対談・講演

「電子帳簿保存法」への対応は中小企業のガバナンス改革につながる

坂本孝司 TKC全国会会長 × 勝丸泰志 日本文書情報マネジメント協会理事長

電子帳簿保存法の制定から約20年経過しているが、同法の要件を正しく理解し適用を受けている中小企業は多くないという。そうした問題意識のもと、日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)は、企業が安心して会計ソフト等を利用するための「電子帳簿ソフト法的要件認証制度」を創設した。同協会の勝丸泰志理事長と、設立当初から「適時に正確な会計帳簿の作成」を掲げ、遡及修正できない会計システムの普及に取り組んできたTKC全国会の坂本孝司会長が、同制度の意義や中小企業のガバナンスについて語り合った。

とき:令和元年6月18日(火) ところ:TKC東京本社

巻頭対談

要件を満たさない帳簿の電子化は青色申告取り消し等のリスクがある

 坂本 本日は、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)の勝丸泰志理事長に、「電子帳簿ソフト法的要件認証制度」を創設された背景について、さらに電子帳簿保存法と中小企業のガバナンス改革等について、お伺いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

勝丸泰志氏

勝丸泰志氏

 勝丸 こちらこそよろしくお願いいたします。

 坂本 TKC全国会は、「租税正義の実現」を目的に1971年に設立されました。現在では1万1300名の税理士・公認会計士が所属し、納税義務の適正な実現を目指してさまざまな取り組みを続けています。中でも、仕訳の訂正・加除履歴がまったく残らない会計ソフトの普及を危惧し、コンピュータ会計法の必要性を呼びかけていました。ですから1998年に「電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)」が制定された時には、わが国にとって画期的なことであると、とても喜ばしく思いました。

 勝丸 今後の日本企業の生産性向上を考えた時、会計データを含めた文書の電子化は必ず必要となります。こうした観点から、私どもJIIMAも電子帳簿保存法には注目していました。
 1998年に電子帳簿保存法が施行される以前から、すでに多くの企業がコンピュータで帳簿を作成していましたが、この電子帳簿保存法の成立により、従来は紙に出力して保存しなければならなかったコンピュータ作成の国税関係帳簿・書類について、一定の要件の下、電子データで保存できるようになりました。さらに2005年の改正で、外部から受領した紙の国税関係書類をスキャニングして電子データとして保存する、いわゆる「スキャナ保存」が一定の要件下で認められるようになりました。スキャナ保存の要件は、その後さらに緩和され、今日では多くの企業が電子帳簿保存を利用するようになっています。
 ところが、電子化がひろがると同時に困った問題も出てきました。帳簿を電子保存するには、事前に所轄の税務署に届け出るなどいくつかの条件があるのですが、周知が充分でなかったせいか、要件を満たしていない会計ソフトで帳簿を作成して電子保存する企業が少なくなかったのです。

 坂本 私どもは企業の会計を指導する立場にあるのでいろいろな中小企業を訪問するのですが、新しく関与先になる企業にあっては、電子帳簿保存法の要件をよく理解しないまま会計ソフトを選び、利用しているケースを驚くほど多く見かけます。
 電子帳簿保存法の要件を満たさない会計ソフトの最大の問題は、訂正した痕跡を残すことなく帳簿の書き換えができてしまう、つまり帳簿の「トレーサビリティ(追跡可能性)」が確保されていないという点です。これが許されてしまうと、帳簿の証拠力が著しく欠落してしまいます。
 たとえば、ドイツでは帳簿を電子化する際に厳格な条件を付していますし、それでなくては正当性が守られません。日本の場合、「経理業務の合理化」のみを追求する会計ソフトがほとんどで、法令遵守をうたっている会計ソフトが極めて少ないのが実状です。
 しかし、経理業務の合理化の前に、納税義務者として日本の商法や税法、さらには中小会計要領が定める記帳要件を満たすことが重要ではないでしょうか。同時に、電子帳簿保存法の要件を満たしているか、いないかをわかりやすく明示する工夫も必要だと考えます。

 勝丸 TKC全国会をはじめとする税理士さんの努力により、会計の電子化についてはすでに約75%の企業が進めていると言われています。それでありながら、会計ソフト選びが適切に行われていないのは非常に問題です。

