対談・講演
「正しい会計」の普及を通じて日本経済を元気にしてほしい
──平成30年度税制改正大綱・予算案と中小企業支援政策について
昨年12月14日に公表された税制改正大綱と同22日に閣議決定した平成30年度予算・29年度補正予算案を踏まえて、自民党経済産業部会長の城内実衆議院議員とTKC全国会坂本孝司会長が、中小企業政策の要点や今後の中小企業金融の方向性について対談した。
坂本孝司 TKC全国会会長 × 城内 実 衆議院議員 自民党経済産業部会長
出席:TKC全国政経研究会幹事長 服部久男 進行:同事務局長 内薗寛仁
とき:平成29年12月25日(月)
頑張る中小企業のために「大胆な」「徹底した」支援を提言
── 本日は、外務大臣政務官や外務副大臣等の要職を経て、現在、自民党経済産業部会長として活躍されている城内実先生にお話を伺います。よろしくお願いします。
坂本 党経産部会というのは、主にどのような分野を担当されているのですか。
城内 実 衆議院議員
城内 簡単に申し上げると、経済産業省と中小企業庁などを担当しています。ですから、中小企業・小規模事業者政策も私の仕事です。
年末の11月から12月は、主に、平成30年度に向けた「予算」と「税金」に関わりました。閣議決定された中小企業庁の予算案は、防衛や農林水産予算案と比べると小さな規模ですが、重要な政策がいくつかあります。
坂本 特に、3年ぶりに「認定支援機関による経営改善支援(平成29年度補正予算30億円)」が決定したことを、われわれ認定支援機関である税理士は大変にうれしく思っています。
城内 中小企業のライフサイクル全般に常に寄り添って経営支援ができるのは税理士さんだけだと思っています。そういった意味からも税理士さんが多くを占める認定支援機関による経営改善が再度予算措置されたことは大きな意義があると思います。
一方、税制面では制度や税率が変わるだけで、赤字企業が黒字になったり、売り上げが大きく増減したりします。ですから、真面目に頑張っている中小企業及び個人事業主を含む小規模事業者が、優遇税制のメリットを十分に享受できるような制度設計が必要です。
また、私は先の衆議院選挙の公約作りにも関わりましたが、中小企業・小規模事業者政策について次のように掲げています。
「中小企業・小規模事業者の円滑な世代交代・事業承継に資するよう、税制を含めた徹底した支援を講じます。」
特に税制では、従来にない「大胆な」税制措置と、「徹底した」事業承継支援措置の創設をうたっているので、大綱の中身を検討する自民党税制調査会小委員会等の場で、経済産業省や中小企業庁とすり合わせした改正案を積極的に提言しました。大綱のフタを開けてみたら「大した改正はなかったな」と言われたのでは、公約違反になりかねませんからね。
「特例承継計画」の作成には認定支援機関の指導・助言が必要
TKC全国会会長 坂本孝司
坂本 平成30年度税制改正の目玉の一つは、「特例事業承継税制の創設」ですね。
城内 その通りです。安倍内閣が推進する「生産性革命」の実現には、中小企業・小規模事業者の活性化が欠かせません。経営者の高齢化、後継者不足が懸念される中で、円滑な事業承継は急務であり、優れた技術を持つ企業が後継者不足で廃業することは日本経済にとって大きな損失です。
実際、中小企業庁による「元気なモノ作り中小企業300社」にも選ばれるなど、世界的に知られた中小企業が後継者問題で廃業してしまいました。
坂本 超優良な黒字の中小企業が廃業してしまうとは、大変残念なお話ですね。
城内 幸い、その中小企業が持っていた特殊な技術は大手メーカーに移管できたそうですが、経営が軌道に乗っていても廃業に追い込まれるという同様の事例が増えています。
したがって、より多くの事業者が事業承継税制を活用できるように、いままでの制度を改め、10年間の特例措置とし、「全株式を対象に相続税は100%納税猶予」「雇用確保要件を実質撤廃」の上、さらに「複数の株主から複数の代表権がある後継者が可能」としました。
また、M&Aを活用した親族外への事業承継の際の税負担軽減措置の創設も実現しました。あとは、租税回避などによる制度の悪用を防ぐ手当てが必要です。
坂本 今回、「特例承継計画」を作成して認定を受けることが要件に挙げられていますが、この特例承継計画は、「認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受け」て作成し、「後継者、承継時までの経営見通し等が記載されたもの」とされており、大変ありがたく思っています。
電子帳簿に取組む納税者に青色申告特別控除額が拡大
