事務所経営
月次巡回監査を基軸に高付加価値サービス提供と事務所の収益向上に挑戦
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税理士法人アイ・タックス 山田誠一朗会員(TKC東京都心会)
山田誠一朗会員は、月次巡回監査を基軸に、自計化・書面添付・継続MASを標準業務として関与先企業の黒字化支援に取り組むとともに、従業員を大切にした「健康経営」に注力し、関与先拡大にも挑戦している。「全社員が健康で働きがいのある職場を実現したい」と語る山田会員に、巡回監査・事務所経営委員会の岩河剛小委員長がインタビューした。
◎インタビュアー TKC全国会巡回監査・事務所経営委員会 岩河 剛巡回監査率向上小委員長
「健康経営優良法人2023」に認定 働き方改革に積極的に取り組む
──ご経歴から教えてください。
山田 大学卒業後は一般企業に就職し、財務・経理を経験しました。30歳のときに会計事務所業界に転職し、TKC会員事務所と、TKC会員以外の二つの事務所に計12年ほど勤めました。最初の事務所でTKCの考え方やシステムに慣れていたので、平成26年に独立開業した後すぐにTKCに入会しました。
──その後、合併・承継されたのですね。
山田誠一朗会員
山田 はい。開業後には、支部例会等のTKC会務に積極的に参加していました。そのような中で同じ支部の森脇仁子先生と知り合い、「一定の年齢で引退したいので、引き継いでほしい」という話になりました。平成29年、合併して税理士法人アイ・タックスの代表社員に就任し、4年間、共同代表として税理士法人を運営した後、令和3年に承継しました。また、福井事務所では税理士法人設立当時の税理士(片岡道雄会員)はすでに亡くなっており、平成19年に親族外承継(酒井雅幸会員)をしています。
──東京事務所・福井事務所ともに親族外の税理士が承継し、円滑に運営できているのは素晴らしいことですね。
山田 これはまさにTKCのおかげです。税理士法人全体にTKCの理念が浸透していたことや、TKCの方針に基づき業務が標準化されていたことが大きいと考えています。もちろん、所長の交代により、それまでとやり方が少し変わった部分もありますが、職員と議論しながら解決してきました。
──事務所の強みを教えてください。
山田 一つ目は、「金融機関との連携」です。近隣の地銀や信用金庫との関係性を関与先にアピールしており、実際にそれを活かして喜ばれています。
二つ目は、従業員を大切にした「健康経営」に注力していることです。経済産業省による「健康経営優良法人2023」の認定を受けています。申請は大変でしたが、事務所のアピールにつながっています。働き方改革にも積極的に取り組んでおり、就業時間は18時までですが、業務が終わっていれば17時以降はいつでも退社できる社内ルールとしています。実際、確定申告時期以外は、18時までに全員が退社しています。
顧問契約の際、巡回監査の意義(タイムリーな情報や相談機会の提供等)を伝える
──TKC全国会の翌月巡回監査率はコロナ禍の3年間で3.9%低下しましたが、山田先生の事務所は高い翌月巡回監査率を維持しています(96・1%)。山田先生が考える月次巡回監査の断行の意義や事務所経営に与える効果を教えてください。
山田 巡回監査の基本的な考え方は、『TKC会計人の行動基準書』のとおりですが、「あらゆる高付加価値サービスの基礎となるTKC会計人の普遍的・根源的業務」と言えると思います。
実務において、巡回監査は事務所業務のベースであり、関与先へのサービス提供という面だけでなくコミュニケーションにおいても非常に重要です。このことが付加価値を高め、結果として事務所収益の拡大にも大きく影響してきます。
顧問契約の際には、「書面添付により税務署と金融機関から高い信頼を獲得すること」「継続MASで予算策定と決算予測を実施すること」など、顧問報酬の根拠を伝えています。関与先1件当たり、平均で年間100万円を超える報酬をいただいていますが、関与先からの納得を得られていると感じます。
──そのような巡回監査の意義を、職員にはどのように浸透させていますか。
山田 TKCの研修受講と『TKC基本講座』の輪読により知識と理解を深めており、輪読は月1回の勉強会で、1時間から1時間半時間をとっています。なお、職員は入社2年で巡回監査士補、入社5年で巡回監査士を取得することを基準としています。
──では、関与先にはどのように伝えていますか。特に都市部では一般的なクラウド会計が普及し、巡回監査の必要性が伝わりにくいという話も耳にします。
山田 やはり、顧問契約の際の説明がキモとなりますね。タイムリーな情報や相談機会の提供など、月次巡回監査の意義をしっかり伝えるようにしています。他社クラウド会計とTKCシステムの比較になったときは、「金融機関や税務署からの信頼性の高さ」「高付加価値サービスを提供するためにTKCシステムが不可欠であること」を伝えています。ご理解いただけなければ縁がなかったと考え、契約しません。既存の関与先や金融機関からの紹介が多く、紹介いただいた3件のうち、おおむね2件は成約している感触です。紹介された段階で、ある程度業務内容について理解されているので、成約率は比較的高いと思います。
仕訳の間違いが多い関与先には巡回監査機能を活用し事前確認を実施
──月次巡回監査のベースとなる初期指導の取り組みを教えてください。
山田 書類のファイリング方法や勘定科目の設定を所内で統一しており、自計化システムは1~2カ月事務所で入力して、仕訳辞書を作成しています。また、初期指導は基本的にベテラン職員に担当してもらうようにしています。
──翌月巡回監査率を維持するための所内の仕組み・ルールやOMSの活用について教えてください。
山田 毎月、「25日までに巡回監査を終わらせるスケジュール」を「前月の25日まで」に組むようにしています。その上で、25日以降の朝礼の際に、OMS「目標管理KPI」で実施状況を確認します。特にFXクラウドの場合、巡回監査が完了しているのに月次更新をしていない場合があるので、もれがないかチェックしています。
──巡回監査の質を高めるための工夫はありますか?
