人口の多い団塊の世代が次々に退職するなか、会社の将来を担う若手の採用は企業にとって大きな関心事。しかし学生による大企業志向もあり新卒採用に苦戦する中小企業は依然として多い。失敗しない人材採用の進め方とはどのようなものか。気鋭のコンサルタント2名に話を聞いた。
2013年度から新卒採用は大きく変化する。「就職活動ばかりしていないで学生もきちんと勉強するように」との建前で経団連が採用活動の指針を見直し、企業の採用活動開始日を例年の10月1日から12月1日へと後ろにずらしたからだ。しかし各企業が内定を出すタイミングはこれまで通りゴールデンウイーク前後がピークになると予想される。そのため採用活動期間は10月~5月から12月~5月へと単純に2カ月間減ってしまうことになる。その結果、「企業が内定を出しにくい」「学生は内定がとれない」という現象が起きる可能性が高くなってしまうのではないだろうか。
しかしこれはあくまでも大企業が内定を出すピーク時までのことである。実際のところは、「就職活動をがんばったけれども内定が出なかった」という学生は5月以降大量にあふれ出るのではないか。そしてそうした学生のために春採用、秋採用さらにその後も……と一年中採用活動を行う「通年採用化」の傾向が一段と強まることが予想される。12月1日の解禁日に足並みがそろわなかった企業にも十分チャンスはある。しかも中小企業はそもそも内定通知のピーク時期の後から採用活動をはじめるところも多い。もともとゴールデンウイーク明けから活動している企業は、解禁日が後ろにずれたからといって何も影響を受けない可能性もある。
ただ、大手企業の内定がとれなかった優秀な学生を獲得できるチャンスと簡単にとらえてはいけない。12月から動いている積極的な中小企業が虎視眈々と狙っているからだ。そうした中小企業は採用活動に本腰を入れるしっかりとした体力があるので、より小さな零細企業に比べ採用力は圧倒的に強い。やはり動き出すのが後になればなるほど不利になっていくのは間違いない。
実は厳しくない就職環境
そうした環境を踏まえたうえで認識してほしいのが、現在の就職環境は実は厳しくないという事実である。「内定率過去最低」「就職氷河期以上」といったフレーズがメディアに頻繁に登場することから、新卒の就職環境は想像を絶する厳しさのように感じられるが、雇用統計の実態はそれとは異なる事実を教えてくれる。たとえば2012年度の有効求人倍率は1・23倍で、これを従業員300人未満の企業に限定すると一挙に3・35倍に数値が跳ね上がる。これは100人の求職者に対し330件以上の求人があるということで、数字だけみれば就職氷河期でもなんでもない。学生は中小企業に魅力を感じておらず、逆に中小企業の側でも「内定を出したい」という学生を採用活動でみつけることができない、というのが実態だ。
要するに、採りたい人間と取りたくない人間の差があまりにも激しくなっているのである。上位2割、中位6割、下位2割の「2・6・2の法則」が崩れ、上位2割、下位8割の「2・8の法則」になってしまっているのだ。この「採用したい人間がいない」という悩みは深刻で、私の考えるところ、いわゆる「ゆとり教育」を受けてきた学生が社会に出てきたことに起因するとみている。これらの学生たちをどう見極めていけばよいかということが採用活動の成否を決するといっても過言ではないだろう。
では、ゆとり教育世代の若者たちの性質はどのようなものか。まず基礎学力が圧倒的に不足している。そのうえ、大学全入制に突入するなか自分の偏差値に見合ったリターン以上のものを得てきたため、「根拠のない自信」や「自分はできるという勝手な勘違い」を抱いている。その自信と現実社会との大きなギャップにメンタルが傷を負ってしまうというのがよくあるパターンだ。しかし、だからといって新卒採用を見送る猶予はない。団塊世代が続々と退職している中で、年齢構成のバランスを考慮すると新卒採用を是が非でも成功させておきたいのが経営者の本音なのである。ここに現在の新卒採用の難しさがある。
「育てたい」人材を最優先する
それでは具体的にどのようなことに気をつければよいのだろうか。まずは学生ひとりひとりに重点をおいたピンポイントの採用活動を心がけることである。大企業のように多くの面接や大人数の説明会をひらく余裕はない。一人の学生に対してかける時間を質・量ともに上げていくことがとても重要になってくるのである。それにはとにかく面接や面談に費やす時間を増やすことである。そして会社に入りたいと思わせる動機形成をしっかり行うことである。
そこで注意したいのは、「優秀な学生」を選考基準にするのではなく、「育てたい」「教えたい」「叱りたい」と思える学生を積極的に採用すべきだということ。ゆとり教育の影響でエリート層ともいうべき「優秀な学生」数そのものが減っているからである。
そして「育てたい」「教えたい」「叱りたい」と思える学生とはすなわち、その会社の社風に合う学生のことだ。仮に体育会系的な雰囲気が強い会社だったらノリの良い子を採用したほうが良いし、「クールで冷静な子が必要」という会社はそのような学生を採用すべきだろう。「優秀だけど育てたくない感じがする」学生よりも、「優秀じゃないけど育てたい感じがする」学生の方が優先順位は上なのである。
そのためには面接官選びを工夫することが必要で、人事の採用担当者ではなく配属予定先の現場責任者が面接することのほうが有効だ。人事の担当者はどうしても客観的な優秀さを判断基準にしがちだからである。
また1次面接、2次面接と複数の面接をする場合には、面接官同士で情報をやりとりして事前期待値を過剰に上乗せしないことも大切である。最終決定者である社長は「優秀だ」という情報を耳にすると、逆にその学生に対する見方が厳しくなってしまうもの。これでは経営者が本当に「育てたい」と考えている学生を見抜けなくなってしまう。
さらに内定を出した瞬間に主導権が学生に移ってしまうことを徹底的に認識することも重要である。だから基本的には、内定通知は入社する固い意思があることを確認したうえで出さなければならない。そして、内定を出すまでの間、言い換えれば徹底的に会社側が主導権を握っている時期に、「この会社に入りたい」という思いを高めさせていくことが大切だ。役員面接などをクリアした後に、最終的な入社の意思を問う「面談」を行うことも有効だろう。
一方、ひとり当たりにかける手間ひまを惜しんで簡単に内定を出してしまうと、「内定辞退」という最悪のケースを招いてしまうことがある。これは採用活動のときの企業側の啓蒙活動が緩いことから生じてしまう事態である。これを避けるための具体例についていくつか説明しよう。
まず、内定承諾書を郵送ではなく直接持ってきてもらうとよい。「わざわざ持ってきてくれてありがとう。せっかくだから案内するね」といって簡単な社内見学を行い、営業部長や総務部長、専務など一通り幹部にあいさつを済ませる。そして最後に社長室に入り、「おめでとう」の一声とともに名前入りの名刺入れを手渡すという仕掛けだ。
また、内定者と合宿を行い関係性を深めるという手もある。これには非日常的な時間を利用して社員と内定者の溝を一気に埋められるという利点がある。合宿とまではいかないまでも、研修をうまく利用するのも効果的だろう。たとえば10月と2月に内定者研修を実施し、入社直後の4月に行う新人研修に関連づけることで、内定者自身に成長を実感させるようなプログラムを組むという作戦である。
このように、ひとりひとりにじっくりと向き合うことで、内定をもらうまでのプロセスとその後に取り組むべき課題が学生にとって明確になる。ひとは苦労して手に入れたものほど手放したくないものだ。そして会社側も「君がほしい」という素直なメッセージを繰り返し伝えることが効果的である。
(インタビュー・構成/本誌・植松啓介)