坂本 税制改正大綱には事業承継税制のほかにも、いろいろな中小企業支援策が採用されていますね。
城内 はい。例えば、赤字であっても積極的に設備投資をする中小企業をサポートするため、従来は最大2分の1であった新規設備投資に係る固定資産税を、3年間最大でゼロ円にする特別措置の創設を実現しました。
また、多くの中小企業が活用しており、納税事務負担の軽減に大きく寄与している一律1件30万円未満、合計300万円までの少額減価償却費の全額損金算入を認める特例措置を引き続き実施できることとなりました。
交際費につきましても、定額控除上限額800万円までの損金算入を認める特例措置を2年間延長しました。
そこでTKC全国会の皆さんにお願いがあります。これらの新たな仕組みを中小企業・小規模事業者に周知徹底して、しっかり活用してもらえるようなご支援をしていただきたいのです。
坂本 ご期待に添えるように努めます。
TKC全国政経研幹事長 服部久男
服部 今回、所得税改革の一環として、電子帳簿又は電子申告を要件とした青色申告特別控除額の拡大が実現しました。現状は小さな改正かもしれませんが、今後、同様の考え方が法人に展開し、帳簿の「見え消し」が必須要件である電子帳簿に取り組む納税者がさらに特典を受けられる等の制度改正の可能性が高まったという点では、大きな前進だと考えています。
ご承知の通り、TKC全国政経研究会ではかねてから、複式簿記に係る帳簿等の信頼性向上のための法環境の整備を提言しています。要するに、帳簿を遡及訂正した場合には、その当初の内容及び訂正・加除の内容がわかるようにする(痕跡を残さずに帳簿を遡及訂正することを禁じる)規定を設けるべきだということです。
この提言の実現は、自民党TKCコンピュータ会計推進議員連盟(TKC議連)の塩崎恭久会長をはじめ、城内先生や多くの提携国会議員の皆様のご理解のもと、関係官庁へ働きかけていただいたおかげであり、大変感謝しております。
坂本 将来的にはこれを一歩進めて、法人税でも同様の考え方が採用されることを望んでいます。
城内 わかりました。TKC議連では塩崎会長をはじめ議連の皆さんとさらに議論を深めながら、党経産部会長としても精一杯取り組んでまいります。
在住10年、政界きってのドイツ通 独経済の強さの一要因は税理士か
── 現在、城内先生は自民党TKC議連で事務局次長をお務めいただいています。TKC全国会を知るようになったきっかけを教えていただけますか。
城内 TKC全国会という高い志を持った税理士集団を知ったのは、坂本先生との出会いがきっかけです。
私は2002年に外務省を辞めて退路を断ち、2003年に父の出身地である静岡7区から出馬して初当選しました。それから15年経ちますが、この間、小泉総理の郵政民営化法案に反対していわゆる「刺客」を送られて落選し、4年弱の浪人生活を経験しました。
坂本 そうでしたね。
城内 以前から、政治とカネの問題を懸念していたので、政治資金収支報告書のチェックを坂本先生の事務所にお願いしました。おかげさまで国政に復帰して約10年、毎月のチェックに基づいてしっかりした政治資金収支報告書を提出しています。政治家として信頼される上で政治資金の「見える化」は当然であり、ごまかしは許されません。
これは中小企業も同じではないでしょうか。3カ月や半年、ましてや1年に1度のチェックしかないとしたら、経営状態がブラックボックスになってしまいます。その点、TKCの会計事務所では、毎月の巡回監査や月次決算、書面添付などを顧問先企業に実施しており、会計による経営支援の仕組みが整備されています。
坂本 聞くところによりますと、城内先生は幼少の頃や大使館勤務などを含めてドイツに10年くらい在住されていたそうですね。また、天皇陛下や総理等のドイツ語通訳官もお務めであり、政界きってのドイツ通だと承知しています。
城内 私の第2の故郷であるドイツには、いまでも年に1回は訪問しています。思うにドイツ人は勤勉で真面目なところが日本人とよく似ています。
また、ドイツはものづくりの国であり、企業全体の9割以上が中小企業という点も似ています。ダイムラー社、ジーメンス社、BASF社などの多国籍企業が成り立っているのも、下請けの中小企業がしっかりしているからです。
坂本 TKC会員をシステム面から支援する(株)TKCは、飯塚毅博士によって1966年に創業されたのですが、同年にドイツでも、会計人専門の計算センターであるDATEV社がハインツ・セビガー博士によって設立されました。1972年のお二人の出会い以来、DATEV社との活発な交流の中で(株)TKCは揉まれ、TKC会員も育てられてきました。