国税庁の要請により電子帳簿保存に適正な会計ソフトの認証制度を創設

TKC全国会会長 坂本孝司

TKC全国会会長 坂本孝司

 坂本 「電子帳簿ソフト法的要件認証制度」を立ち上げた経緯を教えていただけますか。

 勝丸 私どもの組織は1958年に設立された日本マイクロ写真協会(JMA)が前身で、その後社団法人としての認可を経て、2013年に公益社団法人日本文書情報マネジメント協会と改称しました。「紙から電子の社会をめざして、文書情報マネジメントの普及啓発を行う」という事業目的のもと、政策提言や文書情報管理士の認定、機関誌の発行といった活動をしています。
 そうした活動を続ける中で、私どもJIIMAは2016年に国税庁から電子帳簿保存に関する周知をひろげるよう依頼を受けました。さらに、2020年からは大法人の法人税等も電子申告の義務化が決定し、中小企業についても電子申告利用の数値目標が盛り込まれた「行政手続コスト削減のための基本計画」が財務省から公表されています。
 このように会計環境が大きく変わる中、複雑な電子帳簿保存法の要件をすべて理解したうえで適正な会計ソフトを選ぶのは、企業の担当者にとって大きな負担です。そこでJIIMAでは、要件を満たした会計ソフトを選びやすくするために「電子帳簿ソフト法的要件認証制度」を立ち上げました。
 この制度は、市販の会計ソフトが電子帳簿保存法の要件を満たしているかをチェックし、認証するものです。認証は、公的な第三者機関および認証審査委員会の審議によって行われます。認証した製品にはJIIMA認証のロゴマーク(右)の使用を認めるとともに、製品一覧をJIIMAのホームページで公表します。また国税庁に認証製品リストも提供します。

JIIMA認証のロゴマーク

 坂本 「JIIMA認証」を受けている会計ソフトなら安心して導入、利用できるというわけですね。電子帳簿保存法が求める要件の主な項目としては、「訂正・削除履歴を自動的に保存できること」などがありますが、企業の会計担当者がそれらの機能をひとつひとつ確認するのには大変な手間がかかっていました。その手間が解消されるというのは大きな前進だと思います。

 勝丸 最初に国税庁から電子帳簿保存を周知してほしいという依頼を受けた時は、どういったやり方が最も効果的なのか悩みました。例えばセミナーや研修会の開催という方法がありますが、私どものマンパワーには限りがありますし、そもそも中小企業の方々に、どのソフトが電子帳簿保存法の要件を満たしているのかを自ら判断させるというのは難しいのではないかと考えました。
 それよりも、どのソフトなら電子帳簿保存法の要件を満たしており安心して使えるのかを明らかにし、それを経営者の皆さまに伝えた方が現実的です。そこで、私どもが市販の会計ソフトの機能を調べ、それが電子帳簿保存法で要求されている事項を満たしているのかどうかを確認し、満たしているものに対して認証を与えるという制度にいきついたのです。

電子帳簿利用促進は企業経営そのものと社会的コストの削減に貢献する

 勝丸 TKCの財務会計システムもJIIMA認証を取得されていますね。

「電子帳簿ソフト法的要件認証」を受けた
TKCシステム一覧

  1. FX2
  2. e21まいスター
  3. e21まいスター個人事業用
    (しっかり会計)
  4. FX2個人事業用
  5. FX農業会計
  6. FX農業会計個人事業用
  7. MX2
  8. MX3クラウド
  9. DAIC2
  10. DAIC3クラウド
  11. FX4クラウド
  12. FX4クラウド(社会福祉法人会計用)
  13. FX4クラウド(公益法人会計用)
  14. FX5
  15. SX2
  16. SX4クラウド
  17. FMS

 坂本 (株)TKCより、第1号で「電子帳簿ソフト法的要件認証」を取得したと報告を受けています。21のソフトが認証を取得しているようですが(2019年9月現在)、そのうち17が(株)TKCのソフトです(右記)。
 冒頭申し上げたように、TKC全国会では、かねてより適時・正確な帳簿の作成を呼びかけており、遡及修正できない会計システムの利用と月次決算体制の構築支援に取り組んできました。
 例えば、会員の税理士・公認会計士に対して、「電子帳簿保存法」や「消費税法の仕入税額控除の要件」などを確認する機会(研修等)を設けており、その要件を満たした会計ソフトによる自計化を推進しています。
 こうした取り組みの結果、TKC全国会が会計ソフト導入をお手伝いした会社は、約26万5000社にのぼります。またわが国における電子帳簿の申請件数の約6割はTKC会員事務所の関与先企業が占めている模様です。

