親子3代にわたって金属精密加工業を営む加藤製作所。優れた技術力と従業員を大切にする社風で、取引先と社員双方から高い満足度を得ている企業だ。加藤頴一会長(93)と加藤大明社長(63)、加藤崇専務取締役(36)、加藤学常務取締役(39)、顧問税理士の羽野紘一郎氏にTKCシステムを活用した財務戦略などについて聞いた。

高い技術力で取引先から厚い信頼

加藤製作所:加藤会長(前列右)

加藤製作所:加藤会長(前列右)

――事業内容を教えてください。

加藤社長 磁気を利用して水や油を流す電磁ポンプと呼ばれる機械の金属製部品を製造しています。石油を燃料とした家庭用給湯器やゴルフ場の練習場などでよくみかけるジェットヒーターと呼ばれる暖房器具にはわれわれの部品が必ずといっていいほど組み込まれています。

――この金具がそうですか。しかし本当にたくさん種類がありますね。

加藤社長 自動旋盤機に原材料の金属を取り付け、刃物で削りながら要望に応じた形の部品をつくっていくのですが、業界内ではこれを挽物と呼んでいます。取引先や最終製品によりすべて形状が異なるので、種類は700は超えているでしょうね。従来は水や油などを通すための部品がほとんどでしたが、今は公衆トイレなどに設置してある手洗い用の消毒液向けなどに使われるケースも増えています。

――会社の強みは何でしょうか。

加藤社長 他ではなかなか真似のできないものの一つに、直径0.14ミリと髪の毛のように小さな穴が開いている部品があります。通常そうした部品の内部には金属を削ったカスが出る「バリ」と呼ばれる不具合が生じてしまうことが多いのですが、当社ではそのバリが出ないような高度な加工技術を有しています。
 それから電磁弁という部品にも競争力がありますね。これは流体を流す管の開閉を磁力で制御する弁のことですが、これを平らに削る技術に優れているのです。すこしでも弁の表面に凹凸があると隙間が生じてしまい、弁の開閉時にカチカチと摩擦音などが生じてしまうんですが「他社の製品では音のトラブルが出てしまう。加藤製作所さんでなければだめだ」とほぼ100%の割合で当社が受注を獲得しているところもあります。
 紙コップを使用するタイプの飲料自動販売機にも当社部品は使われていますし、温水洗浄便座の水の勢いを調整するためにはわれわれの部品は欠かせないものになっています。最近では家庭で発電ができる燃料電池装置内の冷却水を循環させるポンプに組み込むための製品、トラックなどディーゼル自動車の排ガス規制にともなう新タイプのエンジン向けのものなども手がけています。

加藤会長 創業した昭和38(1963)年ごろから比べると、随分製品数が増えましたね。今は親子3代会社が続き大変うれしく思っています。昨年足にケガを負ってしまい満足に行動はできませんが、創業50周年となる2013年まで、あと1年半は現役で頑張りたいと思います。

利益をできる限り社員に還元する

――『戦略財務情報システム(FX2)』の導入は早かったそうですね。

加藤会長 当社が法人化したのが1978年ですが、9期目に知人から紹介を受けたのが羽野先生でした。実は私、当社を創業する前に勤務していた会社が倒産してしまったという経験があります。経理に不備があり倒産後の債務処理でもめたのを目の当たりにし、適正な決算の必要性を痛感したのです。そのため「絶対にごまかさない」というTKCの理念に共感し羽野先生にお願いすることにしました。

羽野税理士 『FX2』が提供されてほどなくの導入で、マスター登録は1989年9月でした。当初の利用の仕方は帳簿代わりにデータを打ち込む程度でしたが、今では専務と常務が隅々まで数字をチェックし、問題への対応策がすぐに実施できるまでに使いこなしています。専務が製造現場、常務が資金繰り管理を含めた経理全般をそれぞれ管掌し役割分担を明確にしているのですが、経営陣の数字に対する意識が高いことには感心させられますね。毎月15~25日に行っている巡回監査は早朝から活発な議論が交わされ、実質的な業績検討会の場となっていると聞いています。

――どんな帳表を重点的にチェックしていますか。

加藤専務 私は製造部門を担当しているので、《利益管理表》とともに《勘定科目残高一覧表》の製品製造原価のシートをよく確認しますが、とくに消耗品の購入状況が非常に気になります。売上高に比べて異常に消耗品の購入が多い場合は利益を圧迫する要因になりますからね。消耗品の購入水準についてはその日のうちに現場従業員に「今月は少し費用がかさんだので来月は減らす努力をしよう」と伝えるようにしています。『FX2』の報告書は何より見やすいのがいいですね。とても気に入っています。

加藤常務 経理担当の私はキャッシュフローの動向が1番の関心事です。われわれは、社員の努力であげた利益はできる限り社員に還元する、ということを経営理念の一つとして掲げていますが、そのためには売掛金や現預金を適切に管理し借入金の組み換えも機動的に実施するなど、常に最善の資金繰りが実現できるよう心掛けている必要がありますからね。
 また当社ではキャッシュフローを重視する観点から、賞与引当金や消費税引当金の裏付けとして実際に同額の定期積金も行っていますが、企業としての理想は減価償却費と毎月の借入金返済額をイコールの水準にすることだと考えています。そうすれば帳簿上の利益額がそのままキャッシュフローでもプラスになり、賞与など従業員への還元を検討する際に、資金繰りに窮することなく原資を確保することができますからね。

