寝具やリネンサプライなどのリース事業を主業務とする丸屋。最近では、5年前に新規参入した福祉用具レンタル事業が好調で右肩上がりを続けている。同社を束ねる3代目の原康一社長(50)と家迫崇史常務取締役に、その経営戦略と計数管理重視の思考法について聞いた。

福祉施設にアプローチし売り上げ増を勝ち取る

丸屋:原康一社長(中央)

丸屋:原康一社長(中央)

――ここ4、5年、右肩上がりの成長を続けておられますね。理由は?

 5年前に新規参入した福祉用具レンタル事業が好調で、全社的なけん引力になっているからです。この事業はここのところ、前年対比で30%増の成長を続けています。

――どんな福祉用具を扱われているのですか。

 介護用ベッドをはじめ車椅子、ポータブルトイレなどのレンタル。あるいは、手すり設置や床段差の解消など、ちょっとした住宅改修も手がけています。

――創業事業は寝具のレンタル・リースだとのことですが。

 いまでもリース事業は、リネンサプライなども含め、全体の65%を占めています。そもそも当社は、創業者である祖父が寝具50セットを用意して、リヤカーを引っ張りながら旅館を中心に貸し歩いたのがスタートです。旅館以外では学校や企業など各種法人の合宿の際のレンタル需要に主に対応しながら生き残ってきました。

――いまはどうでしょう。

 ご承知の通りビジネスホテルやカプセルホテルといった廉価な宿泊施設が台頭し、その分、短期レンタルから長期的なリース需要にシフトしてきています。会社の研修施設や福利厚生施設、学生寮、福祉施設などに寝具や備品、リネンサプライを提供し、トータルにメンテナンスしていく形ですね。なかでも介護老人福祉施設との取引は非常に増えています。

――それが、福祉用具レンタル事業の成長を支えている?

 そういう部分もあります。われわれは寝具の床回りはもちろん、前述した介護用ベッド、車いす、おむつなども扱っており、私物のクリーニングも請け負います。さらに、施設スタッフの方々の白衣やユニフォームもご用意できる。最近では、マットレス洗浄という新規分野も立ち上げました。つまり、介護老人福祉施設のオペレーションを多彩な面からサポートできる。ここが最大の強みだと思っています。

――多角化ですね。

 はい。われわれは自らを「快適生活支援業」と位置づけ、事業領域を広げることで、お客さまのニーズにお応えしてきました。

――競合も厳しいと思いますが、差別化のポイントは?

 北九州、福岡、鹿児島支店を持ち、協力業者様もネットワークしていますから、九州全域を網羅できます。これは地場業者としては九州で唯一ではないでしょうか。それから、商品とメンテナンスの質には自信があります。たとえば、寝具の柄ひとつをとっても、多彩な品ぞろえを用意してお客さまの要望に沿うように努力しています。近年は、価格競争が激しくなり、他社と同じではなかなか受注がとれません。当社の「顧客とともにつくりあげていく」姿勢を今後も武器にしていきたいですね。

――人材面では?

 25名の配送スタッフについては“セールスドライバー”と位置づけて、顧客対応へのスキル向上を促しています。お客さまの要望を細かく吸い上げて報告し、解決策を実践していく……そんな緻密な動きができれば、自然と新規の注文もとれるようになります。手前みそになりますが、お客さまからも、当社のスタッフへのお褒めの言葉をよくいただきます。ここも他社とは違うところではないでしょうか。

部門別の損益管理で失敗事業からすばやく撤退

――『FX2』は平成11年に導入されています。

 ちょうど、専務から社長に就任したばかりのころです。会社の状況も最悪で、財務諸表を精査してみると、潰れないのがおかしいほどの数字が並んでいました。“これじゃあいかん”とある人に三浦祐亀先生の事務所をご紹介いただき、同時に『FX2』導入を決断しました。ちなみに、現在はピア・ツー・ピアを利用し、私、専務、常務の3人が『社長メニュー』を利用できるようになっています。

――導入当初はいかがでしたか。

 まず踏み切ったのが、財務の透明化でした。『FX2』で導き出した数値を営業会議でさらけ出したのです。しかし、実際にやってみると役員の給料や接待交際費ばかり注目されました。「役員の給料を減らしてもっとこっちによこせ」などという発言さえありました。

家迫崇史常務取締役 当時は私も入社したばかりで『FX2』のデータをもとにして社長が経営計画をつくり、期末の7月にはホテルで大々的に発表会をやるわけです。回りは「こんなことやめたら良いのに」という感じでした。ところが、社長が諦めずに継続する姿を見て次第に真剣に計数管理にコミットし、よりよい計画をつくろうという機運が出てきた。「継続は力なり」だと思いました。

――どのような部門に分けて管理されていますか。

家迫 本社、福岡支店(リース・福祉用具)、北九州支店(リース・福祉用具)、鹿児島支店、ECの計7部門で管理しています。毎月8日あたりには部門別の《変動損益計算書》をほぼ確定させ、当日の営業会議の資料にしています。

――8日とは早いですね。

家迫 仕入先様や協力会社様に電話をかけて無理やり請求書の数字を教えてもらったりと苦労はありますが、その分、迅速な経営判断に役立っていると思います。

――具体的には?

