日本三大急流として知られる球磨川の源流がある熊本県球磨郡水上村。この地で140年間にわたり焼酎造りを行っているのが大石酒造場である。様々な新機軸を取り入れた焼酎は根強い支持を受けており、ファンから直筆の商品ロゴを寄贈されるほどだ。大石長一郎社長(61)と財務を司る大石喜美子氏に『FX4』を活用した事業戦略をきいた。

こだわりの原料、製法が生む熟成された味わい

大石酒造場:大石喜美子氏(左)

大石酒造場:大石喜美子氏(左)

――創業以来、一貫して焼酎造りをされているそうですね。

大石長一郎社長 米と芋を原料とした焼酎をメーンに造っており、製造している製品のうち米焼酎が約8割を占めています。創業が明治3年で、昭和31年に会社組織化しました。私で5代目の蔵元になります。この一帯は焼酎造りが盛んな地域で、球磨川の水と球磨盆地で育てられたお米によって造られる米焼酎は「球磨焼酎」というブランド名で知られています。

――焼酎に使用する原料はどこから仕入れているのでしょうか。

大石社長 米焼酎に使うお米は、主に地元の水上村で収穫される「姫光」というお米を仕入れています。当社でもお米やさつまいもづくりに取り組んでおり、日本酒を醸造する麹米としての認定を受けている酒造好適米「山田錦」を作付けしています。そのほかここ20年で、そばやコーンなど色々な原料を用いた焼酎造りをはじめました。最近かぼちゃを使った焼酎を発売したばかりです。

――かぼちゃとは珍しいですね。

大石社長 おそらく全国的にも製造している会社はあまりないと思います。高知県特産の「万次郎かぼちゃ」というかぼちゃを原料として使っています。ラグビーボールほどの大きさで糖度が高く、甘みが強いのが特徴です。高知県産万次郎かぼちゃを栽培している熊本県の農家のかたから、かぼちゃを原料にした焼酎を造ってもらえないかというリクエストがあり、製品化しました。

――なるほど。焼酎を造るうえで心がけていることを教えてください。

大石社長 焼酎造りで重要な要素は3つあります。まずは原料選びです。有機栽培で育てられた農作物を厳選して使っています。次に水です。近くにそびえ立つ市房山から流れ出る伏流水を用いて仕込みを行います。そして3つめが温度管理です。麹を造り1次仕込み、2次仕込み、蒸留を経て製品になるのですが、高温になると菌が死んでしまうため、最適な水温を保つよう非常に気を配ります。その後、製品によっては10年から20年間、蔵に保管している樽の中に入れて貯蔵します。

――洋酒のような造り方ですね。

大石社長 ええ。スペインやフランスから輸入したシェリー樽やブランデー樽を仕入れて使っています。樽に長期間寝かせることで、味がまろやかになり華やかな香りになるのです。また焼酎に色が付くため、樽で貯蔵された焼酎はまだ馴染みが薄いせいか、賞味期限切れではないかという問い合わせが当初多かったですね。製品のラベルに焼酎を瓶詰めした日付を印字していたのですが、お客様がそれを賞味期限と勘違いされたことも一因だったと思います。それ以降、印字する製造年月日を日付から独自の記号に変更しました。

――自社で製品の販売も行っているのでしょうか。

大石社長 直営店は本社に併設している1店舗のみで、全国各地の小売店、卸売店に販売しています。取引先はトータルで400軒近くあると思います。
 以前は我々夫婦2人で焼酎造りを行っていたため思うように営業活動に時間を割くことができなかったのですが、現在は長男と次男が入社し時間的な余裕ができたので手分けしてあいさつ回りと営業活動を行っています。その甲斐もあってか、当社のホームページを見ていただけるお客様が増え、製品の紹介コーナーを設けたところ、問い合わせが相次いで入るようになりました。
 ただし当社製品を扱う販売店の数をやみくもに増やそうとは思っていません。当社では販売店どうしの商圏が重ならないような販売戦略をとっているからです。自社で製作したオリジナルのソフトで販売店の所在地が日本地図上でひとめでわかるようになっています。

業務システムからのデータ連携が正確な業績予測を導く

――『統合型会計情報システム(FX4)』についておうかがいします。以前は『戦略財務情報システム(FX2)』を利用されていたそうですが、『FX4』を知ったきっかけを教えてください。

大石喜美子氏 当社では酒造業向けの販売管理システムと、運送会社への送り状発行ソフト、そして『FX2』の計3つのソフトを日常業務で利用していました。しかし同一の販売取引を3つのシステムにそれぞれ入力する必要があり、せっかくパソコンを使っているのにずいぶん不便だと以前から感じていました。そこで顧問税理士の柳瀬博史先生とTKCの担当社員のかたが当社に訪問された際に相談をしたところ、システム入力の合理化を図る良い方法があると聞き、実際どのようなシステムか見てみようとなったのがきっかけです。