――実際にどうやって利益率を向上させたか教えてください。

加藤専務 消耗品にかかるコストの削減が大きな効果を生み出しました。数年前までは各技術者それぞれの判断で消耗品を購入していました。しかし、それでは不注意で工具を壊してしまったりうっかり重複してそろえてしまったりするミスを減らすことはできません。そこで、消耗品の購入理由をすべて私に報告させるようにしました。
 それから自動旋盤装置では金属を削る刃が必要不可欠なのですが、今まではこれを自分たちで研いでいました。しかしこの研ぐ作業は大変技術のいる仕事で、上手下手の差がはっきりと出てしまうのです。社長ほどの熟練した職人なら問題ないのですが、若い技術者が研いで刃先が欠けたままのものを機械にかけてしまった場合には不良品が発生しかねません。いったんそうなると大きなロスが生じてしまうため、そのリスクを回避する目的で刃のチップ化を進めました。汎用品を外部から購入し定期的に交換して使うため、自分で研ぐ手間がいらず安定した品質も期待できるからです。2割程度だったチップ化を7割程度まで拡大したところ作業効率が大幅に改善しました。これらの施策の効果もあり06年12月期に36.5%まで落ち込んでいた限界利益率は、10年12月期にTKC経営指標の同業種黒字企業平均値まで上昇しました。

相次ぐ幹部の研修で社内に新風を吹き込む

――急激な回復ですね。なにかきっかけがあったのでしょうか。

加藤社長 当社で使用する主力の自動旋盤機はすべてシチズンホールディングスの子会社であるシチズンマシナリーミヤノ(長野県)というメーカーのものなのですが、実は5年前から息子2人を相次ぎ同社に研修に送り込みました。2人とも2年を超える期間にわたり同社社員と一緒に働きましたが、そこで学んだプログラム技術や工場でのオペレーションのノウハウを現場での指導に生かしたところ、それが効果てきめんだったのです。生産する製品を切り替える「セット」(段取り替え)と呼ばれる作業がスムーズになり残業時間を大幅に減らすことに成功しました。在庫管理の適正化で在庫回転率も大きく改善しましたね。

加藤常務 自社にいるだけでは決して得られない経験ができました。先方の会社には無理をお願いして通常はやらない機械の出張修理の現場なども同行させてもらったのです。機械の扱い方に熟練すると同時に、出向く先の同業者をいろいろ見学できたことがとても参考になりました。

――今後の抱負をお聞かせください。

加藤社長 当社は自社製品を積極的に販売するのではなく顧客からの依頼で成り立っている会社なので、毎年売上高を伸ばす計画を立てるというのは実際難しいところがあります。しかし、少なくとも製造原価のコントロールなどを通じ、日々がんばっている従業員に十分還元できるぐらいの利益を今後も安定的にあげ続けたいですね。またわが社の武器の一つとして数えられるようなオリジナル商品の開発にも挑戦していきたいと考えています。

(本誌・植松啓介)

会社概要
名称 株式会社加藤製作所
業種 金属精密挽物加工業
代表者 加藤大明
設立 1978(昭和53)年10月
所在地 東京都武蔵村山市残堀1-102-1
TEL 042-560-8113
売上高 約2億2000万円
社員数 13名(パート含む)

CONSULTANT´S EYE
家族の強い絆で事業継承も円滑に
顧問税理士 羽野紘一郎
羽野税務会計事務所
東京都国立市中1-20-2青木ビル 電話042-574-9881
URL:http://www.tkcnf.com/hano-kaikei/

 加藤製作所様とのお付き合いは1987年からですが、加藤会長と初対面のときに「本当に真面目な方だな」との印象を強く受けたのを覚えています。当時は十分な経理業務がなされておらず、自計化に入る前にまずは集計表を使って売掛金残高を一致させることから始めました。しかし『FX2』を導入した89年以降はシステムを経営分析の道具として活用するようになり、今ではお孫さんの代となる専務と常務が二人三脚で『FX2』を縦横無尽に駆使されています。会長から社長、そして専務と常務へと脈々と受け継がれてきた経営に対する真摯な姿勢が、安定した利益の確保を継続できる同社の基盤になったと思います。このように家族が強い絆で結ばれ事業承継が円滑に進んでいる中小企業も珍しいのではないでしょうか。

 若い専務と常務はとくに、現場の技術者たち一人一人に経営感覚を持たせるような意識改革を行うことに成功しました。『FX2』のデータをもとに売上高に対する消耗品費用の割合などを記したグラフや表を工場に張り出すことで各自の意識の高まりを促したのです。不要な残業を減らし、業績連動型の賞与体系を導入できたのも、従業員を引っ張っていくリーダーシップがあったからでしょう。

 実は昨年11月、われわれ税理士業を営む者の間でも滅多に見ることのできない「申告是認通知」を税務署から受けることができました。これもひとえに加藤会長はじめ経営陣のたゆまぬ努力がもたらしたものと感謝しています。積極的に自社製品を展開する事業形態ではないため計画的に予算を計画するのは困難な面もありますが、今後は『継続MAS』の利用を通じた経営計画の本格的な作成にも挑戦したいと考えています。また、会計参与制度の導入や『FX2』の「.NET版」への移行なども検討しており、加藤製作所様のさらなる発展のため万全のサポート体制を継続していく所存です。

掲載:『戦略経営者』2011年7月号