寄稿

『TKC会計人の行動基準書』(第四版)の遵守・実践を願う

TKC会計人が自らに課してきた行動規範

TKC全国会会長 粟飯原一雄

TKC全国会会長
粟飯原一雄

 TKC全国会行動基準書改定小委員会による『TKC会計人の行動基準書』の改定案が、第119回TKC全国会理事会(6月19日)で承認され、改定第四版が完成しました。

 この行動基準書の初版は昭和53年1月20日に制定されましたが、飯塚毅初代会長は、行動基準書の性格と制定目的をその前文で次のように記しています。

 「TKC全国会は、TKC全国会会員が高度の職業倫理と優れた専門的能力とを堅持し、電算機を多角的に利用することによって、企業経営の育成指導を行ない、もって日本経済の健全な発展に貢献することを希求して、この行動基準を定める。
 この行動基準は職業専門家としての会計人(公認会計士・税理士)が、自らに課した行動規範とするために、現行諸法令規則等に内包されている独立性の思想を基本理念の一つとして天下に闡明し、その実践活動の指針を示すものである」

 さらにこの行動基準書を遵守し、内容を充実させていき、「欧米職業会計人の水準を抜く」ことが終局目標であると述べています。

「米国公認会計士協会が現に使用する『職業専門家としての行動基準書』は過去30数年来、数次の改訂を経て今日の水準に辿りついた歴史的経緯を有することに鑑み、この行動基準も、会員のプロとしての自覚と業務水準の向上に伴い、逐次改善を加えてゆくものとし、その終局目標は米国及び西独における職業会計人の水準を抜くことに置くものとする」

 『TKC会計人の行動基準書』は、その後、法環境の変化や米国公認会計士協会の『会計士行動規程』改正(1992年)、国際会計士連盟(IFAC)の『職業会計士の倫理規定』改正(1992年)、飯塚毅初代会長のニューヨーク大学講演『監査の新時代』等を踏まえ、第二版、第三版と改定を重ね、その内容充実に努めてきました。

 近年、中小企業経営が厳しさを増す中で、職業会計人に対して、会計のプロとして中小企業の財務経営力強化を指導・助言するなどの責務がより重くなっています。

 これを受けて、「TKC全国会創設50周年に向けた政策課題と戦略目標」の策定にあたって、TKC全国会の事業目的に、「中小企業の存続・発展の支援」の新項目を加えたことはご承知の通りです。

 この度の改定では、「実践規定」にこの新事業目的を加えるとともに、その実現のために現実的で実践的な内容を目指して、会員に求められる資質、行動をより鮮明にするなどの観点で吟味された結果、多岐にわたる改定が行われました。

中小企業支援等を加え、基本業務の規定を充実

【第1章 総論】

 今回の改定では、第一に会員の進むべき方向を明示するため「第1章総論」の「1.TKC全国会の目的」を「1─1 TKC全国会の結成目的」と変更し、会則前文の本旨を踏まえ「租税正義の実現」の文言を文中に入れました。

 第二に、「1─2 会員の使命」においては、職業会計人としての独立性の保持と高潔な人格陶冶に努めること等に加え、TKC全国会の事業目的である「中小企業の存続・発展の支援」を加えるとともに、TKC会計人の必然的要件である「TKCシステムの徹底活用」を明記しました。

 第三に、「1─4 巡回監査と書面添付制度」では、巡回監査の目的は会計帳簿の証拠力確保にあることから、「関与先の会計帳簿の証拠力を担保する」との文言を加えました。

【第3章 実践規定】

 多岐にわたる実践規定の主要な改定箇所は次の通りです。

「3─1 全般的実践規定」の総則

・「第1章総論」の「先験的意識の発見と培養」並びに「第2章倫理規定」の「先験性」を受け、職業会計人として心の根源を見極めることが重要であるとの観点から「自己探求」の項目を設け、「瞑想の機会を持たなければならない」と加えました。(これらの解釈は『自己探求』〈飯塚毅著・TKC出版〉等を参照)

