地元の商店街で書店を経営していますが、万引きの被害が多くて困っています。大きな投資を必要としない効果的な万引き対策があれば教えてください。(書店経営)

 書店業界では「万引き倒産」という言葉があるほど万引きの被害は深刻な問題です。他の商品と異なり、新古書店で簡単に換金できるため、そうした目的で万引きする常習犯が増えていることも報道では伝えられています。

 近年では無線ICチップの付いた防犯タグ(ICタグ)を出版時点で書籍に埋め込み、書店で正規に販売された書籍かどうかがわかるシステムの導入に業界全体で取り組んでいます。これによって、万引きされた書籍は買い取ってもらえなくなり、万引き防止に大きな効果を発揮すると考えられています。しかし、個人経営など小規模な書店では、こうした対策に率先して参加できるほどの体力はないでしょうし、業界全体がこのようなシステムに変わるにはまだ時間がかかるでしょう。

 多くの書店であまりコストをかけずに実施できる万引き防止策としては、まず店内のレイアウトを見直し、レジ台や販売什器(書棚)の移動、防犯ミラーの設置などによって、できる限り店内の死角をなくすことが第一です。少し大きな店で、防犯ミラーだけでは店内の隅々まで見通すことが難しい場合は、防犯カメラの設置も検討すべきです。防犯カメラを選択する際には、監視している方向がわかりにくいドーム型カメラを選ぶなどコストだけでなく、機能にも気を配る必要があります。

万引き犯が嫌う店とは

 万引き対策では、捕らえることよりも、発生させない環境づくりが根本的な処方箋です。万引き犯の心理を知り、店内の構造上だけでなく、心理的にも万引きのしにくい店にしなければなりません。

 例えば、店内の死角になりやすい場所にはコミックスやアイドルの写真集など青少年向けの転売しやすい商品を置かないこと。そして、「いらっしゃいませ」あるいは「何かお探しですか?」などの声掛けをしたり、顔見知りのお客さまには「○○の新刊が出ましたよ」と知らせるなど、お客さまとコミュニケーションをはかることもポイントの一つです。

 そもそも、来店されたお客さまに気を配ることは店舗運営の基本ですが、商店街の小規模な書店ではお客さまに「声掛け」すらしないケースが多く見られます。すべてのお客さまと親しくなることはできなくても、お客さまと従業員の間に会話がある店では万引きはしづらいものです。万引き犯は店内が監視されているという状況を何よりも嫌いますから、小規模な店であればなおのこと、来店されたお客さま一人一人に積極的に関心を持つことが大切でしょう。

 また、立ち読みなどに対する店側のスタンスを明確にすることも重要です。例えば「コミックスの立ち読みはさせない」という方針ならば、きちんとシュリンク(ビニール)をかけて、常に監視できるレジ近くに配置するなど、徹底した対応を心がけるべきです。

 万引き犯の多くは、特定の店舗を狙って犯行を行いますから、万引き被害が多いということは「あの店は万引きしやすい」と認識されている可能性があります。

 複数のグループで来店し、仲間の1人が店員の注意を引きつけ、他の実行犯が大量の商品をカバンに詰め込み、さらに別のメンバーに受け渡して逃走するなど、犯行の手口も巧妙になっています。

 断固として万引きは排除するという態度を示すことが被害を抑え、同時に一般のお客さまに対して快適な環境を提供することにもなるのだと思ってください。

掲載:『戦略経営者』2011年11月号