「牛タン」を主力商材にするという戦略で、右肩上がりの成長を遂げる食肉卸会社が群馬県藤岡市にある。『ミートプランニング』の店名を掲げる小林商店だ。食肉業界の古い常識を打ち破ってきた小林有一社長(37)は、財務会計システムをはじめITツールの活用にも積極的な姿勢を示している。

「牛タン」をメーンに顧客の信頼獲得に全力尽くす

小林商店:小林社長(中央)

小林商店:小林社長(中央)

――飲食店などに食肉を販売するのが主な事業内容と聞いています。

小林 『ミートプランニング』という店名で、個人やチェーンの焼肉店などに各種食肉を卸しています。売上の約半分を占めるのが牛タン。皮をむいた、いわゆる「むきタン」の状態に加工したうえで出荷するケースが多いですね。むきタンについては、食肉の卸をしている同業者も主要なお客さんとなっています。

――牛タンを主力商品にする理由は何ですか。

小林 焼肉店の人気メニューといえば、カルビ、ロース、タンが上位にきます。そのうちカルビとロースはそれを扱う精肉業者がたくさんいて、なかなか手を出しにくい分野。しかし牛タンは、その多くがアメリカやオーストラリアからの輸入品ということもあり、“隙間”があったのです。牛タンの取扱量に関していえば、うちは間違いなく関東地方でトップクラスにあるでしょう。

――会社の強みを教えてください。

小林 まず第1に「企画力」があげられます。主力商材の牛タンについては、カット方法や産地などの組み合わせで十数種類のタイトル(ラインナップ)を用意し、その中から好みの仕様を選択できるようにしています。なかでも特に人気を誇るのが、『Dynamite!(ダイナマイト)』(商標登録済み)という名前の商品。文字通りダイナマイトのように、細長い円筒状のかたちに加工して納品します。端から端まで均等の大きさでスライスしやすいため、焼肉店のオーナーから喜ばれています。これまで一般的に牛タンは丸く縮めて出荷されていましたが、そうした既存の常識を一から見直していく企画力が我々にはあります。自ら「食肉業界に旋風を巻き起こすパイオニア」と称しているように、意欲的な試みをいくつも実践しています。

――他にはどんな試みを…。

小林 商品を入れる段ボール箱へのこだわりなんかもそうです。輸送時のダメージを最小限に抑えられるように硬度の高い段ボール紙を使用するとともに、表面のデザインは赤と白の迷彩パターンにしました。ちなみに「レッド」はうちのイメージカラー。社員が着ているジャンパーも赤色です。この赤色には「食肉業界のなかでひときわ目立つ存在になる」という私たちの意気込みが含まれています。こうした「演出」の部分も当社の持ち味ですね。

――たしかに独自の奇抜さが感じられます。

小林 ほかにも食肉の仕入から加工、そして出荷にいたるまでの全工程にわたって品質管理を徹底していることや、商品をお客さんのもとに運ぶトラックのドライバーが「食肉コーディネーター」として、肉の産地や適切な保存方法などをきちんと説明できる豊富な知識を持っている点などが自社の強みだと思っています。(1)企画(Project)、(2)演出(Produce)、(3)過程(Process)、(4)提供(Provide)という「4つのPro」を軸に、顧客のニーズを叶えていくのを基本指針としています。

――ここ数年間の業績の推移は?

小林 お陰さまで右肩上がりに売上を伸ばしています。年商3億円ほどだった6年前にくらべて会社の年商は2倍以上になっています。やはりお客さんの数を増やせたのが一番の要因です。牛タンを突破口に、競合他社とは違うアプローチでサービス強化に努めてきた結果だと思います。
 実はもともと小林商店が家業にしていたのはお酒の販売でした。それを私が食肉卸の会社に事業転換したのです。以前、サラリーマン時代に勤めていたのが食肉販売の会社で、そこで培ったノウハウを活かして新規事業に参入したのです。食肉業界のなかでは新参者なのですが、だからこそ牛タンをメーンにするという多少変わった経営戦略を打ち出せたのかもしれません。

――新たな事業を軌道に乗せるまでは大変だったのではないですか。

小林 1日の睡眠時間が3時間という日がざらでした。最初の頃は資金に余裕がないので関西の仕入先に行くにも、一般道を使ってクルマでいくのが当たり前でした。新幹線代や高速道路代を出せなかったのです。
 当時、私が格言としていたのが「3つのない」でした。要するに、(1)わからない(2)できない(3)モノ(商品)がない、とは絶対に取引先に対して言わない。「こんな商品をもってきてくれないか」と言われれば、在庫がなくても「大丈夫です」と返答しておいて、あちこち探し回って必ず見つけてくる。この「3つのない」は現在5名いる営業マンにも受け継がれていて、みんなポジティブな考え方で活動しています。

月次決算を通じてタイムリーに業績を掴む

――『FX2』導入の経緯を教えてください。

小林 いまから6年ほど前、顧問先の会計事務所から勧められたのがきっかけです。『FX2』で業績管理をしていくためには、月次決算が間違いなく前提になると思っています。月次決算によって初めて、正確な数字がタイムリーに把握できる体制が築けるのです。
 会社経営にはアグレッシブさが求められる一方で、ときには「緻密」さも要求されます。必要な情報を入手し、それをもとに先読みと反省を繰り返す。そんな「仮説検証」を行っていくことが、企業としての力を磨いていくために欠かせません。その意味では、詳細な財務データをタイムリーに入手できる『FX2』を導入したのは正解でした。

