対談・講演
税理士の4大業務を完遂し、中小企業を元気にしよう!
飯塚真規 TKC代表取締役社長 × 坂本孝司 TKC全国会会長
2025年は、TKC全国会が3年間続けてきた運動方針の成果を踏まえ、更なる高みを目指すための新たな運動をスタートする重要な年となる。年頭にあたって、坂本孝司TKC全国会会長と飯塚真規TKC社長が、会計事務所の経営革新に向けた、オールTKCによる「税理士の4大業務」完遂への取り組み、すべての基本となる月次決算体制の構築などについて語り合った。
進行 本誌編集長 加藤恵一郞
実りのあった3年間の運動 残る課題は翌月巡回監査率の向上
──2025年を迎えるにあたって、坂本孝司TKC全国会会長と飯塚真規TKC社長に新春の対談をお願いしました。税理士業界の展望を中心に、率直に語り合っていただきます。始めに、お二方にとって2024年はどんな年だったと実感されていますか。
坂本孝司TKC全国会会長
坂本 最も問題意識を持って取り組んだことは、税理士業界における「人材難」です。年頭のTKC全国会政策発表会では、「人材難を乗り越えてDXをわがものとし、『税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)』すべてを関与先企業に提供しましょう!」と会員の皆さんに呼びかけました。そして、会員事務所が経営革新を実現するために、「会計事務所の経営革新」検討プロジェクトを3月に立ち上げ、10年後の事務所像はどうあるべきかなど、2025年からスタートするTKC全国会の新しい運動を見据えて検討してきました。
もう一つ、強く意識してきたのが、月次巡回監査を通じた関与先企業との「顔の見える関係」を深めることでした。一方で、中小企業を支えるには、金融機関との連携も欠かせないことから、金融機関との「顔の見える関係」作りにも力を注いできた1年でした。
飯塚 システムを開発する立場からしますと、昨年は、制度改正の対応に追われた年だったなと感じています。インボイス制度が一昨年の10月から開始され、昨年の1月には改正電子帳簿保存法に基づく電子取引データ保存が義務化され、急転直下で定額減税制度が6月に実施されました。そうした流れを前向きに捉え、FXクラウドシリーズのレベルアップにより財務会計・給与計算・販売購買機能が出そろうなど、会員事務所を取り巻くシステム環境の進化を支援してきた1年でした。
──TKC全国会は、2022年1月から2024年12月までの3年間の運動方針として「未来に挑戦するTKC会計人──巡回監査を断行し、企業の黒字決算と適正申告を支援しよう!(優良な電子帳簿を圧倒的に拡大する・租税正義の守護者となる・黒字化を支援し、優良企業を育成する)」を掲げて取り組んできました。坂本会長は運動方針の成果をどのように捉えていますか。
坂本 一言で申し上げると、実りの多い3年間だったと思います。例えば、FXクラウドシリーズの利用企業数も書面添付実践件数も順調な伸びを示しましたし、経営リスクに関する企業防衛制度やリスマネ制度、三共済制度の件数などもかなり増えました。このように、TKC全国会が定めたKPI(重要業績評価指標)について全体的によい成果が表れたことによって、業界全体が大きく前進したのではないでしょうか。これも、TKC会員の先生方や職員の皆さん、TKCの役社員の皆さんの日頃からのご尽力のおかげであり、心から感謝申し上げたいと思います。
しかしその一方で、翌月巡回監査率の低下傾向が改善されなかった点は大きな課題となりました。TKC会員にとって巡回監査は基本業務です。この実践率をいかに高めていくか、より具体的には、月次巡回監査を実施する関与先の絶対件数をいかに増大せしめるかが唯一、残された課題だと捉えています。
──飯塚社長、TKCではこの運動方針を踏まえ、会員事務所と関与先企業のDX対応や黒字決算と適正申告の実現に向けて、TKC方式による自計化推進の支援に取り組まれてきました。その手応えはいかがでしたか。
飯塚真規TKC代表取締役社長
飯塚 我々はこの間、FXシリーズのスタンドアロン版からクラウド版への移行に重点を置いてご支援に当たってきました。その結果、自計化システムを導入する関与先企業のうち、「365日変動損益計算書」を毎月確認している経営者の割合は、スタンドアロン版では7%程度だったのに対して、クラウド版では約30%まで向上しています。自計化の真の目的は、経営者自身が自社の実績を的確に把握できるようになることですので、これは大きな成果といえるのではないでしょうか。
また、昨年の7月に福岡で開催された、TKC全国役員大会でも発表しましたが、インボイス制度への対応を進める中で、巡回監査率が事務所の生産性に大きく影響を与えることが分かってきました。税務と会計双方でTKCシステムを利用している一気通貫割合90%以上かつ翌月巡回監査率90%以上の事務所と、会計を他社システムで利用している事務所とを比べると、前者が決算申告業務に係る日数で最大5営業日早いということです。この分析結果は、TKCシステムへの移行を進めている会員先生方からもお褒めの言葉を頂いており、会員事務所の生産性向上への貢献ができたのではないかと思っています。
