対談・講演
未来に挑戦するTKC会計人
TKC中国会創立50周年記念講演
とき:令和4年6月6日(月) ところ:ホテルグランヴィア岡山
飯塚毅博士の思いが込められたTKC全国会会則の前文
TKC全国会会長 坂本孝司
TKC中国会の皆様、この度は創立50周年を迎えられ、誠におめでとうございます。正確には51年前となりますが、中国会は、TKC全国会初代会長の飯塚毅博士が初めて岡山を訪問されて導入セミナーを開いた昭和46年6月1日に結成されて以来、全国をリードしてきた地域会です。初代会長の仁木安一先生が中心となり先達会員の方々と基盤を築かれ、その後、三木武彦先生、森末英男先生、そして、寺越愼一先生に会長が引き継がれてきました。その長い歴史を祝う記念式典の場で講演させていただけるのは、とても光栄です。
本日は、この節目の年に、TKC全国会会則の前文(資料)を踏まえて、全国会の結成目的を再確認していただくとともに、経済団体や金融機関、提携協定企業などからも多くの来賓がいらっしゃるので、われわれの原点とこれから進むべき方向性を知っていただけるような話ができればと思います。
この前文には、執筆された飯塚博士による全国会結成への熱い思いが込められています。いまから56年前にあたる昭和41年の株式会社TKCの設立は、「職業会計人の職域防衛と運命打開」のためであることが最初の1文からわかります。それゆえ、TKCシステムは、必ず職業会計人を経由して中小企業に提供されています。開発にあたっては、全国のTKC会員から選抜されたシステム委員会のメンバーと、TKCシステム開発研究所の役社員の方々が力を合わせて進めています。仁木先生は、全国会の第4代会長を務められましたが、システム委員長としても長くリーダーシップを発揮してこられたのは、ご承知の通りです。
それにしても、飯塚博士はなぜ「職域拡大」ではなく、「職域防衛」という表現を用いたのでしょうか。それはこういうことなのです。昭和37年に遡りますが、飯塚博士は、アメリカで開かれた第8回世界会計人会議に日本代表として出席されました。そこで、各国の会計人がコンピュータをテーマに盛んに議論しているのを目の当たりにします。それで会議の合間を縫って、単身でニューヨークの五番街にあるアメリカ公認会計士協会(AICPA)の本部を訪ね、偶然にも専務理事のJ・L・ケアリー氏との面談がかない、4時間にも及ぶ対談をされました。
そこで知ったのは、アメリカでは銀行が導入したコンピュータで中小企業の財務計算を受託しはじめて、会計事務所の業務を侵食しているということでした。同じような状況に日本もなりかねないと考えた飯塚博士は、職業会計人の職域防衛のために、自ら最新鋭のコンピュータを導入して財務処理計算の業務に乗り出すことを決意して帰国されました。それで設立されたのがTKCであり、TKC全国会なのです。
つまり、当時は銀行のコンピュータによる顧客の争奪を防ぐという意味での職域防衛でした。しかし時代が進み、これからは、DX(デジタルトランスフォーメーション)などのデジタル化の大きな流れを味方にしながら、先ほど来賓挨拶で広島銀行の清宗一男頭取も強調されていたように、金融機関と会計事務所の実質的な連携をより深めていくことが重要です。その上で中小企業の発展のために、職域防衛と運命打開の道をさらに歩んでいかなければなりません。
TKC全国会会則 前文(抜粋)
コンピュータ革命時代における日本の税理士・公認会計士の前途を深く憂慮した飯塚毅はTKCを創設し、職業会計人の職域防衛と運命打開とには、進んで自ら体当たりするほかはないと決心した。
そのためには、まず成否不明の開発事業に要する莫大な資金調達の責めを私企業たるTKCの一身に負わしめつつ、当然とされる商業主義の理論を止揚し、自ら経営する飯塚毅会計事務所も、その長年の研究成果たる業務管理文書の全部を開放し、会計人をして速やかに高次元のソフトウェアを徹底的な低費用で利用せしむる体制を全国に普及すると共に、TKC創設の理念に賛同して参加した同志会計人には、その事務所体質の改善と業務品質の管理について真率果敢な実践を求め、事務所の徹底電算化を通じて経営の合理化と業務水準の向上、収益性の拡大並びにその社会的権威の画期的向上を画り、会計人の孤立化を排して格調高い血縁的集団の形成を目指し、しかも、敢えて会計人全部の無差別入会を認めることなく、あくまでも高度の職業倫理を堅持し、租税正義の実現を祈念し、自利利他の聖行の実践を願い、国家と社会と働く者とに対し正しい使命感を抱く会計人のみの参加を求め、かかる参加会計人の全国的一大集団を形成して驀進し、古今未曾有の一大勢力を構築する以外にその目的達成の道はないとの結論に達し、ここにTKC全国会を結成した。(以下省略)
「職業会計人の職域防衛と運命打開」に向けた具体策
前文の2段落目からは、飯塚博士による「職業会計人の職域防衛と運命打開」に向けての具体策が息もつけないような長文で一気に記されています。その中で、飯塚博士は、TKC理念に賛同して入会したTKC会員をシステムユーザーではなく同志として迎え入れ、「事務所体質の改善と業務品質の管理」への真率果敢な実践を求めました。
