対談・講演

中小企業金融における税理士の役割──『TKC会報』巻頭対談の1年間を振り返って

第131回TKC全国会理事会(2018年6月15日)会長挨拶より

税理士業界の権威向上には書面添付実践しかない

TKC全国会会長 坂本孝司

TKC全国会会長
坂本孝司

 今、TKC全国会がどういう方向に向かっているのか、ということを簡潔にご説明申し上げます。

 約1年前に四国・高松で第44回TKC全国役員大会が開かれました。そこでは、現在の日本経済における最大の課題と言ってもいい中小企業金融の行き詰まりに、我々税理士が微力ながらお役に立っていくこと、同時に「職業会計人の職域防衛・運命打開」につなげていきたいと思い、「中小企業金融における税理士の役割」をテーマに掲げました。

 その全国役員大会基調講演では、家森信善神戸大学教授・金融庁参与から「地域金融機関の役割と税理士との協働への期待」と題し、金融機関と税理士による協働の有用性と課題について、大変力強いメッセージをいただきました。それ以後、各地域会の会員先生方にも地元で地域金融機関との交流を進めていただきました。

 そして本年1月には、TKC全国会政策発表会の中で、同様のTKC全国会の運動方針に係る方向性を確認させていただきました。その後、『TKC会報』4月号では、「経営者保証に関するガイドライン」の生みの親である、小林信明弁護士(経営者保証に関するガイドライン研究会座長)と対談させていただきました。

 一方で、飯塚真玄TKC名誉会長が新たに書面添付に取り組まれる会員に対し、自らの私財であるTKC株式を放出する形で応援するという大英断がありました。その真意は、税理士業界の社会的な権威を高めるには、今後、書面添付を実践する会員がどんどん増えていく必要がある、逆に言えばそれ以外に道はないという強い思いによるものです。

経営者保証ガイドラインの定着に書面添付を活用

 そこで金融機関による経営者保証ガイドラインの普及・定着に書面添付を有効活用できないかと考えました。経営者保証ガイドラインは、金融庁と中小企業庁が霞が関の縦割り行政を乗り越えてできた画期的な取り組みです。双方の監督のもと、日本商工会議所、全国銀行協会が共同事務局となって、いわゆる準則として作成されました。その中に記されている経営者保証なしの融資を受けるための、経営者に求められる次の三つの要件、①法人と経営者との関係の明確な区分・分離②財務基盤の強化③財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保──には「書面添付」を活用することが最適だと考えました。それを立証するため、経営者保証ガイドライン研究会座長の小林弁護士と対談したのです。小林先生は、弁護士ですので、経営者保証ガイドラインの「出口(保証債務の整理時)」、それは最低限の生活ができるだけのところは経営者に残してあげましょうという点がご専門なのです。そのため、まず我々税理士は「入口(新規保証契約時および事業承継の際の保証契約更新時)」が専門であることをご説明しました。「公私混同しないような経営をすることが、破産に至らないための経営です」ということを熱心に申し上げましたら、「その通り。素晴らしい。我々弁護士のところ、『出口』で出会う破産する多くの経営者は公私混同しているケースが多い」と仰っていました。

『TKC会報』5月号では、あらためて神戸大学経済経営研究所教授で金融庁参与の家森信善先生と対談させていただきました。ここで注目したのは、家森先生が日本で初めて大規模な金融機関の支店長を対象としたアンケートを実施(『地方創生のための地域金融機関の役割』中央経済社に収録)され、そこで金融機関と顧問税理士との連携の深度がまだまだ浅いこと、顔合わせ程度に止まっていること、相互の連携に有用性を感じている支店長ほど顧問税理士との関わりが深いこと等、具体的な課題を示していただきました。

金融庁遠藤監督局長による役員大会講演が実現

 そして、『TKC会報』6月号では、満を持して、金融庁監督局の遠藤俊英局長との対談を企画しました。監督局局長というのは、金融機関を監督するトップですので、基本的には民間団体や民間企業の要請で対談等を行うことはありません。はじめから非常に高いハードルがありました。

