事務所経営
質の高い巡回監査を実践し信頼される存在になりたい
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令和4年度の巡回監査士試験は、受験者数2639名で過去最多となった。
その中でも優秀な成績で合格した職員4名が、巡回監査士資格の取得から得た学びや実務で生きていることなどを語り合った。中村哲郎中央研修所副所長が進行役を務めた。
■とき:令和5年1月20日(金)■ところ:グランドプリンスホテル新高輪
- ◉出席者
- 神 秀真氏(山本秀典税理士事務所・東北会)
斉藤壮輝氏(谷口勇一税理士事務所・北陸会)
杉本彩花氏(税理士法人りたっくす・近畿京滋会)
久岡 崇氏(山本秀夫税理士事務所・中国会) - ◉司会
- 中村哲郎会員(TKC全国会中央研修所副所長)
巡回監査士補試験の勉強が実務に役立つことを実感
──はじめに自己紹介と巡回監査士試験を受験したきっかけをお聞かせください。
久岡 崇氏
久岡 山本秀夫税理士事務所の久岡崇です。事務所がある島根県松江市は歴史ある街で、関与先様も古くからのお付き合いの方が多いです。私は事務所の「身近なビジネスパートナー」という方針に共感して2年前に入所しました。前職は営業職でしたので、会計・税法などあらゆる面で知識不足を痛感しました。事務所として、試験に臨む人には周囲がしっかりサポートするという体制ですので、まず巡回監査士補試験を受けたところ、学習を通じて、実務に非常に役に立つことを実感できたため、業務品質を高めるための次のステップとして巡回監査士試験を受験しました。
杉本 京都府京都市の税理士法人りたっくす(所長:久乗哲会員)の杉本彩花です。運送会社から転職し1年半が経ちました。当事務所では、「お客さまの永続的繁栄を支援する」という方針のもと、所長は常々職員に「お客さまを第一に考えて、寄り添った支援ができるように」と言っています。その一環で、税理士等の試験を積極的に受けることを勧めています。仕事をしながら勉強するための時間がしっかりと確保されていますので、方針に沿って今回の巡回監査士試験を受けました。
斉藤 谷口勇一税理士事務所の斉藤壮輝です。事務所は石川県加賀市にあります。私も建設業から転職し、今年の1月で入所からちょうど2年になります。当事務所でも、巡回監査士を目指すことは「自己成長につながる」ということで推奨されています。巡回監査担当者は全員、巡回監査士資格を取得済み、もしくは取得を目指していますので、関与先様のために自分の業務レベルを上げて活躍している先輩方に追いつきたい、早く事務所の一員として活躍できるように「頑張るしかない」と気合を入れて勉強しました。
神 山本秀典税理士事務所の神秀真です。青森県八戸市から来ました。私は大学を卒業後すぐに、実家から徒歩圏内にある近田会計事務所に入所して、2年目です。近田会計事務所は、昨年11月に近田雄一前会長が急逝したため、山本秀典所長が承継しています。近田前会長の「関与先様の発展には職員の成長が第一」という考えのもと、職員全員が巡回監査士・巡回監査士補の試験を受けています。特に私の所属する部課は、全員が資格を取得していますので、今回合格することができて、ホっとしています(笑)。
テキストを徹底活用して税法や継続MASの理解を深めた
──皆さんは入所2年目で巡回監査士試験に合格されていますが、実務と勉強の両立は大変だったのではないかと思います。研修の活用方法や役に立った研修内容、勉強方法を教えてください。
斉藤 私は、実際に巡回監査を行っているので、巡回監査士補研修の「巡回監査2(企業会計・経営助言)」が大変ためになりました。しっかりとした経営を行うためには、経営計画の策定と予実管理がとても大事であることや、予算と実績との差異を分析し、計画をスムーズに実行していくためのコツを学ぶことができました。
また、事務所のFXクラウドシリーズの導入第一号が私の担当先でしたので、研修に参加して、システムの操作や活用方法を学びました。北陸会の会員先生と交流できたことも、よい経験でした。今も勉強しながら、事務所でFXクラウド推進担当を務めています。
神 秀真氏
神 先ほど申し上げた通り、当事務所は、関与先様の発展のために職員の成長を最も重視しています。そのため、TKCの職員研修に限らず、さまざまなセミナーへの参加を通じた自己研鑽の機会があります。巡回監査士研修もそのうちの一つです。受講して特に勉強になったことは、先ほど話に出た継続MASの活用です。今、事務所が注力していることの一つにポストコロナ持続的発展計画事業(ポスコロ事業)への取り組みがあります。私も先輩に教わりながら、継続MASで経営計画を策定しており、研修で経営計画策定の流れや経営改善のために継続MASをどのように活用していくのかをあらためて確認できたので大変役立ちました。
久岡 巡回監査士補・巡回監査士研修のテキスト『実務に役立つ法人税法』や『実務に役立つ経営助言の基礎知識』などは、その名前の通り、本当に実務で役に立っています。
私は、研修で特に巡回監査で経営者にどのようなことをお話しいただきたいか、という点に着目していましたので、そこから得た知識が巡回監査で生かせたことは試験勉強の大きな成果でした。多くの事例が紹介されていますので、今でも活用しています。常に手元に置いており、実務で分からないことがあれば、該当の頁を開いて確認することもあります。
杉本 私は、一回で試験に合格すると決めて、研修テキストを徹底的に読み込みました。実務に沿った内容で理解しやすかったので、繰り返し読みました。