山田 第3四半期経過時に、関与先の経営者にどの画面を使って何を説明するかをまとめたマニュアルを作成するなど、「職員のサービス水準を平準化すること」を強く意識しています。月1回開催している勉強会では職員の税務知識向上を図っており、自主性を重んじ、講師も職員が担当しています。
最近ではFXクラウドの導入が増え、巡回監査機能の活用も進んできました。仕訳の間違いが多い関与先には、必ず事前確認を実施するよう職員に指示しています。付箋機能も活用して、巡回監査前の関与先とのコミュニケーションに役立てています。
MISで提供できる情報の質が向上し金融機関や税務署からの信頼も高まった
──自計化の導入や、継続MASの活用を徹底されていると伺いました。
事務所の皆さん。前列右が山田誠一朗会員、
その左隣が森脇仁子会員。
山田 事務所では、顧問契約時にFXシリーズの導入を前提としています。FXシリーズの価値を伝えるため、書面添付、継続MASのほか、三菱UFJ銀行の「極め」(TKC会員関与先企業限定の融資商品)をアピールしています。TKC会員事務所の取り組みを評価した商品が提供されているのはありがたいですね。
継続MASについては、「実践しない事務所があるのはなぜだろう」と感じるほど重宝しています。目標が明確でない社長でも、継続MASを用いて対話しながら、売上を含めた来期の状況やイメージを引き出し、数値の増減について見通しを擦り合わせて予算を策定しています。決算報告会では決算の報告よりもむしろ未来に向けた予算策定に重きを置いています。
──書面添付の取り組みについてはいかがですか。
山田 「他事務所から移ってきた関与先は、初年度には添付しない」「新規開業の関与先は、関与後3年経過した後に添付する」など所内で書面添付を実践する企業の基準は設けていますが、今後実践率をさらに高めたいと考えています。
主要科目で100万円以上かつ10%以上の増減がある科目については必ず記載することとしていますが、さらに内容を充実していきたいと考えています。
──巡回監査を前提とした、企業防衛制度、リスクマネジメント制度、三共済制度の推進における事務所の取り組み状況についても教えてください。
山田 標準業務としての取り組みを目指し積極的に推進しています。企業防衛制度については、大同生命のスタッフさんに来所してもらい企業防衛推進会議を開催しています。最新情報を提供いただきながら事例共有を行うことで推進強化につながっています。
リスクマネジメント制度、三共済制度については、所内の「リスクマネジメント委員会」が主導して推進とフォローを行っています。
──月次巡回監査の断行と、それに基づく業務を標準業務とすることで感じた変化はありますか?
山田 金融機関や税務署からの信頼獲得につながっていると感じます。月次巡回監査を断行することで、TKCモニタリング情報サービス(MIS)で提供できる情報の質も高まってきました。関与先にとっても、最新の数値を画面上ですぐに確認できる形で提供することで迅速な経営判断に役立てていただけているのではないでしょうか。私たち事務所にとっても、関与先から税務・会計以外の相談を受ける機会が増えて関係が深まり、新たな紹介をいただく等、事務所の発展につながっています。
それから、TKC全国会の事務所総合表彰も所内全体で楽しく取り組んでおり、所内の活性化に役立っていますね。
デジタル化や売上規模拡大に挑戦し事務所を成長させていきたい
──今後のビジョンや目標についてお聞かせください。
インタビュアー/岩河 剛小委員長
山田 大きく三つあります。一つ目は、デジタル化の一層の推進です。事務所のキャビネットを半分にすることを目標に、まずは所内の業務や資料をデジタル化した上で、関与先とのやり取りについてもデジタル化を進めたいと考えています。
二つ目は売上規模の拡大です。関与先をまだまだ拡大したいと考えています。関与先拡大にあたっては、事務所拡大、つまり職員採用が重要ですが、事務所の注力する健康経営が強みとなって、ありがたいことに職員採用にもつながっているため、今後も積極的に取り組んでいきたいところです。
現在、法人全体で売上高が2億円を超えたところですが、東京事務所だけで2億円を達成したいと考えています。また、インボイス制度導入後は顧問報酬を値上げする方針です。今後、関与先に文書を発信し、交渉を進めていきます。1社あたり5000円、もしくは顧問料の1割増加を提示する予定です。
三つ目は、新たな収益の柱の構築です。中堅大企業支援、海外展開支援、事業承継支援、健康経営やSDGsのコンサルティングなど、周辺ビジネスの収益化にも取り組んでいきたいです。
今後も月次巡回監査の断行を基軸に、さまざまな取り組みを通じて高付加価値サービスを提供しながら、関与先企業の永続的繁栄を支援し、社会の発展に貢献してまいります。
(構成/TKC全国会事務局 松田信之)
事務所名 | 税理士法人アイ・タックス東京事務所 |
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所在地 | 東京都渋谷区渋谷2丁目1番11号郁文堂青山通りビル2F |
職員数 | 7名 |
翌月巡回監査率 | 96.1% |
関与先件数 | 93件(法人)、7件(個人) |
継続MAS予算登録 | 87件 |
FX導入 | 79件 |
書面添付実践 | 70件 |
MIS実践 | 130件 |
(会報『TKC』令和5年10月号より転載)