事務所経営
根幹となる税務業務のスキルアップのために税研DBをフル活用しよう!
- ▪出席者(右から)
- 野村健典会員(中部会) 深田裕志会員(東北会) 小湊昭会員(関東信越会)
◎司会/谷口裕之TKC税務研究所所長
会計事務所の的確な税務判断を支援する「TKC税研データベース(税研DB)」。その第2回活用座談会では、「申告書に税務Q&Aの検索結果と根拠法令を添付してもらう」「関与先への回答の根拠資料として提示する」「職員に積極的に活用させることでスキルアップにつながる」などの活用事例や効果が語られた(司会:谷口裕之TKC税務研究所所長/オブザーバー:古郡孝昭TKCシステム開発研究所次長)。
■とき:令和6年4月3日(水) ■ところ:TKC東京本社
「適正な税法の取り扱い」の重視が税研DBの利用件数に結び付いている
──第1回に引き続き、税研データベース(税研DB)の利用件数が全国でトップクラスの会員事務所のお三方にお集まりいただきました。実は、本座談会は飯塚真玄TKC名誉会長の提案によるものです。現在、税研DBを定期的に利用している会員事務所は約3千件で全体の約3割、税理士業務の根幹に関わる税研DBをまだ利用していない事務所が多くあるという状況です。
我々税務研究所としても、より多くの会員事務所に税研DBを利用いただき、業務品質の向上に役立ててもらうことが重要なミッションですので、今日は、そのヒントとなる活用方法や事例を詳しくお伺いしたいと思います。
まずは、税研DBの活用状況と自己紹介をお願いできますか。
野村 MAC&BPミッドランド税理士法人名古屋本社の野村と申します。本年2月から、前所長の能登明俊の後任として所長を務めています。TKCには、能登が先達会員の姿勢や考え方に感銘を受け、昭和60年3月に入会しました。
当社は名古屋・東京・横浜に拠点を構えており、グループ会社には税理士をはじめ、弁護士、社会保険労務士、司法書士等の有資格者が多数在籍しています。税理士法人の特徴は、①FP・相続対策部(個人)、②経営支援部(法人)、③事業承継対策部(法人)、④BP医業本部(医療機関)の四つの部署に分かれており、業務・業種に特化していることです。従業員数は166名、うち税理士が25名で、顧客数は約3千件となっています。
入社してから約20年経ちますが、入社当初から税研DBが社内で活用されており、私自身も長年使ってきました。社内では、基本的に関与先への回答のエビデンスとなる資料として、また回答を考える上での条文等の検索ツールとしての活用が定着しています。
深田 宮城県仙台市に事務所を構える税理士法人深田会計の深田です。現在、東北会宮城県支部長も務めています。父であり現会長の深田一弥が昭和46年に創業し、昭和48年にTKC入会、平成15年に税理士法人化して今年で開業53年目となります。
私自身は平成16年に仙台に戻って入所し、同時に税理士登録しました。令和2年に事務所を承継しています。関与先数は約200件、うち月次巡回監査先は約180件です。小規模事業者から中堅大規模法人、通算申告の大企業子会社など、業種や規模に偏りなく幅広く関与しています。職員は、税理士5名、巡回監査士7名、巡回監査士補4名の計20名です。
創業者である会長は、税理士業務として「適正な税法の取り扱い」を非常に重視しており、「税務に強い事務所」とアピールしてきました。実際、関与先からは「税務署よりも厳しい」という評価をいただいています(笑)。こういった特徴も税研DBの利用件数に結び付いているのかもしれません。
所内方針として税研DBを利用するよう示し、全職員にProFITのIDを付与しています。私も入社当初からずっと活用しています。
小湊 新潟県燕市から参りました小湊昭税理士事務所の小湊と申します。私が創業者で昭和49年に開業し、昭和51年にTKCに入会しました。開業してちょうど50年です。当時はほぼ関与先もなく何をすればよいか分からないような状態でしたが、TKC全国会初代会長である飯塚毅先生の講演を聞く機会に恵まれて心を動かされ、「飯塚を信ぜよ」という一言で入会。これまで、TKCの方針に沿ってひたすら取り組んできました。