理想と現実のギャップを埋める所長の強い決断力が求められている
──坂本会長は会長就任以来、一貫して「税理士の4大業務」を提唱され、同一企業に4大業務を同時提供する運動の先頭に立たれています。TKCにおいても飯塚真玄名誉会長が「これからTKCの使命は、『税理士4大業務の完遂』を支援することにある」(会報『TKC』2024年10月号)と断言されています。そこで改めて坂本会長から、オールTKCが「税理士の4大業務」に取り組んでいる現状について、お話しいただけますか。
坂本 「税理士の4大業務」はTKC全国会の創設者である飯塚毅博士の見解を基に、税理士の本来業務を深掘りしたものです。ありがたいことに、全国会では各委員会や研究会などのすべての活動において、この4大業務が定着しています。とはいえ、4大業務を同一の関与先企業に同時に提供できている割合はまだ高くはないと思います。その理由は、関与先企業のTKC方式の自計化が遅れている、人手不足で業務品質が維持できないなど、様々です。時代対応ができていない、理想と現実のギャップを埋められないといった壁を乗り越えようとする所長自身の強い決断力が、いままさに求められていると思います。つまりこのギャップを埋めるには、会計事務所の経営改善では足りず、「会計事務所の経営革新」が必要だということです。
飯塚 最近、世の中が大きく変化する中で、日本の社会全体が閉塞感に包まれているような気がしてなりません。そうした雰囲気に飲み込まれて、内にこもってしまっている中小企業も多いのではないでしょうか。これは税理士業界にも当てはまると思います。そのような状況下、会計事務所が理想と現実のギャップを埋めて前進するためにはどうすればよいのかというと、元気に成長している事務所をベンチマークして、一歩ずつそこに近づくしかないと考えます。
TKCは、ドイツのDATEV社と50年超に亘る提携関係を継続しています。そうした経験から国内はもとより海外の動向などの最新情報も収集しながら、高付加価値サービスを提供する会計事務所のあるべきデジタル化へのロードマップをお示しし、4大業務の完遂を目指す会員先生方に、更に貢献したいと考えています。
全部監査の効率的実施こそが時代対応のキーポイント
司会:本誌編集長 加藤恵一郎
──TKC会員事務所が「税理士の4大業務」を完遂するためには、月次巡回監査を徹底断行し、関与先企業の月次決算体制を構築することが基本となります。このための時代対応(生産性向上や働き方改革など)について、坂本会長の考えをお聞かせください。
坂本 すべての基本をなす月次巡回監査体制が崩壊すれば、税理士の社会的評価も地に落ちることでしょう。飯塚毅博士が「月次巡回監査は絶対に無理してでも断行すべきものであり、損得計算、銭勘定の対象領域ではない」と主張された通り、税理士の生命線として守り抜かなければなりません。それでは、時代対応として私たちはどのようにすればよいのか。「内包」と「外延」の概念で捉えると、本質的に変えてはならない「内包」が「月次巡回監査の実施」であり、変化させるべき「外延」が「全部監査の効率的実施体制の構築」です。この「全部監査の効率的実施体制の構築」こそが、新しい時代対応の最大のキーポイントになります。
ここで言う「効率的」とは、会計から税務まで一気通貫の仕組みであるTKCシステムの活用を意味しており、関与先企業の現世的な要望を受け入れて隔月や四半期に1回、巡回監査を行うことではありません。基本的にすべての関与先企業に月次巡回監査を実施するとともに、TKC方式の自計化を推進し、月次巡回監査を経て決算書・申告書を作成することで、証憑保存・仕訳入力から電子申告までのデータがつながる。このことにより決算書・申告書の信頼性が向上する。しかもこの一連業務の実施状況が分かる資料として「記帳適時性証明書」がTKCから発行される。更に「月次決算速報サービス」によって最新業績が瞬時に経営者や経営幹部に送られる。このような、世界でも類を見ない仕組みを利用できる恵まれた環境にあることを、TKC会員はよく認識しないといけません。そのうえで、「税理士の4大業務」の意義や経営に与える影響について、中小企業経営者を啓発することが極めて重要です。
そして、こうした取り組みを内部運動に終わらせずに外部評価に結びつけるためにも、「社会の納得」を得る運動を同時に展開しなければなりません。具体的には、政界・官界・学界・財界(主に金融機関)の影響力ある方々に、税理士業務の社会的な意義や魅力を広く認知していただくことが欠かせないと思います。
