事務所経営

縁を大切にして目の前の業務に一生懸命取り組み、グループの中核企業と顧問契約を締結

目次
 税理士法人田尻会計 田尻吉正会員、古沢暢子会員

左から田尻吉正会員 古沢暢子会員

2023年からグループ通算制度を採用したA社グループの支援を行い、運用支援を継続する中で事務所の対応力を評価され、グループ内の組織再編に伴い新設された子会社B社と顧問契約を締結された税理士法人田尻会計の田尻吉正会員・古沢暢子会員(東・東京会)にお話を伺いました。

月次巡回監査率95%以上を維持顧問先との長い信頼関係を構築

──事務所の概要を教えていただけますか?

田尻 当事務所は昭和52年に開業し、当初はパート社員1名とお客様2社でスタートしました。地元の企業とのつながりを大切にし、現在では、約410件の関与先があります。そのうち225件は月次顧問契約を結んでいます。
事務所の方針は「月次巡回監査を徹底すること。お客様や仲間との縁を大切にすること」です。現在、32名の職員が在籍しています。ありがたいことに長く勤めている職員が多く、長期間にわたってお客様との信頼関係を構築できています。
月次巡回監査率は95%以上を維持しております。巡回監査担当者は、毎月お客様と顔を合わせ、グラフや図を用いたわかりやすい報告書を提供し、お客様に正しい経営状況を把握していただけるように努めています。

TKCシステムのエキスパートチェック機能等で申告書作成受託が安心

──中堅・大企業へのシステム・コンサルティングについて、委託された際の感想や当業務に取り組む際、苦労された点などを教えてください。

古沢 最初にシステム・コンサルティングを経験したのは、今回取材をいただいたA社とは別の企業への連結納税システム(eConsoliTax)(現グループ通算申告システム(e‐TAXグループ通算))の導入でした。
連結納税制度だけでなく、大企業へのシステム導入のコンサルティングも初めての経験で不安を感じましたが、一方で自分が職業会計人として成長できるチャンスであること、また当事務所に期待してTKCから声をかけていただいたことは光栄なことでしたので、頑張ろうと思いました。
いざ取り組んでみるとTKCシステムから出てくる充実したエキスパートチェック機能や検討表に助けられ、企業と試行錯誤をしながら、なんとか導入をやり遂げることができました。
連結納税(現グループ通算)制度に対応した申告は、非常に複雑であるため、TKC連結納税システム(eConsoliTax)やe‐TAXグループ通算といったTKCシステムを利用していなかったら、対応は難しいと感じます。
当事務所でグループ通算申告書作成業務を受託している案件がありますが、TKCシステムを利用することで効率よく正確に作業が進みます。規模が大きい会社は別表の内容や処理も複雑なため、システムによるチェックが重要です。
TKCシステムは過去に遡及して修正できないところなどが不便だと感じる時もありますが、気軽に修正して間違いが出るよりも、システムに合わせて入力をしていくことでミスを事前に防ぐことができ、かつエキスパートチェックを活用することで、申告書の作成業務を安心して受託することができます。

──新しい業務に取り組むにあたって、事前に学習されたことなどはありましたか。

古沢 この業務を受託した当初、私自身は大企業や上場企業の税務申告に対応した経験がなかったため、大企業特有の別表の調整などについて勉強しなければなりませんでした。最初はTKCのワークショップで集中研修会を受講したり、その後は中大研のオンデマンド配信研修や税理士会のWeb研修、書籍を活用して知識を身につけました。

──既存の業務もある中で、どのように勉強時間を確保されているのでしょうか。

古沢 事務所への通勤時間を利用して勉強しています。そのため、税理士受験生の頃は頭の中で条文を暗唱しながら歩いていることもありました。
連結納税制度のように初めてのことや難しいことを勉強するときは、まずは本を2冊探すようにしています。1冊は「簡単!」「これならわかる!」というタイトルがついているような入門編の本、もう1冊はきちんと解説している専門書です。入門編の本で大枠をつかんでから専門書を読み、さらに理解を深めていくという方法で勉強しています。

