システム移行
自計化を推進し関与先と共に発展する事務所を構築する
システム移行座談会
とき:平成25年6月7日(金) ところ:TKC東京本社
甲賀伸彦TKC全国会ニューメンバーズ・サービス委員会副委員長の司会のもと、他社システムからTKCシステムへの移行を進めた3名の会員が、システム移行を軸に事務所経営について幅広く語り合った。
出席者(敬称略・順不同)
砂野隆英会員(北海道会札幌西支部)
常住 豊会員(城北東京会北支部)
中西英子会員(南近畿会なにわ支部)
司会/TKC全国会ニューメンバーズ・サービス委員会
副委員長 甲賀伸彦会員(北海道会)
信用保証協会での経験を生かして開業後から資金繰り支援に注力
──事務所の特徴を含めて皆さんのパーソナリティやヒストリーをお聞かせください。
砂野 札幌市に事務所を構えています。職員は4名、関与先件数は95件です。「関心を抱かれ・歓心を得て・感心される会計事務所」を経営理念に、気軽に相談いただける「敷居の低い事務所」を目指しています。
経理専門学校卒業後は民間企業に就職したものの、経理部ではなく別の課に配属されました。「せっかく簿記を勉強したのに意味がないな」と思い、1年ほどで退職して会計事務所へ。ここで税務のいろはを教えていただき、税理士試験の勉強を開始しました。9年勤めた後、別の公認会計士事務所で5年勤め、平成18年7月に独立しました。ほぼゼロからの開業です。
2件目の事務所で一緒に働いていた先輩が独立後にTKC会員となり、私の開業時には有無をいわさず「入るよね」と。実はいとこが偶然にも(株)TKCに入社したので、文字通り「血縁的集団」になりました(笑)。
常住 城北東京会の常住です。事務所は東京の北区にあります。関与先件数は法人47件・個人79件、職員数は5名。「損得を考えないお客様第一主義」をモットーに、行政書士の資格も持っていますので税務はもちろん法務・会計の困りごとを解決できる「ワンストップオフィス」を目指しています。
平成6年10月、行政書士事務所として開業しました。税理士登録は平成15年5月、TKC入会は平成21年6月です。行政書士業務と税理士業務にリンクするのが資産税の分野なので、資産税を得意としています。
開業したての頃はバブル崩壊後で、資金繰りや資金調達についての支援要請が多くありました。実は開業前、埼玉県信用保証協会に勤務していて債権回収や企業審査などに携わっていたので、そうした業務は得意分野。気軽に依頼を受けていたところ、社長は大変喜んでくれるし、金融機関も「保証協会にいました」と言うと態度が変わるし(笑)。この時、「お金の面倒を見てあげるとお客様の心をつかめる」ことを体験的に理解しました。それ以来、資金繰り支援や経営改善計画策定支援、事業再生支援などは標準業務として取り組んでいます。
中西英子会員
中西 事務所は大阪市阿倍野区にあります。昭和51年に父が開業し、平成21年12月に承継しました。関与先件数は法人50件・個人20件。職員は4名、うちパートが1名。巡回監査担当者は私を入れて3名です。
母親から「女性でも自分の食べる分は自分で稼げ」と小さい頃から言われていたこと、また両親の姿を見ていたことから、いつしか自然と税理士を目指すようになりました。大学卒業後に大学院へ進学して資格を取得し、その後父の事務所に入所して25年ほど実務経験を積みました。税理士登録は平成3年です。平成21年の事務所承継を機に、TKCに入会しました。
継続MASを使いたくてTKCへの「再入会」を決意
──中西さんと常住さんがTKC入会を決めた背景は?