現在、職員は21名で関与先は約190件です。燕市は金属加工技術で有名な地場産業の町。あるときから地元企業の支援に注力することを決めて、今は近隣の地元企業が関与先の90%以上を占めていることが特徴です。
TKCシステムを徹底的に活用しており、TPSシリーズはもちろん、FXシリーズやPXの導入率は100%、SXは4割以上に導入しています。翌月巡回監査率もほぼ100%です。関与先と毎月接すると相談を受ける頻度も上がりますから、その回答のために税研DBを利用する件数も自然と増えているのだと考えています。
所内では、日常的に税研DBを関与先指導に利用していますが、最も多く使っているのは私かもしれません(笑)。
関与先ごとに税務判断の根拠資料を保管担当変更や引継ぎにも役立つ
──皆さんの事務所では税研DBの活用が定着しているようですね。具体的な活用方法を教えてください。
小湊昭会員
小湊 20年ほど前から、職員には年度ごとの法令・通達集を一人一冊持たせていて、関与先からの質問にはそれを確認してから回答することとしています。ただ、分厚いページをめくって該当箇所をすぐに探し出すのはなかなか難しいので、その手掛かりとして法令や通達を検索するのに税務Q&Aを役立てています。
それから、毎月更新される税研DBの「税研からのご回答」を非常に楽しみにしており、特に重要と思われる内容はプリントアウトして所内で回覧しています。
深田 税務Q&Aに掲載されている内容は、すべての会員事務所に問題となりうる事例ですから勉強になりますよね。
私の事務所では職員が作成する申告書等について社員税理士が最終検閲を行うという仕組みにしており、職員が税務判断を行った際には税務Q&Aの検索結果と根拠法令を添付してもらいます。もし、Web検索や参考書を用いて調べたとしても、最終的には税研DBで結論付けるように伝えています。税務判断を職員の記憶や経験に頼るのではなく、信頼性の高い税務Q&Aの検索結果を根拠としてもらうことで、業務品質の向上や、社員税理士によるチェックの効率化にもつながっています。
また小湊先生と同様に、所内で最も活用しているのは私ですね。職員や関与先から相談を受けた際には、該当する内容をくまなく検索しています。個人的に最も重宝しているのは、関連する法令等へのジャンプ機能です。税務Q&Aの「関連情報《法令等》」のリンクをクリックすると「TKC会計・税務法令データベース」の該当条文を直接表示することができます(当機能は「TKCローライブラリー」への利用申し込みが必要です)。
野村 当社では、毎朝行う各課の朝礼や毎週金曜日に行う各部署の朝礼において、重要な情報や知識を共有する時間を設けています。その際、職員に「こういう質問があり、このように回答し、エビデンスはこれです」と税務Q&Aを用いて発表してもらいます。それが所内共通の課題となることも多いため、情報共有として役立っています。
また、所内の担当変更や引継ぎにも有効です。関与先ごとに、これまでの回答のエビデンスに用いた税研DBのPDF等を残しておくことで個別の注意事項を共有することになりますし、担当する職員によって関与先への回答がまちまちになるのも防ぐことができています。
深田 私の事務所も同様の使い方をしています。特に規模の大きな関与先では先方の経理担当者が代わったときなどに、過去と同様の質問をいただくこともありますから、記録を残しておくとお互いに効率的です。関与先ごとに所内サーバーに保管し、情報共有しています。
──関与先支援において役立った事例はありますか。
小湊 税務に関する質問を受けたときには、税務Q&Aで法令通達や類似事例を検索することが多いです。メールで回答を求められるケースもありますので、そのようなときは事務所としての結論を簡潔に記載した上で、その根拠として税務Q&Aを添付する──という使い方をしています。また、税務調査の際、調査官からの質問に当事務所の見解の裏付けとして提出することもあります。ただ、税務調査というよりはその前段階での活用が多いかもしれません。
