寄稿
TKC会計人のミッションとTKCブランドの形成
KFS活動はTKC会計人のミッション
TKC全国会会長
粟飯原一雄
TKC全国会はKFS活動を、平成11年の「第1次成功の鍵作戦」から継続して取り組んできました。今やこの活動は、TKC全国会が築き上げた中小企業の経営支援の「ビジネスモデル」と言ってもよいと思います。
そして、このビジネスモデルをさらに進化させていく活動が、今年からスタートした「TKC全国会創設50周年(2021年)に向けた戦略目標」達成のための活動です。
本年1月のTKC全国会政策発表会では、この2021年までの活動を、3つのステージに区分し、ステージ毎の目標を発表いたしました。
第1ステージ TKC会員事務所の総合力強化と会員数の拡大
第2ステージ 事務所総合力を発揮し、高付加価値体制を構築!
第3ステージ TKCブランドで社会を変える!
最終ステップとなる第3ステージの目標として「TKCブランドで社会を変える!」を掲げました。
「TKCブランドで社会を変える」という大目標は、最終ステージの3年間だけで達成できるような短期的目標ではありません。
実はこの目標は、第1ステージから始まる8年間に及ぶ、着実な活動を積み上げていくことで初めて可能になる、総仕上げなのです。
ところで「TKCブランド」とは、何を指しているのでしょうか。ブランド戦略家の小西圭介氏は、著書『ソーシャル時代のブランドコミュニティ戦略』(ダイヤモンド社)で次のように書いています。
「今日のブランドは、広告で創られた架空の人格イメージではなく、より多様な個性をもった生身の人格としての、ブランド関与者と生活者(使用者)とのダイアログ(対話)によって形成されるようになっている」「ブランドは、顧客との《価値共創》を駆動するエンジンである」と述べ、さらに、新しい時代におけるブランドとは、商品等の販売やサービスの提供を着地点としないで、その使用価値をユーザーと共に創り出すことで顧客とのより強い絆を形成することを指すとしています。
これをTKC会員に当てはめるならば、TKC全国会は中小企業の存続と健全なる発展を願って関与先経営者とともに「共創する価値」として、次の3点を挙げています。
①中小企業の黒字決算割合の向上に向けた支援
②決算書の信頼性向上に向けた支援
③中小企業の存続基盤強化に向けた支援
この3点は、TKC会計人が各種のTKCシステムを活用しながら、企業経営者との対話(ダイアログ)を通して支援するものであり、TKC全国会の社会的なミッションと言えます。このミッションはTKCブランドの形成とは表裏一体の関係にあります。ミッションが社会に浸み出たものがブランドであるべきだからです。すなわちミッションを掲げてから、それがブランド化するまでには、一定の時間がかかるということです。
ドラッカー財団の元CEOフランシス・ヘッセルバイン氏は、「どんな組織であっても、戦略を効果的に進めるポイントは、組織のミッションが何であるのかを理解しているかが重要である」(『リーダーの使命とは何か』海と月社)と指摘しています。
さらに、『学習する組織』(英治出版)の著者ピーター・M・センゲ氏は「ミッションは、人々に長い道のりを歩んでいくための、情熱と忍耐とを吹き込んでくれる」と言っています。
関与先を含め日本の中小企業を元気にしていくというTKC会計人のミッションが、社会に浸透していくためには、TKC全国会の戦略目標達成を目指して、今後の8年間を愚直にやり続ける情熱と忍耐が必要だということになります。その結果として「TKCブランド」が創られていくということです。
『TKC会報』創刊号に書かれた格差是正への思い
『TKC会報』は、この平成26年9月号で記念すべき500号となりました。今から42年前の昭和47年11月に創刊されて以来、『TKC会報』の制作・発行等に関わってこられた歴代編集長をはじめ多くの先発会員、関係諸機関の皆さまに感謝いたします。
『TKC会報』創刊号では、「発刊にあたって」として飯塚毅初代会長が次の言葉を残しています。
「TKCの経営も、いよいよ国際的にもトップクラスに近づいたわけですが、(中略)今の私の脳裏を去来する最大の悩みは何か、と申しますと、意外でしょうが、TKC会員会計事務所の発展に斉一性が欠けており、合理化達成、収益拡大の度合いに雲泥の開きが生れつつあるとの一点であります。(中略)今般第1号を送るこのTKC会報が、この格差解消の有力な手掛りとなってくれるよう、ひそかに私は祈っている次第です。」(『TKC会報』第1号)
飯塚毅初代会長は、それ以後の巻頭言においても、さまざまな視点から格差是正に向けての思いを書かれてきました。
「電算機会計を、自分の事務所の社会的アクセサリーとして位置づけている先生がいるのです。この種の先生は、関与先中の10~20%を電算機化するにとどめていて、事務処理の体制は二重三重構造となっており、従って合理化のメリットは全然出て来ない形となっています。そのくせ、収益の増大がないと、ぼやいているのです。虚栄のための電算会計と申せましょう。これは、先生の基本的な態度が、どこかで歪んじゃっているのですね。(中略)
こういう会員先生もおられます。事務所拡大発展のイロハに属しますが、ご自分の社会一般に与えているイメージの貧困にどうしても気がつかない、という先生方です。先生の事務所の現状は先生が過去において社会に与え続けて来たイメージの集約結果に過ぎないのだ、という事実を浅薄に受け流していて、事務所の期待する拡大発展がないのは、電算機会計のせいだ、と歪んで判断してしまっているのです。こういう先生の歪みは、相当な頑固さとも同居しているので、ご本人に分かって頂くのに非常な苦労をさせられます。苦笑を禁じ得ないわけです。」(『TKC会報』第3号)
以来、42年の歳月が流れましたが、今日においてもTKC会員事務所の発展に斉一性が欠けているという課題は不変です。
今年から開始された「TKC全国会創設50周年に向けた戦略目標」に対する会員事務所の取り組みは、『TKC会報』の創刊当時に飯塚毅初代会長が指摘された、会員事務所の発展の格差是正につながる活動と言えます。
戦略目標推進は事務所の未来創造活動
19世紀のドイツの哲学者・思想家ショーペンハウアーは、「人間とは錯覚を好む動物である」として次の言葉を残しています。会員諸兄姉に意のあるところを玩味いただきたいと思います。
「多くの人は今のこの状態がずっと続くだろうと漠然と確信している。あたかも、人生をだいたい見通すことができるかのように。あるいは、自分の生涯賃金が単純に計算できるかのように。
けれども、どういう状態もそのまま持続するわけではない。刻々と状況は変わる。人生はうねる。揺れる。変転する。変貌する。変化するということだけが続いていく。
したがって、賢い人は現在の見かけの持続性に惑わされない。また、この状況がいつまでも続くなどとは考えていない。賢い人が考えるのは、次の変転がどの方向へと変わっていくのかということである。つまり、予見する。」
(『超訳ショーペンハウアーの言葉』白取春彦編訳・宝島社)
一橋大学の野中郁次郎名誉教授は「戦略とは未来創造である」と言っておられます。TKC会員が、「TKC全国会創設50周年に向けた戦略目標」の推進と緊急課題である「7000プロジェクト」に参画することは、事務所経営の未来創造活動そのものです。
会員各位が自律性のある実践力に、より磨きをかけていただくことを強く念じてやみません。
(会報『TKC』平成26年9月号より転載)