2024年10月号Vol.136

【特集】国・地方デジタル共通基盤の整備・運用に関する基本方針で何がどう変わる?見えてきた標準化後の未来

内閣官房 デジタル行財政改革会議事務局 参事官 浦上哲朗氏
インタビュアー 本紙編集委員 篠崎 智

今年6月、『国・地方デジタル共通基盤の整備・運用に関する基本方針』が閣議決定され、デジタル行財政改革は新たな局面を迎えた。これにより自治体DXの取り組みがどう変わるのか。内閣官房の浦上哲朗参事官に聞く。

──『国・地方デジタル共通基盤の整備・運用に関する基本方針』が決定した、背景を教えてください。

浦上哲朗(うらかみ・てつろう)1999年、自治省(現総務省)入省。総務省自治行政局住民制度課専門官、行政課行政企画官などを経て、2016年に和歌山県総務部長。18年に内閣官房IT総合戦略室参事官、21年デジタル庁参事官、23年総務省地域DX推進室参事官を歴任。23年7月より現職。

浦上哲朗(うらかみ・てつろう)
1999年、自治省(現総務省)入省。総務省自治行政局住民制度課専門官、行政課行政企画官などを経て、2016年に和歌山県総務部長。18年に内閣官房IT総合戦略室参事官、21年デジタル庁参事官、23年総務省地域DX推進室参事官を歴任。23年7月より現職。

浦上 日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年(約8,700万人)をピークに減少へ転じ、2050年推計ではその4分の3の約5,500万人まで落ち込むことが見込まれます。これまで4人でやっていたことを3人でやらなければならない世界になる、と指摘する声もあります。近年、人手不足が深刻なことはわが国全体の共通認識となり、都市部の地方自治体からも職員を採用できないという声を聞きます。
 他方、人手不足だからといって供給者起点のロジックだけでもいけません。岸田文雄総理の強い問題意識から、〈利用者起点〉で行財政の在り方を見直すことを目指し、昨年10月に「デジタル行財政改革会議」(議長・岸田総理)が発足しました。これまでの行革は〝人を減らす〟ことが主眼でした。今回は〝人が減る〟前提です。その中で「デジタルの力」を使っていかにサービスを維持向上するか。かつての状況と全く異なります。
 皆さんは、デジタルの力をどのように考えていらっしゃるでしょうか?
 たくさん思い浮かぶと思いますが、私たちが正面から向き合う必要があるものの一つは、〈同じシステムをみんなで利用できる〉という力でしょう。国も地方もシステム化の歴史は長く、それぞれが工夫を凝らしシステムをつくってきました。それ自体は糾弾すべきものではありません。ただ、技術が進歩し、いまや経済界ではSaaS利用が当たり前となりました。そのような大きな流れの中で、昨年2月に岸田総理の指示を受け、地方3団体の代表者を構成員として、皆さんの意見を聴きながら『国・地方デジタル共通基盤の整備・運用に関する基本方針』(24年6月)を策定しました。

標準化と共通化、何が違うのか

──「国・地方デジタル共通基盤」とは、どのようなものなのでしょうか。

浦上 「共通SaaS」と「デジタル公共インフラ」の二つで構成されると理解していただければいいと思います。
 現在のクラウド技術を使えば、同じ業務であれば同じシステムをみんなで使うことができます。これが「共通SaaS」です。システムを構成する共通の機能を共有できるようにするのが「デジタル公共インフラ」です。例えば、マイナンバーカードを活用した公的個人認証や、事業者認証に用いられるGビズIDがこれにあたります。
 こうした、国・地方デジタル共通基盤は将来的な姿です。現状から、そのような姿に向かうことを 〝共通化〟と表現しています。共通化を進めるための枠組みを定めたのが、今回策定した基本方針ということです。

──その業務やシステムの共通化と、現在進行中の情報システムの標準化とはどう関わるのでしょうか。

浦上 言葉の上では、「標準化」は標準の仕様を整えることで、「共通化」は共通のシステムを利用することです。ご指摘の20業務の標準化については、もともと、例えば総務省が「自治体情報システムの標準化・共通化」と表現しているように、〈標準の仕様を整え、その仕様に基づくシステムをみんなで使う〉ことを目的としており、目指す考え方は同じと思っていただいていいと思います。
 市町村が利用しているシステムは、20業務のシステムだけではありません。例えば、人口10万~20万人の団体では120程度のシステムを利用しているといわれています。指定都市では300を超えるところもあります。その状況はさまざまですが。今回の基本方針の射程となっているのは、〈20業務以外のシステムでも共通化を目指していきましょう〉ということです。

──基本方針について、市町村の受け止めは厳しいものがあるのでは?

浦上 議論を始めた当初は、地方3団体からも多くの厳しい指摘をいただきました。「デジタル化が自己目的化している」「20業務の標準化やガバメントクラウドに課題がある」「新たな取り組みを考えるにしても、20業務の標準化をまず着実に完遂した上でなければならない」「やるにしても団体の規模や、事務の種類や内容に応じて、地方のニーズの把握に努めながら進めるべき」等です。
 どれももっともな指摘だと思います。これらの意見をしっかりと受け止め皆さんと濃密な議論を重ねる中で、次第に共通化は、方向性としては共感しつつ、その進め方に工夫が必要であることが明確になっていきました。
 基本方針にはこれらの議論を反映しています。例えば20業務の標準化との関係については、〈①喫緊の課題である20業務に係る情報システムの標準化に引き続き注力し、②共通化すべき業務・システムの基準に合致するか検討を行った上で、基準に合致するものは、共通化を進めるとともに、③基準に合致しないものであっても、都道府県の共同調達による横展開の推進等に取り組んでいく〉と記載しています。
 最終的に、基本方針を決定する6月の「デジタル行財政改革会議」において、全国知事会長から「基本方針は大きなエポックになる」とのコメントをいただくなど、期待されるものとなりました。担当参事官としては、その分プレッシャーですが……(笑)。