野村健典会員
野村 関与先支援という観点では、部署によって使い方が少し異なります。例えば、巡回監査を行う部署では、関与先からの質問に文書回答することを心がけており、エビデンスを付けて上司の確認を取った上で回答することとしています。そのエビデンスとして、税務Q&Aを日常的に活用しています。
資産税に特化した部署では、建設会社や不動産会社などの関与先が多く、営業担当者から直接、「こういう場合にこの税制は使えるのか」「こういうケースで気を付けた方がよいことはあるか」などの質問を頻繁に受けます。これは独特な活用方法だと思いますが、未来に起こりうる問題に対する回答にも税研DBを活用させてもらっているということです。
深田 私の事務所も関与先への回答のエビデンスとして活用しています。特に大企業の複雑な税制に関する質問への回答や、関与先からの主張に対して説得する際の根拠として非常に役立っています。ただ、あくまでも「事務所の見解ありき」で、税研DBはその裏付けという考え方は崩さないよう気を付けています。
最近、関与先となった中規模法人のケースでは、税務に関する多くの質問を受け、当法人としての判断を回答したことが顧問契約のきっかけとなりました。税務コンプライアンスを重視している企業に税務Q&Aの参考事例等を提供すると大変喜ばれますし、税研DBによって事務所の付加価値が格段にアップしていると思います。
新入職員が根拠資料を基に回答書作成繰り返すことで教育効果が上がる
──税研DBは税務業務の品質向上に欠かせないツールであり、所長はもちろん、職員さんにも使ってほしいという考えです。あらためて職員教育についてお伺いできますか。
小湊 職員の成長には経験を多く積んでもらうことが重要と考えています。そのため所内では担当を頻繁に変更することを試みており、お2人のように所内の共有財産として関与先ごとに税研DBの根拠書類を管理しておくのはとてもよい案なので、私も実践したいと思いました。
職員教育としては、新入職員に対して、先輩が折に触れて「税研DBでこのように調べてみよう」というアドバイスを行っています。税法は難しく、すぐに習得できるものではありませんが、税研DBを日頃からとにかくたくさん使って、関連する判例や法令等に触れる習慣を身に付けることが重要です。それが税務業務のスキルアップにも直結し、5年、10年と続けていけば、大きな成長につながると考えています。
深田裕志会員
深田 職員から相談や質問を受けたときには必ず「税研DBではどうだった?」と聞くことにしています。詳しい調べ方は、OJTで先輩が教えることが多いです。特に若い職員は、辞書を引くなどの紙ベースでの検索になじみが薄く、一方、Web検索のような税研DBでの検索方法は慣れているので使いやすいようです。加えて、税務Q&Aには、質問・回答・根拠条文等がすべて記載されているため、経験の浅い職員でも税務判断の思考の流れを理解しやすいと思います。
野村 関与先ごとの過去の税務Q&Aを確認すると、業種や規模ごとに確認すべきポイントや税法のあてはめ方を学ぶことにつながります。私自身も入社直後に税研DBの税務Q&Aを読み込んだことが、各事例のポイントの掴み方や、それに対する回答の考え方を学ぶ訓練となっていました。
事務所では職員教育の一環として、新入職員に関与先への回答を作成してもらうようにしています。まずは税研DBを含めた検索ツールを一通り提示した上で、それらに基づき回答書作りにチャレンジしてもらうのです。先ほど述べた不動産会社の営業担当者からの質問についても同様に、新人が回答書を作って上司がチェックするという流れを採用しており、それ自体がトレーニングになっています。回答書作成を繰り返すことで、現場で回答する力も自然と身に付いていく。そういう点でも、税研DBをものすごく活用できていると感じますね。
キーワードが浮かばない職員でも検索しやすい「注目キーワード」機能
