トランス脂肪酸の情報開示についてルールが決まったようです。今後は成分表示にトランス脂肪酸を加えなければならなくなるのでしょうか?(洋菓子製造)

 質問は、消費者庁が2月に定めた「トランス脂肪酸の情報開示に関する指針について」のことを指しています。トランス脂肪酸の含有量を測定するコストなどがご心配かと思いますが、これはあくまでもガイドラインを定めたものに過ぎず、法的拘束力はありません。ですので、たとえ表示しなかったからといって、法律に違反したり行政処分が下されるといったことはないのでご安心ください。

 トランス脂肪酸は、コレステロールなどと同じ脂質の一種です。本来、脂質は細胞膜を構成したりビタミンの吸収を助けたりするなどして人間の体にとって必要なものですが、トランス脂肪酸は動脈硬化など心疾患のリスクを高めるという研究結果が報告されています。このため、世界保健機関(WHO)は2003年、1日当たりのトランス脂肪酸の平均摂取量を最大でも総エネルギー摂取量の1%未満に抑えるべきとの勧告を発しました。

 この勧告を受け、カナダや米国では深刻さを増す心臓疾患への対応策として2005~06年に含有量表示が義務化。ブラジルやチリ、アルゼンチンなど南米地域でも栄養成分表示の項目にトランス脂肪酸を追加する国が相次ぎました。この動きは近年、韓国や香港、台湾などアジア諸国にも広がっています。

 このように国際的に規制が強まっているトランス脂肪酸ですが、これまで国内では含有量を表示する際の統一基準がありませんでした。消費者の無用な混乱を避けるために表示についての指針を定める必要があったのです。

 では、今回決まった指針のポイントについて説明しましょう。

  1. 容器包装やホームページ、広告などで含有量を表示する。その際、カロリーやタンパク質などの一般表示事項に加え、飽和脂肪酸やコレステロールなどの含有量も併記することが望ましい。
  2. 100グラムや100ミリリットル、または1食分や1包装など1単位あたりの含有量を記載し、単位はグラムとする。
  3. 認められる誤差の範囲はプラス20%。
  4. 「0グラム」と表示できるのは原則としてトランス脂肪酸が含まれない場合に限られる。ただし、食品100グラム当たり(清涼飲料水などは100ミリリットル)のトランス脂肪酸含有量が0.3グラム未満である場合には0グラムと表示しても差し支えない。

 トランス脂肪酸についての成分表示をしたいと考えている事業者の方々は、前述した基準に沿って情報開示を行ってください。4の0.3グラム未満の基準を満たした場合は、「無」「ゼロ」「ノン」「フリー」など、「トランス脂肪酸を含まない」ことを強調する表示ができるようになります。その際、分析に使用した分析方法なども併せてホームページなどに記載するとよいでしょう。

 この「指針」は、あくまでも食品事業者の自主的な情報開示の取り組みを促進するためのものです。しかし、WHOは2008年に最新の知見を評価した専門家会合の結果、「1%という基準を見直す必要がある」と報告していることから、海外での規制がさらに強まる可能性もあります。一方、日本では栄養成分表示の義務化を検討する議論も進行中です。国内外の動向に十分注視する必要があるでしょう。

掲載:『戦略経営者』2011年5月号