 そこで、自由民主党コンピュータ会計推進議員連盟(自由民主党TKC議連)会長である塩崎恭久代議士にお願いして、まず5月初旬に金融庁監督局長室への訪問が実現しました。そこでは主に遠藤局長の金融行政と外部専門家に対する期待等のお考えを伺った上で、当方からはTKC全国会運動、特に書面添付についてご説明させていただきました。日本の全法人の約9割に顧問税理士が関与していること、そのため中小企業金融の現場に多数いる我々税理士を活用してほしいと申し上げました。

 面談の最後に、「今年7月にTKC全国役員大会を北陸・金沢で開催します。そこで遠藤局長による基調講演をお願いしたいのですが」と切り出すと、「分かりました。行きますよ」と即決いただきました。これには本当に驚きました。また、さらに、全国役員大会基調講演の前に、まず、「『TKC会報』対談をお願いしたい」と申し上げたら、これもまた「分かりました」ということで、『TKC会報』6月号の対談に至ったわけです。

 この対談で初めて分かったのですが、平成23年2月に公表された「主要行等向けの総合的な監督指針」及び「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」の中で外部専門家との連携を掲げ、監督指針に初めて「税理士」という用語を記載したのは、当時の監督局審議官の遠藤局長だったそうです。

 対談の際、遠藤局長から「当時、我々は日本全国の優秀な地域金融機関をランダムに選んでその現場に行って、金融機関や取引先中小企業から様々な意見を聞きました。その中で分かったのは、顧問税理士さんほど企業の中に入り込んでいる存在はいないこと。優秀と言われる地域金融機関も到底適わないという現状です。地域によってはそれほど優秀な税理士さんがいることを知りました」と仰っていただきました。

巡回監査・書面添付の先に経営者保証のない融資が

 対談の最後に経営者保証ガイドラインへの書面添付の活用について話を切り出そうと考えていましたが、先に遠藤局長から「坂本会長やTKC全国会の皆さまにお願いがあります」と。何事かと思ったところ、「経営者保証ガイドラインは、いま金融庁としても重点的にその普及・定着を推し進めているところです。金融庁ではその実態等をヒアリングしていますが、民間金融機関ではまだまだ定着に及んでいないのが現状です。ぜひ、経営者保証ガイドラインに取り組める中小企業を、皆さんの指導・助言に基づき全国で作ってほしいのです」と言われました。

 実は、遠藤長官には事前に『TKC会報』4月号の小林弁護士との対談記事等を読んでいただくようお願いしていました。したがって、我々が何をしたいのか、分かってくださっていたのですね。もちろん、遠藤局長も金融行政にとってそれが有益との判断があったから進めていただけたわけで、このことが金融機関と税理士の連携強化の具体策となった次第です。

 そういった意味からも、『TKC会報』は政官財学界等に対し、凄い影響力を持っていると思います。遠藤局長からは、「我々金融庁にとっても(経営者保証ガイドラインに書面添付を活用することは)大変ありがたい施策です」と言っていただきました。まさに我が意を得たりでした。

 要は、我々がこれまで取り組んできた巡回監査や書面添付、正しい決算書・申告書の作成、適正な納税義務の履行の向こう側には、経営者保証の要らない融資制度の定着が待っているということです。そうなれば、経営者、金融機関、顧問税理士が三方良しとなります。そして、金融機関と顧問税理士はファイナンスと、税務・会計・保証・経営助言というそれぞれの専門分野において思う存分、経営者に寄り添うことができるのです。

 最後に、本年7月に金沢で開催される第45回TKC全国役員大会はTKC北陸会の皆さまが本当に熱心に準備されています。そこでは、これまでご説明してきた「中小企業金融における税理士の役割」について、その目指すべき具体的な取り組みをお示しすることができるでしょう。それも、金融庁監督局の遠藤俊英局長の基調講演と中小企業金融のプロフェッショナルの皆さまとTKC会員によるパネル討議を目玉に、社会からの認知を得る機会としたいと考えています。(談)

(会報『TKC』平成30年8月号より転載)