事務所経営

FXクラウドによる生産性向上で社長の理想の実現を支援したい

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福嶋恭則会員 中島 透氏

左から福嶋恭則会員、中島 透氏

長野県飯田市のふくしま会計 福嶋恭則税理士事務所では、インボイス制度対応にTKCシステムを積極的に活用している。月次決算では、消費税の課税区分のチェック機能を用い、勘定科目別消費税額集計表を確認すること等によりミスを削減し、決算業務の生産性が向上。現在はFXクラウド導入を積極的に推進しており、関与先の経理業務の効率化とともに、「365日変動損益計算書」に基づく社長との対話時間確保によって満足度向上にもつながっているという。福嶋恭則会員と事務長を務める中島透氏に、システム活用方法等について詳しく伺った。

「地域No.1おせっかい事務所を目指す」関与先の黒字企業割合は約6割

──ご経歴をお聞かせください。

福嶋恭則会員

福嶋恭則会員

福嶋 大学卒業後の4年間は東京の専門商社で営業職を務めていましたが、結婚を機に妻の実家がある長野県へ移住し税理士事務所へ入所しました。その後、平成22年に税理士登録し、25年12月にTKCに入会。29年7月に飯田市で税理士事務所を開業し、今年で7年になります。関与先数は法人105件、個人35件の計140件です。

──事務所の経営理念や方針を教えていただけますか。

福嶋 経営理念は「ありがとうと言っていただける仕事をしよう」です。事務所で働く職員の皆が関与先を支援し、心からありがとうと言ってもらえる仕事をしたいという思いでこの理念を掲げています。経営方針は「熱意を持って地域№1おせっかい事務所を目指す」です。この「おせっかい」とは、関与先の懐に入って熱心に話を聞き、理想の実現をお手伝いするということです。

──事務所の体制を教えてください。

福嶋 職員は、男性5名、女性8名の計13名で、うち3名がパートです。入所5年を超える職員が5名おり、盤石の事務所体制になりつつあると感じています。中には金融機関からの紹介で勤めてくれている職員もいます。
事務所ではTKCシステムを積極的に活用しています。FXシリーズをほとんどの関与先に導入済み、もしくは導入予定で、証憑保存機能もほとんどの関与先が活用しています。
現在は、FXクラウドの推進に力を入れているところです。長野支部の書面添付推進委員長を務めていることもあり、書面添付推進にも注力しています。

──関与先の地域性や業種の特長はありますか。

福嶋 長野県飯田市は、南アルプスと中央アルプスに囲まれた天竜川沿いの伊那谷と言われる、他の地域から隔離された人口16~17万人の小さな経済圏にあります。主な産業は伝統工芸の水引製造業、精密機械工業、土木工事業で、関与先の約半分がこのような業種です。
関与先の約6割が黒字企業であることも特長で、令和6年版TKC経営指標(BAST)の収録企業においては、6社が優良企業に該当しています。

「課税仕入れの仕訳チェック」機能で消費税課税区分の誤りを防止できる

──インボイス制度が開始されるにあたって、どのような準備をされましたか。

福嶋 制度の周知徹底のため、制度開始の1年前には集合形式でTKC経営支援セミナーを開催しました。多くの方に参加いただけるよう、日中・夜間と時間帯を変えて数回行いました。
制度開始の半年ほど前からは個別対応で指導しましたが、会社の規模によって課題が異なるため苦労しました。工務店や建設会社、製造業の関与先にはその下請けの企業の方にも来ていただいて勉強会を開くこともありました。
制度が開始されてからは、TKCシステムが実務対応に非常に役立ちましたね。

──どのように活用されていますか。事務長の中島様にもお聞きします。

中島 とても便利なのは、FXシリーズの取引先マスターに適格請求書発行事業者の登録番号を入力できる機能です。法人番号や登録番号から適格請求書発行事業者の取引先名や住所を複写でき、使い勝手がよいと思います。巡回監査担当者が関与先の経理担当者に、取引先の登録番号を入力するように指導しています。

福嶋 ミスの起こりやすい消費税の課税区分について、FXシリーズには、月次で締める際にインボイス制度における「課税仕入れの仕訳チェック」機能があるため、法令遵守という観点からも安心です。これにより、あらかじめ登録してある事業者登録番号に基づいて正しい課税区分が入力されているかチェックを実施できます。また、例えば、基準期間課税売上高1億円以下等の事業者の場合に、1万円未満の課税仕入れで課税区分[52]を選択していると、[5]でよいというメッセージが表示されます。インボイス経過措置の適用となる仕訳を一覧表示して確認できる点も便利ですね。
さらに、「勘定科目別消費税額集計表」を巡回監査時に必ず確認することで、消費税の課税区分のチェック漏れが軽減されました。かつては決算時に元帳を見直すと必ず誤りがありましたが、今は決算時に課税区分を修正することがほとんどなくなり、生産性の高い決算業務につながっています。

中島 以前、税務調査の際に税務署の調査官からTKCの勘定科目別消費税額集計表があるかどうか尋ねられ、「それをもらえれば、消費税の調査は半分終わるようなものだ」と言われたときには、第三者からの信頼性の高さを実感しました。
また、勘定科目内訳明細書の様式改正に伴い、登録番号の入力が手間の掛かる作業となっています。その点、TKCの勘定科目内訳明細書作成システムにおいてはFXシリーズの取引先マスターで「登録番号(法人番号)」の登録があれば、各内訳書の登録番号欄に複写できるのでとても楽ですね。関与先に登録を促しています。事業者登録番号または法人番号を入力すると国税庁の公表サイトから名称を複写できるという機能もありがたいです。