――その場で『FX4』の紹介を受けられたと…。

大石氏 詳細な部門別管理機能など便利な機能を紹介いただきましたが、『FX2』からの切り替えを決めた一番の決め手は、販売管理システムに入力した取引を『FX4』に自動連動できる点ですね。銀行や郵便局への一部の入金取引や手形取引を除き、仕訳が全て自動で連動します。そのため手入力する負担が格段に減り、効率化を図ることができました。

――部門別管理をされているそうですね。

大石氏 ええ。どのように部門を設定すべきかを当社を担当いただいている柳瀬会計事務所の藤原先生に相談し、熱心に立ち上げをサポートしていただきました。

藤原淳史・監査担当税理士 大石酒造場様では製造部門、総務部門、詰め口部門、役員部門の計4部門を設けて管理されています。

――詰め口部門とはどのような部門でしょうか。

大石氏 焼酎を貯蔵樽から取り出し、1本ずつ瓶に詰める作業を行う部門です。5人の担当社員が焼酎の中に異物が混入しないよう細心の注意を払い手作業で行っています。製品によっては瓶詰めする分量に応じて別途料金をいただいているので、1部門として設定しました。

――黒字経営を続けるポイントはどこにありますか。

大石氏 部門ごとの業績推移をこまめにチェックしています。『FX4』に切り替えてシステムに直接入力する仕訳枚数が非常に減りましたので、前年、前々年比較などのデータを以前よりも細かく分析する余裕が生まれました。
 また決算期末時点での利益額を予測し、貯蔵樽や備品などの設備投資を計画的に行うことができるようになりました。焼酎を貯蔵している樽は1200本ほどあり、約20年おきに廃棄して新しい樽に入れ替えています。その本数は年間約50本にものぼります。貯蔵樽は発注を出してから納品されるまで約半年かかるため、決算対策のためにも早めに利益額の見通しを把握し、注文する必要があるのです。なお使い終わった貯蔵樽の一部は分解し、テーブルやいすとして再利用しています。

柳瀬博史顧問税理士 工場を建設された年は借入金が増えたり、売上高の変化も大きかったのですが、近年は安定して収益をあげられています。

――巡回監査時、どのような話をされていますか。

藤原淳史・監査担当税理士 期末時点での利益の見込みのほか、棚卸し額の話をよくしています。樽に貯蔵されている焼酎が相当量あるので、販売している焼酎の単価がわずかでも変わると、棚卸しの金額がまったく違ってくるのです。

大石氏 10年酒、20年酒として販売している焼酎をはじめとして樽に貯蔵している総量は3年分ほどあります。商品を安定して出荷するためです。様々な原料を取り入れて焼酎を造っているので、原料費によって焼酎の単価が頻繁に変わります。その重要な棚卸し額を適正にチェックしていただき、非常に助かっています。

進取の精神でいち早く電子納税にチャレンジ

――早い時期から電子納税をされているとお聞きしています。

大石氏 地元の人吉球磨地区では一番乗りだったようです。税務署からe-TAXを使って電子納税を行ってほしいという話が再三あり、村役場でさっそく住基カードを取得したもののシステムの操作方法が誰に聞いてもわからず、国税庁のヘルプデスクに毎日電話をして何とか実施できました。
 当社では戦略給与情報システム『PX2』を使って毎月の給与計算処理を行っています。その『PX2』に保存されている給与支払い実績データを電子納税システムに自動複写でき、なおかつ納付の際に住基カードを使う必要もなくなったので大変便利です。

――今後の抱負をお聞かせください。

大石社長 お客様から当社の焼酎は他の焼酎にくらべて値段が高いとよく言われることがあります。一般の製品より高い価格で販売しているのは、使用する原料にこだわったり、貯蔵樽をはじめとする色々な設備に投資したり、時間と手間をかけているためです。4月から発売をはじめた、かぼちゃ焼酎の原料を今は仕入れていますが、将来的にはそのかぼちゃの苗を手に入れて自社で栽培も手がけていきたいと考えています。今後も安心、安全な有機栽培された原料にこだわり、どこにも売っていないような独自の焼酎造りを行っていきたいですね。

(本誌・小林淳一)

会社概要
名称 合資会社大石酒造場
業種 焼酎製造業
代表者 大石長一郎
所在地 熊本県球磨郡水上村岩野1053
TEL 0966-44-0001
売上高 約5億円
社員数 12名
URL http://www.ohishi-shuzohjyo.jp/
顧問税理士 柳瀬博史
柳瀬博史税理士事務所
熊本県人吉市鬼木町694-3
0966-23-2406
URL:http://yanasekaikei.tkcnf.com/pc/

掲載:『戦略経営者』2011年5月号