラインに乗らないのかが分かります。
中澤社長 その結果、「大丈夫」と判断したわけですが、それができたのも後継者(中澤専務)が決まっているからです。年間の借入金返済額は数千万円で、返済期間は2年据え置きの17年です。
――すると、今後15年間、毎年数千万円を返済し続けなければならないことになりますが、そのためには常に採算ラインを超える受注を取らなければなりませんね。
中澤専務 おっしゃる通りです。新工場が軌道に乗り出す2年後くらいには、年商3億円の達成は可能とみていますが、そのためには、一つは高品質・短納期などを訴求ポイントに得意先の満足度をより高めていくこと、もう一つはオリジナル技術を武器に新規取引先の拡大をはかっていくことが重要と考えています。その一つが「硬質無電解ニッケルめっき」です。これは今、環境問題の高まりから従来の硬質クロムめっきの代替として注目を集めているものですが、高硬度皮膜を求めているお客さまなどに、今後一段と売り込みをかけていくことにしています。
中澤社長 コスト管理面では、とくにニッケルなどの材料関係のムリ・ムダ・ムラをなくすように努めています。いずれにしろ、当社の持ち味である“ニッケルめっき技術”をさらに磨いていき、お客さまのニーズに応え続けるとともに、地域経済の発展に貢献していきたいと考えています。
(本誌・岩崎敏夫)
名称 | KST株式会社 |
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業種 | 精密機械部品めっき業 |
代表者 | 中澤敏明 |
設立 | 1967(昭和42)年11月 |
所在地 | 茨城県取手市小浮気179-2 |
TEL | 0297-85-3525 |
社員数 | 10名 |
URL | http://www.k-s-t.jp/ |
CONSULTANT´S EYE
監査担当者・税理士 宮沢英男
税理士法人Mi’s(ミッツ)
千葉県袖ヶ浦市奈良輪710-1 電話0438-63-9788
URL:http://www.mi-s.or.jp/
KST株式会社さんとは、平成16年8月から当税理士法人で関与させていただいています。
中澤敏明社長、恵一専務から「自計化してタイムリーに業績を把握したい」と言われたため、TKCの『FX2』『PX2』『SX2』の導入を勧めました。仕訳連動と仕訳辞書を活用することで入力を省力化し、経理処理の効率化・合理化をはかることができました。
もう一つ中澤社長と専務が望まれていたのが、「いつかは新工場を建設したい」ということでした。その第1の理由は、従来の工場が手狭となり、老朽化していたからです。第2の理由として、それゆえに大型部品の無電解ニッケルめっき処理が社内ではできず、外注先にお願いしていたことが挙げられます。これを内製に切り替えれば、自社の強みをより生かすことができると考えたわけです。
そこで、TKCの『継続MAS』を使って新工場建設に向けた事業計画を中澤社長と専務にヒアリングしながら作成し、それを何度も練り直していきました。というのも、社会環境や経済状況が大きく変化して、需要の先行きを読むのが難しかったからです。「新工場建設を進めて本当によいのか」と社長も専務も相当悩まれたと聞いています。最終的にその悩みを吹っ切らせたのが『継続MAS』によるシミュレーションでした。新工場建設費、借入金の返済、新工場の維持費などを想定して『継続MAS』で緻密な「計画」を作成したことによって、金融機関も融資に応じてくれたのではないかとみています。
今後は、めっきラインごとの《部門別業績管理》や部品グループごとの限界利益把握などができるように提案して、同社の財務力が高まるよう全力でサポートしていきたいと考えています。