「数字への意識が高い」社長はFXクラウドの導入で満足度が高まる

──FXクラウドシリーズを積極的に推進されているとのことですが、導入後に変化はありましたか。

福嶋 FXクラウドによる事前確認により、事務所で仕訳や残高の内容等を確認できるようになりました。関与先からの質問があったときには同じ画面をお互いに確認しながら指導できるため、以前よりも自計化を推進しやすくなりました。結果的に、巡回監査でのチェック等にかかる時間も短くなっています。

──関与先の経理担当者からは、どのような反応がありましたか。

中島 証憑保存機能、銀行信販データ受信機能、タブレットPOSレジからのデータ受信機能等によって経理業務の効率化につながっているとの声をいただいています。関与先でも社員の残業時間の削減が課題となっており、短時間での効率的な巡回監査は喜んでもらえます。

福嶋 巡回監査を効率的に実施してその時間を短縮する一方で、社長や幹部の方と業績を確認する時間を確保して付加価値を高めることも重要ですよね。

中島 黒字企業の社長は、巡回監査前に、FXクラウドで試算表等を確認している方が多いです。例えば「先月は、この数字が伸びているね?」と、社長から聞かれるようなこともあります。「数字への意識が高い」社長は、FXクラウドを導入して、今までよりも満足度が高まっている印象です。

──巡回監査で、社長とは具体的にどのように対話されるのですか。

福嶋 基本的に「365日変動損益計算書」を一緒に見ながら業績を確認し、指導しています。社長から質問があれば、その場で該当する数字をドリルダウンしながら原因等をすぐに明確に説明できるため、理解してもらいやすいです。

中島 決算の時は、OMSから出力できる「経営分析報告書」を一緒に見ています。過去10年の営業成績や財産の状況の推移を数値情報とグラフで確認できるため、お付き合いの長い関与先とは10年を振り返りながら、「過去と比較してこんなに数字が伸びた」とか、「もうちょっと成長できそうかな」など、現在位置と目指すべき未来を確認する大切な機会となっています。

──そういった対話の蓄積が黒字企業や優良企業の育成につながっているのでしょうか。

福嶋 関与先の多くは、代替わり等のタイミングで「今のままではいけない、何か変えよう」という思いでこの事務所に来られて日々努力されています。ですから、黒字化は関与先の努力によるものですが、私たちはその理想の実現をできる限りサポートするために、接触率を高め関与先と向き合うようにしています。

──事務所でご活用されているOMSについてもお伺いします。特に活用している機能やシステムはありますか。

福嶋 よく使っているのは「OMS電子サインシステム(ESS)」です。法人では予定納税、届出書の承認の際等に使用し、個人では不動産所得の確定申告や比較的簡易な申告の際に使用しています。業務の効率化につながっているので重宝しています。関与先から「このシステムが欲しい」と言われたことがありました(笑)。
また、「TKCチャット」も欠かせません。関与先、巡回監査担当者、事務長の中島、私の4名でグループを作成しています。それによって、職員がそれぞれの関与先とどのようなやりとりをしているか、随時確認することができます。

中島 TKCチャットは、業務を指示する立場からすると、職員の管理にあたって非常に便利な機能ですね。

福嶋 関与先から夜遅くや土日祝日に緊急の連絡が来たとき、職員が体調等の理由で急に不在となったとき等は、基本的に私と中島の2人で対応します。そのような際にもTKCチャットがあればスムーズに引き継ぐことが可能です。
全職員を宛先に入れて、所内連絡や情報発信のツールとしても活用できます。誰が既読なのか分かるのも良い点です。

中島 私は「関与先カルテ」機能が気に入っています。基本情報・会社概況・財務情報・税務情報など、TKCシステムによる情報が集約されており、1画面で関与先の概要を瞬時に把握することができる機能です。トップページからすぐにアクセスできるので、日頃からよく見ています。
例えば「消費税の簡易課税届出状況はどうだっけ」というようなときも、この関与先カルテからすぐに確認できます。

インボイス制度対応下での決算・申告業務の生産性向上のポイント

インボイス制度対応下での決算・申告業務の生産性向上のポイント

──これからの目標や展望をお聞かせください。

福嶋 まずは令和7年12月までに自計化率100%、継続MASの全件活用を目標に掲げています。それによって生産性を向上させ、「残業時間の削減」と「顧客満足度の向上」の両立を図っていきたいと思います。
開業して7年、まだまだ道半ばですが、TKC会員になって本当に良かったと実感しています。会員でなければ、時流に沿った事務所運営の方向性も、今やるべきことも分かりません。しかし、TKC全国会の方針に沿って取り組めば、品質の高い業務水準が確保され、制度対応に必要なシステムや職員の研修制度も活用できる。自分一人でこれだけのことを考え実現する事は不可能です。そのため、今はとにかくTKCの方針に沿って取り組んでみようと考えています。
とは言え、当事務所にはまだまだ弱点がたくさんあります。完璧を目指すのは難しいので、毎年テーマを掲げて一つずつ新たな強みをつくりながら、事務所のバランスを整え前進したいです。
TKCの会務に参加していると多くの会員先生とお会いする機会があり、大きな刺激を得ることができます。そのような会員先生方とはもう運命共同体です。日々、切磋琢磨しながら一緒に成長していきたいと考えています。

(インタビュー・構成/SCG営業本部 勝田浩幸)

事務所概要
事務所名 ふくしま会計 福嶋恭則税理士事務所
所在地 長野県飯田市高羽町1-4-10
開業年 平成29年7月
職員数 13名(巡回監査担当者8名)
関与先数 140件(法人105件、個人35件)

(会報『TKC』令和6年11月号より転載)