中西 実は、父は開業時からTKC会員でした。それも「飯塚毅教信者」と言えるくらい飯塚毅TKC全国会初代会長の熱心なファンだったんです(笑)。
ところが平成元年に、他社システムへ「移行」してしまいました。その一番大きい理由は、計算料負担を減らしたいということだったようです。TKCのノウハウはもう十分享受したから、あとは価格の安い他社システムを使って「巡回監査」をすればいいということでした。
ただ「顧問料=入力作業代」との考え方が関与先にも事務所にもあって、他社システム利用前もほとんど自計化はできていませんでした。顧問料の値下げ要求が怖かったんですよね。
ですから重たいノートパソコンを入れたリュックサックを背負って関与先を訪問し、手書き伝票を監査担当者が入力してチェック。経営の話に入るまで6~8時間かかっていました。滞留時間があまりに長くて職員がついてこられず、次から次へと辞めていく。20年以上、同じことの繰り返しでした。
それが事務所承継を控えた頃、継続MAS(経営計画策定システム)を知ったんです。決算検討会でも来期の計画を練るのに相当時間がかかっていたので、「これだ!」と。継続MASなら簡単に経営計画を策定できて、予実対比もできる。年次予算を月次単位に落とし込むのも簡単。どうしても使いたくて、父に「TKCに戻ってもいい?」と相談して承諾を得たんです。
常住 豊会員
常住 実は、TKCだけは絶対に入らないと思っていたんです。高コストというイメージが強かったのと、なにか思想統一されるんじゃないかと(笑)。
きっかけは野口省吾先生(TKC城北東京会)との出会いです。現在私は東京都行政書士会北支部の支部長を務めていて、この北支部に野口先生が入ってきました。「情けは人のためならず」と思って会務に取り組んでいる私の姿を見ていた彼が、「TKC理念と一緒。常住さんなら合いますよ」と。「TKCは好きじゃない」と言っていたのですが(笑)、「事務所をよくしたいならTKCですよ」とあまり言うもので、彼の事務所へ見学に行きました。
そうしたらとてもシステマティックに経営しているし、事務所経営の悩みも腹を割って話せた。ここから他のTKC会員とも交流が始まって、その中で「互いに支え合って税理士業界を発展させ、一緒に企業を守っていこう」という公益の思想を持っている人が多いと感じたんです。
システムも、特に資産税関係はTKCが絶対に良いと言う人が多かった。うちは資産税関連の案件が多いので、それは素直にありがたい。それから「TKCシステムは法令に完全準拠。エラーチェックや指示がきちんと出る」と聞いて、若い職員たちの教育にもいいと思えました。
何より、信頼している野口先生があれだけ良いと言っている。野口先生とは末永く親しくおつきあいしたいと思っていたので、それならTKCに入るしかないかなと。良し悪しはわからないけれどとりあえずやってみよう、ダメならやめればいいやと(笑)。
──ところで砂野さん、システム併用となったのはなぜですか?
砂野 開業当時は住宅ローンを抱えていて家族もいましたので、「早く食べていけるようになりたい」と必死で。とにかく記帳代行でも何でも受けたのが要因です。それで入力が楽だと考えて他社システムを入れました。
その後3年で100件まで拡大できたのですが、入力作業とチェック作業にすごく手間がかかる。その結果、残業続きで職員がばたばたと辞めていく。開業してから7年、通算で14人が辞めていきました。
そこで発想を切り替え、自計化を決意。ただ、FX2はレンタル料があるので安価な他社システムで自計化しました。ところが振替や相殺などは結局職員が入力しなくてはならず、相変わらず残業続きで離職率も高いまま……。2年ほど前、甲賀先生から「そろそろ本気出せ」と叱られて(笑)、TKCシステムへの全面移行を決意しました。
「消費税対応は万全」とPR 現在の自計化率は9割に!
