競争相手がひしめく自動販売機による飲料販売業界。大阪・神戸エリアを地盤とし、独立系ベンダーとして名をはせるのが金井自動販売だ。同社の金井勝一社長(48)と経理を統括する金井恵治専務(46)は情報の速報性を生かした経営に取り組んでいる。

同業者との提携を進め効率化に成功

金井自動販売:金井社長(右から2番目)

金井自動販売:金井社長(右から2番目)

――自動販売機による飲料の販売を手がけられているとお聞きしています。

社長 企業のオフィスをはじめとして、病院や駅の構内、コインパーキングなどに自販機を設置し、幅広いお客様に対して清涼飲料水の販売を行っています。当社には28名のルートスタッフがおり、各自が倉庫に保管されている150ケースほどの飲料を車に積み込み会社を出発し、30台ほどの自販機をメンテナンスして戻ってくるという仕事です。ひとことでメンテナンスと言っても、商品の補充だけでなく売上金の回収、品ぞろえや賞味期限のチェック、保守点検などさまざまな業務が含まれます。
 昭和27年の創業当時、弊社は「金井鉱泉所」という社名で、びん詰めラムネの製造を行っていました。大阪・神戸間は炭酸水が豊富に湧き出る地域で、昔からサイダーなどの製造が盛んに行われていました。その後、自販機による清涼飲料の販売に参入し、41年にラムネの製造から撤退しました。現在、西宮市の本社から半径35キロ圏内に約3300台の自販機を設置しています。

――取り扱っているメーカーは?

社長 大手飲料メーカー5社を含む12社の商品です。大手メーカーの商品はほとんど網羅していると言っても過言ではありません。全商品数は270種類にのぼります。メーカー横断で豊富な品ぞろえの商品を販売しているので、お客様の多様なニーズにお応えできるのが強みです。売り上げ全体の4割程度を缶コーヒーが占めていますが、ここ何年かは健康志向の高まりもあり、ミネラルウオーターを筆頭にお茶やスポーツドリンクなど、水に近い商品がよく売れています。
 通常、オフィスの中に自販機が複数台設置されている場合、メーカーや当社のようなオペレーターといわれる代理店も複数社介在しています。日ごろの営業活動として、その窓口を一本化しましょうという提案を営業スタッフが行っています。オフィスビルなどのロケーションオーナー様にとって、機械が故障したときなどの連絡先は1カ所に統一されていた方が本来望ましいはずですからね。

――業界内で優位に立つためにどんな戦略をとられていますか。

社長 同業者との提携を積極的に行っています。地域ごとに同業者と協力し、自販機の運営を委託してもらったり、逆に当社から遠方にある自販機の運営をお任せしたりしています。7年ほど前には業界最大手の独立系オペレーターと業務提携をしました。同業者間で協力し合うことで、非常に業務効率が良くなったと感じています。共同仕入れも行っていますが、大手飲料メーカーに対して仕入れ価格を下げてもらう交渉が必要なので、そう簡単にはいきません。そのため同業者と手を組み、交渉力を上げているところです。
 当社の手がけるビジネスを簡単に説明すると、例えば1本の缶コーヒーを80円で仕入れて120円で売る場合、差額が40円になります。その40円をロケーションオーナー様と当社の間で一定割合で配分し、当社の収入分がそのまま粗利になる仕組みです。ロケーションオーナー様と交渉し、当社の収入割合を1パーセントでも増やすことができればいいのですが、競合相手がしのぎを削っているため非常に難しいのが現状です。

専務 またルートスタッフ全員に専用ソフトが入ったスマートフォンを携行させています。おそらく阪神エリアでスマートフォンを使って、自販機と赤外線通信を行っている会社は他にはないと思います。以前はもっと大型のハンディターミナル端末を使って、自販機ごとにかざして売上本数、売り切れ時間などの情報を収集していました。当時は社員が液晶画面の割れた端末を持ち帰ってきたことが何度あったことか……(笑)。スマートフォンに変えてからはそのような事故はないので、修理代の削減につながりました。無線LAN機能で会社のパソコンに簡単にデータをアップロードできるのもメリットです。導入費用はかかりましたが、間違いなく効率化とコストダウンを図ることができたと感じています。

《利益管理表》を通じて販管費の前年比に着目

――戦略財務情報システム(『FX3』)を利用されているそうですね。

社長 ええ。以前は母が手書きで帳簿をつけていて、当時の顧問税理士さんにその帳簿類を全てあずけてしまっていました。毎月、試算表を作成してもらっていましたが、数カ月後にやっと送ってもらえるような状態で、会社の業績がまったくわかりませんでした。知り合いの経営者に相談したところ、『FX3』で伝票入力するとリアルタイムで業績がわかり、しかも金融機関からの評価も高いということを教えてもらったのです。その後社内で検討し、平成15年に導入しました。藤原(覚顧問税理士)先生とは地元の商工会議所の会合でよく顔をあわせていて、会社経営について色々と相談にのっていただいていました。お若く、優秀な先生で弊社のよきパートナーです。

――『FX2』ではなく『FX3』を選ばれた理由は?

