超円高時代が到来し、中小企業にとっての受難は今後も続く。が、「輸入」をうまく使えば国内市場でも勝負できる。中小企業の輸入ビジネスの可能性を探った。

輸入で活路を拓く 超円高時代の処方箋

 アメリカの輸出促進、ドル安誘導、ヨーロッパの金融不安と、円高要因がめじろ押しの昨今。超円高時代がこのまましばらくは続くことを予感させる。そのため、ものづくりニッポンの危機が叫ばれているが、逆に、その危機と同じ分だけチャンスも広がっている。言わずもがなの“輸入ビジネス”である。

 だが、「輸入」と聞いただけで尻込みしてしまう中小企業経営者は多い。「難しい」「面倒」「危険」「言葉の壁」など、高いハードルが頭に浮かんでしまうからである。ところが、実際には、これらハードルは思いのほか低い。後述するが、たとえば「言葉」など問題にもならない。越えようとの強い意思さえあれば全く大丈夫だ。

 それではまず、輸入ビジネスのメリット、つまり、輸入事業が中小企業経営者にとって、いかにすぐれた選択肢となり得るのかについて、具体的に見ていこう。

メリット1 価格決定権を持てる

 そもそも輸入ビジネスは中小企業に向いている。なぜなら、取引先に遠慮することなく「販売価格を自由に決めることができる」からである。なんにしても、これが輸入ビジネスの最大の特徴だ。

 日本では表向きメーカーなどが小売価格を指示することは違法だが、実際には“希望小売価格”は隠然たる力を持つ。私も以前、国産製品の販売を手がけていたが、売っても売っても儲からない。だからといってメチャクチャな値付けをすれば、メーカーに取引してもらえなくなってしまう。一方、輸入ビジネスでは価格を自由に決めていい。

 たとえば、私のクライアントは中国で1個10円で仕入れたピアスを1980円で販売してヒットさせた。日本製のほぼ同じデザイン・品質のものが2980円なのだから当然売れる。なんと粗利益96%超である。

 企業の目的が利益を上げることだとするなら、無理をして売り上げを伸ばすよりも、仕入れの内容を変えるべきである。つまり、海外から安く仕入れることができれば、何倍もの売上高の増加と同じ効果が得られるのだ。

メリット2 フェアな取引ができる

 2つ目のメリットとしては、輸入ビジネスはとても「フェアである」こと。日本では、商取引上、名前の通った大企業がなにかと有利だが、海外では会社の看板はほとんど関係ない。日本人というだけで「お金にきれいで正直で扱いやすい」と評価され、とくにそれ以上のネームバリューは必要ない。たとえ個人の立場で交渉したとしても、取引条件や人柄、やる気があれば独占販売権を獲得できたりもする。物おじする理由はまったくない。

 私自身、若いときにこんなことがあった。スペインの展示会でとてもきれいなテーブルランプをみつけ、販売の交渉をしてみた。すると、すでに日本の商社と契約していると。そこで私が「その2倍で買い取ります」というと、「即答できない。ちょっとまってくれ」とのこと。1カ月後、「タフな交渉だったが相手が了解した。君とやろう」という連絡が入った。後で、その商社とは誰もが知る大手であることが分かり驚いた。

 つまり、日本と違い海外は合理主義が貫かれており、大手であろうと中小であろうと儲かればOK。とてもフェアな市場なのだ。

メリット3 メーカー的立場で動ける

 輸入者は日本市場では、PL法を含めてその商品の責任者、つまりメーカー的立場になる。これまでの問屋や小売業務と違い、メーカーになったとたん責任を背負い込む一方、一気に全国を相手に、しかもどのようにでも自由に販売できるようになる。これはもうパラダイムシフトだ。もっといえば、流通業者だけではなく、メーカーにもOEM供給という形でものが売れるようになる。あるいは、見本市に出展したとしても、これまで以上にさまざまな業種業態の人たちが足を止めてくれるだろう。ようするに、実際にものをつくっていなくても、輸入者というだけでメーカー的立場を享受でき、商圏も客層も爆発的に広がるチャンスをつかめるのである。

