温暖な気候でバラなど切り花の生産地として知られている浜名湖周辺地域。その浜名湖からほど近い静岡県・浜松市で、気軽に訪れることのできる洗練された生花店を営んでいるのが稲垣生花店だ。独自のアイデアを次々と繰り出す4代目の稲垣英樹社長(40)に利益率向上の取り組みなどを聞いた。

水の循環システムとエアカーテンで鮮度保持

稲垣生花店:稲垣社長(中央)

稲垣生花店:稲垣社長(中央)

――広々としてオシャレな店舗づくりが印象的です。

稲垣 花屋さんには「入りづらい」「値段がわからない」「何か買わなければいけない雰囲気がある」というマイナスイメージを抱いている方もいます。何とかこれを払拭して「敷居の低い花屋さん」が実現できるよう店舗づくりを工夫しました。内装や社用車の色は暖色系のオレンジや茶色をイメージしたものに統一し、ただ花を見るためだけでも気軽に寄れる温かい雰囲気を出すよう努めています。もちろん花の命である鮮度にはこだわっていますが。

――やはり商品力ということですね。

稲垣 市場関係者や生産者との懇談会へ積極的に出席するなど、業界内でのコミュニケーションを密にとり、鮮度の良い品物が少しでも市場で手に入りやすくなるよう働きかけています。また当社の店舗では水の循環システムとエアカーテンを組み合わせた独自のフラワーキーパーシステムを採用していますが、これが水替えの効率化を実現するとともに花の鮮度を保持する能力も向上させ革命的な効果をもたらしています。

――革命的とは?

稲垣 とかく花屋は日々切り花の水替え作業に時間を取られがちで、確かにそれは花のためにいいことなのですが、売り上げに直接つながるかというとそうではありません。逆にそのコストが売価に跳ね返っている可能性もあります。当社ではバラなどメーンの商材が入っているショーケースについては水が自動的に循環するシステムを取り入れており、水替えは1週間に1回で済んでいます。

――エアカーテンとはなんでしょう。

稲垣 勤務経験があるスーパーマーケットからヒントを得ました。スーパーの野菜売り場では商品ケースの上部から冷気が出てそれを下部の穴から吸い込んで商品を冷やしています。それを花屋に応用したのです。これにより従来ガラスのショーケースの中で「遠い存在」だった花を、お客さまが手を伸ばせば気軽に触ることができる「近い存在」にすることができました。

――花に値札がついているのもうれしいですね。

稲垣 値段が「時価」と書いてある料理は頼みづらいものですよね(笑)。花屋も値札のついていないところが少なくないのですが、これは消費者にとってプラスの要素ではありません。ですので当社では、ほぼすべての商品で産地と値段、花の種類を記入した札を明示するようにしています。これは一連のルーティーンワークとしてどんなに忙しくてもやるようにしています。

――直近の業績はいかがですか。

稲垣 減価償却費の増大で2009年3月期に大きな赤字を出してしまったのですが、在庫管理の徹底と経費の見直しなどの努力が実り、昨期の決算で黒字転換を果たすことができました。本当に厚い壁でしたが、1円でもいいから黒字にしたいという強い信念を持って臨んだ結果だったので、感慨もひとしおでした。

《全社業績の問合せ》は社長の「通信簿」

――先代社長の時代から業績管理で『FX2』を活用しているそうですね。

稲垣 はい。繁忙期にはどうしてもデータ入力が遅れてしまうという仕方のない面もあり、日々の売り上げと仕入れ、粗利については私自身表計算ソフトで別途管理しています。常にその3つの数字については自分なりに把握できるような形にしているわけですね。巡回監査時には当然『FX2』のデータと照合をしますが、今のところ自分で把握している粗利額とシステムできちんと出した粗利額の差異はそれほど大きくありません。しかし粗利の下の部分、すなわち人件費や諸経費などの固定経費、それらを引いた経常利益の分析に関しては『FX2』以外のツールを使うことは考えられないですね。

――やはり《全社業績の問合せ》を目にする時間が多いのでしょうか。

稲垣 そうですね。対前年比で数字を把握できるというのが大変重要な点で、(1)人件費などの固定費(2)仕入れとそれにともなう消耗資材・販促費などの変動費(3)部門達成利益がどれだけ出せているか――などは必ずチェックしています。41番《全社業績の問合せ》の総括表は社長にとって「通信簿」のようなものですね。生花業は月によって売り上げの変動がかなりありますので、やはり前年の数値が業績を図る一番重要な物差しになりますから。また気になる項目について内訳をすぐにチェックできるドリルダウンはすごく便利で重宝しています。

中川巧顧問税理士 『戦略販売・購買情報システム(SX2)』との自動仕訳連動を使いこなしているのも稲垣生花店さんの大きな特徴ではないでしょうか。生花業というのは、店舗での売り上げ、卸販売、業者間販売、支店での販売、通信販売など多くの販売方法があります。とても『FX2』では管理しきれません。そこで『SX2』を活用してもらっているのですが、本店と支店の店頭販売、卸売などすべて入力しているのです。この徹底ぶりは仕入れに関しても同様で、ここまで追求している企業は数少ないのではないでしょうか。担当されている奥様のご苦労も並大抵ではないと思いますが(笑)。

稲垣記代子経理担当 実はこのような入力の事務作業は初の体験でした。中川先生をはじめ事務所の方々が懇切丁寧に教えていただき、最近になってほぼ理解できるようになりました。