――とくに注目している帳表類はありますか。

小林 キャッシュフローの状態を知っておくために月次決算後、必ず目を通しているのが《科目残高一覧表》です。また、会社全体の限界利益の動きも気になるので《変動損益計算書》もよく見ています。

高橋琢税理士 小林社長は毎期、理想とする限界利益をイメージ(仮説)されています。毎月の限界利益がそのイメージに近いかどうかを確認(検証)するために《変動損益計算書》を見たり、「当期決算(着地点)の先行き管理」の機能を使って、その期の限界利益がどの位になるかを日々チェックしています。

――限界利益率をよくするために意識していることは何ですか。

小林 適正在庫を維持するのがまず一つ。そのためには、そもそも不良在庫になりそうなものは最初から仕入れないように徹底する必要があります。相場の動きを注視し、より安くて品質のよいものを仕入れることや、顧客のニーズに耳を傾けていくことなどが不可欠です。

『楽一TKCモデル』を使って伝票作成の効率化を実現

――カシオの事務処理専用機『楽一TKCモデル』と『FX2』を仕訳連動しているそうですね。

小林 ええ。『楽一』のお陰で、売上伝票、仕入伝票、請求書などの各種伝票作成の手間がかなり楽になりました。かつてはそれらの伝票は営業マンが手書きでつくることが多かったのですが、今は担当する女性事務員が『楽一』で作成しています。食肉業界はいわゆる3Kの代名詞で、とくに営業マンは忙しい。これまで伝票作成に割いていた時間を、本来の営業活動に回せるようになったのは大きなメリットといえます。
 そして『楽一』に打ち込んだ仕入や売上のデータは、USBメモリを使って『FX2』に仕訳連動できるため、事務効率は大幅にアップしました。要は、『楽一』と『FX2』の両方に同じデータを2度打ちする必要がないわけです。

――他にも『楽一』には、得意先や商品ごとの売上動向などを調べられる機能があります。

小林 それらはマーケティング戦略を考えるうえでの貴重な武器となりますね。「売上が伸びている商品はどれか」「当社にとって利益をもたらしてくれる優良顧客はどこか」といったことがわかるわけです。それをもとに、仕入や顧客対応をどうすればよいか考えていくことができます。

――今後の抱負についてお聞かせください。

小林 昨年から、有限会社フードプランニングという子会社をつくって、埼玉県川越市で焼肉店を2店舗運営しています。来店客から直接、商品に関する要望などが聞けるようになったので、それをもとに本業の食肉加工・卸のさらなるレベルアップを図っていきたいですね。
 あと近い将来、DM販売(カタログ通販)の事業を始める構想も描いています。様々な意欲的な取り組みを通じて、いつかは年商30億円を超える企業になることが夢です。

(本誌・吉田茂司)

会社概要
名称 有限会社小林商店
業種 食肉卸販売
代表者 小林有一
設立 1955(昭和30)年10月
所在地 群馬県藤岡市東平井573-1
TEL 0274-22-8059
売上高 約8億円(今期見込み)
社員数 24名(アルバイト含む)

CONSULTANT´S EYE
販売管理と財務管理の連動をサポート
税理士 高橋 琢
税理士法人思惟の樹事務所
群馬県高崎市小八木町2031-4 電話027-364-5050
URL:http://www.shiinoki.or.jp/pc/

 小林商店様はもともと酒・煙草等を販売する会社として創業しましたが、現社長のノウハウのもと数年前から新たに食肉卸及び加工、販売業を行うようになりました。当初は、営業活動など大変苦労されたようですが、地道な努力により次第に独自の販売網を確立・拡大し、また食肉卸のイメージを払拭するような包装のデザインや加工技術等により商品ブランドを飛躍的に向上させました。結果としてこの数年間は毎期業績を伸ばしています。

 我々が関与した当初は、他社システムを利用し、財務管理と販売管理を行っていました。しかし、取引先の増加に伴い、販売管理システムと財務管理システムとの連動がスムーズに進まなかったことから、タイムリーな試算表を提供できない状況に陥っていました。そこで、財務管理については『FX2』を導入していただきました。

 また、小林社長は当初より事業の多角化を望んでおり、販売管理のさらなるシステム化のため『楽一』導入に興味を示していたことと、当事務所の初期指導担当もメリットを感じていたため、導入に至りました。これにより、今まで手書きであった納品書が綺麗に印字されると同時に請求書が作成されるようになり、また各種管理帳表も作成されるので、売掛金や買掛金の残高が一目で確認できます。『楽一』のデータを『FX2』に連動させることで、正確な売上・仕入、売掛金・買掛金が財務に反映することとなりました。経理体制が効率化された結果、当事務所の監査の省力化が図られています。現在では、財務及び販売管理の両面において、迅速で的確なデータ管理が徹底されています。

 小林社長の実行力は目を見張るものがあり、会社の発展に向けて現時点でもあくなきチャレンジを行っています。我々も、さらなる発展に寄与できるよう、様々な面から全力でサポートしていきたいと思っています。

掲載:『戦略経営者』2011年5月号