事務所経営
関与先に安心感をあたえる「知的体育会系」最強チームを目指す
税理士法人ひまわりFC 中村哲郎(九州会鹿児島支部)
中村哲郎会員
(TKC九州会副会長。56歳)
中村哲郎会員は、今年の6月に税理士法人ひまわりFCを設立。社員税理士の谷村淳会員と共に「凡事徹底」で所内体制を構築し「経営に役立つ経理を目指そう」を掲げ自計化にも積極的に取り組んでいる。e21まいスターの推進を進めた若手職員4名も交えて、推進のポイントをうかがった。
所長勉強会「一の会」が励みに 事務所を超えて職員同士も交流
──中村先生が税理士を目指されたのはなぜですか。
中村 私は、造船所で設計業務に6年間携わった後、昭和59年に従兄弟の中村勇税理士事務所に入所し、3年ほど司法書士の勉強をしていました。その後、消費税創設を機に税理士を目指し、平成8年に税理士試験に合格。従兄弟がTKC会員でしたので、登録後すぐにⅢ型会員としてTKCに入会しました。
──その後、独立開業された経緯を教えてください。
他士業と共に入居する「ひまわり総合事務所」のビル。
1階に税理士法人ひまわりFCがある。
中村 実は当時、事務所に残るか独立するか非常に悩みましたが、私が事務所を継ぐことはないだろうという思いから、平成11年に自宅で開業することに決めたんです。その後、事務所を借りて職員も雇った矢先、突然従兄弟が不慮の事故で亡くなり、事務所に戻って職員と関与先を引き継ぐことになりました。
そして、従兄弟が参加していた所長勉強会「一の会」にも参加するようになりました。九州会鹿児島支部の柴田良孝先生、藤元勝先生、岩元耕児先生とともに、十数年にわたりのべ200回以上もの勉強会が開催されています。毎月1回、KFSなど11項目についてお互いの進捗状況を確認し合い、目標達成に向けて切磋琢磨することが、事務所経営をする上でも励みとなっています。
──職員さん同士の交流はありますか。
中村 あります。「一の会職員勉強会」として約70名の職員が集まり、年に1回FXシリーズの導入件数、翌月巡回監査率等9項目の成績上位者に対する表彰をしています。職員同士が事務所を超えてKFS等の推進目標を競い合うことで、業務の手を抜かないぞという意識付けにもなっています。
──今年6月に税理士法人を設立されたそうですね。
中村 職員の谷村淳が資格を取得してから2年経過したことから、今年の年初に谷村と話し合い心機一転税理士法人を設立しようと決めました。もちろん、法人であればノウハウを継続することができるので関与先や職員も安心してもらえるだろうという思いもありました。
法人名のひまわりは、同じビルに入居する司法書士、社会保険労務士などと合同でつくった一般社団法人ひまわり総合事務所が由来です。FCには、経営理念である「取引先の真の発展と社員の真の幸福と地域社会への真の貢献」、For client、For crew、For communityの意味を込めました。「サッカーチームを作ったの?」と言われることもありますが(笑)。
谷村淳会員
谷村 所長から税理士法人設立の話を聞いたとき、私は事務所の強みを生かしていくためのお手伝いがしたいと思いました。関与先からは、「税理士法人になったので、これからも安心して任せられるよ」というお言葉をいただきました。
他の士業と共に、総合コンサルティング業務をワンストップで提供できる体制があるので、それをアピールしていきたいですね。
「フットワーク」「ハートワーク」に加え「ヘッドワーク」でチームワークを強化
──所内体制と職員錬成のための研修制度について教えてください。
職員さん手作りの
マスコットキャラクター。
中村 職員の年齢層は20代から60代までと幅広く、所内を3つの監査グループに分けています。グループごとに最年長者が相談役、ナンバー2がリーダーとなり、グループの成績次第でリーダー手当が変わる仕組みです。
以前は翌月巡回監査率90%前後を推移していた時期もありましたが、95%と目標を掲げ、各グループで競わせたことで監査率が伸びました。それからは、95%以上をキープしています。以前に比べて精神的に余裕が生まれたことで、職員の積極性が養われたことが最大のメリットです。その他にも、月間MVPを投票で決めて、重点監査事項や推進事項の表彰も行っています。
所内には、7つの委員会(研修、広報、管理文書、電子化、巡回監査、MAS、厚生)を設けて、「イモがイモを洗う」ようにお互いに磨かれるような体制づくりをしています。早朝始業前の毎週火曜日に『実践! 経営助言』(TKC出版)を木曜日に『税務通信』(税務研究会)の読み合わせを行うなど、薩摩の郷中教育に倣った職員主導の自発的な勉強会も行っています。
私が職員に望むことは、心・技・体のすべてを身につけてほしいということ。いまは、「フットワーク」(機動力)と「ハートワーク」(心からの支援)がウリの事務所ですが、さらに「ヘッドワーク」(知力)を伸ばすことで、所内のチームワークがいっそう強化されると思っています。
──職員さんのフットワークとハートワークが磨かれた秘訣はなんですか。
中村 しいて言えば、所内のオープンな雰囲気が功を奏していると思います。年初の目標に「会計事務所のバルサをめざす」という目標を掲げて、全員でサッカーチームのFCバルセロナのような最強のチームを目指しています。
事務所以外で研鑽を積むことも必要ですから、年に1回程度は県外に事務所見学会に行くことで、職員同士の交流の機会もつくっています。
e21まいスターを導入したことで売上変動に応じて対策が打てるように
──積極的に自計化を推進されているそうですね。
