2025年7月号Vol.139
【トレンドビュー】国税庁が取り組む事業者の業務のデジタル化促進について
国税庁長官官房デジタル化・業務改革室長 菅沼哲矢
国税庁は、2023年6月に「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション―税務行政の将来像2023―」を取りまとめ、公表しました。
本稿では、将来像2023で掲げた柱の一つである「事業者のデジタル化促進」と、その施策の中心となる「デジタルインボイスの普及」に向けた取組を紹介します。
1. 事業者のデジタル化促進
日頃行うバックオフィス業務(受発注、請求、決済、経理、申告、納付など)について、一貫してデジタルで処理することにより、事業者は単純誤りの防止による正確性の向上や事務の効率化による生産性の向上等の大きなメリットの享受が期待されます。
国税庁では、事業者のビジネスプロセス全体をデジタル化するとの視点に立ち、事業者のデジタル化促進に取り組んでいます。
具体的には、事業者に役立つデジタル関係施策の網羅的で分かりやすい周知・広報を推進するほか、関係団体や関係省庁等とも連携・協力してデジタル化の機運醸成に向けた取組を実施するなど、政府が目指す社会全体のデジタル化の方針に基づき、積極的に事業者のデジタル化を促進するための施策に取り組んでいます。
2. デジタルインボイスの普及
デジタルインボイスは、「事業者のデジタル化促進」に当たり重要な役割を果たすコンテンツであり、施策の中心に据えて積極的な推進を図っています。
23年10月のインボイス制度の導入に合わせて、デジタル庁が中心となりグローバルな標準仕様「ペポル」*をベースとした日本独自のデジタルインボイスの標準仕様(JP PINT)が定められました。
デジタルインボイスを利用することにより、決済や記帳の場面で請求書のデータを手作業で入力する必要がなくなり、データをシームレスに連携することが可能となります。
3. 国税庁調達でのデジタルインボイス利用
請求書のやり取りは事業者間(BtoB)の取引に限らず、政府の調達(BtoG)でも行う機会があります。ペポルはもともと欧州でBtoG取引のために作られた経緯もあり、一般的に使われるようになるにはBtoG取引での利用を進めていく必要があります。そこで、まずは国税庁の調達で積極的な利用・推進を図っていきたいと考えています。
政府の調達手続き全体を見ると、電子入札の普及により入札の電子化は順調に推移しているものの、その後の契約や請求の段階では電子化・デジタル化について大きな伸びしろがある状況です。
すでに政府の調達では、GEPS(政府電子調達システム)においてデジタルインボイスの受け入れ環境が整っています。まずは電子化という考え方もありますが、デジタルによりシームレスな処理環境を構築し、人の手を介さずに一連の業務が行えるメリットを最大限生かすべく、デジタル化を積極的に推進することを検討しています。
国税庁におけるデジタルインボイスの受け入れ実績はまだ数件程度ですが、受託者への積極的な働きかけ等を始めたところであり、これから受領件数を増やしていきたいと考えています。

4. 電子帳簿等保存制度の見直し
デジタルインボイスを推進する上で、追い風となるのが、令和7年度税制改正による「電子帳簿等保存制度」の見直しです。
具体的には、請求書等の取引情報(電子取引データ)が変更等されず保存されるとともに、仕訳もデータ連携により記録される会計ソフトを使用して、一定の要件を満たして送受信・保存を行う場合、数字の改ざん等が事実上できなくなることから、その電子取引データに関する申告漏れ等について重加算税の税率軽減などの一定の措置が講じられました(図表1)。
措置の対象となるシステム機能要件として、以下のいずれかを有することが定められました。
・デジタルインボイスで請求データがやり取りできる機能
・金融機関からの銀行取引明細等の決済データが保存できる機能
国税に関する帳簿や書類をデータとして保存する際の取扱を定めた電子帳簿保存法において、デジタルインボイスを対象とした意義は、今後、事業者のデジタル化を後押ししていく上で大きな一歩であると考えています。
5. その先にあるデジタルシームレス
デジタルインボイスは、請求の場面で活用されるものであり、いわゆるバックオフィス業務における〝川上〟部分をデジタル化するものです。これまで国税庁は、申告や納付などのデジタル化推進に尽力してきましたが、今後は請求段階を含め、川上(請求段階)から川下(申告・納税段階)まで一貫してデジタルデータでシームレスに処理される状態の普及を目指すこととしています(図表2)。
政府の調達におけるデジタルインボイスの利用は、事業規模を問わず、その受け皿を増やすための取組であり、電子帳簿保存法の改正を契機として、デジタルインボイスの普及に向けてさらなる推進を図りたいと考えています。地方公共団体の皆さまも国税庁の取組を理解いただき、事業者のデジタル化促進を支援いただくとともに、財務・会計システムの更新時等にはデジタルインボイスの導入に協力いただけますようお願いいたします。
掲載:『新風』2025年7月号