・事務所の健全な経営と良質なサービスの継続的提供が関与先の存続と発展に欠かせないとの観点から「会計事務所の健全経営」と「事業の承継」の項目を新設しました。

・職員教育では、事務所の業務水準向上と職員の戦力強化を図るため、職員教育の基本姿勢を明示。「研修と訓練」、「読書の重要性の認識」、「資格取得の支援」等を独立項目として設け、会員は、職員の税理士、巡回監査士、その他の職業専門家としての公的資格取得を支援すべきであることを明記しました。

「3─2 巡回監査」

・巡回監査は、TKC会計人の日常業務の根幹をなすものであるため、実務上留意すべき事項を示す内容とし、「巡回監査の意義」、「巡回監査の必要性」、「公正不偏の態度」、「不正の是正指導義務」、「代表者への報告義務」、「会員自身による指導義務」、「初期指導」、「巡回監査の場所」に分けて整理しました。

・月次巡回監査では、巡回監査の実施時期の明確化や会計記録の訂正・加除の履歴を残すことなど、「巡回監査報告書」に記載された内容等を規定上で明確にしました。

・決算巡回監査については、証明四表(完全性宣言書・書類範囲証明書・棚卸資産証明書、負債証明書)の入手にあたって留意すべき事項をより明確にしました。

「3─3 書面添付制度」

 TKC全国会は早くから書面添付制度に取り組んできましたが、法律面も充実し、今や職業会計人の標準業務になりつつあることから大幅に規定の整備を図りました。具体的には、「書面添付制度の意義」、「基本約定書の締結」、「書面添付の前提条件」、「書面添付の実践」、「添付書面の作成」、「TKC全国会認定書面添付実践事務所の表示」、「意見聴取制度への対応」の項目を新設し、遵守すべき内容を網羅しました。「書面添付制度の意義」では、当制度が税理士法第1条の「独立した公正な立場において納税義務の適正な実現を図る」という公共的使命を具現化したものとの認識に基づき、「税理士法上の相当注意義務の履行」に加え、TKC全国会の事業目的にある「税理士業務の完璧な履行」を加えました。

「3─7 会計参与の職務」

 会社法で平成18年5月1日に施行された会計参与への就任は少数にとどまっていることから、積極的な就任を願って「会計参与の職務」に加えて、「規定等遵守義務」、「積極的な就任」、「就任企業の選考」、「会計参与賠償責任保険への加入」等の項目を新設しました。

「3─9 経営支援・指導業務」

 実践規定の「8.コンサルティングサービス業務」は、現実に適合していない内容があるのでこれを削除し、新たに「経営支援・指導業務」の項目を設けました。これはTKC全国会の事業目的に「中小企業の存続と発展の支援」が加えられたことや、巡回監査業務の意義に「経営方針の健全性の吟味に努める」ことが明記されていることなどを踏まえて新設したものです。

 このほか「中小企業経営力強化支援法」(平成24年8月)の施行に伴う認定支援機関の役割や、「中小会計要領」や「中小会計指針」普及等の、新たな職業会計人の役割を盛り込みました。

 以上のほか、多岐にわたる改定の詳細については、TKC全国会総務委員会行動基準書改定小委員会(古閑宏委員長)の作成した『「TKC会計人の行動基準書」(第四版)解説書』を参照して、その要点をご確認ください。

『行動基準書』の日常業務への浸透・活用を

 TKC全国会会員は今や一万名を超え、わが国最大級の職業会計人の専門集団として、その組織活動が社会から注目され期待される存在になってきました。

 しかし大企業等のコンプライアンス欠如が問題となる現実を見るにつけ、TKC全国会が大きくなればなるほど、規律の緩みによる問題が生じることが懸念されます。今こそ『TKC会計人の行動基準書』の重要性が高まっているといえます。関係者の労作である『TKC会計人の行動基準書』(第四版)が、各地域の支部会・研修等を通して全会員に徹底され、これを会員事務所の職員諸君まで熟読して、「会員の使命」が日常業務に活かされ、かつ遵守されることを、心から祈念する次第です。

(会報『TKC』平成26年10月号より転載)