事務所経営

関与先の月次決算体制を強化して100年企業を支援できる事務所を目指す

目次
税理士法人o-tax 小川清春所長、北川政嗣会員

左から小川清春所長 北川政嗣会員

令和6年11月のサービス開始から約半年が経過し、1000件を超える会員事務所と1万社超の関与先企業が活用する「月次決算速報サービス」。FXクラウドシリーズを利用する関与先企業のほぼ全件に本サービスを推進した税理士法人o-tax(TKC九州会)の小川清春所長と代表社員税理士の北川政嗣会員に所内の体制づくりや関与先での活用法、感想などを伺った。

変動損益計算書や自己資本比率などの過去10期分の情報に価値がある

──税理士法人o-taxでは、FXクラウドシリーズを利用している関与先のほぼ全件に月次決算速報サービスを提供されていると伺いました。積極的に推進する理由をお聞かせください。

小川 このサービスが発表されたとき、関与先経営者と会計事務所の所長(所長代理)、巡回監査担当者の三者が、月次決算直後の業績をタイムリーに共有できる点にとても魅力を感じました。
また、当事務所が掲げる基本方針は「オールTKCで全員参加型経営を目指す」ですので、基本的にTKCシステムはフル活用しています。無料で提供できることもあり、サービス利用に必要な三条件(FXクラウドシリーズ・巡回監査機能(FX4クラウドユーザは巡回監査支援システム)・継続MAS予算登録)を満たしている全ての関与先に提供しようと決めました。

──業績の共有にあたり、経営者に特に確認いただきたいポイントはありますか。

小川 まず、「変動損益計算書」で売上高や限界利益率は必ずチェックしていただきます。私がこのサービスを使いたいと強く思ったのは、「自己資本比率の推移」で自己資本額と自己資本比率を、当期と過去10期分見られる点です。私は、社長に「経理は会社の中で公開していきましょう」とよく言っているのですが、公開するためには、まず、従業員さんに「なぜ自己資本額をこれだけ積み上げていこうとしているのか」という自己資本額と利益の意味付けをきちんと行い、共通認識を持ってもらう必要があります。「一人当たり1千万円の自己資本を積み上げると、会社の利益が出なくなっても、一年間は従業員さんに不安を与えない経営ができますよ」とお伝えしています。このような意味付けをするうえで、自己資本額と自己資本比率の推移を経営者が手元で確認できることに価値があります。

──サービス提供前は経営者にどのように確認していただいていたのですか。

小川 社長は忙しいため、パソコンを起動して、FX2クラウドなどの会計システムで業績を確認する時間がなかなか取れないと聞いていました。そこでスマートフォンから「スマート業績確認機能」で最新業績の確認をお願いしていました。ただ、スマート業績確認機能は、スマートフォンのアプリを開いて確認する必要があり、自社の業績に関心が薄い方には見ていただけないという課題がありました。その点、月次決算速報サービスは、巡回監査直後に社長のメールアドレスに最新業績が届くので、毎月ご覧いただける可能性が高くなったと思います。

──会員先生から「月次決算速報サービスとスマート業績確認機能との使い分け」についてご質問いただくことがあります。

小川 スマート業績確認機能では、最新の売上高、限界利益額、経常利益額などの業績と、預金口座の残高、借入金残高などのキャッシュフロー情報を確認してもらっています。ただ、確認できる期間が期首からの業績ですので、過去10期分まで確認できる月次決算速報サービスとはその点が異なります。
スマート業績確認機能はキャッシュフロー情報が確認できるので、今も利用していただいています。あわせて「社長が預金口座の残高等を確認している」ことを社内に周知するようお願いしています。これには従業員さんが不正を起こさないよう内部牽制の意味も込めています。

北川政嗣会員

北川政嗣会員

「数字の見方を教えてほしい」と社長の業績への関心が高まった

──関与先へ提供する際の事務所内での推進活動について、代表社員税理士の北川政嗣先生にお聞きします。

北川 所内でも新しい方針が決まると、その意味付けを総務担当も含めた全職員に対して行い、全員が共通認識を持って行動に移せるようにしています。
月次決算速報サービスは、無料ですし、利用設定もFXクラウド等に送信先のメールアドレスを登録するだけで利用できます。関与先にご負担をかけることがありませんでしたので、スムーズに提供できたと思います。

