事務所経営

社長の相談相手となり、楽しみながら地元企業の成長・発展を支援したい

税理士法人アスマイル 内記武志税理士事務所 内記武志会員(TKC北陸会)

平成29年に金沢国税局を定年退職し、富山県砺波市の実家で税理士事務所を開業した内記武志会員。人との出会いを大切にして、「社長の相談相手となり、税務・会計・農地などの相続・リスク管理等のあらゆる相談に迅速に対応したい」と関与先支援の抱負を語る。

30年間酒税等の間接税に従事 開業は地元に貢献したい気持ちから

内記武志会員

内記武志会員

──今日はJR城端線で来たのですが、車窓に田園風景が広がっていました。先生の事務所も水田に囲まれた一軒家にあるのですね。ご出身はこちらですか。

内記 はい。ここ富山県砺波(となみ)市は、広大な砺波平野に広がる田園の中に屋敷林で囲まれた家が点在する「散居村」という風景で有名なところです。天候が良ければ立山連峰もよく見えるのどかな場所です。私はここで生まれて、昭和50年に県内の高校を卒業し、4月1日付で東京国税局に採用され、税務大学校東京研修所普通科に入校、期別は35期です。初任地は東京都の青梅税務署で、その後、東京国税局管内で17年間勤めました。35歳のときに実家の都合で富山県の税務署に転勤、1年後に今度は金沢国税局へ異動、その後も何度か異動を行い、60歳で定年を迎える平成29年7月までの24年間を金沢市内の官舎で過ごしました。退職を機に金沢市から実家の砺波市に引越し、同年8月に税理士登録し、9月にこの実家の2階を事務所に開業し、同月TKCに入会しました。
 そして、令和4年1月には税務大学校東京研修所で同期だった豊田雅夫先生の誘いで税理士法人アスマイルを設立しました。現在は設立後に加わった中川渉世先生が法人の代表を務めています。本店は富山市です。私の事務所はその砺波支店という位置づけで、一人で砺波市と隣接する南砺市・小矢部市を中心に、法人9件と個人21件で合わせて30件の関与先をご支援しています。

内記武志税理士事務所

富山県砺波市の広大な田園地帯に家が点在する
散居村の中にある内記武志税理士事務所。
天候がよければ立山連峰(剱岳・雄山)が見える。

──国税局や税務署ではどのようなお仕事をされていたのですか。

内記 42年間のうちの30年間は酒税や印紙税・消費税といった間接税の事務に携わっていました。また、法人課税部門や国税局調査課、税務相談室にも勤めていました。一番長かったのが酒税行政関係です。実は、国税庁は酒類業の所管官庁でして、酒税の取り扱いだけでなく、酒類の製造・販売業免許や酒類の表示、公正な取引、缶・瓶のリサイクルなどお酒に関する業務全般を取り扱っています。

──酒税に携わっていた先生とお会いしたのは初めてです。税務署の中でどのような業務に取り組まれて、いつから従事されるようになったのでしょうか。

内記 最初に酒税に携わったのは、新人で配属された青梅税務署です。自然が豊かな東京都の多摩地区には酒蔵がいくつもあります。あまり知られていないことですが、酒税法は、酒類製造者や酒類販売業者に、お酒の製造記録やお酒の仕入・販売・在庫数量などに関する取引内容を記録する帳簿を備えておく記帳義務を定めています。そのため、税務署には帳簿が正しく付けられているかを検査する業務があります。配属早々に先輩から「検査に行ってきなさい」と言われ、一人で酒蔵へ訪問しました。酒造りを含め、記帳の実務などは酒蔵の杜氏さんに聞きながら覚えていきました。今から思えば、杜氏さんが指導講師であったのではと思います。