社長 当時、経理責任者を務めていた私の叔父がパソコンやシステムに詳しく、『FX3』であれば今後営業所を出すさい、本社以外からでも入力できると勧められました。

専務 日々の伝票入力は経理担当者が行っており、一部の大口仕入取引は私が入力をしています。叔父から経理業務の引き継ぎをわずか2時間足らずで受けたので、未払金や未払費用など科目の意味するところが最初はつかめませんでした。利用開始当初は藤原先生に色々と助けてもらいました。

藤原覚顧問税理士 当時の経理業務の流れは、手書きで伝票を作成してから『FX3』に入力されていたので、専務に相当な負担がかかっていました。仕訳枚数が月間650枚ほどありますから。そこで伝票をわざわざ作らずに、証憑書類から直接システムに入力する運用方法をご提案しました。少しは業務の改善に役立てていただけたのかなと思っています。

――どのような科目を重点的にチェックされていますか。

社長 人件費、車両経費などの販売管理費です。構成比でみると、人件費が全体の約12%、車両経費が約2パーセントを占めているので、利益額に照らして社員数、車両台数が適正かどうかを常に考えています。売上高が増えたからといって、やみくもに社員を採用したり、車両を買い替えたりすると販管費がたちまち増加して、赤字になってしまいます。販管費をいかに粗利の範囲内に抑えるかが重要なのです。

――自計化をされて効果のほどはいかかでしょうか。

社長 41番の「全社業績の問合せ」メニューから印刷した《利益管理表》で、売上高や販管費などの前年比の数字を確認しています。金融機関の担当者と話をするときに、必要な帳表類をシステムで印刷することができ、画面上ですぐに最新の業績がわかるので非常にありがたいです。金融機関からの反応も以前より良くなったような気がします。

専務 ロケーションオーナー様に毎月1000件近くにのぼる販売手数料をインターネット経由でお振り込みしています。同一の取引を『FX3』、業務システム、インターネットバンキングそれぞれに入力し手間がかかっているため、今後効率化を図ることができればと思っています。

藤原 社長が非常にわかりやすい資金繰り表を独自に作成されています。時期をみて『FX3』の資金繰り機能も活用していきましょうとお話ししているところです。

緻密な資金計画が安定経営を支える

――オリジナルの資金繰り表はどのように活用されていますか。

社長 飲料販売業界は“景気より天気”といわれ、天候が売り上げを大きく左右します。天気に加えて気温も売り上げに影響を及ぼします。例えば最高気温が32度の日と35度をこえる猛暑日では、当社の場合、1日の売り上げで100万円ぐらい変わります。わずか3度ですが、体感温度はだいぶ違うはずです。夏が売り上げのピークで、冬季の売り上げは夏の7割ほどに落ちこみます。
 というわけで、夏に飲料メーカーから仕入れた商品の支払いが秋以降に集中するため、11月から2月にかけて、最も資金繰りが厳しくなります。そのため、11月に入るだいぶ前から資金繰り表に予測値を入力し、入出金の動きをシミュレーションしています。その間の資金繰り計画を立てることは、会社の存続に関わることであり、私の最も重要な業務のひとつです。

――今後の方向性を教えてください。

社長 飲料販売業界では激安自販機が最近話題になっています。安さをうりにするサービスは大阪が最激戦区といえます。独自の仕入れルートで一度に大量に仕入れて販売しているようですが、当社ではお客様に安心できる一流商品を提供することをモットーに掲げているので、基本的には今後も運営を手がけるつもりはありません。
 当面の目標としては営業活動によって、年間1000台の自販機を新たに設置していきたいと考えています。現在、3300台の自販機を運営していますが、関西エリア全体の設置台数に占めるシェアはわずかです。新規営業、同業者との提携、M&Aを通じて成長できるチャンスは大いにあると思っています。

(本誌・小林淳一)

会社概要
名称 金井自動販売株式会社
業種 自動販売機による清涼飲料販売
代表者 金井勝一
所在地 兵庫県西宮市西宮浜3丁目30番地
TEL 0798-36-8844
売上高 約20億円
社員数 42名
顧問税理士 藤原 覚
藤原覚税理士事務所
兵庫県西宮市里中町1-1-2 マルタカビル2階
0798-46-8808
URL:http://www.office-fujiwara.com/

掲載:『戦略経営者』2011年9月号