──昨年12月に行った税研DBのレベルアップにより、トップページに「注目キーワード」が表示されるようになっています。これは「直近1カ月のTKC会員の検索キーワード上位60」で、キーワードを選択していくだけで簡単に検索できるという機能です(38頁)。この機能は、飯塚真玄名誉会長が「経験の浅い職員さんや会員先生方に、さらに税研DBを活用してもらいたい」「税理士業務の完璧な履行につなげてもらいたい」という願いを込めて発案した機能でもあります。実際に使われてみて、いかがでしょうか。
深田 私自身は、長年使っているダイレクトに検索キーワードを打ち込む方法に慣れていますが、経験が浅くてキーワードが浮かばない職員にとっては、欲しい答えを絞り込みやすくなったようです。当機能について職員に聞いてみたところ「今までよりも検索しやすく、使いやすくなった」という声がありました。
野村 検索の「センス」がないと欲しい結果には辿りつけません。このセンスは知識や経験によって醸成されます。ポイントが分からなければ的確に調べられないため、ベテラン社員と新入社員が同じシステムを使っても絞り込める結果に差が出ます。そこで「注目キーワード」機能等もうまく活用しながら、広い視野を持って提案できるよう、職員を丁寧にフォローすることが重要と感じています。
古郡 TKCシステム開発研究所の古郡です。税研DB開発担当者の立場から、ぜひお使いいただきたい機能について補足説明させてください。
先ほど、関与先ごとに税務判断に使用した税研DBの根拠資料をデータ保管しているというお話がありました。OMSクラウドには「OMSドライブ」という申告書控えや所内管理文書等をクラウドストレージに保存できる機能がありますので(要申し込み)、こちらを所内のデータ保管・情報共有に役立てていただけると思います。
また、重要と思われる税務Q&Aや税務判決要旨等の文書に付箋を貼り付け、「付箋ボード」にて付箋文書を一覧で確認できる「付箋機能」(OMSクラウド限定)などの便利な機能もありますので、ぜひあわせてご活用ください。
業務品質向上や職員教育のために「使わなければもったいない!」
──最後に、これから税研DBを使う方へのメッセージをお願いします。
司会
谷口裕之TKC税務研究所所長
小湊 「使わなければもったいない」の極みです。我々税理士の業務は効率だけではなく業務品質の担保が重要であり、品質の向上にはスキルアップの積み重ねがものを言います。中には経験や知識に頼って税研DBを調べる必要はないという方がいるかもしれませんが、それでは能力は停滞してしまう。たとえ日常業務であっても、品質向上のためにスキルアップを目指し、そのためには日常的に税研DBを活用することが不可欠だと考えています。
深田 インターネットや参考書等の情報を活用してもよいのですが、せっかくTKC会員なのだから、税研DBを使わなければ損です。税研DBはTKCが長年積み上げてきた英知が集結されている信頼性の高いツールですから。
また、書面添付の実践にはしっかりとした税務判断が必要となりますし、一定の業務品質を保つには税研DBの活用はマストだと考えています。
若い職員は参考書で調べるよりもWeb検索に慣れており、そういった面からも税研DBは職員教育と親和性が高いと思います。スキルアップを実現する税研DBをどんどん使ってもらいましょう。
野村 皆様と同様に、使わないと本当にもったいないツールだと思います。ProFITのIDがあれば追加料金なしで利用できるのでコストという観点からも使わない手はありません。
今回、社内の活用状況を調べたところ、部署や新人・ベテラン職員に関わらず、満遍なく活用していることが分かりました。経験が浅いから使えないということはなく、むしろ新人教育に存分に活かせるツールであると言えます。
税理士の業務領域が広がる中で、税務業務は根幹を成すという点は揺るぎません。関与先の置かれた状況や適切な税法等の当てはめなど、総合的に判断して指導する力がこれまで以上に求められる時代に、税研DBは事務所として積極的に活用すべきツールだと考えています。
(構成/TKC出版 小早川万梨絵)
(会報『TKC』令和6年5月号より転載)