対談・講演

日本経済再生に向かって税理士のさらなる活躍に期待

坂本孝司 TKC全国会会長 × 塩崎恭久 衆議院議員・自民党コンピュータ会計推進議員連盟会長

元厚生労働大臣で自民党コンピュータ会計推進議員連盟(TKC議連)会長の塩崎恭久衆議院議員とTKC全国会坂本孝司会長が中小企業金融をテーマに対談した。塩崎議員は、積極的に正しい情報を公開する中小企業が金融機関から望まれており、税理士は書面添付などを通じて円滑な中小企業金融の後押しをしてほしいと述べた。

進行:TKC全国政経研究会事務局長 内薗寛仁
とき:平成30年8月30日(木) ところ:衆議院第一議員会館応接室

巻頭対談

ドイツの決算書作成証明業務は「書面添付の究極」の発言に感動

 坂本 塩崎先生には、日頃から自民党コンピュータ会計推進議員連盟(TKC議連)会長として、大所高所からご指導を賜っており、ありがとうございます。また7月には、西日本豪雨などの対応でお忙しい中を、時間を割いてTKC全国役員大会の開催地の金沢まで駆けつけてくださり、ご祝辞をいただきました。あらためてお礼申し上げます。

衆議院議員 塩崎恭久氏

衆議院議員 塩崎恭久氏

 塩崎 こちらこそTKC会員の皆さまには、事業承継支援やIT活用など、中小企業を強くする重点施策について多大なご理解とご協力をいただいており、感謝しています。 

 坂本 TKC全国会ではいま、金融機関との連携をより強化して、中小企業経営者を含めた世間一般からの税理士に対する「社会の納得」を勝ち取ろうとしています。そのキーポイントは、税理士法第33条の2の添付書面の活用をはじめとした決算書の信頼性確保に向けた取り組みです。そうした中で、TKC全国会が金融庁との関わりを持てるようになったことは極めて重要な出来事でした。そのきっかけを作ってくださったのが塩崎先生でした。2011年まで金融庁との接点がなかったので、塩崎先生にお願いして、畑中龍太郎長官(当時:監督局長)と面会させていただきました。

 塩崎 あれはいつ頃のことでしたかね。

 坂本 忘れもしない2011年2月11日です。塩崎先生の立ち会いのもと、ドイツの先進的な事例を交えながら、私がそれまでずっと考えていた中小企業金融における会計と税理士の活用について畑中長官に率直に申し上げたところ、大変深くご理解をいただけました。それで、畑中長官に「この7月に横浜でTKC全国役員大会が行われますので、特別講演の講師をお願いできませんか?」とお尋ねしたところ、ご快諾いただいたのです。
 このときの講演で涙が出るくらい感動したのは、ドイツにおける決算書作成証明業務(ベシャイニグング制度)に触れられたからです。畑中長官は、ベシャイニグング制度について「これを一言で言えば、金融機関が融資をするときに、『この企業は大丈夫ですよ』という税理士による決算書の保証書があれば、お金を貸せる。つまり、企業の信用リスクをカバー(補完)する機能が法的にも確立しているということです。これは、書面添付の普及などに努めている税理士の皆さまにとって、ある種の究極の姿なのかもしれません。」と述べられました(『TKC会報』2011年9月号)。
 これをきっかけとして、日本では税理士による書面添付の普及がやはり重要であると全国のTKC会員が再認識しました。また、これが現在の中小企業金融において税理士を活用すべきであるという私どもの運動の起点ともなっています。

 塩崎 資金繰りに苦しんでいる経営者が非常に多い中で、法人全体の約9割に関与されている税理士さんは、税の専門家にとどまらず、経営革新等支援機関などとして制度的にも活躍の場が広がっています。また、金融行政も事業性評価の方向を打ち出しているわけですから、皆さまの中小企業金融の担い手としての役割が高まっているのは当然のなりゆきでしょうね。