──通勤時間まで勉強に充てているとのことですが、リフレッシュ方法はどのようにされていますか。

田尻 古沢さんは走りに行くよね。フルマラソンも走ったね。

古沢 ちばアクアラインマラソンを走りました! 仕事が煮詰まってくると、走りに行きます(笑)。

企業の要望にTKC社員とも連携して対応

──今回の顧問契約は年2回の運用コンサルティング支援サービスがきっかけと伺っています。訪問の前にどのような準備をして臨まれているのでしょうか。

古沢 運用コンサルティング支援サービスでは、コミュニケーションや情報提供を重視しています。
企業の担当者の方とコミュニケーションを取るための準備として、その企業の扱う商品や業界の状況に加えて、関連する時事問題やその企業特有の経理財務の課題などを調べ整理していきます。共通の話題を用意することです。
情報提供については、ここ数年大企業向けの税制改正が少ないこともあり、税法に関しては大まかな説明にとどめています。代わりに経理業務の共通のテーマとなるもの、近年ではインボイス対応や電子帳簿保存法などをProFITを活用して準備しました。
令和7年2月~3月に実施した際は、新リース会計基準に関して、TKCで開催しているセミナーやTKC税務・会計Webコラムなど、TKCホームページに掲載されている情報を一覧にして別途持参しました。
先日、とある企業から電子納税を実施したいという要望をいただきました。その際、電子納税の対象となる税目など、普段の業務と関連する部分についてヒアリングを実施し、訪問後にTKC社員へその内容を連携してシステム対応を一緒に準備しました。電子申告義務化や電子帳簿保存法への対応の際も、同様の対応をしました。
新しい制度への対応は、どの企業担当者も苦心します。例えば電子申告義務化対応の際には、国税庁のシステムを利用するのか?TKCシステムの対応は?他の会社はどうやっているか?──など、多くの質問をいただきましたが、まずは自分が知っている範囲で話をし、その後、TKC社員と連携して対応しています。
自分の知識の範囲内で話せることが少ない場合は、TKCが開催しているセミナーを案内したり、TKCや官公庁などのホームページに掲載されている情報をお伝えするようにしています。
また、当事務所は関与先を含め、複数の企業のシステム・コンサルティングを担当していますが、企業からお伺いした話や経験したことを、別の企業を訪問した際に生かすことを心がけています。

税理士法人田尻会計

普段の事務所のサポートに対する安心感から顧問契約に至った

──TKCが発信している情報などもうまく活用して準備をされているのですね。
今回の顧問契約に至ったいきさつや提案、普段の対応などを教えていただけますか。

古沢 事務所のスタンスとして、企業から税務に関する質問がきた場合、必ずしもスポット契約を必要とはしていません。スポット契約をすると、事務所としても深入りせざるを得なくなるので、あくまで一般的なことを回答しています。さらに具体的な質問などがあれば別途時間を取り回答を準備します。
質問を受けた際に素早いレスポンスを行うことも日々心がけていることの一つです。その場でわからないことは一度事務所に持ち帰りますが、調査の進捗などを随時知らせるなどして、先方が不安を感じる時間を少なくするように気をつけています。

田尻 今回のB社との契約締結については、A社グループで組織再編があり、複数のグループ会社を1つにして新しい子会社B社ができた折に、古沢さんがたまたま踏み込んで相談に乗っていたことをきっかけとして、親会社であるA社から相談が持ち込まれました。
A社から最初に話をいただいたときも、当初はスポット契約でよいと考えていましたが、先方と内容を詰めていくうちに顧問契約をお願いしたいという話に進みました。

古沢 先ほどもお話しした通り、税務に関する相談がきた際は、事務所としても責任問題があるので、一般的な回答を基本としています。
そのため所長は「踏み込んだ」と表現はしましたが、そのときも責任問題にならない範囲で一般的な回答をしました。
親会社であるA社からも以前よりいろいろ質問をいただいており、普段の事務所のサポートに対する期待から顧問契約のお話をいただいたと思います。また訪問の前にTKC担当者と情報を共有しており、その情報を念頭に置いた上で対応できたことが良かったと思います。きめ細やかに対応してくださるTKC担当者の方には、本当に感謝しております。

田尻 今回の顧問契約締結は、古沢さんの人柄が評価されたからこそです。お客様の不安や質問などに古沢さんがしっかり対応してくれた、それが今回の契約につながったと思います。

──まさにご縁を大切にして、目の前のことに取り組まれた結果ですね。中堅大企業の業務が、普段の関与先への支援に役立つ点はありますでしょうか?

田尻 大企業や上場企業の経理担当者の経営に対する考え方やマクロの視点での経営の見方、大局の掴み方は参考になります。関与先の経営者に対して、こういう考え方もあるよ、こういうことが必要だよ、といった話の引き出しを増やせる点が生かせているのかなと思います。

中堅・大企業での業務拡大成功要因

中大研会員なら安心してシステム・コンサルティングを受託できる

──最後に、これから中堅・大企業市場に取り組まれる会員先生へのメッセージをお願いします。

田尻 自分でわからないことを調べるときに、他の中大研会員やTKC社員とのつながりは大事ですね。人間はオールマイティーではないので、わからないところは助け合える点がTKCの良さだと思います。

古沢 私も最初はすごく不安でしたが、「まずはTKCシステムを使えば大企業でも大丈夫!」、それにつきます。
また、所長が申した通り、やはりTKC全国会の仲間の存在は大きいです。勉強が必要なときはTKCのオンデマンド配信を視聴すればいいですし、同じようにシステム・コンサルティングを実施している先生方に相談もできます。
中大研は安心してシステム・コンサルティングを受託できる環境が整っており、同じ挑戦をする仲間をつくることができる場なのだと思います。
A社やB社のような大企業のシステム・コンサルティングといった業務を経験させてもらえるということはすごく良いチャンスなので、ぜひ受託してもらいたいなと思います。

(インタビュー・構成/企業情報 営業本部 天谷紀彦、冨田政樹)

事務所概要
事務所名 税理士法人 田尻会計
所在地 東京都墨田区八広4-23-1
設立 昭和52年3月
代表者 代表社員 所長・税理士 田尻吉正(昭和53年11月TKC入会)
代表社員 副所長・税理士 田尻重暁(平成24年6月TKC入会)
職員数 税理士9名(うち非常勤税理士3名)、中小企業診断士1名、職員32名(うち非常勤3名)
関与先数 55件(法人42件・個人13件)

(会報『TKC』令和7年6月号より転載)