──TKCシステムは巡回監査を大前提として開発されていて、巡回監査体制の早期構築には自計化が欠かせません。皆さんはどのように自計化システム(FX2、e21まいスター等)への移行を進めたのですか。「営業トーク」などがありましたらあわせて教えてください。
中西 決算が終わったところから 財務エントリを入れ、その後FX2に切り替えていきました。このとき、「顧問料を入力作業の対価にしてはもったいない。もっと有意義に、経営の話をするのに使いませんか」と説得していきました。
どんな反応をされるか不安でしたが、「知りたい数字がすぐ分かる」と皆自計化を喜んでくれました。心配していた顧問料値下げの要求もありませんでした。いまでは「支払予定機能」で資金繰りカレンダーを作成するなどして、かなり使いこなしている関与先もいます。
かなりご高齢の方はいまも財務エントリですが、新規契約時はFX2かe21まいスターの導入を前提としています。おかげで自計化率は7割以上。継続MAS導入の環境が整ってきたので、早く次のステージへ進みたいなと思っています。
砂野隆英会員
砂野 本気で自計化を進めるため、毎月所内会議を開くようにしたんです。そうしたら、そもそもどんなシステムがあるか知らないことに気づいた(笑)。
そこで、まずは担当SCGに来てもらってTKCシステムに関する勉強会を開催。手取り足取り教えてもらったおかげで、自信を持ってFX2とe21まいスターを導入できるようになりました。新規契約時には、「会計事務所に記帳代行を依頼している会社ほどつぶれますよ」と言っています。この言葉は響くようですね。いまは、「消費税改正への対応もTKCなら万全です」「TKCは『中小会計要領』にも完全準拠。保証料も0.5%減免されますよ」を決め言葉にしています。おかげで自計化率は9割になりました。
初期指導でしっかりフォローできればその後のミスが少なくなっていき、その分、財務分析や経営についての話に時間を割けるようになる。関与先も、やっぱり経営について税理士と会話できるほうが面白いんですよね。事実、移行後に離れた関与先は1件もありません。
常住 他社システムのリース期間は残っていましたが、併用は非効率だと思い、TKC入会を機に全面移行を決意。新規も既存関与先も、法人も個人もすべて「FX2あるいはe21まいスターを入れてください」という方針にしました。
システムの説明に行くときは、最近は職員ですが当初は担当SCGに同行してもらっていました。システムデモを見せながらSCGから淡々と概要を説明してもらい、私がその意味を熱く語って説得する──という役割分担でプレゼン。この方法でかなり自計化が進みましたね。
FX2導入で業績がV字回復 3年目に黒字企業へ転換できた
──FX2のレンタル料についてはいかがでしょう。
砂野 「レンタル料を負担してもらう代わりに税理士報酬を下げます。1年間続けてどうしても嫌だったら言ってください」と提案しています。基本的に、1年後には税理士報酬も元に戻してもらっていますね。
中西 私も、レンタル料はできるだけ頂戴するようにしています。法人の場合、規模によりますが「顧問料+レンタル料」で35,000~50,000円と案内しています。
常住 レンタル料は絶対に値下げしません。砂野さんと同じく、「顧問料を1万円下げるからFX2は絶対に入れてください」と説得しますね。単純に金額だけを言うと「なんでそんな高いソフトが必要なんだ」という話になってしまうので、「安い会計ソフトとはそもそもできることが違うんです」と伝えています。
──具体的にいいますと?
常住 「TKCシステムは経営のためのシステムなんです」と。節税も重要ですが、税金を払えるくらいでないと会社は大きくならない。成長するには銀行から資金調達ができるようにならなければいけないし、円滑な資金調達のためには毎月きっちり予算管理と利益管理、そして資金管理をしていく必要がある──という話をします。
その上で、「いままで多くのシステムを見聞きしてきたけれど、予算・利益・資金の三つを管理できるシステムはTKCしかないんです。人件費一人分以下の金額で会社が成長できるならいいでしょう? せっかく顧問料を払うんだから、税務署のためではなく、会社を大きくするための決算書を作りましょう!」とプレゼンすると、皆納得してくれますね。
──FX2の正式名称は「戦略財務情報システム」ですから、まさに経営のためのシステムなんですよね。
中西 FX2に替えてからV字回復を果たした関与先は結構ありますね。たとえば、従業員が20人くらいのある会社の決算書を見たら限界利益は赤字、棚卸は粉飾、多額の借入金……。
関与後すぐにFX2を入れ、社長に部門別の業績管理と原価管理を徹底してもらいました。そうしたら3年目に黒字転換し、今は売上約5億円、当期利益約3,000万円の企業になったんです。社長は「おかげで倒産の危機から救われた!」と喜んでくださいましたが、FX2でなければ問題点が分からず、何をすべきかも見えてこなかったと思いますね。
OMS+FX4クラウドで「総務担当者一人分」の働き!