小川 このサービスに限らず、関与先に新しいシステムやサービスを提案するのは巡回監査を担当する職員です。ですから、関与先に利用していただけるかどうかは、職員がサービスの利用価値を関与先に伝えきれるかどうかにかかっています。そのため、まず職員に推進する意義を繰り返し説明して、腹落ちしてもらう必要があります。
そこで、所内で毎日行っている朝礼では、まず、私からTKC全国会の理事会や委員会で話し合われた内容を周知したあと、北川を中心として、総務部門の職員を含めた全員で『TKC基本講座』や『TKC会計人の行動基準書』、事務所の経営方針書の輪読をして、感想を述べてもらっています。これにより事務所の方針とTKC全国会の運動方針をすり合わせ、事務所が提供するサービス内容を職員に理解してもらい、自信を持って提案できるようにしています。

──関与先への提案状況をどのように把握されていますか。

北川 まず、巡回監査機能または巡回監査支援システムの「所長の指示事項」で指示しています。巡回監査担当者は、実施状況を所長へ提出する「巡回監査報告書」と経営者へ提出する「月次巡回監査完了通知書」に入力しています。未実施の場合は、巡回監査報告書に理由も書いているので、それを上司や幹部が確認し、フォローできるようにしています。

小川 月次決算速報サービスで提供される情報で特に重宝しているのは、「その他報告事項」です(下図)。ここには
「月次巡回監査完了通知書」の内容が転記されるので、巡回監査時のやりとりを容易に振り返ることができます。私は事務所の外で社長と会う機会が多く、社長は、私が「その他報告事項」を知っている前提でお話しされますので、お互いに共通認識のもと、より深い話ができて、とても助かっています。
「その他報告事項」の内容が充実すれば、会計事務所が関与先をしっかりと支援している証になりますので、内容を充実させていきたいです。

──初めてご案内する際の関与先の反応はいかがですか。

北川 日常的にFXクラウドで業績を確認しているため利用を見送ったケースはありましたが、大半の関与先は喜んで利用を開始いただきました。また、それまでほとんどFXクラウドで業績を見たことがなかった社長が、メールが届いたことをきっかけに、「この数字の見方を教えてほしい」と巡回監査担当者に問い合わせてきた事例がありました。

小川 ある社長に月次決算速報サービスのデモをお見せしたところ、FX2クラウドへの移行を決断されたケースもありました。業績がグラフで可視化されて分かりやすいためインパクトがあったようです。それと、変動損益計算書や自己資本比率の推移を過去10期分まで確認できる点もよかったのではないかと思います。

──関与先の評価はいかがですか。

北川 複数拠点を持っている社長から、「本店と工場が別の場所にあり、工場の月次巡回監査には同席できないので、月次更新完了がタイムリーに分かるようになり便利になった」との感想がありました。また、別の社長からは「金融機関と面談中に、財務データを確認する必要があり、スマートフォンを出して、データを確認できた」という声をいただきました。速報性と利便性が高く評価されているのではないかと感じています。

図 「自己資本比率の推移グラフ」と「その他報告事項」(サンプル)

関与先に未提供のシステムやサービスを提供する糸口にしたい

──サービス提供は事務所にどのような影響がありましたか。手応えを聞かせてください。

小川 私の感覚では、経営者との距離がすごく近しい関係になってきていると感じています。先ほども申しましたが、メールで届けられたデータを毎月見ていると、会社の数字に加えて、「その他報告事項」でどのような経営課題を持っているのかが頭に入ってきます。経営者の方も同じ感覚だと思います。その点がとても有効です。

北川 巡回監査担当者も、日頃から経営者との対話を重要視しているので、当サービスが経営者との対話のきっかけになっているようです。「社長、メールを見ましたか」から始まり、業績の話を切り出しやすくなったようです。

──今後、当サービスをどのように活かしていこうと考えていますか。

小川 二つのことを考えています。一つ目は、経営者の「財務経営力」と「資金調達力」を高めること。つまり、月次決算体制を築いて、関与先の黒字化支援に役立てたいということです。もう一つは、顧客満足度を高めるために、月次決算速報サービスを、まだ関与先に提供できていない他のサービスを提案する糸口として活用することです。
一つ目の月次決算体制の構築については、TKC全国会が掲げる運動方針と全く同じです。TKC全国会の原田伸宏副会長がよく述べている、会計を「書ける(記帳・自計化)、読める(業績検討)、使える(管理会計)、話せる(外部報告)」こと、つまり、「会計を使いこなす」ことに役立てたいです。

