少子化だというのに、「キッズ市場」の規模は今や12兆円にのぼる。子供をめぐる財布が「6ポケット」から「10ポケット」に広がっていることが背景にある。どんな発想でアプローチすれば“成長の芽”をつかむことができるか。その攻略法を伝授しよう。

 最近、子供を対象にした「キッズビジネス」が注目を集めている。少子化でマーケットの縮小は避けられないとみられていたが、意外に底堅く成長し続けているからだ。

 矢野経済研究所の調査結果によれば、2007年の子供関連ビジネスの市場規模は前年に比べ0.6%増の11兆9451億円と推計している(〔『戦略経営者』2008年7月号9頁〕図表1参照)。カテゴリー別では「娯楽用品・レジャー」「教育サービス・用品」「食品(粉ミルク・ベビーフード等)」の3分野で全体の78.5%を占めているが、伸び率では「ベビー・子供向けサービス」が8.6%と最も高い。

“子供向け”にアレンジして潜在需要を掘り起こす

 なぜ、子供の数が減少しているにもかかわらず、マーケットは拡大しているのか。その大きな要因は、1人の子供に注ぎ込まれる支出が増えていることにある。

 10年以上前に「6ポケット」という言葉が流行した。これは図表2(〔『戦略経営者』2008年7月号9頁〕)のように、子供からみた場合のスポンサー(財布)が両親に加え、両方の祖父母を足して「6人」いることを指す。ところが、最近では晩婚化・非婚化の影響によって叔父叔母まで含めた「10ポケット」へと広がってきている。未婚で収入もある叔父叔母が、甥や姪に海外オモチャやブランド服などを嬉々としてプレゼントしているのである。

 とはいえ、すべてのキッズビジネスが10ポケットの恩恵を受けているわけではない。少子化という逆風をもろに受け、厳しい状況に立たされている分野(企業)もあれば、新しい成長の芽をつかみ、パイを拡大している分野もあるということだ。

 では子供市場のなかで、どこに新しい成長の芽があるのか。どういう発想・切り口でキッズビジネスを行えば、潜在需要を掘り起こすことができるのか――。

 1つは、従来は主に大人向けであったものを子供向けにアレンジすることで需要をつかむという発想である。その一例は自由が丘にある子供向け美容院「バーバキッズ」。昔は母親が家で子供の髪を「坊主刈り」や「おかっぱ」に刈っていたものだが、ファッショナブルに装わせたいとか子供のうちからセンスを身につけさせたいという今どきの母親の気持ちを捉えたことで、これまでにない子供向けの美容院を創ることができたのだといえる。バーバキッズでは、椅子を子供が夢中になりそうな「車型」にしたり、好きなビデオやDVDを見ながらカットできるようにしたりすることで、従来の美容院や理容院との違いを打ち出し固定客化をはかっている。

 これと似たようなケースとして子供写真館「スタジオアリス」(〔『戦略経営者』2008年7月号19頁〕参照)が挙げられる。街の写真館が激減しているなかにあって、同社が急成長を遂げている要因はターゲットを「子供」に絞り込むことで業態を革新させたことにある。例えば、お宮参り、節句、誕生日、七五三といったテーマごとに衣装(計600着)をそろえ、着付けやヘアーセットなども行うことで「感動の一瞬(思い出づくり)」を演出しているわけである。さらに撮影した写真を大型モニターに映し出し、好きなものを選択できる仕組み(フォトセレクトシステム/特許取得)をいち早く構築したことによって、「記念写真を撮るならスタジオアリスで」という意識を世の中に浸透させていったのだ。

 2つ目は“体験型”にスポットを当てて新しい子供向けサービスを起こす方法である。その好例は、星野リゾートが展開する「キッズアクティビティGAO」。これは「遊びの達人」(同社スタッフ)と一緒に、例えば森に出かけて昆虫を探したり、スキー場であれば「かんじき」を履いて動物の足跡を見つけたりするというものだ。モノより体験を重視する両親の心をうまく捉え、“遊び”をビジネスに結びつけている。