当事務所は、専門性を高めるために必要な研修があれば、積極的に参加することを推奨しています。そこで、TKC近畿京滋会が主催する研修にも行かせてもらいました。その中でも、大原学園の専任講師を招いた「巡回監査士 完全対策講座」では、税法4科目を集中的に学習できました。また、近畿京滋会独自の「巡回監査体制再構築プロジェクト」職員研修では、初期指導や巡回監査支援システムの使い方などを近畿京滋会の会員先生から学ぶことができ、モチベーションを維持できたことが大変ありがたかったです。
巡回監査で何か一つでも「気づき」を生み出したい
──巡回監査士試験に合格して得たものや巡回監査で心がけていることはありますか。
久岡 入所してすぐに「巡回監査は全ての業務の基本である」と教わりました。当初は、具体的に何をするのか分かりませんでしたが、巡回監査士補と巡回監査士試験を受けたことで、巡回監査の意義についての理解を深めることができました。
まだ経験は少ないですが、学んだことを実践して感じたことは、数字を確認するだけではなく、現場の状況、会社の実情を見た上で、数字に基づいた助言や提案を行うことが大事だということです。それが巡回監査の本懐なのかなと思いました。
そのことに気が付いてからは、常日ごろから密なコミュニケーションを心がけて、ニーズを引き出し、きちんとお応えすることで巡回監査の時間が関与先様にとって有意義な時間となるように、という意識に変わりました。
杉本彩花氏
杉本 まだ巡回監査を担当するお客さまは1件だけなのですが、先日、先輩が担当している相続税の申告業務を補助しながら勉強させてもらいました。それまで相続税申告書を見る機会がなかったのですが、巡回監査士試験で学んだ知識から申告書に記載されている数字がどの項目から計算されているのかを一目で理解できました。
私はもともと手に職を付けたいと思い、さまざまな資格の中から、税理士に興味を持ち、簿記の資格を取得して転職しました。入所前に想像していた税理士事務所の仕事は、申告書の作成や帳簿の数字を合わせることだと思っていたのですが、先輩の仕事を通じて、お客さまに寄り添った支援ができる職業なのだと理解できました。
神 私は、先輩から引き継いだ関与先様を巡回監査しているのですが、その時に心がけていることは、「神さんが担当になってからも経営助言が充実しているね」と感じてもらえるようにすることです。例えば、FXシリーズの変動損益計算書で数字に変化がない場合でも「同じですね」の一言で終わりにせずに、「○○についてはいかがですか」と問いかけるようにしています。この問いかけの際に、試験勉強を通じて幅広い知識を得たことによって、以前よりも自分の言葉で説明できることが増え、留意すべきポイントに気付けるようになったと感じています。
また、いち早く情報提供することにも気を付けています。コロナ禍では補助金や助成金に関する情報をお伝えし、「近田(会計)さんが顧問でよかった」と言っていただけました。今後も安心してもらえるようにしっかりとご支援したいです。
斉藤壮輝氏
斉藤 私も巡回監査の時間を、ただ伝票をチェックして、残高を合わせるためだけに使うのではなく、その時間に、関与先様に「気付き」や「考え」を一つでも導くことができればよいな、と考えています。そして、巡回監査が終わったあとに、「前回よりもこの点が改善した」と所長に報告できるように心がけています。
──実際に関与先様から感謝されたことはありますか。
斉藤 初期指導から担当を任された関与先様があります。最初は自計化に消極的で、月次決算も遅れていたのですが、とにかく前向きな言葉で熱意をもって社長を励ましながら、仕訳を入力してもらいました。
次第に月次決算が遅れずにできるようになり、社長も自ら帳簿を見て、「数字で考えるのは面白いね」と言ってくださるようになりました。会社の業績も少しずつよくなり、私が訪問すると、社長から「斉藤さん、斉藤さん」と相談していただけるようになり、とてもやりがいを感じています。まだまだ未熟な私に初期指導から任せてくれた所長に感謝しています。
関与先様の発展のため意義を忘れず巡回監査を行う
司会/中村哲郎副所長
──最後に今後の取り組みへの決意やメッセージなどをお願いします。
久岡 「巡回監査士」という資格を取得したことによって、関与先様から一定の期待をされていることを感じます。巡回監査では、意義を忘れずに目的を持って臨む人間でありたいです。「巡回監査士」の肩書に恥じないように、知識の習得に励み、実務経験を積んでいきます。そして、次のステップである税理士を目指しながら、質の高い巡回監査を行いたいです。
杉本 今後は巡回監査の担当関与先件数が増えていくと思います。今回の資格取得をスタートラインと捉えて、これまで勉強したことを踏まえた上で、これから担当を持つ際には、お客さまとしっかり向き合って、寄り添った支援ができるようにしたいと思っています。入所前からの税理士になりたいという目標に向かって、経験を重ねて今後も取り組みます。
斉藤 巡回監査士試験を受ける前の自分と比較して、確実に知識と実務に対する理解が深まったと感じています。試験に挑戦しなければ、税法や巡回監査の心構えといった基礎知識への理解が浅いままで、関与先様へのサポートが十分にできなかったかもしれません。目標は、税理士資格の取得です。実務面での実績はまだまだですので、活躍されている先輩に追いつけるように頑張ります。
神 巡回監査士試験は難しいというイメージがあるかもしれませんが、実務に必要な税務などの知識を効率よく得る絶好の機会です。挑戦するだけでも、とても価値がある試験だなと実感しています。私も税理士を目指しており、並行して勉強を進めています。今後も関与先様の発展のために努力していきます。
──ありがとうございました。皆さんは巡回監査士の資格取得をスタートにして、税理士を目指していると聞いて嬉しく思います。今後も学び続けて得た知識や経験をもとに、月次巡回監査を行い、関与先様から信頼される存在として活躍されることを期待しています。
(構成/TKC出版 石原 学)
(会報『TKC』令和5年4月号より転載)