「TKCシステムを使い始めてから業績が好転しました」と語るのは、富士興油の石川裕章社長(35)だ。具体的には8年前に『戦略販売・購買情報システム(SX2)』と『戦略財務情報システム(FX2)』を導入して黒字路線を築いているということだが、その活用法について石川社長と石川君子取締役、顧問の松村志ず枝税理士、監査担当の権田俊枝公認会計士・税理士に聞いた。

栃木県佐野市を地盤に「潤滑油」を主力に販売

富士興油:石井社長(左)

富士興油:石井社長(左)

――自動車用潤滑油(エンジンオイル、ギアオイル、農業機械用エンジンオイル等)や工業用潤滑油(油圧作動オイル等)などの卸・製造販売をされているそうですね。

石川社長 はい。「卸」とは出光興産、昭和シェル石油、コスモ石油などの石油元売り会社が製造したエンジンオイルなどを仕入れて取引先に販売するというもので、「製造販売」とは自社商品を取引先に販売するケースを指します。昔は石油元売り会社からベースオイルを仕入れ、それに添加剤を加えて、自社で潤滑油を生産していたこともありましたが、今はオイル専業メーカーに委託し、OEM供給してもらっています。

――主な販売エリアは。

石川社長 地元の栃木県佐野市、群馬県、茨城県、埼玉県など北関東を主な販売エリアとしており、そのエリア内のガソリンスタンド、自動車整備工場、農機具販売店の3つを主要取引先にしています。購入パターンはお客さまによって千差万別ですが、例えばエンジンオイル(20リットル入り缶)を年に数回購入される方もいれば、毎月ドラム缶(200リットル)で1本はエンジンオイル、1本はギアオイルを購入される方もいます。現在の取引先数は約700社です。2011年7月期の売上高は前期に比べて6.3%増の1億6800万円で、卸と自社商品の売上比率は約5対5ですね。

得意先ごとにどの商品がどれだけ売れているかをつかむ

――TKCの『SX2』と『FX2』を導入・活用されていると聞いています。

石川社長 03年秋ごろ、初代(石川紹司会長)が交通事故を起こしたことで、いや応なしに私が(社長を)やらなければならない立場に立たされました。当時、入社してまだ2年目で、経営のことについて詳しく知らなかった上に、実は会社自体も厳しい状況に置かれていました。そこでこの厳しい状況を打開するためには何よりも正確かつ迅速に業績を把握できる仕組みづくりが重要と考え、そういうことを相談、指導できる人を探していたとき、金融機関に勤めていた知り合いから松村志ず枝税理士を紹介してもらったのです。

石川君子取締役 そのときに『SX2』と『FX2』をすすめられて、同時に導入しました。『SX2』は(息子の)社長が、『FX2』は私が担当して活用しています。その際、巡回監査担当の権田俊枝先生から、日々の取引のもととなった証憑書類(領収書・請求書等)の整理・保管の仕方やシステムの使い方などについて詳しく教わりました。

権田俊枝公認会計士・税理士 売り上げと仕入れ(変動費)については石川社長が『SX2』で毎日管理していて、そのデータを月末に一括して『FX2』に入力します。一方、人件費や運送費などの固定費については、取引が発生するたびに、お母様が『FX2』に入力して管理しています。これによって、現在では毎月5日前後には前月の試算表が出来上がる態勢になっています。

――当時は資金繰りも厳しかったのではないですか。

石川社長 借入金も相当膨らんでいて月商の10カ月分くらいありましたし、支払手形も数千万円にのぼっていました。その上、初代が事故を起こしてからは、新規借り入れが難しくなりました。

松村志ず枝税理士 そこで私どもが提案させていただいたのが、1つは営業社員ごとに粗利益をつかみ、そこから燃料代や各営業社員の人件費を差し引いたら会社にいくら利益が残るのかを把握したらどうですかということ。2つ目は受取手形を今後徐々に減らすとともに、その回収率も早めるようにするということでした。そのための業績管理ツールとして、「最適なのが『SX2』と『FX2』です」と申し上げたわけです。

石川社長 受取手形に関しては松村先生のアドバイス通りに行う一方、売掛金に関しては回収サイトを従来の約60日から30日以内にしていただいたことです。要は商品を売って入ってきたお金で、会社が回るような仕組みに変えていったということです。そこで、売り上げと仕入れの管理を徹底化させるために、松村先生がおっしゃったように『SX2』で営業担当者ごとに管理する仕組みに改めました。現在、営業社員は2名(A氏、B氏)しかいないのですが、毎日彼らには営業日報を書いてもらい、それをチェックした上で『SX2』にデータ入力しています。