国税局や税務署で酒税に携わる職員は少なく、また2~3年ごとに異動があるので、私のように長く酒税の事務に携わることは珍しいのではないかと思います。

──そのような高い専門性をお持ちなので、定年を延長する道もあったかと思うのですが、開業を選ばれたのはなぜでしょうか。

内記 私は60歳定年で辞めて税理士として開業しようと考えていました。国家公務員として42年間働かせていただいたので、退職後は早く地元に貢献したいとの思いがあったからです。
 ありがたいことに国税局で最後の2年間勤務した税務相談室では、納税者から毎日さまざまな相談を受ける中で全ての税法を勉強させてもらい対応していました。それで「社長さんの話し相手になろう」との気持ちが一層強くなりました。

入会の決め手は遡及訂正禁止のシステム 先輩会員からの熱意あふれる助言に驚く

──定年退職後、事務所開業までに行ったことを教えてください。

内記 まずは情報収集です。7月初めの退職日から税理士資格が取得できる8月末までの約2カ月の間に、知り合いの国税OBの税理士のもとをどんどん訪ねて、事務所経営や利用中のシステムについて根掘り葉掘り聞きました。また、会計ベンダー各社からもシステムやサポート体制について聞かせてもらいました。

──各社の話を聞いた中からTKCを選ばれた理由は何ですか。

内記 一番の理由は、TKCが遡及訂正できないシステムだったからです。「TKCシステムは、税理士による月次巡回監査が完了すると、データの遡及訂正を禁止し、ユーザが訂正・削除すると痕跡が残る仕組みです」と聞いて、TKCシステムで作成される帳簿は信頼性が高くて、税理士として安心して業務ができると感じられました。
 他にも、TKCが持つ情報量の多さなども理由としてあります。

──入会後の印象はどうですか。

内記 先輩会員から新入会員(ニューメンバーズ会員)へ事務所経営に関する助言をいただけることに驚きました。印象的なのはニューメンバーズフォーラムです(全国の入会3年目未満(北陸会は5年未満)の会員と入会を検討している税理士・公認会計士約1千名が集うイベント。毎年11月に開催)。全国から選ばれた会員先生が講師を務め、事務所経営や税理士業界の未来を語るのですが、会場は熱気にあふれ、大変盛り上がります。
 また、フォーラムにあわせて開催される事務所見学会では、その地域で活躍されている会員先生から経営ノウハウを惜しみなく公開していただけました。私も3回参加し、報酬体系や料金の設定方法など事務所経営のヒントをたくさんいただき役立てています。

記帳代行は一切受けない。依頼事は断らず即行動に移す

──現在は30件の関与先をお持ちということですが、開業当初から順調に増やされていったのですか。

内記 そんなことはありません。当初は時々知り合いの酒造メーカーから記帳指導の相談を受ける程度で、本業の税理士業務の収入は全くありませんでした。

──どのようにして乗り越えましたか。

内記 1年目は何もできなくて当たり前と楽観的に捉え、「意志あるところに道は開ける」という気持ちで、「65歳までに消費税の課税事業者になる」という目標を定め、行動しました。
 最初に取り組んだことは「私のことを知ってもらうこと」でした。42年ぶりに戻った実家は地縁が全く無いのと同じでした。まずは自治会や経営者の集まりである商工業会・法人会に加入しました。1年後には「役員になってくれませんか」とお声がかかり、地元への恩返しという意味でお引き受けしました。役員になると、色々な会合や、地元の会社を訪問する機会があります。結果的に顔見知りが増え、税務署出身の税理士であることを知ってもらえました。

──金融機関訪問などもされましたか。

内記 先輩税理士の勧めもあり、父親から相続した口座がある地元金融機関3社を訪問しています。また、私の家は田地を所有しているので農協へも行きます。一番近くにある郵便局にも毎月定期的に訪問しています。
 コミュニケーションはお会いしてお話しすることが大切だと思っているので、会話のきっかけにと、月初めに『事務所通信』と『ビジネスワンポイントニュース(BON)』を金融機関や関与先等へお渡ししています。特にBONが紹介しているビジネスの一般常識は、私から一言添えて説明するとその場が和みますので、毎月楽しみにされています。
 特別なことはしていないのですが、地元で人脈が広がるにつれて自然と相談や仕事の依頼が増えてきたという感じです。

