事務所経営

巡回監査をベースに課題を解消し、関与先のDXをバックアップしたい

小笠原雄会員 下田泰寛会員

左から小笠原雄会員、下田泰寛会員

FX5、eCA-DRIVERを導入・運用支援したことから信頼関係を構築し、A社企業グループ4社と税務顧問契約を締結された税理士法人下田総合事務所の下田泰寛会員、小笠原雄会員(東京中央会)にお話を伺いました。

タイプの違う税務署OB事務所と公認会計士事務所で修業

──税理士法人下田総合事務所様は、お父様の下田鉄夫先生(北海道会)の個人事務所から下田泰寛先生の独立開業のタイミングで設立された税理士法人ということですね。

下田 もともとのルーツは、北海道名寄市において、塩谷正雄先生が昭和30年に開設された個人事務所があり、そこに勤務していた父が昭和51年に事業承継したのがスタートです。塩谷先生は愛情を持って職員を成長させてくれるお人柄で、父ともう一人の職員に税理士を目指すための東京の専門学校に1年間、給料を払いながら通わせてくれたのです。子供だった私も塩谷先生を“おじいちゃん”と呼んで、家族ぐるみの付き合いでした。
 そんな私が税理士を目指したのも自然のなりゆきでしたね。私の叔父が東京で税務署に勤務していたことから税務署OBの先生を紹介してもらい、そこで約13年間、働きました。時代はバブル期でもあり、毎晩のように飲みに連れて行かれて(笑)。一部の科目合格はありつつ、このままだと税理士になれないのではという不安と、もっと大規模な企業の支援経験を積みたいという気持ちから就職サイトで探して、公認会計士事務所に転職しました。そこでは無事、残りの科目を合格して、主に中堅、大企業を担当していたのですが、中には連結納税制度が創設された直後から適用した上場企業もあり、大手税理士法人がExcelで作成していた連結納税のシートに私がデータを入力していました。おかげで連結納税の計算ロジックには詳しくなりました。実は、そこの上場企業の経理責任者の方と制度対応の苦楽を共にしたこともあって、今も数十年来のお付き合いを続けています。その方が転職された上場企業でも推薦されて顧問契約をいただくなど、ご縁に感謝しています。
 税務署OB事務所と公認会計士事務所とタイプの違う会計事務所で修業したことで、中小・零細企業から上場企業まで、会社規模や業種に関わらず、本当に様々な法人・個人のお客様をご支援してきました。当時から「主役の社長を正しくバックアップして、クライアントの幸せを守る」をモットーに仕事をしてきましたが、独立した今もこれを企業理念としています。

平成27年に法人設立・入会 支部長就任は感慨深い

──独立はいつでしたか。

下田 勤務していた公認会計士事務所にはトータル12年間所属、うち約10年は副所長を務めていましたので、独立のタイミングが難しかったのですが、父が病気になった際に「一緒にやろう」と声を掛けられました。税理士法人の設立は平成27年4月で、父がTKCに入会していたことから、強制的に自分も入会が決まっていました(笑)。でもせっかくTKC全国会の会員になったのだから素直にこの状況を受け入れようと、当時の支部長から声掛けされた支部例会に積極的に参加して、全国会の数々の取り組みを実践していくうちに、お客さんも増えたし、仲間もたくさんできた。今では自分も千代田支部の支部長となり、感慨深いです。

──TKCに入会いただいた成功事例で嬉しいです。本日、同席いただいている小笠原先生の入社経緯も教えてください。

下田 実は公認会計士事務所で勤務していたときの元同僚なのです。「自分たちが前に出るのではなく、主役である社長や会社を全力でバックアップする」という方針に当時から賛同してくれていました。だから、小笠原の給料が払えると思ったタイミングで声掛けしました。

──小笠原先生は、なぜ税理士になろうと思ったのですか。

小笠原 これが理由という絶対的なものはないのですが、しいて言えば、大学の専攻が理数系だったので、一般の人よりは数字に強いくらいの感覚でいました。そして「手に職」イコール国家資格取得だと思い、その中で数字に強いことが活かせそうな税理士を選択して、大学時代から簿記の勉強だけはしていました。その後、税理士事務所に就職して、幸いにも4回の試験で5科目合格しました。そして、自分が受験勉強で学んだ知識を、もう少し大きな規模のクライアントで活かしてみたいと思い、就職サイトで公認会計士事務所をさがして転職したところ、所長に巡り合ったというわけです。

──運命的な出会いでしたね。それでは、中堅・大企業へのシステム・コンサルティング業務について、お聞きします。貴社には複数社へのご支援をお願いしていますが、最初のA社はいかがでしたか。

下田 A社はASP1000Rを既に導入済みで運用サポートからのご支援ということで、改訂案内の訪問がメインになります。税制改正等の案内だけでなく、A社に適したトピックス提供を継続していたら、最初は責任者一人だけが応対されていたのですが、同席する実務担当者がどんどん増えて最近では10名くらいになりました。

──有益な機会だと思っていただけて嬉しいですね。次にご依頼したB社はいかがでしたか。

下田 B社では連結納税と税効果会計でしたが、ここで初めて導入コンサルを経験しました。ただ、先ほどお話したように連結納税はExcelで入力していた経験があったので、システムで処理するとこんなに簡単なのだと驚きました。

