事務所経営
「指導監査」の現状と「別添2」の実践
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TKC全国会社会福祉法人経営研究会代表幹事 吉田恵幸
TKC社会福祉法人経営研究会(社福研)では、昨年秋、社福研会員を対象に、所轄庁による社会福祉法人への「指導監査」と「財務会計に関する事務処理体制の向上に対する支援業務実施報告書(別添2)」の実践状況等についてアンケートを実施しました。その結果、222の社福研会員事務所から回答をいただきましたので、その内容をご報告します。
所轄庁による「指導監査」
所轄庁は、社会福祉法人の適正な法人運営と社会福祉事業の健全な経営を確保することを目的に、社会福祉法人に対して「指導監査」を実施します。「指導監査」には、「指導監査ガイドライン」に基づき一定の周期で実施される「一般監査」と、運営等に重大な問題を有する法人に対して随時実施される「特別監査」があります。所轄庁は「一般監査」の結果、法人に改善事項がある場合には「口頭指摘」または「文書指摘」を行い、「文書指摘」を受けた社会福祉法人には、改善報告が求められます。
今回のアンケートでは、128事務所が、過去に関与先法人が「指導監査を受けた」と回答されており、そのうち84事務所が「指導監査」の現場に立会いされています。一方で、所轄庁側が「指導監査」を実施する際に専門家(税理士、公認会計士)を同行させていたケースが34の事務所から報告されています。そのなかには、TKC会員が専門家として同行するケースもあり、法人側と所轄庁側との双方で、我々専門家を活用する事例が増えています。
アンケートでは「指導監査」の結果、「指摘は無かった」と回答されたのが約30%で、残りの約70%は「口頭指摘」もしくは「文書指摘」を受けたと回答されています。今回のアンケートでは、100件余りの指摘事例が寄せられましたが、その多くは、『(社会福祉法人用)巡回監査報告書』の活用により、事前に改善できるものであることから、社福研では「指導監査の実例から学ぶ『巡回監査報告書』『別添2』の活用」研修を開催し、オンデマンド配信しています。
「別添2」の実践状況と効果
「別添2」の実践については、回答事務所の約55%が「実施している」と回答されており、そのうちの半数は「原則として全関与先に実施」とされています。一方で、約45%は「実施していない」と回答されており、その理由を「作成の仕方がわからない」「メリットが感じられない」「繁忙期で時間がとれない」とされています。
実際のところ、「別添2」を実践されている事務所に、その結果を伺ったところ、「特に変わったことはない」(71%)、ついで「指導監査事項の省略、簡略があった」(11%)、「指導監査の周期延長があった」(9%)との回答があり、「別添2」を提出したことにより、所轄庁側の対応が変わったという事例は少ないことがわかります。一方で「『別添2』の実践は、計算書類等のガバナンスの強化に資すると理事会から評価されている」との声もあり、所轄庁の対応以外の効果にも注目していきたいところです。
また、「一部の所轄庁担当者は『別添2』をご存じない」「所轄庁の担当者には『別添2』が添付されていても『指導監査』を実施すると言われている」等の声もあり、所轄庁に対して、制度に対する理解を求めていくとともに、我々会員側も、所轄庁から信頼される「別添2」の作成に取り組んでいく必要があります。
「『別添2』の作成の仕方がわからない」という声に関連しては「所見欄の記載事例集を作成してほしい」などの要望もありました。社福研では、これらの要望を受けて、さらなる支援策の充実に取り組みます。
なお、「所見欄の記載事例」については、前述したオンデマンド研修「指導監査の実例から学ぶ『巡回監査報告書』『別添2』の活用」で紹介していますので、ぜひご視聴ください。
所轄庁への周知活動
社福研では、毎年、「社会福祉法人経営指標(S‐BAST)」を所轄庁に贈呈しています。本年度は、都道府県リーダが中心となり、全国121カ所の所轄庁に対して贈呈しました。この活動を通じて、所轄庁にTKC会員の「別添2」推進の取り組みを紹介し、TKC会員が月次巡回監査を積み重ねた結果が「別添2」につながっていることを説明しています。所轄庁の担当者は定期的に異動されることもあり、一部には、毎年、一から説明が必要な状況もありますが、長年の贈呈活動を通じて、徐々にTKC会員の「別添2」推進活動が認知され始めている感触もあります。
実践目標2千件達成へ向けて
社福研では、毎年、2000件の「別添2」実践を目標としています。実績は年々伸びていますが、昨年度の実績は、1099件にとどまっています。「別添2」実践の効果については、現状では「メリットが感じられない」といった声もありますが、社福研では品質の高い「別添2」の添付を数多く実践していくことにより、専門家を活用することのメリットを社会に訴えていきたいと考えています。まだまだ、道半ばの活動ではありますが、多くのTKC会員に、この活動をご理解いただければと考えています。
まもなく、社会福祉法人の決算期を迎えます。目標の達成に向けて、さらなる実践をお願いいたします。
(会報『TKC』令和6年4月号より転載)