寄稿
「経営力強化支援法」支援機関の早急な認定申請を願う
来年3月末までに認定申請3000事務所を目指そう
TKC全国会会長
粟飯原一雄
「中小企業の海外における商品の需要の開拓の促進等のための中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律等の一部を改正する法律」(中小企業経営力強化支援法)が去る8月30日に施行されました。この法律の制定目的は、財務・会計などの専門的知識をもつ者により中小企業支援を促すとともに、中小企業が海外で事業を行う際の資金調達を円滑化することとされています。
当法律では、①中小企業支援事業の担い手の多様化・活性化、②中小企業の海外展開に伴う資金調達の2つが主な柱となっています。当支援の担い手については、既存の地域金融機関、商工会、商工会議所、中小企業診断士に加え、税理士、公認会計士、弁護士等を国が「経営革新等支援機関」として認定し、中小企業基盤整備機構からの専門家派遣や信用保証協会の保証付与による資金調達支援を受けて、中小企業に対して、「チーム」として専門性の高い支援を行おうとするものです。
当認定制度は、我々が取り組んできた「第二次成功の鍵作戦」での経営革新支援等で培った知識や経験、そして現在行っている金融機関との連携による経営改善支援活動の経験が存分に活かせる、まさにTKC会計人の強みを発揮できるものです。
経済産業省・中小企業庁は、平成24年度下半期の中小企業金融対策を発表していますが、具体策として「セーフティネット保証5号※」等の従来の対策を継続するとともに、「経営革新等支援機関」の力を借りながら経営改善に取り組む中小企業に信用保証協会による信用保証の保証料を、概ね0.2%減免する制度を10月1日から実施しています。また、日本政策金融公庫では、支援機関による事業計画の策定や期中におけるフォローアップ等、経営支援を受けた企業に対する低利融資制度を創設しています。
認定申請件数について、中小企業庁はTKC全国会に大きな期待を寄せられています。これに応えて、TKC全国会としては、まずは年内の申請件数を2000事務所、更に来年3月末までに3000事務所とする目標を設定しました。認定事務所には、TKCにコスト負担をお願いし、事務所の入口に掲げられる「経済産業省認定経営革新等支援機関」のプレートを提供させていただきます。ぜひ早めの申請をお願いする次第です。
中小会計要領の普及定着へ全会員が取り組もう
「中小企業の会計に関する基本要領」(中小会計要領)への準拠は、適時・正確な記帳に基づく信頼性の高い決算書の作成を支援するというTKC全国会の重点活動になっていますが、本年度、中小会計要領の公表を受け、TKC全国会として、会計を経営に活かせる経営者を増やし、自社の経営状況を決算書を通して自分で語れる自立型企業を増やしていく大きな運動にしたいと考えております。
特に、その普及には金融機関との密接な連携が不可欠です。今年3月には、日本税理士会連合会が「中小企業の会計に関する基本要領の適用に関するチェックリスト」を公表されています。これを受けて、すでにTKC静岡会や九州会沖縄支部等では、地元金融機関との連携のもと、中小会計要領に基づき作られた決算書について、融資にあたり金利面等の優遇措置が受けられる専用ローン制度が誕生し、この動きは他の金融機関にも広まりつつあります。
今後、各地域会及び各支部の執行部の皆さんには、提携金融機関や158の経営改善支援覚書締結機関に対して、中小会計要領によって作成された決算書の金利優遇の専用制度が作られるよう働きかけをお願いします。
ところで先日、私のある関与先企業に東京の大手会計事務所からチラシが舞い込んで来ました。その内容は、低料金による宅急便による記帳代行をはじめたというものです。今時なんだという強い憤りを感じました。
TKC静岡会会長の坂本孝司会員は、著書『会計で会社を強くする』(TKC出版)で「日々の記帳は、自社を守るための証拠作りである。決算は倒産を防止し、逞しく勝ち残るためにある。というのが簿記会計の本質。そこから更に踏み込んでお客様が簿記会計を自ら実践できるように、経営者自らが会計を理解することができるように、徹底して支援申し上げることが会計事務所の本来的な使命である。従って、帳簿づけができない会社を救うのも会計事務所の使命だとして会計帳簿の作成代行に徹している会計事務所は、関与先の帳簿の証拠力を喪失させ、結果として、商取引を巡る裁判問題には対処できず、会計のプロとして情けないことだ。」(要旨)と会計の本質的機能について指摘されています。
記帳条件が商法及び会社法で明文化された今日、我々は巡回監査の徹底断行を業務の中心に据え、国が、会計で会社を強くする環境を作ってくれた今こそ、中小会計要領の普及・定着に率先して取り組まなければいけません。
今後の具体的活動については、9月に発足した「中小会計要領」推進プロジェクトが準備を進めており、来年の1月のTKC全国会政策発表会において発表する予定としています。全会員が積極的に行動されるよう期待いたします。
※セーフティネット保証5号:業況が悪化している業種に属していて、市区町村の認定を受けた中小企業を対象に、借入金の100%を保証(保証料率概ね1%以下)する制度。
(会報『TKC』平成24年11月号より転載)