震災以降、飛躍的に注目度合いを増しつつある再生可能エネルギー。そのひとつである木質のバイオマス(再生可能な生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの)を使用したペレットストーブで話題となっているのがさいかい産業だ。山後春信社長(51)に、同社の商品戦略とそれをささえる計数管理について聞いた。
燃費効率を倍に高めた木質ペレットストーブを開発
さいかい産業:山後社長(右)
――創業の経緯は?
山後 とび職だった古川正司(現・取締役開発隊長)が平成16年に独立したのがスタートです。まもなく、彼が地元・角田山の荒廃を見て森林整備の必要性を強く感じたことが、現在の当社の主力製品『木質ペレットストーブ』(『戦略経営者』2011年10月号20頁参照)の開発につながりました。
――「木質ペレット」とは?
山後 製材くずや間伐材を破砕・乾燥し圧縮・成型した燃料のことです。そもそも、日本の森林整備の状況はひどくて、間伐をしても倒木はそのまま放置されるのが一般的です。あまり知られていませんが、それらの倒木が森を荒らし、土砂崩れを引き起こす原因になっているのです。
だったら間伐材や木くずをペレットにして地元の燃料として供給すれば、環境保護にも地域振興にもつながる。ということで、当初はプラントをヨーロッパから購入して木質ペレットの製造を手がけました。しかし、ペレットをつくるのはいいけれど、残念ながらそれを消費する市場がありませんでした。つまり、このビジネスモデルを完結するには、「性能の良い」ペレットストーブが必要だということが分かったんです。なぜなら、燃費の良いストーブの存在があってはじめて、ペレットが灯油や電力に対して競争力を持つことができるからです。
――それで自らペレットストーブを開発されたと。
山後 当時すでにヨーロッパからの輸入品が出回っていましたが、燃費など性能面で問題があり、ペレット製造原価の高い日本では普及が難しかった。そこでわれわれが試行錯誤しながら燃費効率を従来品の倍に高めた「世界一燃費の良い」ペレットストーブを開発したというわけです。ちなみにこの製品を使用すると、現段階で灯油に比べて約20%、エアコン暖房に比べると約30%の燃費節約になります。
――山後社長は新越金網やユニフレーム(アウトドアグッズメーカー)の社長でもあるとか。
山後 はい。私は平成20年に木質ペレット推進協議会という団体の会合で古川と知り合いました。最初は“面白いやつがいるなあ”程度で、自分が手がけるつもりはまったくありませんでしたが、次第に彼の熱意にほだされて、気がついたら社長をやらされていました(笑)。採算性は疑問でしたが、“地域や環境のためになる”ところがこの事業に引きつけられた理由でした。
――震災以降、再生可能エネルギーとして“木質バイオマス”は再注目されています。
山後 追い風は感じています。ただ、ペレットストーブを普及させるには、もっともっと認知度を上げ市場をつくっていく必要がある。そこでわれわれは、可動式の小型ペレット製造プラントを製作し、各地を回りながら地味な啓蒙活動を行っているわけです。これが徐々に実りはじめ、今年度はこれまでの販売数と同数の1000台、年商も3倍増を見込んでいます。
――平成21年には第四銀行からの出資も受けられたそうですね。
山後 地元のトップ地銀が2000万円もの出資を決断されたというのはすごいこと。期待にそぐわぬよう上場目指して頑張りたいですね。
――震災被災地への支援活動も熱心に行われているとか。
山後 震災直後に、40台のペレットストーブを被災地に持って行き使っていただきました。40畳までの暖房能力があるので、公民館など小さめの避難所であれば1台で十分。また、体の芯まで暖まる遠赤外線暖房効果と炎が見えることによる癒し効果などもあって、とても喜んでもらえたと思っています。
いずれにしても、震災以降、日本人のエネルギーに対する考え方は変わりました。たとえば、これまでは住宅リフォームといえば「オール電化」が定番でしたが、最近では「暖房だけはペレットストーブにしようか」などというお客様も増えています。そんな個人のちょっとした意識変化の集積が、大きな社会的変化につながっていくのだと思います。
情報をタイムリーにつかみ早め早めに手を打つ
――山口昇(顧問税理士)先生の関与を受けられたのは?