──TKCでは、この「税理士の4大業務」の経営助言を支えるツールとして、昨年11月に「月次決算速報サービス」の提供を開始されました。あらためてこのサービスのポイントについて、飯塚社長から教えていただけますか。
飯塚 政府による賃上げ要請やエネルギーコストの増大など、厳しい経営環境が続く中で、経営者は前年対比では経営できなくなってきています。そうなると予実対比の経営が必要になります。この点で、困っている関与先企業をTKC会員の先生方の力で救援していただくために開発されたのが、「月次決算速報サービス」です。これは、月次巡回監査終了直後に「月次決算速報」(変動損益計算書や自己資本比率の推移グラフなど)を関与先経営者と事務所の所長に対してメールを自動発信する無償のサービスです。事務所の所長と経営者との会話のきっかけとしていただき、経営者が早期の巡回監査と所長の経営助言を待ち望むようになることを目指しています。具体的には、経営者に対して、限界利益率と自己資本比率の重要性に気付いていただくことにあります。この二つの指標を注視することで、関与先企業の業績は自ずと改善されるようになるでしょう。
本サービスを初めて利用した関与先経営者の話ですが、取引先への値上げ交渉が円滑に進み、経営が軌道に乗ってよかったと思っていたところ、本サービスの「売上高・限界利益・経常利益の推移グラフ」を見て、実は売上高がコロナ前まで戻せていなかったと気付いて、もっと頑張らなければいけないと顧問の会員先生に相談があったそうです。そのような効果もあります。
坂本 頼りになる仕組みですね。ドイツの会計学者であったシューマレンバッハは『動的貸借対照論』(1926年)において、「月次損益計算は経営の成行を速く注視し得るものである」と述べています。つまり、月次決算は、短期の成果計算の代表的なものであり、実務上最も重要であるということです。その意味でも「月次決算速報サービス」の利用促進に力を入れたいと思います。
経営に役立つ月次決算の支援が税理士の未来を切り拓く
──さて本年から新しいTKC全国会運動方針がスタートします。結びとして、お二方から今後の抱負やTKC会員へのメッセージをお願いします。
坂本 私は、税理士業界を成長の余地があるブルーオーシャンだと捉えています。なぜなら、「税理士の4大業務」が提供されている中小企業はまだ多くはないためです。とすれば、多くの中小企業は、会計事務所が保証や経営助言まで取り組んでくれるとは知らない状況にあるということです。そのことを踏まえ、顧問契約時を含めて目の前の1社1社に対して、TKC会員事務所によるサービスの必要性(価値)を粘り強く、かつ丁寧に啓発していくことがいま何より重要です。
決して成熟した業界ではないのですから、なすべきことは無数にあります。世の中をよくしていこうとの発想と情熱をもって実行力を発揮し、関与先企業の月次決算体制構築の支援と月次巡回監査の徹底断行を通して、皆さんと共に税理士の未来を切り拓いていきたいと思います。個々の会員事務所による誠実で前向きな「会計で会社を強くする」取り組みによって、中小企業を更に元気にしていきましょう。
飯塚 ご承知の通り令和4年(2022年)の税理士法改正で新設された税理士法第二条の三は、税理士がデジタル化を通じて納税義務者の利便の向上及びその業務の改善進捗を図ることを求めています。この法改正の是非は今後問われるべきですが、TKCとしては、急速にデジタル化が進む現状において、この改正を税理士にとっての機会と捉えたいと考えています。まさにいま、世界的な規模で税務業務のDX、とりわけ税務行政の分野でダイナミックな変化が起きています。詳しくは、飯塚名誉会長による特別寄稿(会報『TKC』2025年1月号22頁)をぜひお読みいただきたいのですが、この変化の中で、TKCでは、日本でインボイス制度が始まる3年前からデジタルインボイスへの対応を進めてきました。その優位性を活かして、会員事務所と関与先企業の一層のデジタル化を支援していきます。併せて、会員事務所が関与先企業から絶対的に頼りにされる一助として、「月次決算速報サービス」の推進にも集中して取り組みます。
TKCは来年の10月22日に創業60周年を迎えます。還暦とは干支が一巡し、生まれた年に戻るという意味ですので、TKCも創業の理念に立ち返り、会員先生方をこれまで以上にご支援する1年にしたいと思います。その具体策として、当社の担当SCGによる会員事務所との月次面談率100%で臨んでまいりますので、引き続きよろしくお願い致します。
──TKC会員の真髄は、切磋琢磨しながら研鑽し、更なる業務水準の向上を目指すことにあります。時代の流れに乗ってその真髄を究めるため、今後発表される新たな運動方針の実現に向け、オールTKCで邁進したいですね。本日はありがとうございました。
(構成/TKC出版 古市 学)
(会報『TKC』令和7年1月号より転載)