2024年10月号Vol.136
【レポート】講演録 公会計の活用作業負担を軽減しつつ活用を意識したデータを整備
「今後の地方公会計のあり方に関する研究会」で、中長期的に目指すべき姿に例示された福島県田村市。TASKクラウドフェアの講演から、市の取り組みを紹介する。
田村市 総務部 財政課 課長補佐 大山義友 氏
「統一的な基準による地方公会計の整備促進について」(2015年1月、総務省大臣通知)を契機に、全国の市区町村で地方公会計改革の取り組みが本格的にスタートしました。
この時、田村市では財務書類の作成や固定資産台帳の整備にかかる職員の負担軽減を狙い、日々仕訳方式を採用。プロポーザルによりTKCシステムを導入し、17年度の当初予算編成から運用を開始しました。
現在、「財務会計システム」を核として、「固定資産管理」「起債管理」「人事給与」「源泉徴収管理」の各システムを利用しており、また年内稼働を目指して「行政評価システム」の導入準備も進めています。
システム相互連携でデータ整備の負担軽減
総務省「今後の地方公会計のあり方に関する研究会」の第9回会合(24年6月25日開催)で示された、〈地方公会計情報にかかる整備状況〉によれば、多くの自治体が本来目的である財務分析や方針検討ではなく、その準備段階であるデータの整備・加工に多大な労力と時間を要しており、この負担軽減が課題となっています。
田村市では、日々仕訳方式を採用するとともに、固定資産台帳システムと財務会計システムの連携により、予算執行時に資産登録も行うことでデータ整備をワンストップ化。これにより職員の負担軽減に努めています。
まず日々仕訳を行うにあたっては、財務会計システムで細節の下に細々節を設定し、予算科目と仕訳が1対1となるようにしました。この際、①伝票を起票した際に仕訳が完成する、②施設マネジメントや事務事業評価の財務情報にひも付けできる、ことを念頭に細分化。例えば委託料の場合、細節を〈工事関係〉〈システム導入・改修〉〈システムの保守管理〉〈施設管理〉〈その他〉の五つに分け、さらに細々節で取引種類別に15項目に細分化し、伝票起票の段階で仕訳が完成するようにしています。
また、固定資産管理システムには固定資産・公有財産・備品の三つの台帳システムが内包されており、資産の種別に応じて台帳が自動連携するようになっています。
例えば、工事請負費にかかる伝票を起票する際にメニューにある「財産入力」ボタンを押すと、財務会計システムから固定資産管理システムに切り替わり、ここで登録した財産は、固定資産台帳や公有財産台帳として同時に作成されます。これは備品でも同様です。
これにより、職員が意識することなく伝票起票と同時に台帳が整備され、処理の取りこぼしがなくなり、年度末に行っていた各課への取引照会や、データ更新の作業が軽減されました。
公共施設マネジメントへ、期待される公会計の活用
公会計の活用で期待されるのが「公共施設マネジメント」です。
〈施設の更新や複合化・集約化〉〈解体撤去などの方針検討〉〈利害関係者の理解を得るための客観的な根拠〉として、財務情報はキーファクターとなるでしょう。そのためにも、活用を見据えた粒度の高いデータを整備することが肝要です。
施設ごとに行政コストを把握するには、施設と予算の連携が欠かせません。そこで款項目の下に設けられた事業区分(大・中・小事業)を活用し、庁舎や学校、公民館など主要施設については個々の執行額を把握するために中事業で対象施設を設定し、施設別に予算管理を行っています。一方、小規模施設(出張所や集会施設など)については大事業や中事業でまとめて予算を計上し、施設グループ別に執行額を把握しています。
公共施設マネジメントへの活用はまだ緒に着いたばかりです。理想とするのは、施設ごとの人件費などを含めたフルコストで財務分析できるようデータを整備すること。この点でもシステムをもっと有効活用したいと考えています。
加えて、現在、導入準備を進めているのが行政評価システムです。
財務会計システムで予算科目と仕訳が1対1になるよう設定したのと同様に、行政評価システムでも評価対象事業と予算をひも付け、事業コストを財務会計システムから取り込めるようにします。
これにより、行政評価の精緻化に加えて、評価シート作成にかかる作業も効率化できると期待しています。
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市区町村には、公会計の一層の活用が求められています。そのためには、予算科目や資産にかかるデータを可能な限り細分化することが必要ですが、その分、情報の整理・更新などデータ整備にかかる負担は増加します。作業を単純化するには、システムを最大限活用することが欠かせません。
「付加価値を生まない重労働からの解放」──これはアマゾンウェブサービスが大切にしている概念で、ストレージサービスの特長を説明した言葉です。
公会計の活用に伴うデータ整備の作業は、まさに〝付加価値を生まない重労働〟といえます。この重労働を軽労働に変化させ、住民サービスの目的達成など多角的な視点で分析し、対応するなど、職員が本来、力を注ぐべき業務に集中できるような環境づくりの手段として、システムを活用すべきだと考えています。
田村市ではシステムを導入して数年経過しましたが、まだ全てのメニューを十分に使いこなせているわけでなく、日々試行錯誤しています。今後もシステムへの理解を深め、最適なオペレーションを探求するとともに、他団体の皆さんやTKCと協力しながら公会計の活用による高付加価値の創出を目指したいと考えています。