――A氏、B氏はそれぞれ訪問する地域・得意先が決まっているわけですか。

石川社長 そうです。例えばA氏は栃木県、B氏は埼玉県などで、1日約20社を回ります。そうすると、栃木県では今、どんな商品がよく売れているのか、逆に注文が入らなくなった商品は何かがわかります。
 さらに1年に1回(期首)必ずお客さまごとにどの商品がどれだけ購入され、粗利益はどれくらいあったのかを調べます。その結果、粗利益が年間1万円以下のところは、定期訪問をやめることにしています。どの会社も顧客分析を行って似たようなことをされているかと思いますが、粗利益が1万円以下ではコスト倒れになってしまいますからね。

――11年7月期の売上高は前期に比べて6.3%増とのことですが、それは『SX2』と『FX2』を使ったことによる“成果”とみてよいのですか。

石川社長 はい。当社の得意先であるガソリンスタンド、自動車整備工場、農機具販売店にはいろんな業者が出入りしているわけですが、例えば『SX2』のデータなどからC得意先がギアオイルは他社から、エンジンオイルは当社から購入していたことがわかったとします。もちろん他社が扱うナショナルブランドに比べて自社商品は知名度は落ちますが、半面、価格は安い。そこを営業マンが突くことで、それまで他社のギアオイルを使っていたのを、当社商品に切り替えてもらうようにするわけです。簡単にいえば「客単価を上げる」ということを行うわけですが、それを年間数十社行えばその分増収がはかられ、同時に粗利益率も高まります。一般に自社商品のほうが、ナショナルブランドより粗利益率は高いですからね。

自社便と外部の運送会社を使い分ける理由

――『FX2』では、どんな帳表をよくみているのですか。

石川社長 《科目残高一覧表》です。とくに注視しているのは、車両関係の経費と運送費です。車両関係とは営業車(ライトバン)にかかるガソリン代や高速料金のことです。

――営業社員が取引先を回っているときに商品も納品されるのですか。

石川社長 基本的にはそうです。営業社員が受注商品の配達も兼ねているのですが、コストとの関係で自社便で行う場合もあれば、外部の運送会社を使う場合もあります。例えば「明日は栃木県内のお客さま20社に、エンジンオイルなどのドラム缶を20本運ぶ」というような場合は自社便で行いますが、「明日急ぎで埼玉県内のお客さま1社にドラム缶1本を配送する」というような場合は運送会社を利用したほうがいいわけです。実は、以前は“無条件”ですべて送っていました。つまり、お客さまから「急ぎで明日持ってきてほしい」といわれ、当社が運送会社を利用して納品した場合でも、そのコストは当社が負担していたということです。しかし、今はそれを「明日お届けする場合は運送代を請求させていただきますが、明後日であれば自社便で配達できるので運送代はかかりません」と、お客さまのほうで選択できるようにしています。

石川取締役 要するに売り上げが増えても、経費(運送費)が膨らめば意味がないことを、毎月《科目残高一覧表》をみていくうちに学んでいったということです。

――今期の売上目標は……。

石川社長 年商2億円の達成を目指しています。そのためには自社営業を強化する一方、ネット販売にも力を入れていくことにしています。ネット販売は数年前にホームページを立ち上げて始めたのですが、それをみて当社の販売代理店になりたいと申し出る方が現れ、現在では4人にやってもらっています。当然、この4人に対しても『SX2』で業績管理していますが、「前入金」をルールにしています。代金を先に振り込んでもらってから商品を発送しているわけですが、これも資金繰り対策の一環として始めたのです。

――代理店の方も、ネットを使って販売しているのですか。

石川社長 そうみたいですね。販売代理店のなかには月に100万円以上を売り上げる方もいるのですが、代理店ごとに提供する商品は変えています。例えばDさんにはこのナショナルブランドのエンジンオイル、Eさんには別なナショナルブランドの商品という具合にしています。でないと、競合してしまうからです。
 いずれにしろ、『SX2』と『FX2』をうまく使って、お客さまのニーズを的確につかみ、今後も業績を伸ばし続けていきたいと考えています。

(本誌・岩崎敏夫)

会社概要
名称 株式会社富士興油
業種 潤滑油の卸・製造販売業
代表者 石川裕章
設立 1970(昭和45)年12月
所在地 栃木県佐野市免鳥町342-1
TEL 0283-22-4637
売上高 約1億6800万円
社員数 5名
URL http://www.fuji-koyu.com/
顧問税理士 松村志ず枝
松村税務会計事務所
群馬県太田市新井町523-1
0276-45-2936
URL:http://www.tkcnf.com/matsumura/

掲載:『戦略経営者』2011年12月号