──事務所経営で心掛けていることは何でしょうか。

内記 まずは、記帳代行を一切受けないことです。自計化によって業績管理体制を構築し、キャッシュフローが把握できると社長(事業主)は資金繰りの不安が解消されますし、信頼性の高い帳簿を作成できると金融機関や税務署からの信用度が高まります。
 当初、関与先のほとんどが記帳代行をされていましたが、半年ほど仕訳の入力を指導すると、自社の数字が見えて、社長には自計化のメリットを感じていただけます。私も社長からの相談に対応する時間が確保できて助かっています。
 次に、社長の相談相手になることです。社長とお会いした際には必ず「何か心配なことはないですか」と伺うようにしています。気軽に相談してもらえるよう、依頼された事は断らずに迅速に行動し、早期の回答を心がけています。
 一番多い相談は、借入・融資の件ですが、農地の相続に関するものもあります。相続税対策や、行政書士として遺産分割協議書の作成指導も行っています。私が対応できない分野は、知り合いの司法書士や弁護士などの他士業と連携して対応しています。最近は、会社員の方から、独立して創業・起業したいとの相談が増えてきており、起業された後もサポートしています。
 また、関与先の社長とそのご家族、従業員さんとは顔の見える関係にあるため、社長の不慮の事故や病気、取引先の倒産などあらゆるリスクから関与先を守るための経営助言も必要だと思っています。月次巡回監査では、TKCの企業防衛制度、三共済制度(小規模企業共済制度・中小企業倒産防止共済制度・中小企業退職金共済制度)について、「こんな制度がありますよ」と関与先の財務データと実情に則した説明をして、社長の頭の片隅に置いてもらえるようにしています。
 実際に、「自分はまだ若いから」と保険に全く関心がなかった社長を「家族のために」と説得し、保険に入ったら、その2年後に2カ月間入院することとなり、保険金がおりて助かったケースがありました。また、中小企業倒産防止共済は不要と言っていた社長から急に連絡があり、加入したケースもあります。

──それら全てをお一人で支援されるのは大変ですね。

内記 社長の相談に応えるだけでなく、全ての関与先が対象となるインボイスや定額減税などの制度対応も必要です。覚えることはたくさんあって大変ですが、効率よく情報収集を行って、関与先にいち早くお伝えするようにしています。
 TKCは多くの情報を持っていて、速報性も高いので、TKCの会務には最優先で参加しています。さらに地域会や支部で会務運営に携わると、全国で活躍している先輩・仲間と出会えて刺激をもらえます。貴重な機会と考え、積極的に人脈と知識の幅を広げるようにしています。

事務所と地元企業の発展のためTKCの情報とツールをフル活用

──今後の抱負をお聞かせください。

内記 楽しみながら税理士業務・行政書士業務を行うことですね。60歳で開業したときに税理士としての終点を70歳と考えていました。65歳になったときには75歳に再設定しました。今67歳ですが、人と会ってお話をして、関与先のために一生懸命に働く毎日が楽しいです。微力ながら地元企業の支援を通じて、社会に貢献できればと考えています。これからも健康を維持しながらやれるところまで終点を伸ばしていきたいです。

──開業を検討されている方へのメッセージをお願いします。

内記 将来開業をご検討中の皆さんは、開業後の事務所像をどのようにお考えでしょうか。もし家業ではなく、事業として事務所を経営したいとお考えならば、TKCで全国の税理士仲間との交流を深めませんかと言いたいですね。目標となる事務所経営の好事例がたくさんあります。困ったときには気軽に相談ができ、課題解決のヒントを必ず得られます。
 TKCが持っている情報とツールを、ぜひ関与先の支援に活かして、事務所の底上げを図って、地域の発展に貢献していきましょう。

(インタビュー/TKC全国会事務局 塚本欣也 構成/TKC出版 石原 学)

事務所概要
事務所名 税理士法人アスマイル 内記武志税理士事務所
所在地 富山県砺波市石丸358番地
開業 平成29年9月
関与先 30件(法人9件、個人21件)
翌月巡回監査率 92.3%

(会報『TKC』令和6年6月号より転載)