──「会計を使いこなす」ための取り組みを教えてください。

小川 私の事務所では、社長と経理担当者に簿記3級の取得を薦めていて、年に1回商工会議所が開催する講習会に参加していただいています。簿記を学んで数字の見方を理解していれば、毎月数字が上がってきたときに、計画との誤差にも関心も持ち、きちんと経営に活かされるのではないかと考えています。
効果が出てきたようで、関与先の黒字決算割合は70%を超えました。社長の数字への理解を促す一つのツールとして、月決算速報サービスを社長に毎月確認するよう、「メールを見てください」と、これからも言い続けます。

──とても興味深いお話ですね。もう1点の「他のサービスを提案する糸口にする」とはどういうことですか。

小川 坂本孝司TKC全国会会長は、税理士の4大業務の同時提供の価値を経営者に啓蒙することの重要性を説いています。4大業務の中心にある会計への理解を通じて、これを実現できるのが月次決算速報サービスだと考えています。
このサービスを使おうとすると、まず、FXのクラウド化と継続MASの予算登録が必要です。さらに変動損益計算書で計画と実績の精度を高めていく中で、5カ年の計画立案も提案できます。社長の数字への理解が高まり、巡回監査で経営助言が充実すると、企業防衛制度の活用などの提案もできます。最終的には、当サービスを糸口にして、経営助言を充実させて、付加価値の高いサービスを提供していきたいです。

小川清春所長

小川清春所長

地域の市場占有率一位を目指して時代対応できる組織をつくりたい

──事務所経営上の課題は何ですか。

小川 一番の課題は職員の教育です。職員にも得意な分野と苦手な分野があり、苦手な分野は踏み出せないことがあります。そこで、事務所の業務品質に個人差が出ないよう、業務を属人化せず、組織的な仕事ができる仕組みづくりを行っています。その一つが、チーム制による業務分担です。私の事務所では、監査グループが三つあるのですが、監査グループを横断した四つのチーム(立上支援チーム、相続対策チーム、MAS監査チーム、企業防衛チーム)と委員会(ISO委員会)を立ち上げました。

北川 例えば、自計化の立上支援チームでは、関与先へFXクラウドを新規導入する際は、巡回監査担当者が行わずに、立上支援チームに全てを任せます。さらに、導入後も毎年、業務効率に結びつく新機能を活用できるよう計画を立てて、進捗管理も行っています。このように職員全員でフォローしています。

──進捗管理はどうされていますか。

小川 OMSの目標管理(KPI)機能をフル活用しています。評価項目はなるべく細分化しています。継続MASであれば、残高受信ができたかとか、単年度計画の登録をしたか、中期経営計画を作成したか、決算検討会で利用したか──の4項目になります。KPI機能は、実践できている項目には「〇」がつき、実践できていない項目は「空白」のままです。「〇」が一つでも増えることは、業務改善、標準化につながり、その分だけ巡回監査担当者が成長したと感じています。

──今後の抱負を伺えますか。

小川 事務所のビジョンは明確に定めており、「100年企業を支援できる永続する事務所」です。関与先に必要とされ、地域に愛され、職員から当事務所で働きたいと思われる会計事務所を目指します。今後も業務の質と量を高め続け、有明沿岸地域で市場占有率一位を視野に入れ、時代が変わっても変化に対応できる組織づくりを行っていきます。

小川清春所長

九州新幹線の新大牟田駅から車で5分、県道10号沿いにある税理士法人o-tax。
令和元年に新築した社屋。

(インタビュー/SCG営業本部 島田 聡 構成/TKC出版 石原 学)

事務所概要
事務所名 税理士法人 o-tax(TKC九州会)
所在地 福岡県大牟田市大字吉野1632番地1
開業年 平成15年
職員数 20名(巡回監査担当者14名)
関与先数 170件(法人140件、個人30件)

(会報『TKC』令和7年6月号より転載)