中村 新規で関与する場合は、自計化を前提にお願いしているので、FXシリーズを中心に導入してきました。今年の4月にe21まいスターが提供開始となってからは、FX2の導入が進んでいない既存の関与先3社に対して自計化を進めることができました。システムの選択肢が増えたことで、今まで以上に売上規模や業種に応じたシステム提案が可能です。
関与先6件に対し、新規関与も含めて、e21まいスターを導入した経緯については、担当した若手職員4名に語ってもらいます。
福園大輔氏
福園 私は、新規で関与した看板製造業と管理組合にe21まいスターを導入しました。2社とも自計化に対する抵抗はもともとなく、コスト面でFX2の導入を躊躇されていました。FXシリーズと比べて低価格であること、経理が楽になることが導入の決め手でした。
「しっかり会計」は、現預金を入力すれば試算表が作成できますし、給与計算や請求書の作成が「あんしん給与」「かんたん請求」から連動されるので、システム導入前と比べてとても効率的です。導入後は、初期指導や実際の経理処理にかける時間が短くなり、2社とも月内に伝送を完了し、スムーズに移行していただくことができました。
有木卓也氏
有木 新規で関与した中古タイヤ輸出業はFX2のコストがネックだったことから、低価格をアピールしてe21まいスターの導入が決まりました。経営者の娘さんが入力を担当しているのですが、すぐに覚えて「とても分かりやすいシステムですね」と喜ばれています。私にとっては、巡回監査の際に経理指導しやすくなったことが最大のメリットです。
西健一郎氏
西 新規関与のサービス業と財務エントリ21から移行した建設業の2社に導入しました。2社とも自計化にあたってシンプルな機能を求めていたこともあって、FX2と比べて財務管理機能が必要最低限に絞り込まれていたことがニーズにマッチしました。
特に個人経営のサービス業(エステ・ネイル)では、「しっかり会計」の「業績の確認」の機能を使って、取引先毎に毎日売上を入力することで、売上速報のグラフが確認できるので、楽しんで入力されています。エステとネイルの売上を分けて予算登録してあるので、予実対比も一目瞭然です。売上の変動を確認しながら「客足が伸びないのでDMを発送しましょう」などのアドバイスも可能になりました。機能的にも十分満足されています。
堀宏吏氏
堀 財務エントリ21からの移行を担当しました。e21まいスターは構成が分かりやすく、画面の左から順番に入力していくことで、入口から出口まで簡単に行うことができます。関与先からは、「総支給額の計算さえしておけば、後は電卓を使って給与計算までできる」と喜んでいただけました。まだ導入して間もないこともありますが、「以前よりも便利になった」と言っていただけるように、フォローしていきたいと思います。
所長としての方向性を示し、将来に対する不安を取り除きたい
──職員さんが積極的に関与先の自計化を進めていらっしゃいますね。
中村 そうですね。職員が自信を持って自計化を推進してくれるので助かっています。お客様からも「担当の職員が親身に相談にのってくれるから助かる」と言われるようになり、職員の担当先からご紹介をいただく案件も増えています。
今後は、主に新規開業時のパッケージとしてe21まいスターを推進していきます。e21まいスター「玉手箱」に搭載のホームページ作成機能についても、活用すれば、きっとお客様から喜んでいただけると思います。経営に役立つ経理を目指し、関与先の自計化100%が目標です。
自計化している関与先の中には81歳でMX2の入力をされる医院長夫人もいらっしゃいますし、我々が先入観を持たずに提案してみることが大事だと思います。
──初期指導の際に工夫していることはありますか。
中村 関与先毎に売上仕入確認書を作成して管理しています。関与先の業務の流れとそこで作成される書類を把握するためのもので、税務調査や意見聴取時の説明資料としても活用しています。担当の職員以外でもお客様の状況が分かるので重宝しています。
また、私が一番時間をかけてもらいたいと思っているのが、継続MASを使った経営計画の策定です。経営計画は企業にとって、いわばヘッドライトです。我々は事務処理屋ではなく、戦略経営支援者であることを理解していただくためにも継続MASの活用は不可欠です。現在134社に予算登録しており、目標は全社の予算登録です。
谷村 計画の実行には時間がかかるので、一つひとつ確認することで、改善している項目があれば、社長さんにとってのやりがいにもつながると思います。
──金融機関から融資を受ける際にも役立ちますか。
中村 金融機関への決算報告は、社長とともに担当者が同行しています。決算書に継続MASの「資金繰り計画表」を付けると、融資がスムーズに進みます。実は鹿児島支部の金融機関交流会で、ある金融機関の担当者から、「TKC会員の巡回監査率と、書面添付の件数を公表してほしい」という声が上がりました。TKCのこれまでの活動を金融機関も注目していることがよく分かりました。
──今後の事務所経営の抱負は?
中村 私が所長として行うべきことは、職員や関与先に方向性を示し、将来に対する不安を取り除くことです。私のテーマは経営学者の野中郁次郎教授の言われる「知的体育会系」を体現する組織づくりです。「凡事徹底」で基本を疎かにしない人間形成を図り、職員とともに誠心誠意お客様のために尽くしてまいります。
鹿児島の城山観光ホテルで開催された
「ひまわり総合事務所10周年記念パーティー」(平成24年10月10日)
(TKC出版 益子美咲)
月次関与先件数225件(法人187件・個人38件)。スタッフ17名(うち、税理士2名)パート3名。継続MAS予算登録数134件、FX2導入件数163件、巡回監査率97.2%(平成24年9月末現在)。
税理士法人ひまわりFC
住所:鹿児島県鹿児島市東開町4番地112
電話:099-263-5191
(会報『TKC』平成24年11月号より転載)