限りなく価値観の多様化した今どきの新入社員。彼らとどうやってコミュニケートし、いかに動機付け、そして戦力化していけばよいのか...成功事例への取材をもとに検証してみた。

甘えを排除し自律型人材を育てる

"新入り"を鍛える!

 中小企業は概して人材育成のパワーやノウハウを持たない。日々忙しく、「それどころではない」というのが本音だろう。

 しかし、人材不足が深刻化するなか、優秀な学生は大手に根こそぎさらわれてしまい、頭数をそろえるのさえ苦労する中小企業が増えている。その意味でも「人を育てる」という意識なしには、会社の存続さえ危ぶまれる時代になってきたといえる。

急速に二極化する新入社員

 とはいえ、一昔前の感覚で無計画に若手の育成を手がけようとすると失敗する可能性が高い。まずは、現在の世相や若者気質を十分認識した上での育成戦略が必要である。

 たとえば、おしなべて中小企業の経営者は、叱るのには熱心だが、褒めることが苦手である。しかし、叱ってばかりではいまどきの若者はすぐに離れてしまう。

 その「いまどきの若者」だが、近年、急速に二極化しつつあると実感している。

 一方のタイプは「成長意欲の極めて強い人たち」である。この種の若者の特徴は、責任感が強すぎて、「先輩に迷惑をかけたくない」などと一人で仕事を抱え込んでしまう。常にあせっていて、放っておくと孤立化し、潰れてしまう。

 彼らに対しては、いかに早い段階で「成長実感」を感じてもらうかがポイントになる。経営者は、気持ちのケアをしながら心の支えになっていく気構えが必要だ。若手社員がマンツーマンで世話役につく「ブラザー制度」なども有効だろう。「いつも見てるよ」「期待しているよ」と声かけをし、たまには食事に連れ出して悩みを聞いてあげるのもいい。

 とはいえ、この種の若者は育成を間違えなければ、大きく成長する可能性が高いし、もちろん有力な戦力にもなる。問題なのは次の2つ目のタイプである。

「ゆとり教育世代」の襲来

 いわゆる「ゆとり教育世代」と揶揄される層で、このタイプの若者は、ベースが「自分視点」である。就職先は安定志向で考え方も保守的。素の自分を出すのがうまい反面、大人に叱られることに慣れていないので、少しお小言を言うだけでモチベーションを著しく下げてしまったりする。結果、先輩社員はどう扱っていいか分からなくなる。

 彼らは、敬語が使えないだけならまだしも、「なぜ先輩を敬わなければならないのか」などと質問してきたりする。信じられないかもしれないが事実だ。こうなるともはやマナー以前の問題である。

 彼らにまず行うべきは、「自分視点」から「相手視点」への転換だ。つまり「社会人常識スイッチ」を押してあげることである。その際のキーワードは「責任感」「他人への配慮」「ルール意識」の3つだ。

 たとえば、自分が被った不愉快な経験を棚卸し的に話し合うだけでも、多くの気づきが得られると思う。そこにロールプレイングを取り入れてもよいだろう。「客としてこう扱って欲しい」と感じた「自分視点」を、意識的に「他人視点」に変換するだけで、責任感や他人への配慮の重要性が見えてくる。考えてみれば当たり前のことだが、これができていない若者が確実に増えていることはしっかりと認識しておくべきだ。

 良い気づきを得たら、今度はそれを繰り返すことが重要になる。要は「良い習慣づけ」を行うことだ。挨拶、電話のかけ方、「ホウレンソウ」...。研修であろうとOJTであろうと、反復させ、出来たときには褒める。そして、ここが重要だが、上司は「期待」を口にすること。明確に期待していることを伝えることで、モチベーションは一気に高まる。

 「ルール意識も極めて重要だ。コンプライアンスの不備で会社が簡単に潰れる時代である。非常識な新入社員の行動が、会社に深刻なダメージを与えることは十分に考えられる。まず、行うべきは、そのルールがなぜルールとしてあるのかから解き明かすこと。そして、彼らのお得意の「これくらいはいいだろう」的な甘えを徹底して排除しなければならない。

「G・PDCA」という考え方

 さて、ここでようやくスタート地点にたどり着いた。後は、本当の意味での「戦力」に仕立て上げていかなければならない。

 目指すべきは「自ら考え、やり切る自律型人材」の育成である。

 高度経済成長時代のキャッチアップ型企業では、本当の意味での「創造力」を必要とされたのはほんの一部のエリートだけ。言われたことをミスなく正確にこなす能力が最も重宝された。当時は、いったん有効なビジネスモデルが確立すると、それが機能するサイクルが長かったためだ。だが、現在のようにグローバルかつ変化の早い競争社会では、スタッフ個々が自ら考え、行動していかないと取り残されてしまう。昨日まで重宝されてきた知識やノウハウが、今日には陳腐化してしまう時代である。

 にもかかわらず、いまだに日本では知識詰め込み型の研修制度を熱心に実践している企業は少なくない。つまり、社会の変化に対応し切れてないということ。

 では、その自律的人材を育てるにはどうしたら良いのか。我々は、そのための方法論として「G・PDCA」という考え方を提唱している。

 従来、P(プラン)D(ドゥー)C(チェック)A(アクション)のサイクルを回すことが、成果を出す秘訣だといわれてきた。これはこれで正しいが、ここにG(ゴール)を加えることで、より自律的な人材育成のツールになると我々は考えている。

 Gとは自らの判断で主体的にゴール(目標)を設定することである。あくまで自分自身が目的意識を持ち、目標設定をすること...ここからスタートするべきだと思う。そのためには、「どこに目的があるのか」も自分の頭で考えることが必要である。

 自分なりに答えを出してみる。そして、その答えに到達するための創意工夫を主体的に繰り返し、価値を生み出すまでやり切る。そのような訓練を研修にしろOJTにしろ実践していくべきだ。

「成長プロデューサー」になれ

 その際にポイントとなるのがやはり経営者を含めた上司の役割である。従来のように部下が意見すると「結果を出してから言え!」と一喝されるような上下関係では、自律型人材は育たない。末端から意見を吸い上げ、マネジメントに反映させるという仕組みが最低限必要だ

 また上司は、この部分だけは必ずその人にやってもらうという「仕事の塊」をつくることを意識するとよいだろう。すべてを上司がサポートすると、やり甲斐や成長実感がもてなくなる。大きなプロジェクトにおいても、なるべく業務を切り分け、自己完結するような仕事を与えるようにすべきである。

 多少のリスクには目をつむり、部下の育成を助ける...上司は、そんな「成長プロデューサー」としての役割を強く意識する必要があるし、また、そのような仕組みや風土をつくるのは経営者自身の役割である。

プロフィール
もりた・えいいち 大阪大学大学院卒業後、アンダーセンコンサルティング(現・アクセンチュア)入社。人・組織に関するコンサルティング経験を経て、2000年にシェイク創業。「自律型人材育成」をキーワードに組織診断、組織風土変革・採用・人材育成のコンサルティングを多数の企業に提供している。『「3年目社員」が辞める会社辞めない会社』(東洋経済新報社)などの著書がある。

(インタビュー・構成/本誌・高根文隆)

掲載:『戦略経営者』2008年4月号