――利益率向上のため注意していることを教えてください。

稲垣 売れ残って廃棄せざるを得なくなる商品を極力なくすこと、すなわちロス率を減らすことが何にもまして重要ですね。こと花屋に関していうと、その対策はまず仕入れに全力をあげることからはじまります。

――ロス率を減らすためには仕入れが重要だと。

稲垣 いい商品を仕入れることができればそれだけ日持ちするからです。例えば「赤バラ」とひと口にいっても、ピンからキリまであります。どの産地のどの出荷者の商品が優れているかということは、季節や気候によって変わってきます。一般的に、花弁の枚数が少ないバラはすぐに咲ききってしまい逆に枚数が多いバラは長期間楽しむことができます。また茎の太さも水の吸い上げの良さに深く関わってきます。花持ちが良ければ販売期間も長くとれ、購入客の手に渡ってからも長持ちするというわけです。

――長持ちする商品は売れ残りが少なくなるということですね。

稲垣 はい。花は生き物ですから、一定の期間を過ぎればしおれて廃棄せざるを得ません。通常はこのロス率を考慮して商品の上代に料金が上乗せされているのですが、当社ではこの発生率を下げることで消費者に提供する売価を下げられる仕組みをつくっています。会社はムダを生むことなく粗利を確保でき、消費者は良い品を手頃な価格で購入できます。まさに会社も顧客も「オールスマイル」になれるのです。私はセリで仕入れる時も、「良い商品は絶対にセリ落とす!」という気迫を持って臨んでいます(笑)。

自家消費ニーズ高い「鉢物」需要を掘り起こす

――社長はふだんどんな画面をよく見ていますか。

稲垣 《全社業績の問合せ》のA表で売上高を(1)小売り店舗でのレジ売り上げ(2)葬祭向け(3)胡蝶蘭や観葉植物などの「鉢物」の3つに区分して前年対比を分析できるようにしています。とくに3つ目の分野は最近力を入れているのでよくチェックしていますね。

――鉢物の分野を戦略的に伸ばしていると。

稲垣 ええ。花屋が年間で一番売り上げるのは「母の日」なのですが、その動向をみると切り花より長持ちする鉢物に対して消費者の期待が非常に高まっているんですね。とくに観葉植物は贈り物や開店祝い、新築祝いなどといったギフト向けだけではなく、自分の家で楽しむ自家消費の需要を掘り起こすことができると考えています。少子化などで「ペットや観葉植物を育てて癒されたい」という人々が増えた時代の流れも追い風になっているのではないでしょうか。なかにはブログを見て隣の隣の掛川市からわざわざ買いに来るお客さまもいるほどです。

――今後の抱負を教えてください。

稲垣 もちろん花屋として浜松ナンバーワンを目指します。それと長きにわたり信頼してもらえる企業であり続けたいですね。たとえば花束に添えるメッセージカードの文言ひとつ間違えてしまうだけで信用が失墜してしまいかねません。そのため当社では独自の顧客管理システムで商品情報や連絡先、メッセージの内容などを管理しており「いつもので!」というお客さまからのオーダーにも応えられる体制を整えています。「キレイな花」を作ることはもちろんですが、お客様の利便性を少しでも高めるこうした細かな配慮の積み重ねをこれからも大切にしていきたいと思っています。

(本誌・植松啓介)

会社概要
名称 株式会社稲垣生花店
業種 切り花、観葉植物の販売
代表者 稲垣英樹
設立 1973(昭和48)年4月
所在地 静岡県浜松市東区植松町70-18
TEL 053-464-1187
社員数 11名(パート含む)
URL http://i7gaki8783.hamazo.tv/

CONSULTANT´S EYE
TKCシステムの活用で見事に黒字転換を達成
監査担当 古山正紘
中川巧税理士事務所
浜松市中区東伊場2-7-1 浜松商工会議所会館5階 電話053-455-0182
URL:http://www.jikeika.com/

 稲垣生花店様が現在の場所に本店を移動された2008年から担当させていただいています。すでに『FX2』をはじめ『SX2』、『戦略給与情報システム(PX2)』を導入済みで、とくに『FX2』と『SX2』については仕訳連動機能を十二分に使いこなされています。しかも稲垣社長は『FX2』を通じた業績管理にとても熱心。巡回監査でうかがう前にすでに資料に目を通され、私が業績の説明をする内容を把握されています。

 売上高や限界利益などの前年対比を日ごろから意識していることは必ず業績に寄与します。たとえば減価償却費の増大などで大きな赤字を出してしまった2年前。社長は「どんなことがあっても1年で黒字にする」と宣言、自ら率先して経費削減に取り組まれ見事黒字転換を成し遂げました。社長の強いリーダーシップと『FX2』を活用した緻密な業績管理が成功につながった好事例として強く心に残っています。

 このほか、社長、スタッフ、観葉植物の計4本のブログで商品情報を掲載するなど情報発信にも注力しています。販売戦略も、需要の伸びが見込める小売りの鉢物を積極的に展開する方針を掲げておられます。パソコンの台数も5台、iPadが1台と従業員数と仕事の効率を考慮しITの環境も充実させています。花を生けるのはどこまでいってもアナログの世界ですが、ここにデジタルをどうミックスするかという課題に挑んでいます。

 今回のレベルアップで『FX2』の「.NET」版も、『SX2』との連動に対応します。経理の合理化や内部統制の強化、資金管理の明確化を図るため、従来版『FX2』からの移行を提案させていただきました。今後もTKCシステムをフル活用して、稲垣生花店様のさらなる成長のための支援に尽力していきたいと思います。

掲載:『戦略経営者』2011年9月号