税理士の協力を得て正しい情報を積極的に公開する中小企業が望まれる

TKC全国会会長 坂本孝司

TKC全国会会長 坂本孝司

 坂本 いまのお話は、塩崎先生が日頃から「中小企業のガバナンスは金融機関と税理士がしっかり連携して支援する必要がある」とおっしゃっていることに通じますね。

 塩崎 そう思います。言ってみれば金融サービスとは情報産業です。したがって、金融機関は最大限の努力をして、経営者の姿勢を含めて取引先企業のリスク評価をしながら融資をするかどうかを決めているはずなのですね。なおかつ、すべてのリスク評価は金利や貸出条件などに表れてきます。通常、これらを判断する情報を何から得ているかというと、上場企業であれば有価証券報告書などの財務データでしょう。金融機関は取引先企業のことを直接チェックできないため、財務データやいろいろなヒアリングの結果から情報に整合性があるのか確認してお金を貸しているのだと思います。
 そうした中で、われわれが期待しているのは、中小企業に対しても金融機関が積極的な金融仲介機能を発揮するということです。これによって中小企業が発展すれば、金融機関も利益を得られるはずです。しかし、そうは言っても、金融機関が自分たちだけの力で中小企業のあらゆる情報を集めるのは難しい。その点、中小企業の場合には、圧倒的に税理士さんが関与しています。適正な決算書や税務申告書の作成支援を通じて、企業の状況や経営者の人柄を誰よりも熟知しているのが税理士の皆さまです。そういう立場から、皆さま方が金融機関と連携していただければ、中小企業がより発展すると思います。
 特に、TKC会員のように、巡回監査や書面添付などの手法によって、リスクを明らかにする業務プロセスを持つ税理士さんとタッグを組むというのは、金融機関にとってもウィン・ウィンの関係を作りやすいと思います。

 坂本 税理士と金融機関がそのような関係を作る上で最も重要なのは、中小企業金融に不利益をもたらす「情報の非対称性」を解消することですね。

 塩崎 そう思います。これからは特に、積極的に正しい情報を公開する中小企業が金融機関から望まれます。金融機関に対して事実と異なる嘘の決算書を提出するのは論外です。そのためには、税理士の皆さまが、専門家としてのあるべき姿や社会的な役割をどう考えているかにかかっているのではないでしょうか。そして、中小企業が事業を広げていくことを決定づけるのは、正しい仕事をしている税理士の皆さまが金融機関と一緒に知恵を出し合って、そのガバナンスを明らかにしていることが前提になると思います。

無担保・無個人保証の融資に向けて金融機関への正しい情報の裏打ちを期待

 坂本 今年の金沢でのTKC全国役員大会では、満を持して遠藤俊英金融庁長官(当時:監督局長)にご講演いただいて、金融機関からも大勢のご参加があり、非常にインパクトがありました。これも塩崎先生のおかげです。講演の中で遠藤長官は、優秀な業績を挙げている地域金融機関は優秀な外部専門家(税理士等)と連携しているとして、金融機関と企業の「共通価値の創造」に向けて税理士に支援してほしいと呼びかけました。
 金融庁が重視する「経営者保証に関するガイドライン」の普及についても、顧問税理士と金融機関の連携が有効であると述べられ、「顧問税理士による指導の下、事業者が法人と経営者の一体性の解消に向けた取組みを行い、ガイドラインを活用した事例」等をご紹介いただきました(『TKC会報』2018年9月号)。これは私たちが今後の運動を進めていく上で、とても勇気づけられる内容でした。

 塩崎 経営者の個人保証の問題は、中小企業の事業承継における阻害要因にもなっています。そもそもこれは、金融機関が安易な道を選んできた結果と言わざるを得ません。特に高度成長期において、例外があるにしても個人保証や担保を取っていれば、金融機関が企業のリスク評価をしなくても済んでいた時代が続きました。それだけ活気があったのですね。しかしいまはもう、そういう時代ではありません。企業の良し悪しを金融機関が自らの目できちんと見極めなければなりません。これが本来の金融の姿ですよね。そのためにはできる限りの情報を持っていることが必要です。その上でリスクをしっかり評価すれば、たとえ無担保・無個人保証でも融資できるようになるわけです。
 したがって、金融機関には「経営者保証に関するガイドライン」に沿った体制を整え、同時にその手法と能力を高めていってほしいと思います。そのときに、先ほどからお話ししているように、金融機関は正しい情報を得るために外部専門家の意見を聞くということを絶えず行う必要があります。ですから税理士の皆さまには、巡回監査や書面添付などを通じた正しい会計による情報の裏打ちを引き続きお願いしたいと思います。

 坂本 承知しました。ありがたいことに埼玉りそな銀行さんや福岡銀行さんなど、最近、書面添付やTKCモニタリング情報サービス等の利用を条件として、経営者保証を免除する対応を取る金融機関が増えつつあります。こうした動きを追い風にして、信頼性の高い決算書等を活用した円滑な中小企業金融を支援していきます。さらに、経営革新等支援機関として、経営計画等に基づく将来にわたるサポートについても金融機関と連携して進めていきたいと思います。