小笠原 課題と言えば、先方は、それまで税効果会計の計算をExcelで処理していたので、eTaxEffectの導入における現行処理との差異分析には苦労しましたけどね。検証しようにも、Excelの関数をひも解いて、どこに飛んでいるのか理解しながらの作業ですし、税効果会計自体の知識も最初は不足していました。それから印象に残っているのが、大企業は、会計英語や略語を普通に使っていて、繰越欠損金を「NOL(net operat-ing loss)」と記載してあって、最初は分からなかった(笑)。

──eTaxEffectのシステム操作はいかがでしたか。

小笠原 システム仕様の不明点は、とにかくヘルプデスクに問い合わせしました。ニッチで難しい質問にも、誠実に対応いただき、本当に感謝しています。

「反応力」を意識して気軽に相談できる存在へ

──それでは直近で直接契約にまでつながったC社についてお伺いします。C社ではFX5を導入されたということですが、どんな会社ですか。

下田 経理体制は経理部長と3名のスタッフで対応されていて、企業文化は真面目できちんとしているという印象ですね。指導に対しても素直に聞いてくれます。他社システムからの移行でしたが、これまでのシステムでは仮払消費税、仮受消費税を別計上する必要がありました。FX5になったことで、別計上の負担がなくなり省力化につながったと先方にも評価いただけました。事務所としてもほかのTKCシステム同様、科目別消費税額集計表などマストな機能を使えて支援しやすいです。

──下田先生はFX4クラウドとの違いをどのように感じましたか。会員として知っていた方がよい機能差など教えてください。

下田 まず、コード体系が桁数、タイプ(半角英数字)など柔軟に設定できるので、基幹システムとの連携が前提の大企業向きだということです。それからFX4クラウドと比較すると、統一マスターを搭載していること、また科目共通の内訳が多く、企業グループの業績を細かく分析、管理することができます。そのほかIPO(新規株式公開)を検討する場合など、上場企業等に求められる可能性がある機能についても数多く搭載しているので、企業ニーズに合わせてFX5という選択肢も検討してみたらよいと思います。

──ありがとうございます。それではC社と税務顧問につながったきっかけを教えてください。

下田 私は、お客様から安心して任せてもらうために、例えば質問されたら、迅速なフィードバックはもちろん、上司に報告することを想定して根拠条文を付けて回答することなど、誠実な対応を積み重ねることが大切だと思います。それは、相手のニーズに対する「反応力」ですよね。そのような意識のもとでC社ともFX5のコンサルを行っていたことで、会計の担当はもちろん、税務担当の方々にも気軽に相談いただける関係になっていました。そんな中、経理部長の方がご病気になられて、申告書等の作成ができず困っていました。C社には顧問税理士もいたのですが、高齢で対応いただけないとのことでした。

小笠原 ちょうど確定申告期に私の携帯電話に直接、相談がありました。正直、繁忙期に対応可能か迷いましたが、北海道に出張中だった所長に連絡したところ、二つ返事で受けて、全部自らやってくれました(笑)。

下田 本当に先方が困っている状況がわかりましたからね。スポットでその期の申告書作成を代行したあと、先方からも継続契約を検討したいとの相談を受けたことを鑑み、実施したスポット業務を値引きして、翌期から親会社を含め正式に4社との月次顧問契約を締結しました。私は中堅・大企業に対しても、月次巡回監査をベースとしたサービス提供をやっていきたいと思っています。今後はC社の課題をひとつずつ一緒に解消しながら、DX化への取り組みもバックアップしていきたいです。

中堅・大企業での業務拡大成功要因

中堅・大企業特有の知識で事務所のレベルアップを

──貴重なお話をありがとうございました。最後にこれから中堅・大企業への支援業務に取り組みたいと思っている先生方へのメッセージをお願いします。

小笠原 中堅・大企業向けシステム・コンサルティング業務を経験すると、単にシステムで申告書を作成するというだけでなく、大企業における決算・申告スケジュールや業務のワークフローを目の当たりにできます。話に聞いているだけなのと、実際に体感するのとは大違い。そういった実体験から学んだことを、担当している中小企業の関与先への支援に活かせるのです。
 もっと成長したいと考えている経営者に、その目安となる大企業での事例を話せることは喜ばれるからうれしいです。

下田 導入コンサルは、企業情報の社員の支援もあって、安心してチャレンジできるし、運用コンサルについても、年2回の改訂案内を行うためのツールは充分、用意してくれている。ただ、そこから先の直接契約まで目指すなら、先方の知識レベルが一定水準以上ありますから、中堅・大企業特有の会計、税務の知識や最新トピックスも備えないと専門家として期待に応えられません。でもそこを頑張れば、絶対に事務所のレベルアップにつながる。
 TKC全国会ネットワークで、先達会員に相談できる環境もあるのだから、中堅・大企業支援を事務所経営の強みの一つにすべく、多くの事務所に取り組んでいただければと思います。

(インタビュー・構成:中堅・大企業支援研究会事務局 今村こすみ)

事務所概要
事務所名 税理士法人下田総合事務所
所在地 (東京オフィス)東京都千代田区神田佐久間町2-24 YA-2ビル4F
(北海道オフィス)北海道名寄市西1条南4丁目
設立 平成27年4月(平成27年3月にTKC入会)
代表者 下田泰寛(平成19年4月税理士登録)
職員数 東京事務所8名 北海道事務所8名

(会報『TKC』令和6年6月号より転載)