年末を迎えたこの時期は何かと物入りが多く、「資金」が必要になる――。東日本大震災や急激な円高の影響などによって、資金繰りが厳しくなっているところも多いはず。そこで、この時期に比較的容易に融資が受けられる方法について経営コンサルタントの久保田博三氏に聞いた。
Q1 最近の中小企業の資金繰り状況について、教えてください。
A まず信用金庫・国内銀行(都市銀行・地方銀行等)における中小企業向けの貸出金がここ数年どのような状況にあるのかを見てみると、図表1(『戦略経営者』2011年12月号23頁参照)のようにおしなべて低下の一途をたどっています。ただし、直近の中小企業の資金繰りDIに関していえば、▲5.2から▲1.8へとマイナス幅は縮小しています[図表2・同参照/日本政策金融公庫『中小企業景況調査』(11年9月調査)]。
通常、売り上げや仕入れは発生した時点で計上されますが、売上代金の回収は数カ月後になるため、入金と出金のタイミングが合わなくなることがあります。ここにきて中小企業の資金繰りが好転してきたというのは、このギャップがやや解消されつつあるということでしょう。その背景には、全体的に業況判断がよくなっていることがあります。とくに地域別では、東北地方の業況判断DIが著しく改善されています。具体的には、今期[11年7―9月期/日本政策金融公庫『全国中小企業動向調査結果』(小企業編)]の東北地方のDIは▲20.3(全国▲42.7)となり、前期(11年4―6月期▲34.0)に比べて13.7ポイントも縮小しています。これは「復興需要」が出てきたことによるものとみられます。
とはいえ、この時期(年末)になると、どの会社も賞与資金や越年資金などの季節的(イレギュラー)な資金需要が発生するため、通常よりキャッシュポジションを高めておくことが求められます。
Q2 そのためには売掛金の回収管理や買掛金の支払管理などをきっちり行わなければなりませんが、一方で、もし資金不足に陥りそうになった場合、どんな調達法がありますか。
A 一般に企業の必要運転資金量は「売上債権+棚卸し資産-買い入れ債務」で求められますが、そのための資金調達法には3つあります。1つは銀行借り入れなどの「デットファイナンス」、2つ目は新株を発行して資金を調達する「エクイティファイナンス」、3番目はその企業が保有する資産を利用して行う「アセットファイナンス」です。このなかで最もオーソドックスな手法は、いうまでなくデットファイナンスですが、最近、注目を集めているのがアセットファインナンスです。
アセットファイナンスには、(1)セール・アンド・リースバック[所有する物件(例えば本社ビル等)を貸し手に売却し、その貸し手から当該物件のリースを受ける]、(2)ファクタリング(企業が売掛債権をファクタリング会社に売却し、ファクタリング会社がその企業に代わって売掛債権を回収する)、(3)動産担保融資(商品在庫や売掛債権、生産設備などを担保にして借り入れる制度)――などがあります。なかでも(3)の動産担保融資を利用するケースがここにきて急増しているわけですが、そのきっかけは05年10月に「動産譲渡登記制度」が施行されたことです。これによって、金融機関は公的な文書である登記簿で担保権(借り手の企業が担保として提供した動産)を主張できるようになりました。
もっとも、ファクタリングや動産担保融資などは有効な資金調達法といえますが、実行に移すまでにある程度時間がかかります。
緊急時に融資が受けられる方法
Q3 それでは、中小企業が緊急時に融資が受けられる方法を教えてください。
A その方法はいくつかありますが、1つは「セーフティネット保証」を利用することです。このセーフティネット保証とは、従来の信用保証枠とは別枠で、(1)無担保保証8000万円(2)普通保証2億円が受けられるというものです。その対象となる事由は、「連鎖倒産防止(1号)」や「業況の悪化している業種(5号)」など、8つありますが、東日本大震災及び急激な円高の影響を踏まえ、今年度下半期に関しても、「5号」の対象業種を原則全業種(82業種)としています。
しかし、ここで注意しなければならないのは、(1)資金を借り入れる理由(資金使途)とその効果(2)その返済財源の捻出法(借りたお金を返す方法)を明確にした上で金融機関に申し込むということです。今の金融機関担当者は返済見込みのある事業者でなければ、融資しない色彩を強めているからです。単に「困っているから融資して助ける」というスタンスでは決してありません。
2つ目は「借換保証」の利用です。これは既存の保証付き融資を一本化して、新たな保証付き融資に借り換えるというものです。例えば100万円、200万円、300万円の計3口600万円の借入金残高があり、それぞれ毎月30万円、20万円、50万円を返済していたとします。このとき「真水(新規融資)を400万円入れて1000万円の残高とし、その1000万円を20万円ずつの50回返済にしてもらう」というような手法をいいます。新規で400万円を調達できる上に、毎月の返済金額も100万円から20万円に引き下げることができます。これは、年末の資金需要を手当てする上でベターな手法といえるでしょう。
Q4 金融機関に「条件変更」(リスケ)してもらって資金繰りをよくするという方法は……。
A あり得えます。条件変更とは、例えば短期借入金の返済期日が本当は12月5日だったのを1月5日まで待ってもらうとか、業況が悪化したことで毎月の返済額500万円を300万円に減額してもらうといったことを指しますが、今、金融機関にリスケを申請すれば以前に比べて積極的に対応してくれるはずです。09年12月に施行された「中小企業金融円滑化法」に基づいて行えば、「その債権は(条件変更を実施した日から1年以内に経営計画改善書を作成・提出すれば)貸出条件緩和債権に当たらない」としているからです。
実際、同法に基づきこれまでに中小企業が返済条件の変更を金融機関に申請した件数は200万件を超えることから、これも資金繰りを楽にするための有力な手法といえるでしょう。しかし、例えば「売掛金の回収が1カ月遅れてしまうので、その間返済を待ってほしい」といった程度のケースなら、何も大上段(金融円滑化法の利用)に構えなくても金融機関との話し合いでできるのではないかと思います。
いずれにしても、今の金融機関はどこも「格付け審査」をベースに取引先の与信枠を決めていることから地道に財務内容を高めていくことが資金調達の王道といえます。
(インタビュー・構成/本誌・岩崎敏夫)