 キッズシティージャパンが運営する子供向け職業体験テーマパーク「キッザニア東京」(〔『戦略経営者』2008年7月号18頁〕参照)も、このタイプに属す。キッザニア東京では子供が消防士やパイロット、アナウンサーなどの職業(80種類以上)につき、遊びながら社会の仕組みを学ぶというもの。このコンセプトがウケて行列ができるほどの人気で、来春には関西に2号店ができる予定である。

 3つ目は「子供向け」ということで、何らかの付加価値をつけて商品・サービス化するという発想だ。例えば「子供向けなので無添加食品」とか「子供向けなので肌に優しい」とか「子供向け携帯電話」など。この携帯電話は機能を子供向けにカスタマイズしたもので、現在、いろんな種類が出回っている。GPS機能を搭載して子供の現在地を知ることができる機種や、特定のサイトにはアクセスができないようにしている機種もある。つまり最近、安全・安心とかセキュリティに関心を持つ人が増えてきているため、それらを切り口にして子供向けに新しい機能(付加価値)をつけ加えれば需要を掘り起こすことができるというわけだ。

今どきの父親と母親の“ニーズ”のつかみ方

 問題は、子供市場でどうやって収益を上げればいいかにある。ポイントは利幅をどれくらい乗せられるかということと、どれくらいの人数に売れるかを事前にリサーチなどしてつかむことであり、両者の掛け算によって収益額は弾き出される。すると、考え方としてハイエンドの顧客を少しつかまえて大きな利幅で取っていくか、それとも「広く薄く」という方法で収益を上げていくかに大別される。前述したアクティビティGAOの場合はハイエンド層を狙って成功したケースである。

 それは別な言い方をすれば、10ポケットのなかで「誰」をメーンターゲットにして売れば、より収益を上げることができるかを見極めるということだろう。実は、祖父母、両親、叔父叔母ごとに購入する商品は微妙に異なる。祖父母は雛人形、鯉のぼり、ランドセル、七五三の晴れ着など「イベント高額品」を購入する傾向が高い。

 それに対して両親が購入するのは日常品が中心だが、父親と母親への攻め方(アプローチ法)は違ってくる。いま0~15歳の子供を持つ人は、世代的には団塊ジュニアが多いが(〔『戦略経営者』2008年7月号10頁〕図表3参照)、彼等の考え方・意識はそれ以前の親たちとは明らかに違うところがある。例えばファッションに関していえば昔は「子供(女子)は子供らしく、お化粧なんてとんでもない。髪の毛はおかっぱでいい」という考え方だったと思うが、今の母親は違う。

 一時「友達親子」という言葉がはやったが、「ママとお揃い」とか子供と一緒にファッションを楽しむ母親が増えており、彼女たちの意識は大きく変わってきている。そこをうまく突いて成功しているのがフランス発のアパレルブランド「コントワー・デ・コトニエ」。同社は「母と娘のためのファッショナブルなカジュアルウェアを最高の顧客サービスで提供すること」をコンセプトにしており、わずか2年半で国内に20店舗を展開するまでになっている。

 一方、父親をターゲットにして成功しているケースは「マクラーレン」製のベビーカーだ。日本ではベビー衣料の「ファミリア」が総代理店として販売しているが、マクラーレンのベビーカーは日本製に比べハンドルを持つ位置が高いので、男性でも前屈みにならず、背筋を伸ばしカッコよく押せるところに人気がある。同様に、スポーツカーのシートメーカーとして知られる「レカロ」のチャイルドシートも、よく売れている。実際、「赤ちゃん本舗」や「ベビーザらス」のシート売り場に行くと、必ず父親の姿を目にすることができる。

 今の若い父親(団塊ジュニア)は子育ては女性がするものといった旧来の概念は薄く、スタイリッシュに子育てしたいという意識を持つ人が多い。このため、父親をターゲットにする場合は、そうした意識の変化や父親特有の蘊蓄を傾けたいところに光を当てて商品化すれば、マクラーレンのベビーカーやレカロのチャイルドシートのように熱烈な支持者を持つことができるかもしれない。

 いずれにしろ、子供を取り巻く環境が大きく変わってきており、そこにキッズビジネスの商機(成長の芽)がある、と認識すべきである。

(インタビュー・構成/本誌・岩崎敏夫)

掲載:『戦略経営者』2008年7月号