巻頭対談

電子データの「見え消し」機能確保は中小企業におけるIT活用の大前提

 坂本 2019年度の税制改正等の議論が本格化する時期だと思いますが、自民党税制調査会インナーのお立場から、行政手続の電子化の方向性等についてお伺いできますか。

 塩崎 何しろ日本はいろいろな面でデジタル化が遅れています。国民がITの活用から得られるメリットも少なすぎます。そういう意味では行政の電子化をしっかり進めれば、結果として政府のサイズが小さくて済み、国民負担も減らすことができます。よく、これから高齢化が進むと財政支出が増える一方ではないかと言われるのですが、そうと決まったわけではありません。いま使えるテクノロジーをフル活用して、効率的な小さい政府を目指す発想が必要です。
 電子化と言えば、私は厚生労働大臣として約3年間、国民の健康寿命延伸や社会保障制度の持続性確保に向けたデータヘルス改革の推進に力を注ぎました。これと同じように、中小企業政策においても、AI等の最新技術やビッグデータを使いながら、どういう経営をしていくのが最も有効なのかなどの判断がもっと容易にできるようになると思います。

 坂本 特に国が進めるIT活用は、TKC全国政経研究会が提言している「帳簿の遡及的な訂正加除履歴保存の重要性」をあらためて社会に問う絶好の機会でもあります。

 塩崎 そうですね。中小企業の生産性向上において、販売・給与・会計等のデータ連携とクラウドサービスの活用などは有効な手段ですが、その大前提として各データの正確性確保や不正防止の仕組みがなくてはなりません。医療分野では電子カルテがすでに常識であり、そこでは「見え消し」機能が必須となっています。中小企業の経営情報の基となる電子データにもこれと同様のことが求められるべきですね。

 坂本 今年、所得税改革の一環として、電子帳簿又は電子申告を要件とした青色申告特別控除の拡大が実現されました。帳簿の「見え消し」が必須要件である電子帳簿に取り組む納税者が、一定の特典を受けられるという制度を作っていただきました。

 塩崎 まだまだこの分野は道半ばですが、TKC会員の皆さまが主張しているように、将来、法人税においても同様の考え方が採用される可能性が高まったと思います。

商法・会社法への適時性・正確性という記帳条件の明確化が実現した経緯

 坂本 最後にもう一つ、塩崎先生にお礼を申し上げたいことがあります。それは、当時、衆議院法務委員長をお務めだった塩崎先生の絶大なご尽力で、適時性・正確性という記帳条件の明確化を規定した改正商法・会社法が平成17年6月に成立したということです。これは、TKC全国会創設以来のミッションであり、初代会長の飯塚毅博士の悲願でもありました。
 実は、その前年の平成16年11月23日に飯塚博士がお亡くなりになり、12月14日に東京・護国寺でご葬儀がありました。そこにお見えになっていた塩崎先生から葬儀開始5分前に呼ばれて「商法改正にあたって、記帳条件の厳格化に全力で取り組む」といった宣言をいただいたのです。感無量でしたね。悲しいお別れの日でしたが、「飯塚先生、先生の悲願がついに実現します」というご報告ができました。

 塩崎 そんなこともありましたね。

 坂本 飯塚博士は、昭和55年の税理士法改正に際して税理士の「独立性」の法文化に尽力され、平成17年にその悲願の記帳条件明確化が実現したわけです。この大きな流れが、現在の中小企業金融における税理士の役割の強化に結びついています。その重みを忘れずに、これからもTKC全国会運動に邁進いたします。本日はありがとうございました。

 塩崎 日本経済の再生に向けて、中小企業金融の担い手としての皆さまの一層のご活躍を祈念しております。

(構成/TKC出版 古市 学)

塩崎恭久(しおざき・やすひさ)氏

昭和25年11月7日(寅年)生まれ。 昭和50年東京大学教養学部卒業、昭和57年ハーバード大学行政学大学院修了、日本銀行入行。平成5年衆議院議員初当選(旧愛媛1区)、その後、 外務副大臣、内閣官房長官・拉致問題担当大臣、厚生労働大臣等を歴任。現在、自民党税制調査会副会長、コンピュータ会計推進議員連盟(TKC議連)会長など。

(会報『TKC』平成30年11月号より転載)