寄稿
「会計で会社を強くする」ために会計事務所の体質改善・体質強化を
自己中心的発想から脱却しよう
TKC全国会会長
粟飯原一雄
昭和48年11月号の『TKC会報』巻頭言の中で飯塚毅初代会長は、ボランタリーチェーンの本部と加盟店の関係を論じた、次のような新聞記事を紹介しています。
「ボランタリーに加盟するからには、当然メリット(効果)がなければならない。しかし、そのメリットの求め方を間違えている加盟店が意外と多い。たとえば、チェーンに加盟すればその日からメリットがあるものと思い込む。自分はチェーン活動に参加しなくても、本部から安い商品が流れ、売上げは伸びる、と考える。ところが加盟しただけでは期待した効果は得られない。すると『ボランタリーに入っても、あまり効果がないじゃないか』となる。加盟店の経営者からよく耳にする話である。説明するまでもなく、ボランタリーチェーンのメリットは、加盟しただけでは得られない。あるボランタリーの幹部は『加盟すれば天からメリットが降ってくると思っている。まさにおんぶにだっこの考えが強い』と認識不足をなげいている。確かに、メリットは自分でかち取るものであり、加盟すれば与えられるという性質のものではない。
本部の打ち出すチェーン活動を積極的にわが店に導入し、それによって自店の体質改善や強化を図る努力が欠かせない。実際にいろんなチェーンの会合に出席して気のつくことは、自分の都合でチェーン活動にもあまり参加せず、常に自分本位の加盟店は、だいたい『メリットがない』ということをたえず口にする。これに対して、チェーン活動を積極的に行い、自分の店の経営改善に役立てている経営者は、メリットうんぬんはほとんどいわない。」(昭和48年10月19日『日本経済新聞』夕刊:太字筆者)
いかがでしょうか。これをわれわれ会員に置き替えると、このようなケースに当てはまる方がおられるのではないでしょうか。
- 「決算書の信頼性」を確保する各種のノウハウがありながら、日常業務に活かされているだろうか?
- 「会計で会社を強くする」システムがありながら、活用せず知識レベルで終わっていないだろうか?
- 日常業務が「市販ソフトによる記帳代行」レベルになっていないか?
──以上の点を改めて自問自答してみてください。
TKC全国会は創設以来、会員間の格差是正のためさまざまな活動をしてきました。しかし自己中心的発想から抜けきれない類型の方々がいる限り、格差是正は遠い世界のことであるように思われます。
「TKC会員事務所のビジネスモデル」を示す
さて、日本経済に明るさが見え始めているとはいえ、中小企業においては、厳しい経営状況が続いています。このような時代にあって、職業会計人としての喫緊の課題は「会計で会社を強くする」ことであり、TKC会計人はこのテーゼに真正面から取り組めるポジションにあります。
去る1月16日のTKC全国会政策発表会において、本年度の重要活動方針を「会員事務所の体質改善に向けた取り組みを本格化する」と発表しました。中小企業の育成ならびに存続と発展を支援するため、「事務所総合力」強化に向けて事務所の体質改善・体質強化を本格化していこうとの趣旨です。
第1ステージ初年度にあたる昨年は、「TKC全国会創設50周年に向けた政策課題と戦略目標」を周知する期間でした。
本年度と来年度の2年間は、会計で会社を強くする「TKC会計人のビジネスモデル」を示すなかで、組織活動としては支部に重心を置いた活動展開をしてまいります。
さらに年度重要テーマ研修として「TKC会員事務所の新たなビジネスモデル!」(仮称)を掲げ、支部主催研修として、巡回監査・事務所経営委員会担当の「事務所経営塾」を、職員向け研修では、システム専任講師による「自計化と継続MASの実践研修」を行います。このほか支部主催(地域会主催も可)による専任講師を中心とした「実践勉強会」を、「7000プロジェクト」に伴う支援企業へのモニタリング開始にあわせて「モニタリング実践会」を、各都道府県の経営改善支援センターの協力を得て実施します。
地域性を活かした知識創造活動を期待する
どんな組織にあっても、組織の原動力となるのは、それを構成するメンバーの現場力にあります。
『流れを経営する』(野中郁次郎・遠山亮子・平田透共著、東洋経済新報社)では、次のように指摘しています。
「場は知識が創造される基盤であるが、物理的な空間を用意し、人を招集しただけで機能するわけではない。場の目的は、自己超越的であることが望ましい。組織の知識ビジョンや駆動目標のように、容易には達成できない理想があるからこそ、場のメンバーはその実現に向けて絶え間なく知を創造していくことになる。場は知識創造が高まる活動になっていることが肝要だ」(筆者要約)。
われわれの活動でいえば、各支部を中心として、中小企業の存続と発展に貢献するTKC全国会のミッションである次の3点に向けて、知識創造を生み出す活動展開をしなくてはならないということになります。
①中小企業の黒字決算への支援
②決算書の信頼性向上を図る支援
③企業の存続基盤を確かなものにする支援
各会員事務所の「事務所総合力」を高めていくために、地域会執行部や各委員会等と連携して、それぞれの地域性を活かした自主的な推進活動を期待いたします。
(会報『TKC』平成27年3月号より転載)