高度成長期、公害訴訟が頻発した時代に誕生した環境測定分析のサンキョウ―エンビックス。“公害”という言葉が死語になりつつあるなか、高い技術力でしぶとく生き残ってきた。いま、同社は有松修一社長(54)のもと、新たな飛躍のステージを模索しつつある。

高い技術力を武器に環境コンサルティング業へ

サンキョウ-エンビックス:有松社長(中央)

サンキョウ-エンビックス:有松社長(中央)

――環境測定分析が主業務とのことですが、具体的には?

有松 煤煙測定や水質分析、悪臭や有害ガスといった大気の測定など、いわゆる「公害測定」が主な仕事です。公害の排出施設は法律によって定期的な測定が義務づけられてますからね。顧客は近隣の水島工業地帯の工場が多く、あとは官公庁などからの調査依頼もあります。

――専門性の高い業務ですね。

有松 当社はそもそも、1970年のいわゆる「公害国会」による規制強化の流れのなか、2年後の1972年に設立されました。企業がさまざまな規制をクリアするために“公害を測る”専門家集団が必要とされたのです。しかし、近年、排煙にしろ廃水にしろどんどんクリーンになり、また、燃料も重油からガスや電気へと転換してきており、われわれのビジネスにとっては厳しい時代に入っています。

――逆風のなか、生き残ってきた強みは?

有松 やはり技術力でしょうか。たとえば当社では、ISO9001のみならず、ISO/IEC17025の認定を受けています。これは、水・土壌などの重金属分析や煤煙測定・分析の分野で、特定の試験方法を実施する技術的な能力を国際的に認定するもので、全国でも取得しているところは少ないと思います。
 それから、県内の同業者は大手メーカーの関連会社がほとんどですが、当社は唯一の独立系。その分、顧客が幅広く機動力があり、細かな仕事も面倒がらずに請け負うことができるのも強みなのかもしれません。ただ、これらの強みも厳しい逆風のなかでは限界があるので、いま、新たな分野への進出を模索しているところです。

――新たな分野とは。

有松 当社は、平成16年に社屋を移転し、「サンキョウ公害技術センター」という名称から現在の社名に変えました。「公害」というのは後ろ向きの言葉だし古いと……。そして、もっと「環境」に積極的にコミットしていくような業態、つまり「環境コンサルティング」業への転換を志したわけです。たとえば工場の生産プロセスを見直してCO2の排出を減らしたとします。すると、それはそのままコストダウンにつながる。そのような、トータルで企業のプラスになるような環境経営を提案していくビジネスですね。

――具体的には。

有松 先日、「カーボンフットプリント(CFP)マーク」を取得された企業のコンサルティングをさせていただきました。CFPとは、商品・サービスのライフサイクルの各過程で排出された「温室効果ガスの量」を合算した結果、得られた全体の量をCO2量に換算して表示すること。これが商品に表示されれば消費者の選択肢のひとつになります。それから、マテリアルフローコスト(MFCA)会計の導入支援にも取り組んでいます。これは、廃棄処理やリサイクルされる材料にかかったコストを明らかにし、コスト削減の見地から省エネを考える会計手法です。
 CFPもMFCAもいままで見えなかったものを数値化する作業であり、驚くほど無駄が見えてくると好評でした。無駄が見えて削減コストが数値化できれば、そこに投資もできるようになる。両者とも、環境と企業活動を両立させるとても有効な手法だと思います。

スピーディな月次決算が経営者の安心感を呼ぶ

――本社移転、社名変更のすぐ後にあおば税理士法人(平本久雄税理士)に顧問をお願いされたとか。

有松 このときにはとにかく何もかも一気に変えようということで、以前の税理士先生にやや不満だったこともあり、岡山県中小企業家同友会で顔見知りだった平本さんにお願いしました。当社の業務は見えないものを数字化すること。社員も理系が多く数字化して見せてあげることで理解度が増します。財務もまさにそうで、正確で信頼できる数字が絶対に必要だと考えていました。

――結果はいかがでしたか。

有松 期待通り数字がびしっと出るし、お願いした資料はすべて用意していただける。なにより以前とはスピードが違います。『FX2』の導入と平本さんの「月次決算は翌月1週間以内」という指導のおかげで遅くとも翌月10日以内には前月の数字が確定できるようになった。財務や経営戦略面でさまざまな相談に乗っていただけるのも有り難いし、全体的に経営に安心感が出たと思います。

――『FX2』の活用方法は?

有松 木下(和枝主任)によって日次で入力が行われているので、10日前後の巡回監査の数日前にはすでに大体の数字が出ている状態です。とくに注視するのは、《変動損益計算書》のなかの各勘定科目の前年比、予算比の数字。異常値があれば、ドリルダウン機能で伝票レベルにまでさかのぼり原因を追究します。また、毎月第3土曜日に行われる幹部会議では、過去4年分の実績数字を切り出し、表にして各人に配っていますが、これも経営の舵取りの重要な資料となっています。

平本 数カ月前には、ドットネット(.NET)版にバージョンアップされ、社長さんのパソコンで《社長メニュー》を開けるようになりました。常に会社の現状を把握できる安心感は大きいのではないでしょうか。

有松 決算書が正確であることを第三者であるTKCによって証明していただく「記帳適時性証明書」も金融機関への信頼性獲得という意味でとても有効だと思います。

――部門別管理は?

