昨日の敵は今日の友――。自社の強みやノウハウをライバル同士が互いに持ち寄ることで激変する市場環境に迅速に対応することができる。その効果的な手法を探ってみた。

ライバルと手を組む

 ライバルと手を組む――本来ならあり得ないようなことが、ここにきて業種や業態、企業規模を問わず、相次いで起こっている。

 1例は、積年のライバルであるアサヒビールとキリンビールが今年6月、物流部門で手を結んだケースだが、直接的な理由は2つある。共同配送によって、物流コスト削減と、年間の二酸化炭素排出量削減をはかるためだ。

 スポーツ用品大手のゼット、ミズノ、デサントも今春から共同配送に乗り出しているが、理由はアサヒとキリンのケースと同じだろう。

手を組む方法

 ではなぜ今、ライバルと手を組む必要性が出てきたのか。一言でいえば、「組織(連携形態)は戦略に従う」からだが、企業を取り巻く環境がめまぐるしく変化していることによる。つまり、激変する市場環境のなかで「どう生き残るか」(戦略)を考え、それに基づきライバルと競争すべきところは競争し、手を組むべきところは組むという“賢い戦い方”をとり出したということだ。それは環境変化に迅速に対応するためであり、同時にリスクヘッジするためでもある。

 一般的にメーカーが新商品を企画開発(1)すると、それを製造(2)し、宣伝担当者が販促ツール(3)を用意し、営業員が卸会社や小売店などを回って注文(4)を取り、配送(5)、売上金回収(6)といった流れで業務が行われる。この一連の業務をすべて自前(自社の経営資源)で行うか、それとも「ここの部分は同業者と連携する」かは戦略によるわけだが、さしずめ5の部分で連携したのがアサヒとキリンであり、2の部分で手を結ぶのがいわゆる「OEM供給」だろう。1~6まで丸ごと連携するというのは、「経営統合」や「合併」を指す。

 また、関東地区の鉄道・バス会社がタッグを組んで開発・導入した共通IC乗車カード(電子マネー)「PASMO」も、この種の業務連携パターンに入る。これは、利用者が切符(定期券)を購入するという「入り口」部分での連携だが、JR東日本の「Suica」と互換性をもたせたことで一気に普及した。これと似たような連携パターンがワンワールド(JAL)やスターアライアンス(ANA)などの“航空連合”である。マイレージなどのサービスを共通化することで、アライアンス内に顧客を囲い込むというものだが、裏を返せば、どの航空会社も1社単独ではもはや生き残れなくなってきたということにほかならない。

 もっとも、ライバルと手を組む方法にはこれ(業務連携パターン)以外に、もう一つある。それは、経営資源(技術・ノウハウ・資金など)を持ち寄って“ブランド力”を高めていくという手法だ。

 そのいい例が「月島もんじゃ」(『戦略経営者』2011年9月号10頁参照)である。月島はかつて周辺の大型商業施設に客を奪われ、地元客だけでは立ち行かない状況に直面した。そこでこの問題を解決するため、店主が集まって「月島もんじゃ振興会協同組合」を発足させ、「もんじゃイコール月島」というブランドイメージづくりに乗り出したのだ。一口にもんじゃといってもいろんな「味」(メニュー)があるが、加盟店(約60店舗)がそれぞれ「自慢のもんじゃ」を開発・提供することで、月島全体の魅力を向上させているわけである。最近では修学旅行も組合で受け入れており、「(その際の)昼食は月島でもんじゃを食べる」というのが“定番”になりつつある。

 2つ目は、有田焼14窯元が手を組んで「プロジェクトArita」(2003年12月)を起こし、「究極のラーメン鉢」を開発・発売したケースだ。きっかけはNHKの『おーい、ニッポン』という番組で、有田ならではのプロジェクトを立ち上げて取り組む様子を放送させてほしいということだった。そこで地元の若手経営者の集まりである「陶交会」のメンバーが引き受けて、プロジェクトAritaを立ち上げ、商品化したのが究極のラーメン鉢だ。このラーメン鉢は「上の口径は小さく、麺がきちんと収まり、スープがゆったりと対流するように底の径は大きく」しているのが特徴。できた素焼きにメンバーがそれぞれ得意な絵柄をつけて仕上げており、これまでに累計で十数万個販売している。

 それにしても、なぜ彼らはラーメン鉢に目をつけたのか。理由はそれまで普通の丼はあっても、ラーメン専用の鉢となると、有田焼では見当たらなかったからだ。メンバーが主戦場としているものを手がければ、当然、バッティングして利害対立が生まれる。しかし“未分野”のものであれば、それを避けることができるし、有田焼の需要の裾野を広げることも可能になる。さらに、このプロジェクトがうまくいったもう一つの理由は、チームの統一感(器のカタチ)とメンバーの個性(絵柄)を調和させている点にある。

成否の鍵を握るのは…

 それでは、ライバルと手を組むことによってどんなメリット(効果)があるのか。

 1つは前述したアサヒとキリンのケースからわかるように「コスト削減効果」であり、2つ目は「売り上げの拡大」である。月島もんじゃのように、「もんじゃといえば月島」というふうにブランド化すれば修学旅行客をも取り込むことができるからだ。3つ目は共同戦線を張ることによって、「業界(製品)の標準化」をものにできること。共通の敵(ライバル)に対抗して覇者を目指すというものだ。例えば次世代DVDのデファクトスタンダードをめぐって、日頃は競争関係にあるソニーとパナソニック、日立製作所などが「ブルーレイ」陣営を築き、覇者となったのがその好例だろう。

 だが、ライバルと手を結びさえすれば、何もかもうまくいくというわけではない。その成否の鍵を握るのは、「両社」(連携する企業同士)の間で不信感や不公平感が生まれないようにすることだ。

 例えば、燕商工会議所が2003年1月に立ち上げた共同受注システム「磨き屋シンジケート」(『戦略経営者』2011年9月号16頁参照)の場合は「共同受注マニュアル」を作成してオペレーティングにあたっている。これは事前に参加者(研磨業者)によるワークショップを30回ほど開き、注文がきてから納品するまでの過程のなかで、当然、起こりうる問題(不良品の賠償責任や与信管理など)とその解決策について話し合った「結果」を文書にしてまとめたものだ。いわば「憲法」のようなものだが、これに照らし合わせて運営していけば、メンバー間の諍いを防ぎ、狙い通りの「成果」を挙げていくことができるのである。

(インタビュー・構成/本誌・岩崎敏夫)

掲載:『戦略経営者』2011年9月号