山後 山口先生が、古川が独立前に在籍していた会社の顧問をされていて、独立後、引き続き顧問をお願いしたという経緯だと聞いています。当社はベンチャー企業的な色合いが強いので、山口先生には決算対策はもちろん、事業計画の策定や資金繰りなどの面で常に頼りにさせていただいています。
――当初から『FX2』を導入されているそうですが。
山後 ストーブは季節商品なので、冬と夏で売上高に大きな変動があります。そのため情報をできるだけ早くつかんで早め早めに手を打つことが必要になります。また、揺籃期の会社なので、まずお金を回すこと、つまり資金繰り管理が非常に重要です。この2つの要素を管理・実践するツールとして『FX2』は最適だと思っています。
――どのような使い方をされていますか。
山口顧問税理士 まず、経理担当の方が《会計日記帳》機能を使って日次で入力されます。月次決算が確定するのは翌月の10日以前。毎月の巡回監査では、『FX2』から打ち出された《変動損益計算書》や《予算実績比較表》などで前年対比、予実対比の数字を見ながら、異常値があれば原因を追求し、今後のお金の使い方を話し合います。ちなみに、《会計日記帳》はノートに記入するような感覚で取引額を打ち込むだけで自動的に仕訳されるので使い勝手がよく、大変喜ばれています。
渋木洋子監査担当 経理担当の方が非常に優秀で、正確な日次入力はもちろん、たとえば、《取引先別管理》機能などを使って売掛金や買掛金の現状が一目で把握できるようなデータ管理が行われています。
山後 決算確定以前においても、請求書ベースで毎日入力させているので、画面を開けばリアルタイムでおおよその業績が分かる。これは経営者にとっては非常にありがたいことだと思います。
――経営計画も緻密にたてられているとか。
山後 手順としては、私の方で月別の販売・収益計画をたて、それを山口会計さんでブラッシュアップしていただきます。
山口 社長にいただいた計画表を『継続MAS』に落とし込んで経営計画書を作成するわけですが、その計画表には売上高、経費はもちろん借入金の状況までが明記されており、その精緻さにはいつも驚かされます。
――気になる固定費は?
山後 開発費でしょうか。当社では標準タイプのものだけでなく、薪兼用タイプや小型タイプなど、用途に応じた新製品も開発してきました。また、現在は集合住宅用の給湯器も開発中です。やはり、ものづくりの会社としては、よりよいものを常に求めていく精神を堅持していきたいという思いがあります。そのため、開発費がついかさんでしまうので注意をするようには心掛けています。
ちなみに現在は、業務の効率化の一環として、製品の製造を新越金網に移管させ、さいかい産業自体は開発と販売に特化しています。
日本の豊富な森林資源を有効活用するために……
――今後はいかがでしょう。
山後 大きな目標としては、この木質ペレットストーブ事業を拡大することで、いまの日本の経済のあり方を変えていくきっかけをつくりたいと思っています。
オーストリアの森林協会の試算によると、人口1万人(4000世帯)の街で石油燃料、ガスボイラでエネルギーをまかなった場合は9名の雇用にしかつながらない一方、木質燃料やバイオマス地域暖房などを利用すれば135名の雇用が生まれると試算しています。つまり、森林エネルギーを利用すれば雇用を生み出し、お金が地域で回るということ。しかも環境にやさしい。実際、同じオーストリアのリネック村では、1世帯に1台は木質ペレットストーブを使用することを義務づけるという取り組みがなされています。
日本は資源小国だと言われ続けてきましたがとんでもありません。日本には山と水と人という資源が豊富にあります。たとえば「山」でいえば世界第3位の森林大国なのです。この莫大な森林エネルギーの潜在力を使えば、いまほど石油や原子力に依存することはなくなります。未来は明るいと思いますよ。当社は、『木質ペレットストーブ』で、その明るい未来への突破口を開きたいと考えています。
(本誌・高根文隆)
名称 | さいかい産業 |
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業種 | 木質バイオマスストーブ製造販売 |
代表者 | 山後春信 |
設立 | 2004(平成16)年5月 |
所在地 | 新潟県新潟市西区みずき野2-12-9 |
TEL | 025-239-1400 |
売上高 | 3億円(平成23年度見込み) |
社員数 | 13名 |
URL | http://www.saikai-sangyo.com/ |
CONSULTANT´S EYE
監査担当 渋木洋子
山口昇税理士事務所
新潟県加茂市旭町15-30 電話0256-52-6869
URL:http://www.yamanobo-zeirishi.jp/
さいかい産業さんに関与させていただいたのは平成18年のこと。木質ペレットの製造販売を開始された年です。創業者の古川正司取締役はとてもいちずな方で、「山を守りたい」「地域の役に立ちたい」との理想を追いかける熱い姿勢に、こちらも感化されていく思いがしました。そして平成21年には新越金網の山後春信社長が代表取締役に就任。ここから、山後-古川の抜群のコンビネーションが発揮されるようになります。
経理部門は当初から『FX2』を導入し、自計化を実践しています。同社の経理担当者は非常に優秀な方で、毎日欠かさず新たな取引を入力されるのはもちろん、売掛金・買掛金の残高を常に取引先別に閲覧できるようデータメンテナンスも完璧に行われています。おかげで、山後社長や古川取締役がリアルタイムの実績を見たいときに即座に閲覧できる状況をつくりあげることができています。
また、山後社長の計数管理能力の高さにも常々関心させられています。単年度予算は毎年、社長自らが月次の売上、粗利、販管費、営業損益などを細かく記した表をつくられ、われわれはそれを『継続MAS』に落とし込むというプロセスでつくられます。また、毎月の巡回監査時には、予実対比の数字をもとに、異常値があれば原因追及を徹底されています。
山後社長は新越金網とユニフレームの代表もつとめる新潟経済界では著名な方です。しかし、おごったところはまったくなく、地に足のついた経営を実践されます。それだけに、この「木質ペレットストーブ」事業の成功は大いに期待できるし、今後も当事務所一丸となって山後社長や古川取締役の夢の実現を精一杯サポートさせていただくつもりです。