その意味でドイツは、私どもにとっても非常になじみの深い国なのです。
城内 私の知る限り、ドイツにも税理士会(StB-Kammer)があって、日本と同じように個々の税理士がその方針に基づいて、しっかりと中小企業の経営支援を担っています。ドイツ経済が強いのは、それが一つの要因だと思っています。
また、坂本会長から教えていただいたように、ドイツではクレディートヴェーゼンゲゼッツ(Kreditwesengesetz:信用制度法)第18条の要求に基づき、金融機関が一定以上の融資を行う場合は税理士によるベシャイニグング(Bescheinigung:決算書保証業務)を行うという法的根拠があることも大きいのではないでしょうか。
そのドイツに着目して坂本先生が、太田黒澤賞を受賞した『会計制度の解明──ドイツとの比較による日本のグランドデザイン』(中央経済社、2011年)をはじめ、実務面のみならず会計学的な観点で多くの著作を出版されていることにとても感銘しています。
事業性評価には正しい会計が重要 日本でも「情報の非対称性」解消を
坂本 TKC全国会会長として、いま最も力を入れているのは、ドイツのように、中小企業金融において会計と税理士がいかに社会的な役割を果たしていくかということです。具体的には、税理士が先頭に立って、中小企業金融に不利益をもたらす「情報の非対称性」を会計で解消するということです。
先ほど、城内先生からお話があったドイツのような仕組みがないわが国では、「情報の非対称性」を緩和する当面の策としてシグナリング(情報優位者である企業が情報劣位者である金融機関に間接的及び直接的に情報を提示してその格差を縮小させること)を活用する必要があります。
そのためTKC全国会では「TKCモニタリング情報サービス(TKC会員が毎月の巡回監査により会計事実の真実性、実在性、網羅性を確認したデータから作成する信頼性の高い決算書や月次試算表等の財務データを、顧問先企業からの依頼に基づき金融機関に提供する無償のクラウドサービス)」を金融機関に提案しており、すでに300近い金融機関が採用しています。
また昨今、金融庁が掲げている「事業性評価」においても会計が果たすべき役割は大きいと思います。この点について、第3代TKC全国会会長の武田隆二先生は、「財務諸表とは、企業の実態を数値で表現した一覧表であって、現にある企業の実像を『数と数との関係』として描き出したものである」と指摘されています(『最新財務諸表論』第11版、中央経済社、2009年)。
つまり、目に見えない経済取引の実態を数字に置き換えたのが会計です。会計の役割は「企業の実態把握」にこそあり、そういった意味では「事業性評価」のためには正しい会計が極めて重要となります。
城内 おっしゃるように、特に、中小企業にとって金融は生命線になりますから、真面目な企業が金融機関から正当な評価を受けるためにも、情報の格差をなくすことが重要ですね。
先ほどのドイツのベシャイニグングに対し、日本にも立派な書面添付制度があるわけですから、ベシャイニグングが格付けコンサルティングと連動関係にあるように、多くの税理士さんが書面添付を推進することで企業の財務経営力向上を支援し、その結果、「情報の非対称性」が大幅に解消されることを強く願っています。
城内 TKCの皆さんは税理士の業務として、税務、会計、保証、そして経営助言という四つの専門分野を示されています。その中で、特にお願いしたいのは、医者が国民の健康を守っているように、企業のドクターとして経営助言をしっかりと行ってほしいということです。中小企業のライフサイクル全般にわたり、正しい会計の普及を通じて中小企業を支援していただきたいのです。
そうすることで、日本経済がもっと元気になると思います。皆さんのますますのご活躍を祈念しております。
坂本 国の期待にお応えできるよう、税理士の四つの専門分野を通じて中小企業の存続と成長、発展を全力で支援してまいります。
(構成/TKC出版 古市 学)
城内 実(きうち・みのる)氏
昭和40年、静岡県浜松市生まれ。平成元年東京大学教養学部卒業、外務省入省。在ドイツ日本国大使館勤務、天皇陛下、総理等のドイツ語通訳官等を歴任後、外務省退官。15年衆議院議員初当選。外務大臣政務官、外務副大臣、衆議院北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員長等を経て、28年自民党経済産業部会長、衆議院経済産業委員会理事、情報調査局長に就任。
(会報『TKC』平成30年2月号より転載)