──事務所管理のための必須アイテムはOMS(税理士事務所オフィス・マネジメント・システム)ですが、皆さんはどんな使い方をされていますか。
砂野 開業当初、周囲に説得されて渋々OMSを導入しましたが(笑)、いまでは早くから導入しておいて正解だったと思います。OMS内の「業務日報作成システム(DRS)」には関与先の情報がずっと履歴として残っていますので、担当職員が代わっても業務に支障が出ません。
それに巡回監査率や職員の業務内容、たとえば消費税の届け出をきちんと出したかといったこともすべて把握できます。「mobile+WiMAX/3G」を使えば外出先でもチェックできるので、かなり重宝していますね。
常住 以前はタイムカード・残業申請書・OMSを併用していましたが、業務の煩雑さや事務所の法的防衛の観点からもこれではダメだと思い、OMSに一元化しました。そして職員がその日に行った業務内容をDRSから報告する体系へと整えました。それと、私は外出が多いので、スケジューラを使って職員の行動や状況を把握しています。OMSは職員との意思疎通のためのツールという感覚です。
──砂野さんは事務所の業績管理のためにFX4クラウドを活用しているそうですね。
砂野 いくつでも部門を増やせる利点を生かして、私の場合は顧問先ごとに部門管理をし、売上や利益率を見ています。
たとえばFMS(税理士報酬管理システム)のデータをFX4クラウドの「自動仕訳読込テンプレート」で読み込むと、画面切り替えをせずに関与先別の売上や売掛金の回収状況などがチェックできます。業種ごとにも分けられますし、「マネジメントレポート設計ツール」を使えば事務所内の売上・利益状況がグラフ等で「見える化」できる。いわば、「OMS+FX4クラウド」で、まるで総務が一人入ったような感覚。すごく便利ですよ。
信頼できる仲間とともに高品質のサービスを提供したい
司会/甲賀伸彦副委員長
──会員に伝えたいことがありましたら、ご自由にどうぞ。
砂野 TKCシステムを活用して、会計を軸に関与先支援を行っていけば、これからの時代も乗り越えていけると思います。
実は開業したての頃、初歩的なミスをして関与先から責められたことがありました。でも申告まで「一気通貫」のTKCシステムを利用すれば恥ずかしいミスは防げますから、事務所防衛にもなりますよね。それに見解の相違があったとしても、税務調査で否認される可能性が低くなりますから、結果的に関与先防衛にもつながります。
目指すは自計化率100%。自分で使ってみてその良さが分かったので、今後は関与先のニーズに合わせて、FX2からFX4クラウドへと切り替えていきたいと思っています。
常住 TKCシステム移行後の感想を職員に聞いてみたら、「決算までのリズム、巡回監査のリズムが確立した」「TKCシステム間でデータ連動するから汎用性がある」。仕事がしやすくなったと好評のようです。
それから、資産税システムもすごく良いことをぜひ知ってほしい。特に相続税申告書作成システム(TPS・ASP8000)は、二次相続までを含めた相続税のシミュレーションもできるので、一次相続の遺産分割を検討する際にはとても参考になります。
最後にもう一つ。特に同業で、仲間として一緒に手を携えて前へ進もうと言い合える関係は意外と少ないですよね。だから私のように、TKC会員と出会って何か感じるものがあれば、だまされたと思ってぜひ試してみてほしいと思います(笑)。
中西 TKCに入会して一番感じたのは、TKC会員は常に最先端を走っているということ。たとえば経営革新等支援機関への認定申請。担当SCGや周囲の先輩から強く勧められて申請し、1月に認定を受けたのですが、その直後に国の補助金制度が拡充されるなどしましたよね。非常に情報が早い。TKC会員の「感度」を実感しました。
何よりありがたいのは、組織全体を底上げしようと皆が頑張っていて、先輩や仲間が惜しげもなくノウハウを公開してくれること。関与先拡大やペーパーレス化の方法など、効果的な事例をずいぶん教えてもらえました。これからも信頼できる先輩や仲間に助けてもらいながら、質の高いサービスを関与先に提供していきたいと思っています。
──TKCシステム活用で関与先が成長し、事務所職員も働きやすい環境が整う。結果的に事務所の繁栄へとつながっていく……。そうした「良いスパイラル」の継続を、これからも皆さんに期待しています。
(構成/TKC出版 篠原いづみ)
(会報『TKC』平成25年8月号より転載)