 たとえば、私の手掛けている生活雑貨事業の経験でいえば、国内仕入れのみだった従来は、百貨店や雑貨専門店が販売先だったが、輸入元になって以来、美容室、エステ、病院、あるいは映画の小道具さんからの注文も来るようになった。自分の想定していなかった新たな分野の客層がどっと来て驚いた記憶がある。

「独占販売権」がポイント

 さて、ここまで輸入ビジネスのメリットを縷々述べてきたが、では、実際に何からはじめたらよいのか。

 もちろん、まず商品ありき。一番簡単なのは海外の見本市に足を運ぶことである。国際見本市は、世界のメーカーが多大なる費用をかけて出展するだけに、最新、最先端、売れ筋商品が並ぶ。商品の第一発見者になり、独占販売権をとるには、国際見本市が最短の道だ。

 商品のコストパフォーマンスを第一に考えるなら、やはりアジアだろう。とくに香港、上海、広州といった中国国内の展示会は年々充実してきているし規模も大きい。1000社以上、できれば2000社以上が参加する大規模な展示会を狙いたい。

 アッパークラス向けでよりよい機能や品質を求めるならヨーロッパの展示会がよいだろう。とくにドイツは世界的に有名な見本市が目白押しである。

 その後の順序としては、展示会で当たりをつけた商品のサンプルを、後日あらためて依頼し、併せて独占販売権の可能性を打診するやり方が妥当である。この「独占販売権」というのが交渉における重要なポイント。私のクライアントにこんな事例がある。

 九州の塾経営者がヨーロッパの展示会である知育玩具を見つけ、独占販売権を得た。当初は、塾に通う子供の母親に細々と販売していたが、ある日、大手外資系食品会社から数百万円単位のオーダーが入った。突然の注文に、その経営者はびっくりである。ようするに、独占販売権がネックになり、大手企業といえども、その経営者を通じて仕入れるほかなかったのだ。別のケースもある。地方で小さなエステサロンを営む女性社長が、やはり海外展示会でダイエットスーツを見つけ、販売を開始した。するとまもなく一部上場の誰もが知っているエステ関連企業からオファーがあった。

 このような例は、枚挙にいとまがないほどで、十分に紹介するには誌面が足りない。もちろん、独占販売権がすべてとはいえないが、これを持っているかいないかで結果がかなり違ってくるのも確かだ。

 必ずしも展示会にこだわる必要はない。大使館の商務部に相談するなり、ジェトロ(日本貿易振興機構)やミプロ(対日貿易投資交流促進協会)などのマッチング機能を利用するのもいいだろう。

 大事なのはとにかく臆せずアプローチすること。冒頭で述べたように、日本の経営者は、海外と聞いただけで萎縮してしまう。その最大の理由は言葉の壁だ。しかし、世界の展示会を回ってみれば分かるが、英語が母国語の出展者は非常に少ない。ほとんどが英語圏以外の国の人たちであり、実際、使われている英語はひどいもの。それでも堂々と意思の疎通を図ろうとする。日本人の英語教育のレベルがあれば、実は、十分に通じるのである。

 勇気を持って輸入ビジネスに踏み出してもらいたい。

プロフィール
おおすか・ゆう 1955年生まれ。早稲田大学卒業後、東証一部上場企業に入社。そこで最優秀営業員賞受賞。その後、輸入ビジネスに身を投じる。実践に裏打ちされ、しかも海外でマンツーマンで行われるコンサルティングが顧客の支持を受け、数多くの講演や企業の顧問もこなす。株式会社インポートプレナー最高顧問。ジェトロ認定貿易アドバイザー。http://www.importpreneurs.com/

(インタビュー・構成/本誌・高根文隆)

掲載:『戦略経営者』2012年2月号