家迫 たとえば、売り上げが上がってないのに外注費が増加していたり、ガソリン消費や高速の使い方の巧拙で車両費が跳ね上がったりします。『FX2』は、伝票レベルまでドリルダウンして確認できるので、それらの原因はすぐに調べがつく。なので、営業会議の場で、幹部たちに打ち手を指示することができるわけです。

 営業会議の翌日に行うのが経営会議で、これは私はじめ役員など5名が出席します。ここでは、主に《予算実績比較表》を用いて業績の検討をしています。

――ほかにはどのような活用法を?

 新規事業の取捨選択に役立てています。実は、このところ新規事業は2勝2敗なんです(笑)。福祉用具レンタルとマットレス洗浄事業は大成功でしたが、飲食業と掃除業にも進出してこちらは見事に失敗(笑)。でも『FX2』で部門別損益管理ができていたおかげで、傷口を広げることなく速やかに撤退することができました。

家迫 事業別に損益分岐点や必要な売り上げ、利益が分かりますから的確に判断できます。部門別管理をやっていなかったら「会社全体で儲かってるんだからいいんじゃないの」といまだに続けていたのではないでしょうか。

全スタッフの目標を設定しPDCAを積み重ねる

――「経営計画」は非常に緻密につくられているようですね。

 当社の経営計画書には、会社、部門としての細かい目標損益はもちろん、その目標を達成するための部門長の数値・行動目標。さらには、全スタッフ45名の目標まで盛り込まれています。最初は全部私がつくっていましたが、いまでは、ボトムアップで数字を積み上げ、各人の目標もそれぞれが上司と話し合いながら設定するようになりました。

家迫 たとえば、当社のセールスドライバーは、チラシを何枚配り、何軒に声掛けするかなど数値目標を設定します。さらにそれを毎月上司が面談し進ちょく管理していく。その小さなPDCAの積み重ねが会社を強くしていくのだと思います。また、面談という意味では、パート含む全スタッフが3カ月に1回、原社長と面談します。ここでは業務上知り得た情報、仕事に対する不満、あるいは個人的な夢について話し合われたりもしています。

――今後はいかがでしょう。

 いまの快適生活支援業から今度は“健康生活支援事業”という切り口で、「睡眠」「食事」「運動」をテーマにまったくの新規事業を立ち上げたいと考えています。また、中長期的には、各事業部門でイントレプレナー(企業内起業家)を育て、それぞれを経営者として認めていきたい。もっといえば、当社の次期社長も世襲ではなくもっともふさわしい人間を指名するつもりです。その方が社員のモチベーションも上がるでしょうからね。

(本誌・高根文隆)

会社概要
名称 株式会社丸屋
業種 物品賃貸業
代表者 原 康一
設立 1953(昭和28)年10月
所在地 福岡県春日市昇町3-164
TEL 092-584-1911
売上高 約4億円
社員数 45名(パート含む)
URL http://www.rental-maruya.com/

CONSULTANT´S EYE
全員参加の予算管理をTKCシステムで支援
監査担当 西田 淳
三浦祐亀税理士事務所
福岡県北九州市門司区大里東口3-7 電話093-391-5656
URL:http://www.tkcnf.com/lba/

 平成11年の関与開始時より丸屋様を担当させていただいています。現在52期目、3代目の経営者ということでたいへん歴史のある会社ですが、原社長は常に新たなことに挑戦され、また社員の方々も活気がありとても若々しく感じる会社です。

 関与開始当時、就任直後の原社長は、会社の財務内容がかなり悪化していた時でもあり資金調達など大変苦労されていました。そうした経験から計数管理の意識が非常に高く、正確で迅速な月次決算や、より経営に生かすための部門別管理などに取り組まれてきました。

 全社員、金融機関などの参加で行われる経営計画発表会を毎年開催され、私も参加させて頂いています。当初は社長1人で作成した、悪く言えば独りよがりの経営計画発表会でしたが、現在は社員の方々一人ひとりが目標を発表し、行動計画も具体的に策定されまさに全員参加となっています。

 日々の行動は経営計画達成に向けて管理されており、全員が同じ認識を持つために、財務数値に関してもガラス張りの経営が行われています。会議では社員に対しても財務数値が公開され、毎月検討が行われています。この様な予実対比を行うことで、迅速な意思決定や目標未達時の行動の見直しが可能となっており、全社員が同じ方向を向いて進んでいけるのだと思います。社長をはじめ多くの人が『FX2』からの情報を活用しており、経理担当者にとっても経理業務がやりがいある仕事となり、結果として処理の速度や精度も上がってきました。『FX2』はより必要とされることで活用の度合いも高まるものだと感じます。

 税務申告だけでなく、帳簿を経営に生かすという丸屋様の姿勢は、我々監査担当者にとってもやりがいを感じます。私自身も全員参加の一員となったつもりで、今後ともより経営の役に立つ帳簿にするため支援しつづけていきたいと思います。

掲載:『戦略経営者』2011年11月号