昭和44年初版発行の飯塚博士によるテキスト『電算機利用による会計事務所の合理化』には、会計事務所の悩みとして、①関与先の記帳整理能力が弱いのでその対応策に全く困る、②関与先の顧問料が仲々上げられないので弱った、③職員の手が廻らないので、年度末一括計算の関与先がだんだん増えて困る──などが13項目にわたり掲げられています。こうした悩みはいまでも変わらない部分があるわけですが、いかに最新技術を導入して事務所内の合理化を図っても解決できるものではありません。悩みの解決には、関与先への指導と啓蒙が必要です。仕訳を記帳・入力するのはあくまでも関与先であり、会計事務所は巡回監査を通じてそれを徹底して指導していくという「TKC方式の自計化」を貫かない限り、「事務所体質の改善と業務品質の管理」の実践はできないのです。
ここで紹介したいのは、日本資本主義の父といわれる渋沢栄一による「士魂商才」という言葉です。侍の魂を持って商売人の才を発揮せよという意味ですが、これこそが、税理士に求められている覚悟なのだと感じています。事務所規模の大小にかかわらず、職員の定着がよく、関与先経営者からも尊敬される業務品質を備えた事務所体制を整える。そして、税務署からも金融機関からも一目も二目も置かれるような存在になる。したがって、関与先の経営者が黒字決算と適正申告の実現とは違う方向に行こうとしたら何とかして説得して、それでも正せないようなら顧問契約を解除するくらいの毅然とした態度が士魂なのだと思います。
また、TKC全国会は「会計人の孤立化を排して格調高い血縁的集団の形成を目指し」ています。血縁的というのは、いわば血のつながった親子や兄弟姉妹のような関係性を意味します。わが子が病気や怪我をしたら心底から心配するように、会員相互の深い関係を築いていこうということです。例えば、会員間では事務所見学会などを通じて、事務所のノウハウを惜しげもなく公開し合っているのも、こうした考え方が根づいているからです。
そして、「高度の職業倫理を堅持」することも求められています。これについては、税理士法や公認会計士法等の遵守に他なりませんが、われわれにとっては、『TKC会計人の行動基準書』の徹底活用を指しています。ここでキーワードとなるのは「独立性」です。独立性の意味は、かみ砕いていうと、国家(行政)からの独立、顧客(納税者)からの独立、自身からの独立という三つの側面があるのですが、飯塚博士によれば、アメリカの公認会計士の社会的地位が圧倒的に高いのは、彼らが独立性を守るために血の滲むような努力を長い時間をかけて積み重ねてきているからだということです。日本においては、税理士法第1条で税理士の「独立した公正な立場」がうたわれています。これを堅持するからこそ、同一企業に対する税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)の同時提供も可能となっていることを重く受け止めなければなりません。
このほか、前文の中には、「租税正義の実現」や「自利利他の聖行の実践」という、われわれにとって極めて重要な理念が記されていますが、限られた時間では語りつくせませんので、本日は割愛します。
創設の理念を道標に次の50年をともに力強く歩もう
本日、前文とは別にどうしても皆様にお伝えしておきたいのは、TKCとTKC全国会が長年にわたり一貫して重視してきたものは何かということです。それは、まさに「帳簿の証拠力」の問題なのです。ドイツ税理士は、これを厳格に守っています。
そもそも日本の法人や個人事業者が帳簿を作成しなければならないのは、商法第19条に「商人は、その営業のために使用する財産について、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な商業帳簿を作成しなければならない。」という規定があるためです。この規定の起源は、世界で初めて商業帳簿の記帳義務が定められた、1673年の「ルイ14世商事勅令」とされています。当時のフランスは大不況で、破産や倒産が多発し、しかも詐欺破産や財産隠ぺいなどの不正も横行して社会はかなり混乱していたようです。これを厳しく取り締まるために、この商事勅令では、破産時に正規の帳簿を提出できない場合には詐欺破産者とみなして、「死刑に処する」と規定しました。つまり、驚くなかれ「破産時の死刑」を担保にして、商人に記帳を間接的に義務づけていたのです。
翻っていまの日本の現状はどうでしょう。帳簿の本質的な意義が社会に理解されず、起票代行がまかり通っているような状況はとても残念なことであり、TKC会員はそれを率先して正していかなくてはなりません。そのために、全国会ではいま、向こう3年間の運動方針として「未来に挑戦するTKC会計人──巡回監査を断行し、企業の黒字決算と適正申告を支援しよう!」を掲げており、その具体策である「優良な電子帳簿を圧倒的に拡大する」「租税正義の守護者となる」「黒字化を支援し、優良企業を育成する」という3本柱の実現に全力を注いでいるところです。
最後に、同志であるTKC中国会の皆様、TKC全国会創設の理念を道標にして体得し、次の50年に向けて、ともに力強く歩んでいきましょう。そして、来賓の皆様におかれましては、われわれTKC会計人による未来への挑戦にご理解とご協力を賜りますよう、引き続きよろしくお願いいたします。
(会報『TKC』令和4年7月号より転載)