 勝丸 それはすごい数字ですね。JIIMA認証は、電子帳簿保存法のシステム要件だけでなく、法人税法や消費税法が定めている帳簿の記載要件を認証基準に組み込むことで、法人企業や個人事業者が青色申告の特典や消費税仕入税額控除を受けるうえでも安心して利用できるシステムであることを伝えられる認証制度となっています。
 また、本年9月30日からは、JIIMA認証を受けている会計ソフトを利用していれば、税務署長に提出する電子帳簿の承認申請手続が簡素化されることになりました(会報『TKC』令和元年10月号10頁「TKCインフォメーション」参照)。これにより、電子帳簿保存法のハードルはさらに低くなり、電子化へと移行する企業はますます増えることでしょう。

 坂本 先ほど勝丸理事長にも触れていただきましたが、所得税法の改正で2020年より、青色申告特別控除と基礎控除の改正が予定されており、電子帳簿保存または電子申告を要件に全体で控除額が引き上げられるメリットが享受できます。このことは電子帳簿利用の促進にもつながり、社会的には行政手続コスト削減に貢献すると思います。

帳簿のトレーサビリティ確保は中小企業のガバナンス改革に繋がる

 勝丸 電子帳簿保存法に対応することはガバナンス改革にもつながりますから、JIIMA認証を目印に適正なソフトを選び、正しく電子申告をしていただければと思います。

 坂本 いま勝丸理事長が「ガバナンス」について触れられましたが、私もまったく同感です。TKC全国会では、電子帳簿保存法の要件を満たしていない会計ソフトを利用している経営者には、そのリスクとして「青色申告の承認取消」や「所得税・法人税法違反」などに問われることがあると説明しています。コンプライアンスの遵守やガバナンスの改革は、会社の存続や成長において大きなカギを握りますから、電子帳簿保存法への対応は帳簿のトレーサビリティを確保するという意味で、その最初のステップといえます。
 電子帳簿保存法の適用要件は特別に厳しいわけではなく、本来備えられていなければならない記帳要件を規則化しただけのものです。ですから、電子帳簿保存法をあえて選択するということは、それが法人であっても個人であっても、誠実な納税者であるといえると思います。

 勝丸 TKC全国会では「会計で会社を強くする」というフレーズを掲げられていますが、これはどういう意味でしょうか。

 坂本 会計の歴史を紐解くと、①帳簿は証拠力の確保のため、②決算書は経営者への自己報告のためにあり、その結果として健全な経営や破産防止、債権者保護に繋がるという本質的な目的があります。わかりやすく言えば、帳簿は経営や取引に関して自身の公正性を証明するという意味がひとつ。もう一つは、経営者が数字を通して成長への道筋を見定めることができるということです。
 TKC全国会に所属する税理士・公認会計士は、適時・正確な記帳に基づく会計帳簿をもとに税理士の4大業務(税務、会計、保証、経営助言)を展開し、全国約60万社を支援しています。こうした実績から得たノウハウをもとに、①中小企業の黒字決算への支援、②決算書の信頼性向上を図る支援、③企業の存続基盤を確かなものにする支援を行い、「会計で会社を強くする」ための活動を展開しています。

 勝丸 JIIMAでは、「安心で社会生産性の高い電子文書情報社会の構築」というビジョンを掲げています。実は、文書情報マネジメントにも「攻め」と「守り」という二つの要素があります。攻めは文書作成と管理をしっかりとすれば、新たな価値の創造につながるということです。そして守りは、適正に文書を作成・保管することで、自分たちが正しいことをしていると説明できることです。坂本会長がお話しされていたことと重なる、と感じながら聞いておりました。

 坂本 JIIMAの積極的な取り組みには本当に感謝しています。私どもTKC全国会も、日本の中小企業の成長と繁栄のためにこれからも尽くして参ります。

(構成/TKC出版 村井剛大)

勝丸泰志(かつまる・やすゆき)氏

神奈川県生まれ。東京工業大学卒業後、1977年富士ゼロックス入社。同社取締役常務執行役員、2014年6月富士ゼロックスシステムサービス社長を経て、2019年2月日本文書情報マネジメント協会理事長に就任。

(会報『TKC』令和元年10月号より転載)