木下 現在、売上高は一本ですが、経費は環境経営支援室、調査課、分析課、経理課という4つの部門に分けて管理しています。

有松 今年から部門ごとに原価計算を行わせるなど、課単位で財務管理をしていく体制づくりをはじめています。近い将来、『FX2』の部門別管理機能を使って各課で損益計算書をつくり業績管理する体制に持って行きたいと考えています。

――予算はどんな形でつくられていますか。

有松 当社の売り上げの6割はリピートなのであとの4割に目標額を加算して売上高を確定します。そして前年実績から経費を算定し、安全率を加味しながら、予算に落とし込みます。その際に基本的には各部署に数字を上げさせるボトムアップのスタイルをとっています。

詳細な経営指針書の作成で全社のベクトルを合わせる

――ところで、有松社長が就任当初は、社内の雰囲気もいまとは随分違っていたそうですね。

有松 はい。仕事がきついこともあって、人がすぐに辞めていく職場でした。会社の雰囲気も良くなかったと思います。そんな状況を打破するために社員とともに「どんな会社にしたいのか」のテーマでCIに取り組み、会社としての目指す姿を描きつつ、それを実現する取り組みを始めてから会社が変わってきました。

――50ページにも上る経営指針書はすごいですね。

有松 毎年、経営指針の発表会をしていますが、当初はなかなか実行できず成果も出ていませんでした。顧客満足度調査も毎年実施していましたが、これも結果は頭打ち。また以前、顧客満足と社員満足のつながりについて学んだことがあり、社員満足度について『TKC企業風土診断システム』を使って調査をしていただきました。案の定、低い点数でした。

――どうされましたか。

有松 その調査結果を社員に発表し、経営者としての反省の弁を述べると同時に「働きやすい環境を今後つくっていく」約束をしました。これを受けて、社員だけで話し合いをするとのことで、何か嫌な予感がして不安でしたが、しばらくして出てきたのは模造紙いっぱいに書き込んであるレポート。「会社をよくするために何をするか」が書かれていて、これには感動しました。
 以来、ワークライフバランスの取り組みも進めながら、社員研修も充実させていき、経営指針書の実効性も上がってきました。

――今後、どういう会社にしていきたいですか。

有松 社員とともにつくった6分類38項目からなる「サンキョウ―エンビックスの目指す姿」をぜひ実現させたいと思っています。まだまだ道半ばですが、実現を目指して社員とともに頑張ります。

(本誌・高根文隆)

会社概要
名称 サンキョウ-エンビックス
業種 作業環境測定等
代表者 有松修一
設立 1972(昭和47)年2月
所在地 岡山県岡山市南区米倉66-2
TEL 086-242-1035
売上高 2億5000万円
社員数 29名(パート含む)
URL http://www.sankyo-ltd.co.jp/

CONSULTANT´S EYE
ともに成長していけるワクワクする会社
監査担当 中原明彦
あおば税理士法人
岡山県岡山市北区田中105-108 電話086-245-5110
URL:http://www.aoba2003.com/

 もともと所有と経営の分離した同社で、前社長の急逝により、いきなり社長に就任されたのが有松社長です。当時はすさんだ企業風土でしたが、粘り強く社員さん達に話をし、話を聴き、経営指針(理念・方針・計画)に基づいて全社員が自主的にイキイキと働く会社へと改革されました。

 その過程で、顧客満足(CS)の向上にも取り組まれましたが、壁に当たり、「社員満足(ES)向上なくして、もう一段のCS向上はない」とのお考えに至りました。そこで当時担当の末道税理士が提案したのが、『継続MAS』による企業風土調査です。

 しかし当時はまだ改革の途上で、点数は思いのほか低く、社長さんも社員さんも厳しい現実に直面しました。

 ところが、そこから社員さん達が変わったのです。「社員だけで話をさせて下さい」との申し出で始まった会議が終わり、ハラハラしながら待っていた社長さんに手渡されたのは、「よい会社にしよう」というプラスの言葉満載の模造紙でした。

 こういう会社ですから、経理はガラス張りで、関与当初から『FX2』をご活用いただいています。毎月の監査でも訂正はほとんどありません。

 経理担当の木下主任さんからは、監査対象月ではなく訪問月の出来ごとの会計処理のご質問が出ます。社長さんは、私が説明をする前から業績の概要を把握されていて、「もう一段の気づきを」と気持ちがあせり、とてもいい冷や汗をかきます。

 税理士法第33条の2の書面も、自信を持って書いています。平成21年には、私どもの事務所経由で、「申告是認通知」とも言える「意見聴取結果のお知らせ」を受け取りました。

 会計・税務面でのご支援を通じて、ともに成長していける、ワクワクするお客様です。

掲載:『戦略経営者』2011年12月号