改革のカギは国と地方の連携・協力

──今後、どのような業務やシステムが共通化されるのでしょうか。

本紙編集委員 篠崎 智

本紙編集委員 篠崎 智

浦上 基本方針には「共通化すべき業務・システムの基準」を記載していますので、ぜひご覧ください。特に、効果が高く、ニーズが高い取り組み対象の候補を絞り込むため、当面の具体的視点として以下の三つが示されました。

1 新しい課題に対する業務・システムで導入団体が現状では少ないが、全国的に展開することが有意義なもの

2 制度改正に対応するための業務負担が大きい、または大きな制度改正がある業務・システム

3 データに基づく行政をタイムリーに行う必要がある業務・システムで、国への報告に手間を要しているもの

 1については、8月に実施した共通化の候補案について地方自治体からの提案募集や令和6年度地方分権提案、あるいは「デジタル田園都市国家構想」のタイプSの取り組みが参考になると思います。2については20業務と密接に関連する業務・システムの中で該当するものがあるかどうか、3については経由事務や経由調査といわれているものがありますので、その中でまずは該当するものがあるか調査しています。

──今後のスケジュールは。

浦上 地方3団体の代表も参加する「国・地方デジタル共通基盤推進連絡協議会」を立ち上げ、その中で共通化の候補案を9月下旬に示す予定です。全ての地方自治体に意見照会を行った後に、その候補について、制度所管府省庁に、共通化推進方針案を年度末に策定してもらいます。その過程で制度所管府省庁には、実現可能性調査や共通化の効果等を精査してもらいます。
 連絡協議会は、制度所管府省庁から推進方針案の協議を受け、その方針でよければ同意し、推進方針を確定させます。来年6月には推進方針を重点計画に盛り込めればと考えています。
 このように、国と地方がキャッチボールをしながら共通化を進めていくことが基本方針に記載されています。
 なお、共通化の候補となったからといって、今年度中に共通SaaSの提供・利用を開始するということではありません。共通化に至るプロセスやサービス提供時期は、対象となる業務やシステムによって異なります。推進方針の策定によりスケジュールが明確化するので、皆さんにとって予見可能性が高まるのではないかと思います。

市区町村に求められること

──気になるのは、いつから共通化に対応しなければならないのかです。

浦上 人口減少社会やデジタル技術の進化を踏まえれば「対応しなければならない」ということなのかもしれませんが、国から言われたからやるというものではありません。共通化は原則として義務付けではなく、地方の主体的な判断により行われるものです。そのため制度所管府省庁から推進方針は示しますが、期限は限定せず、システムの更新時期なども考え合わせながら段階的に共通化を進めてもらうことを想定しています。
 デジタル技術の活用は一朝一夕で実現できるものではなく、サービスの担い手不足が深刻化してから着手しては間に合いません。そのため一定のスピード感は必要ですが、重要なのは「いつまでにやるか」よりは、「何のためにやるか」ということです。急がば回れで、国と地方自治体が共通認識を持ち、これまで以上に密接に連携・協力しながら、それぞれの役割を果たすことが、いい結果につながると考えています。

──なるほど。

浦上 国と地方自治体との連携・協力は簡単そうに見えて奥深いです。市町村の皆さんが「国がやってくれる」と思うなら、恐らくうまくいきません。また、利用する皆さんが「与えられた」と感じるシステムはやがて使われなくなるでしょう。他方で、自分の団体のことだけ考えてシステムをつくっても共通化が難しいでしょう。さらに個々の団体が共通化のための調整をするのも困難だと思います。では、国が「このシステムを使いなさい」と押し付けてうまくいくでしょうか? それでは地方の現場とはかけ離れたものになってしまうでしょう。逆に、国が「それは地方の仕事」と無関心でも共通化のための調整は進まないと思います。
 国も地方自治体の皆さんも同じ方向を向いて、「自分たちの業務システムは自分たちでつくる」との意識を持って議論し、みんなが〝腹落ち〟して共通化を進めるのが理想だろうと考えています。
 ポイントは、都道府県の皆さんかもしれません。国に対してしっかりものを言うことができるということもあります。市町村には高い問題意識を持ってDXに積極的な方もいますし、DXに躊躇(ちゅうちょ)していたり、伴走支援が必要な方もいらっしゃると思います。多くの方をうまく巻き込んでファシリテートできる存在は、都道府県なのではないかと期待しています。

──通化で、自治体DXの取り組みも新たな局面を迎えます。

浦上 これから共通化を進める中で、新たに見えてくる課題もあるでしょう。その際には、基本方針のビジョンやコンセプトに立ち返りつつ、国と地方自治体が知恵を出し合いながら課題を乗り越え、将来世代に恥ずかしくないような国・地方デジタル共通基盤を残していきたいと考えています。共通化を着実に前進させ、積み重ねの中でノウハウを蓄積し、取り組みの精度を高めていきたいと思います。

撮影:中島淳一郎

国・地方デジタル共通基盤の将来的な実現イメージ 出典:デジタル行財政改革会議 資料

国・地方デジタル共通基盤の将来的な実現イメージ
出典:デジタル行財政改革会議 資料

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